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シューティングスター・ティアドロップ 17

 気を取り直して、メンバーの持ってきた食材を見てみよう。

 カルティカはサテソース。

 ダニエルはチーズの塊。

 ウゥランは千切り唐辛子を山盛り。

 ファイさんはトマト、ナス、ヤングコーン。

 アラクネートさんはマッシュルーム。

 あたしは青魚の切り身。


「そこはチキンじゃないんですか!?」


 声を上げたのはダニエル。チキンが食べたかったらしい。


「いやいや、脂の乗った青魚がうまいんだって。騙されたと思って食べてみて。それより、ウゥランの山盛り唐辛子は常識の範囲で使って。足りないなら後から追い唐辛子にして」


 量がおかしいんだよ、お前ら。お前ら、というのはアナスタシアとエディネイのこと。見ると、2人とも仲良く唐辛子をチョイス。輪切り、千切り、そのまんま。あるだけ卓に持って行きやがった。

 すごいバッシングを食らってる。


「ピッツァを作るのが初めてなんだけど、この野菜とみんなの食材の組み合わせって大丈夫なやつ?」


 ファイさんが心配そうに見渡した。大丈夫です。一番マストな内容です。


「ピッツァに鉄板な食材です。本当にピッツァを作るのが初めてなのか疑うくらい、完璧なチョイスです」


 基本の基を知らずに選べる感性たるや、料理人としての経験の多さゆえだろう。

 さて、しかし、ナチュラルに変化球を投げてる子がいるぞ。


「カルティカ、えっと、それ、サテソースだよね。どう使うつもりなの?」

「ピザソースの代わりに具材の下に敷いてみたい!」


 サテソース。ピーナッツバターを基礎に、各種オイル、スパイスを組み合わせたカルティカの故郷、バティックの伝統的な調味料。

 串焼きにかけてよし、鶏肉に漬けてステーキにしてよし、サンドイッチにつけてよし。甘辛スパイシーな病みつき調味料。

 なのだが、これをピッツァに使ったことはない。ピザソースが基本的に甘めなので、ダメじゃないかもしれない。ダメじゃないかもしれないけれど、これはなかなかのチャレンジチョイス。


「う、うぬぅ。とりあえず、ハーフ&ハーフで作ってみる? サテソースでピッツァ作ったことなくて、どうなるのか絶妙に想像がつかない」

「味の傾向は似てるけど、実際やってみたら全然違うものになるかもしれないやつですね。そうなった時の地雷感が怖い」


 ダニエルの言葉にみなが賛同。チョイスしたカルティカもうなずいた。


 サテソースとピザソースを縦にハーフ&ハーフ。

 食べやすい大きさに切った野菜を並べる。

 チーズの塊を、これまた横にハーフ&ハーフ。粗く削ったチーズと、薄くスライスして並べたスライスチーズ。実質、クアトロピッツァ。


「チーズの形で溶け方が違うんですよ。舌触りも変わってくるし、口の中に入る量も違ってくるんで、結構別物のピッツァになると思います」


 ダニエルは楽しそうにナイフを入れる。実家ではヤギを飼い、自前でチーズを作ってた彼はチーズに人一倍のこだわりがある。


「それは考えてもみなかった。たしかに同じ食材でも、形が違うだけで味の感じ方が違うもんね。硬いか柔らかいかで味の感じ方も違うし」

「硬さの違いで味が違う? そういうこともあるのか。言われてみれば、材料が一緒でも外側カリカリのパンとふわふわなのとじゃ味って全然違うもんな。面白いな。今度いろいろと実験してみるか」


 ファイさんの料理人魂に火がついた。せっかくだからグレンツェンに来ていろんなパンやケーキを食べてもらいたい。

 そして御馳走してもらいたい。オールシーズンシュトーレンがめちゃくちゃおいしかった!

 他のパンも食べたいっ!


 チーズと千切り唐辛子の支度が終わり、あとは窯の中へダイブさせるだけ。

 待ち構えるはプロのピッツァ職人のアポロンさん。ヘイターハーゼでピッツァを焼かせてもらってるだけあって、腕前は本物。ぜひによろしくお願いしますっ!


「任せてっ! それにしてもサテソースを使ったピッツァなんて初めて見たよ。感覚だけど、多分これいけるよ」


 陽炎に照らされるアポロンさんの表情がすっげえかっこいい。好きなことをしてる人は生き生きしてて、見てて気持ちのいいものだ。

 ピザボードに乗せて窯の中へ。瞬間。チーズは沸き立ち、脂の乗った青魚からこうばしい香りが放たれる。

 ものの1分程度で加熱完了。ピッツァは窯の準備にめちゃくちゃ時間がかかる反面、焼くのは一瞬。30秒から90秒程度。

 みんなで作って楽しむパーティーメニューとして最適解なのだ!


「さて、それでは運命の時」


 切り分けて、まずはサテソースを塗った生地をぱくり。もぐもぐ。むむっ!


「ピーナッツバターだからか、熱が入って香ばしくなってる。甘辛いスパイスのサテソースと野菜と、チーズも相性抜群! 千切り唐辛子はそこまで辛くなくて、ピリッとアクセントが効いてていい具合。これは、新たなピッツァの可能性を拓いてしまったか」


 16等分に切ったから、残り2枚あると思って手を伸ばすと、既に誰かに食べられてた。

 誰かと思ったらアポロンさんとすみれだった。


「これはいけますっ! ちょうどいい塩梅の甘辛具合。元々がチキンや肉料理に合うだけあって、動物性たんぱく質のチーズと相性抜群。当然、お野菜とも相性抜群。どうですか、アポロンさん!」

「これはいける。伝統的なピッツァはトマトがベースだからヘイターハーゼでは出せないけど、家庭で楽しんだり、それこそバティックでサテソースを使ったピッツァの店を出したら売れる!」


 本職から太鼓判。料理好きな人たちも耳ざとく、吸い込まれるようにすみれたちの周囲に集まった。


「サテソースが無くなる前に確保!」


 カルティカが2枚目分のサテソースを確保。早い。おっとりとした印象に似合わず決断と行動が素早い。ありがとうっ!


 具材を変えてさっそく2枚目も作ってぺろり。想像してた以上にいける!


「これ、いけるわ。具材はなにを使ったか記録してるよね。あとで教えて!」


 マーリンさんの瞳がきらきらしてる。


「もういっそ、店長に頼んでピッツァの窯をパーリーに作ってもらおうかしら」


 母の目が本気。あの店長のことだから、焼ける人さえいれば造りかねん。マグロが解体できるからって、ほんとに解体ショーを開催しちゃったからな。


「サテソースもテンジャンも絶品です。唐辛子の代わりにサンバルを入れるのもおすすめですよ」


 どうやらグリムさんのいるチームは伝統的なマルゲリータに緑色のオクラを足し算。チーズの上に甘辛でコクのあるサンバルを振りかけたらしい。

 めっちゃ気になる!


 みんなが2枚目を食べ終えたところで、ピグリディアさんからシャッフルタイムの号令。


「せっかくだし、あと何回かシャッフルしよう!」


 知らない人たちと知り合う楽しさを知ったみんなは大賛成。テーブルの上を片付けて、準備のできた人からクジを引く。

 と、そこで待ったをかけたのはあたし、ペーシェ・アダン。

 縁結びの魔法を使ってみて分かった。これ、お題目を決めて、それに準じた組み合わせを引き寄せることができる。

 せっかくなので、今日あんまり会話してない人同士を引き合わせてみたい。


「いいアイデアかも。でも中にはほんとに性格が合わないとかってあるかもだから、その時は任意でチェンジということで」

「大賛成です」


 ヘラさんの注意事項を速攻で肯定したのはシェンリュ。十中八九、ウゥランとの食い合わせが悪い。でもその他の人たちは犬猿の仲ってのはなさそう。あまり心配することはないでしょう。


 と思ったら、クジを引いて卓に入ったあたしは後悔することになる。


「あれ? そういえばあんまり会話してなかったっけ?」


 アーディさんの登場。彼女を引き連れてのご登場。


 気まずううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!


 片思いの人が、失恋真っ最中の女の前に現れた。地雷を設置して自分で踏んだ。

 張り付いた笑顔が痛い。肌がピシピシいってるみたいで辛い。


「やっほー♪ みんなでおいしいピッツァを作ろうね~♪」


 ほろ酔い気分で現れたのはマーリンさん。そうか。マーリンさんは買い出し組だったから、今日はあんまりしゃべってないんだった。全然気づかなかった。


「わっ! 義兄(おにい)ちゃん! あれ、そんなに会話してなかったっけ?」


 客観的に見て、意図的に避けてたように見えましたけど?

 彼女さんができて緊張してるのかな。まぁ久しぶりに会ったアルマにべったりだったし。なんにせよ、ベレッタさんなら大歓迎。


「よろしくお願いいたします。みんなでおいしいピッツァにしましょう」


 ヤヤちゃんが小躍りしならがら満面の笑み。楽しくってしょうがない。うきうきオーラが全開でぐぅかわっ!


「みなさんこんばんは。今日はよろしくお願いします」


 ガレットがぺこりと頭を下げる。いつも丁寧でかわいらしい。我らが愛すべき妹キャラ。


「ん、おや? ペーシェと一緒か。ある意味意外な組合わせなんだな」


 ひょこっとルーィヒが卓についた。マジか。意識的に寄宿生たちと会話するように心がけてたせいか、普段から話しかけるメンツとの接点が少なかったみたい。


 そんなことより。ともかく気まずい。彼はあたしの心情なんて知らないだろうけど、とにかく気まずい。体調不良って言って中座したい。

 なんで好きな人が目の前にいて、好きな人には彼女がいて、同じ卓を囲まなきゃいかんのじゃい!

 確かに気まずくて避けてた。それがまさかこんな形で返ってくるだなんて誰が思う!?

 ここは地獄かッ!?


「どうしたの、ペーシェ? 顔色が悪いみたいだけど」


 なにも知らないマーリンさんが心配してくれる。大丈夫です。大丈夫じゃないけど。


「心配してくださってありがとうございます。でも大丈夫です。万事オッケーです」

「全然大丈夫に見えないんだけど…………。誕生日パーティーの司会とか調整役とか、色々やって疲れたんじゃない? 少し休んだら?」

「いいえ。ここで離席するわけには。せっかくみんなが楽しんでるのに」

「いや、無理されるとこっちが困る」


 せっかく、せっかく片思いの人と一緒にいられる機会が恵んできたんだ。これをみすみす逃す手はない。

 たとえアーディさんに彼女がいたとしても、せめてもの心の慰めに、最後に決別の儀式がしたい。

 ゆえに中座するわけにはいかないのだ。あたしが幸福な未来を掴むためにっ!

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