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シューティングスター・ティアドロップ 14

 呼吸が整ったところで最終決戦といきますか。

 運命の一戦。固唾を飲んで見守る対戦カードは?


「スイーツ組がなにやら騒いでるって思ったら、いったいなにやってんだ?」


 くじ引きをしようとしたところでイベント組のアーディさんたちが大挙してやってきた。

 飾りつけ組も仕事が終わったと背伸びをしながら現れる。


「スイーツの方向性を巡って決闘中です」


 大真面目に。


「スイーツの方向性?」


 大きなケーキか、数種類のケーキか。どちらにするかで喧嘩してると告げると、アーディさんは言ってはいけないひと言を放つ。


「どっちも作ればいいだろ。すみれならどっちも大喜びだろう。というか、電話一本で済む話しじゃないのか?」

「「こういうのはサプライズが大事なの!」」


 秒でシルヴァさんとライラさんに両のほっぺをビンタされて倒れるアーディさん。争ってる人たちの信念を否定してはいけないのです。

 いけないのに、彼氏をかばうようにユーリィさんが余計なことを言ってしまう。


「サプライズもいいけど、本人が望まないものだったらどうするの? すみれって子のことはよく知らないんだけど、彼女が主役なら、彼女の希望を聞くべきなんじゃ」

「「主役はすみれだけど、もてなすのは私たち!」」


 シルヴァさんとライラさんは揃って叫び、ユーリィさんの両のほっぺをぷにぷにつんつんした。


 同じ感性だからこそ、彼らは結ばれるにいたったのか。だとしたら、アーディさんとあたしは結ばれない運命にあったってことじゃないか。

 アーディさんは事前調査する派。あたしはどっちでもいい派。強いて言えば、誘導尋問して事前準備する派。直接は聞かない。サプライズを装う派なのだ。


 あたしの固有魔法(ユニークスキル)のひとつ、幸福への道標(スターロード)は無意識に自分の幸福へ繋がる選択を取るというもの。つまりアーディさんを選ばなかったことがあたしの幸福への道。

 なんかものすげえもやもやする。だけど、好きになった人が幸せになるというなら、涙を呑んで耐えましょう。

 彼らの幸せと、その先にあたしの幸福があると信じて。


 気を取り直して第三回戦。種目は押し相撲三番勝負。誰が入れたんだ、この種目(カード)

 最初の対戦相手は、ヴィルヘルミナ対カルロス。


「おいちょっと待て! これダメなやつだろ。なんでスイーツ組以外の名前が入ってんだ!?」


 ライラさんから物言いが渡された。つっこみがあるのも分かる。


「みんな暇してるんで、せっかくだから自分たちも混ぜてくれって名札をねじ込まれました。ちなみに、ヴィルヘルミナがシルヴァさんチームです」

「ぐっ、ぬぅ。まぁそういうことなら」


 のあとで、あたしのユニークスキル【心音暴き(ゴスペル)】を介して聞こえたライラさんの心の声は、


『一般人のヴィルヘルミナと寄宿生のカルロスなら、カルロスが勝つに決まってる。とりあえず一勝は確定だな』


 というもの。

 これに待ったをかけたのはシルヴァさん。


「一般人と寄宿生ではスペックの差がありすぎます。ハンデを要求したい!」

「というと?」

「円を少し大きめにして、直立するんじゃなくて、普通に構えられるようにさせてください」

「なるほど。それならまぁいいか。でも円の中で尻もちをついたり、円の外に体が出たら負けだからな」

「それはもちろんです」


 当然の要求。と、思ってる人もいるかもしれない。

 縁結びの魔法はいまだ継続中。つまり、デフォルトでヴィルヘルミナとカルロスは対等な戦いができる。縁結びの魔法を使ってないことは知らせてないわけだから、そんなことを知る由もないライラさんはハンデを承認してしまった。

 シルヴァさんはしてやったり。なんせヴィルヘルミナは…………。


 開始のゴングが鳴り、ヴィルヘルミナが動き出す。右足を前に、左足を引き、深く息を吸った。全身の筋肉に酸素を巡らせ、爆発的に放つ正拳の一撃がカルロスを襲う。

 気圧されるまま渾身の一撃を手のひらにくらったカルロスは海の藻屑になった。


「勝者、ヴィルヘルミナ!」

「「「「「はぁーーーーーーーーッ!?」」」」」


 瞬殺。圧巻。驚愕の光景。姉妹だけはハイタッチで勝利を祝う。


「なんだ今のはーーーーッ!」


 ライラさん、納得がいってない様子。


「あたしは護身術の選択科目で太極拳を学んだの。といっても、基本の基だけなの♪」


 あざとてへぺろを炸裂させる小悪魔ヴィルヘルミナ。

 ライラさんはグレンツェン育ちの子のスペックの高さを改めて実感させられる羽目になった。


「それでは第二回戦。カルティカ対孕舞」


 寄宿生のカルティカはともかく、機織り職人の孕舞とのマッチングにシルヴァさんはハンデを申し込むも、カルティカは魔法職ゆえ、肉弾戦である手押し相撲なら戦闘力は一般人と同じということで却下。

 内心はこれ以上負けられないという大人の意地が見え隠れ。


 両者睨み合い、勝負!


 おっとりとした雰囲気のカルティカが真剣な表情を見せる。お互いに五分の勝負。身長差で劣るカルティカのほうがやや劣勢。

 周囲には、彼女の小柄な体躯が原因でうまく立ち回れてないと思ってる。しかし、彼女の視線は孕舞の豊満な胸と手を行ったり来たりしてた。揺れる胸が集中力をかき乱す。


 好意の視線ではない。殺意を込めた眼差しである。


 心の中に溜まるヘイトが爆発寸前。油断すると乳ビンタして反則負けになりそう。いっそ反則負けになってもいいからぶん殴ってやりたいと思ってる。

 気持ちはよくわかる。でもそれをやるとライラさんが怒るから我慢した。


「ぐっ! くぅっ! ま、負けられないっ! こんな乳お化けになんかっ!」


 心の声が駄々洩れ。


「い、いやぁ~ん! あんまり強く、しないでくださいぃ~っ!」


 孕舞の嬌声がカルティカのヘイトを上げまくる。素面でカマトトする女の顔面を殴ってやりたい。そんなオーラが全開してる。

 あたしも殴ってやりたいっ!

 でもそれをするとアラクネートさんに嫌われるからできない。頑張れカルティカ。お前がぶっ倒してくれ!


 数十秒の激闘の末、カルティカの怒りを込めた流星が炸裂。孕舞を撃破して一勝をもぎとった。


「乳もげろッ!」


 カルティカの魂の叫びが木霊した。


 運命の最終戦。鍵を握るのはこの2人。


「最終戦。シェンリュ対ウゥラン!」


 相対した2人の殺気がすごい。


「たしか2人って同郷だよね」

「「違うッ!」」


 速攻で否定された。


「あたしは華南出身。こいつは四川省出身。感性も料理の好みも全く違う! 無論、あたしのほうが全てにおいて上だッ!」

「なに言ってんだ暴力ゴリラ女! 色彩感覚も味覚も世間とズレた支配層がッ!」


 仲が悪いのは性格だけじゃないみたいだ。まぁ仲良く戦ってくれ。無理か。


 ゴングが鳴った瞬間、2人は取っ組み合って相手の手首を本来は曲がらないはずの方向へ押し出して骨をへし折ろうとする。これ、手押し相撲なんですけど。


「ちなみに、普段から2人ってこうなん?」


 ディピカに聞くと、寄宿生が一同揃って首を縦に振った。


「特に料理の味について衝突することが多いです。ウゥランは辛いの大好き。シェンリュは辛いの大嫌いで甘辛好きです。あとはまぁ、お金持ちか庶民かで言い争って、この通りです」


 ため息を漏らすディピカの視線の先に、頭突きし合うシェンリュとウゥランの姿があった。手押し相撲なんですけど、これ。


 2人の言葉に反して戦いは互角。勝負は数分に及び、そして――――。


「引き分け」

「絶対にあたしのほうがあとに倒れた!」

「ざっけんな! お前のほうが先に倒れただろうがッ!」


 ダメだこいつら。哀れすぎて言葉が出ねえ。

 いがみ合ってたシルヴァさんとライラさんも悲しいものを見る目で2人を見下ろす。そして自分たちと重ね、2人は和解の握手を交わした。


 結果オーライ!

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