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シューティングスター・ティアドロップ 13

「第二開戦は、『夏だ、水着だ! かわいくドレスアップショー!』。ということで、対戦相手は雷霆の姫巫女ライラ・ペルンノート氏と、エマです」

「これは勝ったなっ!」


 ライラさんは自信満々。


「――――私ッ!?」


 こういう時のエマって反応がワンテンポ遅いんだよな。


「なお、今回は助っ人を1人選ぶことができます」

「助っ人? ということは、ドレスアップするのはライラさんとエマじゃないわけ?」


 さすがローザ、勘が鋭い。


「ドレスアップの対象はあたしの偏見と独断で決めます。エマチームはグリムさん。ライラさんチームはフィーアさんをかわいい水着姿にしてください」

「「なんでッ!?」」


 我関せずと傍観してた2人に雷撃。美人の素っ頓狂な顔はたまりませんなあ。


「そんなの決まってるじゃないですか。美人のくせにつまんねえ水着着てるからですよッ!」

「「つまんねえ水着ッ!?」」

「2人揃ってなんですか。地味な無地のワンピースなんか着ちゃって。ビキニ着てくださいよっ! 特にグリムさんはスタイルいいんですからちくしょうッ!」


 全力の公私混同をぶちまけた。


「でもちょっと待って。着替えって言うけど、新品の水着なんてないよ。今から買いにいけないけど?」


 エミリアの指摘はもっともだ。しかし、解決する策はみんな知ってるはず。


「きらきら魔法と光学系魔法で幻術を作ればいいんですよ。自由度100%。好きに素敵にコーデしちゃってください♪ それと、審査員は雑誌編集でおなじみのキルシュさんです」

「とりあえずフィーアは読者モデルやってくれ」

「またその話しですか」

「前から勧誘されてるやつ!」


 ライラさんの話しによると、騎士団員の中でもフィーアさんは人気者。明るい笑顔に闊達な立ち居振る舞い。頼りがいがあって情に厚い。誠実。実直。謙虚。そのうえ勤勉で教員として壇上にも立つ。男女ともに好かれてる。


「なんなんですか。グリムさんもルクスアキナさんも、クレール姉妹は超人揃いですか。とりあえず、グリムさんはうちに養子に入ってあたしの姉になってください」

「それ、結構本気で言ってますよね?」


 本気ですとも。グリムさんが遊びにくるたびに言ってます。リップサービスじゃありません。ガチですから。あたしは姉に甘えたい。


「グリム、カモ~ン♪」

「え、えっと、お気持ちは、嬉しいです」


 母さんもガチである。父さんも許可を出してる。愚弟は知らん。


 さて、グリムさんにラブコールを送ったところで本題へ戻そう。


「エマとライラさんは助っ人を1人選び、エマはグリムさんを、ライラさんはフィーアさんをドレスアップしてあげてください。ちなみに、助っ人は司会のあたしと審査員のキルシュさん以外です。それと、ライラさんへのペナルティですが」

「え、ドレスコーデ勝負でハンデとかあるの?」

「そりゃありますよ。最初に明言しましたからね」


 一瞬悩んで、まぁいいかと納得してくれた。それが命取りになるとも知らず。


「フィーアさんからの助言を禁止します」

「それだけ?」

「それだけです。念のために言っときますけど、助っ人以外からの助言はお互い厳禁です。エマチームについては、グリムさんから直接好みを聞くのだけアリです。それでは助っ人探しから始めてください。制限時間は30分です。始め!」


 さぁ始まりました。エマVSライラさんのおしゃれ対決。それにしても、まさかライラさんと戦うのがエマとは思わなかった。

 縁結びの魔法を起動してるのはあたし自身。だけど、それがどういう理由でとか、なぜその対戦カードなのか、勝負内容の選定理由はだとか、そういうのはわからない。魔法が自動的に選んでるから、基準とかそういうのは具体的に分からないのだ。

 ただ、順番としては勝負内容が決まったあと、ハンデ込みで最も互角の戦いができる組み合わせが選ばれてるのだけ理解できた。

 なんて便利な魔法なんだ、縁結びの魔法。宴会で大活躍じゃないか。


 ライラさんが選んだ助っ人はライラック。花屋の娘としてカラーコーディネートには定評がある。私服もおしゃれかわいい。水着も派手過ぎず露出が多すぎず、だけれどもかわいくまとめられて寄宿生男子の心を射止めた。


「モスポッドとか、お見舞いやプレゼントの花束のデザインをママと一緒に手掛けてるらしいよ。カラーコーディネートもそうだけど、服のセンスがいいよね。今被ってる帽子も手作りなんだって」


 花の話題で仲良くなったローザが太鼓判。悔しいがライラックの女子力はめちゃくちゃ高い。花屋補正を除いても、レベルの高さは折り紙付き。


「ところで、寄宿生男子はライラックのセンスをどう思う?」


 フェリックスとウゥランに突撃インタビュー。


「いやぁ~、花屋の娘さんだからってわけじゃないですけど、女の子らしい女の子って感じがして新鮮ですね」

「心が洗われる思いです。普段、ゴリラみたいな女しか見てないんで」


 次の瞬間、エミリアとシェンリュの魔法によってフェリックスとウゥランが砂に埋められた。同郷の者同士、仲がいいのかもしれない。多分(笑)。


 さてさて、エマは誰を選ぶのだろう。アクエリア、シルヴァさん、ローザ。見渡して、多分違うと視線を外した。外されたほうはちょっとショックを受ける。コーディネートには自信があるのだろう。

 でも違うのだ。グリムさんは貴女たちのようなゆるふわ系女子ではない。それを理解してるエマは振り返り、あの子を探した。


「キキちゃん、もしも差し支えなければ、グリムさんに着てもらうかわいい水着を一緒に作ってもらえませんか?」

「えっ! グリムさんのかわいい水着を作る? やるっ!」


 ナイスチョイス!

 今この島の中で、おそらく彼女が最適解(ベストチョイス)

 ハイジを師匠と仰ぎ、日に日におしゃれ女子になってるキキちゃん。その成長は目まぐるしく、ぶっちゃけ何語しゃべってんのか分かんないくらい、大量の知識を身に着けていた。

 くわえて、キキちゃんはホームパーティーで何度もグリムさんと会ってる。つまり、彼女の好みをよく理解してる。


 そう、この勝負はただかわいい水着を作るだけではダメなのだ。

 モチーフに合うコーデを選ばなければ、辛口審査員(キルシュさん)は納得しない!

 なので、フィーアさん(モチーフ)とコーデの相談ができないライラさんは実はめっちゃ不利。彼女の好みを聞けないからね。


「キキちゃんって、そんなにコーディネートに自信あるんですかぁ~? まだ少し、子供っぽい気がするんですけどぉ~」


 アクエリアが思い出したようにぶりっ子語を取り戻した。問われたシルヴァさんも疑問符を浮かべる。


「私は彼女とお洋服選びしたことないんだけど、服のセンスは悪くないと思う。と言っても、キキちゃんがまだ10歳だから、大人がするようなコーデは覚えてないと思うんだけど」


 貴女はスイーツか料理しか見てないでしょうからね。気付いてないだけでしょう。

 なにも知らない面々はライラさん優勢と見てる。もしもチップを懸けたなら、あたしが大勝する自信がある。この勝負、おそらくエマが勝つ。

 というか、ライラさんが負けにいく。服選びにしても、助っ人選びからしても。


 予定時刻が訪れた。登場したのはフィーアさんから。

 会場がどよめく。姉御肌のフィーアさんが赤面して現れた。まるで初恋の相手に告白する5秒前みたいな顔をして。


「ピンクのフラワービキニでかわいくしてやったぞ。腰のぽんぽんもつけて華やかさをアップだ!」


 たしかにかわいい。ギャップもあって余計にかわいくみえる。というかちょっとエロいまである。

 ダマスクローズを連想させるひらひらのついたビキニ。腰のぽんぽんは百合の花束をイメージさせるおしゃれかわいいアイテム。真っ赤な髪と小麦色の肌にピンクの水着。暖色系でまとめた夏空のヒットマン。

 いやなんかわからんけどフィーアさんがこれ着たら背徳感のあるエロスを感じる。


 真っ赤な髪が爆発しそうなほどに発光した。そういえば、フィーアさんの髪って感情の高ぶりに応じて輝くんだっけ。死ぬほど恥ずかしそう。

 男子には超受けてる。やっぱりフィーアさん、モテるんだなー。外面もそうだけど、彼女の場合は内面が綺麗だよなー。あたしも内面が綺麗だったら、それなりにモテたのかなー。


 続いてエマチームのグリムさん。正面は大人かわいいを全面にアップ。落ち着いた明るいリーフグリーンのワンピース。

 見返り美人よろしく振り向けば、背中の肌色が大きく見えるセクシースタイル。素晴らしいボディラインを強調すると思ったら、腰に巻いた短めのパレオがヒップラインの邪魔をする。

 そこがまた、謙虚で奥ゆかしいグリムさんの魅力を引き立てる。


「やっぱりグリムさん、素材いいわー」


 ローザが真顔で妬んでる。


「ショートヘアを結って上げて夏スタイルなのがさっぱりしてて似合ってます。純白のストローハットもとってもよく似合ってます!」


 仕事の終わった飾りつけ組も鑑賞にきた。おしゃれに興味津々のガレットが目を輝かせる。


「夏らしいさっぱりすっきりした水着とアイテムと、アルカイックスマイルがセクシーです!」


 大人かわいいに憧れを持つカルティカも絶賛。

 くびれははっきりと見え、ヒップラインは美しく、胸は大きすぎず小さすぎず、全体的にバランスのとれたスタイル。顔も整ってるとか、世の中とはなんと理不尽だろうか。


 男子は眼福に溺れ、女子は羨望の眼差しで見る。グリムさんのコーデは総じて高評価。さて、勝負のゆくえはいかに!


 審査員のキルシュさんが2人の間に入る。決着を言い渡す前に、彼女は2人に質問を投げた。


「2人ともさ、選んでもらったコーデを気に入ってる?」


 フィーアさんは赤面して答える。


「かわいい水着だとは思いますけど、あたしの趣味じゃないです」


 グリムさんはにこやかに答えた。


「水着を着たのは今回が初めてです。でも、エマさんとキキちゃんに選んでもらったこの水着は気に入ってます。好きな色で、露出も少なくて、小物のパレオも帽子も好みです。髪型も気に入ったので、普段からヘアアレンジをしてみようという気になりました」


 キルシュさんは大きく頷き、結果を言い渡す。


「勝者、エマ&キキちゃんチーム!」

「はああああああああああああああああああああああああああああッ!」


 間髪入れずに叫んだのはライラさん。悔しくて悔しくて、あまりに悔しくて膝をついた。剣闘士として戦って、騎士団員として戦って、一度として膝を屈しなかった彼女が、今、地に手をついて敗北を喫した。


「悔しい。フィーアの好みを全然わかってあげられなかった私の感性の鈍さが」


 そこ?


「すまん、フィーア。無理に趣味に合わない水着着せて」


 フィーアさんがライラさんの懺悔を見て困惑。謝らないでとフォローを入れる。


「いや、仕方ないですよ。今回はハンデとして、あたしと相談禁止って話しだったんですから」

「そ、そうですよっ! ハンデがなかったら圧勝でしたよ、きっと!」


 ライラックからもフォローが入った。ありがとうを叫んで2人をハグ。ぎゅっと抱きしめて気持ちを切り替えたライラさんはあたしを指差した。


「ペーシェ、お前、こうなるの見越してハンデ決めたな!?」

「ご明察。ライラさんのことだから、外野から否を突きつけられないと自分の意見を変えないって思ったんで。可能性としては助っ人を誰にするかでしたが、イエスガールと化してしまうライラックを選んだのが裏目に出ましたね」


 どやぁ。ちなみに、ライラさんがライラックを選ぶまでは計画通り。

 今回のキーマンはライラック。彼女がライラさんの感性に否を突きつけ、上手に舵切りができれば互角の勝負ができたかもしれなかった。


「エマは見事だったね。助っ人を選ばなくてもグリムさんと一緒にナイスセンスな水着を選べただろうけど、助っ人にキキちゃんチョイスは最適解だったね。キキちゃんがハイジからおしゃれの勉強してるのと、グリムさんとホームパーティーしたりして意思疎通しやすいし、グリムさんの好みを熟知してるからスムーズに進んだでしょ。それを考えてのキキちゃんチョイス?」


 エマは小さく頷いた。


「はい。選ぶならグリムさんの好みをよく知ってる人だと思いました。彼女は服のセンスも抜群で、自分の意見をはっきり言ってくれるのでとても助かります。正直、恥ずかしい話し、私の出番はほとんどありませんでした」


 そう言うと、キキちゃんが割って入って否を突きつける。


「そんなことないよっ! 夏っぽい印象を作るなら髪を結んで肩回りをさっぱりしようって提案したのはエマさんだもん。ストローハットのアイデアもエマさんなんだよ。すっごく似合ってるよねっ!」

「ほんとそれ。結った髪とストローハットだけで夏感半端ない。当然のように似合ってる。それじゃあ水着の部分はキキちゃんとグリムさん?」


 グリムさんは小首をかしげながらのイエス。アルカイックスマイルが男子のハートをぶち抜いた。


「はい。露出少な目で、私の好みの色合いをお願いしました。背中の肌色多めのポイントはキキちゃんのアイデアです。ちょっと恥ずかしいところもありますが、まぁ、これくらいなら。パレオもキキちゃんの提案なんです」


 なにより、と繋げて満面の笑み。男子の視線を総釘付け。


「友達と一緒に服を選ぶのがこんなに楽しいものだとは思いもよりませんでした。今度は実際に見て試着して、みんなと服選びがしたいです」

「それあたしが予約しますっ! 帰ったらすぐ行きましょう! 秋コーデ選びましょう!」


 あたしが脊髄反射的に手を挙げて叫んだ。自分でも驚くほどの反応速度。

 どっちかっていうと1人が好きな自分が積極的になるなんて。

 懇願すると、またもアルカイックスマイルを放つグリムさんの返答はイエス。あたしの心臓を打ち抜いていく。

 ある意味、心臓に悪い。

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