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~小話・とあるサンジェルマンとマルコの朝~

以下、主観【マルコ・アダン】

 2人で過ごすには少し広めのアパート。キッチンにリビング。トイレと風呂は別々。

 部屋も4つ。そのうちの1つは物置。2つは父と俺の個室。最後の1つは母と姉が訪れた時のために空けていた。

 母と姉はグレンツェンで生活してる。両親は仕事柄、別居という形をとっているが、毎日の電話をかかさない。誕生日には決まってプレゼントを贈り合う。息子が恥ずかしくなるほどラブラブなのだ。


 父はしばしば若い女の子に声をかけて食事に誘うけれど、ちゃんと母を愛してる。

 姉のこともそうだ。桃尻に育たなかったことは残念がってるが、しかしちゃんとかわいがっていた。

 最近は思春期ということもあってなかなか話しをしてくれないと嘆いてる。それはそれでいじらしいと捉えていた。


 本当なら家族みんなで暮らしたいだろう。俺もそうだ。ねーちゃんと一緒に暮らしたい。

 また一緒にお風呂に入って、同じベッドで寝たいものだ。


 ある朝、父に質問をぶつけてみた。

 俺を騎士団入りさせようと考えたように、姉も宮廷魔導士に士官させればよかったのではないか。

 父の子であるならば、それなりに素質はあるだろうに。


 すると父は思いつめたような顔で言う。

 最初はそう考えていて、幼い頃に魔法の訓練をさせたことがあった。訓練と言っても幼児用のおもちゃの杖を持たせ、体内から体外へ魔力を放出するという極めて初歩の訓練。

 その子の素質にもよるが、平均して2歳でできるようになる代物。

 それを1歳の時、姉は父の期待以上、いやそれどころか、どこで覚えたのか、見たことも聞いたこともない魔法を扱って見せたという。


 寄りかかる大木は埃をたてて崩れ、踏みしめる枯れ葉はバリバリと音を立てながら靴底を貫通して足の裏に突き刺さる。

 ポケットに手を突っ込めば穴が空いて物を落とす。

 車の扉を開けると車の扉が現れる。

 ようやくエンジンをかけたと思えばタイヤがパンク。

 何をやっても思い通りにいかない理不尽な世界。


 それを見て笑う娘。

 無邪気に笑う姿は子供のそれ。その時ばかりは娘ということを忘れて恐怖したのだそう。

 それから魔力が枯渇して寝入るまで、理不尽な世界は父の心をすり減らしていったという。

 1歳でこれほどの芸当ができる娘。鍛え上げればどこまでいけるのだろうか。しかし、彼女の魔法の本質があまりにも邪悪。しかも大の大人の自分ですら全く手の施しようがない。

 わりと本気で抗ってみたものの、どんな行動も、魔法も全て無力化されてしまう。


 こんな例外的な強さの子供を育てることはできない。

 なにより、育ててはいけない。

 とりあえず魔法の才能はばっちり備わっているということは、グレンツェンの護身術講義をしっかり受講させて己の身を守れる程度に力をつけてくれれば、父親としても安心できる。

 この子にはそのくらいがちょうどいい。


 遠い目で語る父の目はどこか寂しさと、そして恐怖に揺らぐ心が表れていた。

 いったいどれほどのことが起これば、楽観的な父をこれほどまでに恐怖させられるのか。

 姉、恐るべし。

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