シューティングスター・ティアドロップ 6
みんな満腹なのか、椅子に座って談笑を楽しんでる。仲のいい友達。同郷の者。初めて出会い、仲良くなった面々。
おいしいご飯を通して盛り上がる。特にすみれちゃんは大人気。料理好きなだけじゃない。彼らの思い出を大切にしたからこそ、多くの人に慕われる。
きらきらと輝いてる。なんて素敵な景色だろう。老いてる場合じゃないよね。
孫の楽し気な笑顔を見守るような気持ちになっちゃうなー。やっぱり生きてる年数が違うからなー。ついつい、精神が老け込む時ってあるよなー。
そんなことを考えてたら、ヘラさんが手を叩いて注目を集めた。本日最後のイベント。打ち上げ花火。めいいっぱい用意してきたそうなので、みんなで並べて夜空に光彩の花を咲かせましょう。
「はいみんな注目ー! 当初予定してた花火ですが、諸事情により中止になりましたー!」
「「「「「なんでッ!?」」」」」
ヘラさんがダーインくんに担がせた花火セットの入った袋を開けて見せてくれた。
金に銀。大粒の真珠からダイヤ、サファイア、エメラルド。色とりどりの宝石がてんこ盛り。
なんでッ!?
「海賊さんたちが持ってっちゃったみたいなの。きっと夜通し飲み明かすための酒の肴にするんでしょうね。まさかお酒だけじゃなくて、花火まで持ってってるとは思わなくて確認してなかった。ガッデム!」
超悔しそうなヘラさん。フラワーフェスティバルの閉幕には特注の花火を買い込む彼女は花火大好き。
私たちよりも、この中の誰よりも花火を楽しみにしてたみたい。
「代わりに金銀財宝眺めて楽しむ、っていうふうにはならないよねー」
赴きが違いすぎる。金も銀も宝石も、綺麗なのにはかわりない。しかし、夏の夜空に下を向くというのは違う。情景的に論外。
「船長さんはとってもロマンチックな人だから、財宝より花火が欲しかったんだね」
マーガレットちゃんにそう言われるとどうしようもない。諦めるしかないか。
「船出して岸に出て花火買いに行く?」
「夜間に船を出すのは危ない。そもそも店が開いてない」
誰かがつぶやいた。続いて、なにかを閃いてしまったハティちゃんがガッツのポーズをする。
「この大地の裏側は昼!」
「ちょっとハティさん待って待って! たしかにそうだけど、外国だから。お金が使えないから!」
この子、テレポートして地球の裏側まで行って花火買おうとしてるのか。そんな発想する人、1300余年の間に1人もいなかったわ!
アポロンくんが必死に止めようと説得するも、財宝をチラ見してひと言。
「金や石で交換すればいいっ!」
「たしかにここには金銀財宝があるけども!」
あまりに単純な思考回路に、含んでたお酒を吐き出してしまった。この私が、驚いたとはいえお酒を吹き出してしまうとは思わなかった。
世界最高峰のエンジンを持ちながら、ブレーキとハンドルのついてないモンスターカー。しかもアクセルペダルはベタ踏み一択。なんて恐ろしい子。
「モンスターカーにだってブレーキとハンドルはついてますよ~? アクセルベタ踏みなところは親近感湧きます♪」
「一番親近感湧いちゃダメなところで共感しないで」
酔ってるのか、席を一緒にするマルタがとんでもないこと言い出した。この子も結構、頭のネジがぶっ飛んでるところあるからなあ。
なんとか説得できたのか、ハティちゃんはアポロンくんに手を引かれ、リリィちゃんの質問責めの渦の中へ放り込まれる。
「仕方ないにしても惜しいな。サマーバケーションなら花火はマストなのに」
空を見上げ、光のアートを思い浮かべて想像に深ける。
同じようにエマちゃんも空を見上げ、すっかり肩を落としてため息ひとつ。
「本当ですね。せっかくのサマーバケーションなのに、残念です」
「財宝を眺めながらお酒っていうのも違うもんね」
それじゃあお開きか。そんな空気が流れる中、私を呼ぶ姿があった。
寄宿生のエミリア、アクエリア、宝石魔法を研究してるフィアナの3人。なにか用だろうか。
「マーリン様は宝石魔法を研究されてたのですよね。もしかして、占星術やタロットといった占いができるのでしょうか?」
「急にどうしたの? できるけど」
この国では宝石魔法と一緒に占いも習得する習慣があるんだったっけ。なぜ宝石魔法と占いが結びついたのか。
「フィアナちゃん、先に質問させて。なんで宝石魔法と占いが結びついたの?」
問うと、手のひらでアクエリアちゃんをさして、
「実は彼女が」
「宝石魔法ができるなら占いができるんじゃないかって思ったんですぅ。乙女の勘ですぅ♪」
「乙女の勘!」
鋭いな、乙女の勘。
ただ、
「私は本物の占い師じゃないよ。数秘術と占星術を応用した統計学的な行動の結果を【占い】って呼んでるの。だからあまり期待しないで」
「なんか既に期待感が上がる言葉が羅列されたのですが。それで、『本物じゃない』というのは具体的にどういうことでしょうか?」
疑問符を浮かべるエミリアちゃんたち3人に椅子を用意してあげて、簡潔に説明いたしましょう。
「本物っていうのは、その人を見ただけで、生い立ちやこれからの苦難を読み取り、道標を示せる人のこと。私はそういう才能は無かったから」
「そういうことを知ってるということは、本物の占い師を御存じということですか?」
3人まとめて前のめり。なんで時代を問わず、女子って占いが好きなのかしらね。
私は占う側だったから、そこまで特別な感情はない。だから彼女たちの衝動がよくわからないわ。
落ち着くようにジェスチャーして、背中を背もたれに預けてもらいましょう。圧がすごいから。
「1人ね。フィーアの姉でデーシィって子がそう」
「それってもしかして、キキちゃんが失恋してしまうことを予言した女性のことですか?」
「そうみたいね。だけど未来は刻一刻と変化してる。もしかしたら、素敵なボーイフレンドを捕まえてくるかもよ?」
キキちゃんには幸せでいてほしい。彼女だけではない。みんなみんな、願いが叶えばいいと思ってる。だけど、世の中そんなにうまくはいかなくて。
願いが全て叶うなら、悲恋の恋は生まれなかった。
願いが全て叶うなら、ヘラさんは花火が無くなって涙してない。
「フィーアさんを連れて参りました」
「え、なに? これから片付けがあるから手伝ってくれると嬉しいんだけど」
理由も聞かされずにエミリアちゃんに連れてこられたフィーア。困惑して辺りをきょろきょろする。そりゃそうだ。ちょっと来てください、で連行されたら誰だって困る。
ディナーのあとの彼女には仕事がある。手早く済ませて解放してあげなくては。
「占いの話題になってね、デーシィの話しをしてたの。彼女たちは占いに興味があるみたい」
「あ、あぁ、そういうことですか。占ってもらえるだろうけど、高いよ?」
「友達の友達割引とかないんですか?」
なにそれ、聞いたことないんだけど。
「内容にもよるけど、基本的に、ピノ換算すると、20万ピノからだったかな」
「た、高い! せめて1万ピノで!」
「必死か! そりゃ無理だって。デーシィは貴族、豪族、王族から重宝されるような超重要人物だからな。国では常に、陰ながら護衛がついて回ってるくらいだ。本人はフリーの占い師って言ってるけど。というか、なにを占うんだ?」
「「恋愛!」」
いつの世も、関心事は恋愛である。
お片付けのため、すみれちゃんに呼ばれたフィーアはこれ幸いと姿を消した。ターゲットは私に逆戻り。
が!
「ちなみに私の占い、恋愛は専門外」
「「なんでッ!?」」
驚嘆と失望を隠さないエミリアちゃんとアクエリアちゃん。目の端でがっくりと肩を落とすエマちゃんも女の子。しょんぼりと身を縮めて失意の色を濃くした。
「私の場合は、国家や英雄クラスのモノゴトの趨勢を占うことに特化してるの。だから個人を占うことって滅多にないわ。ごめんなさいね」
それに、私の占いの方法って評判悪いんだよねー。
なんて思ってたら、強烈な視線が飛んできた。
「それじゃ、花火の代わりになにか楽しいことができないか占って!」
遠くからすんごい声量が聞こえた。必死の形相。楽しみを奪われ、失意の中に希望を望む彼女はヘラ・グレンツェン・ヴォーヴェライト。
諦めの悪さたるや、英雄級!
これはとりあえずなにかしてあげないともっと突っ込んでくるやつ。
「う、うぅん…………。仕方ない。それじゃ、占うとしますか」
「やった! よろしくお願いしますっ!」
「はい、これ持って」
「うん。ん? これって、もしかして?」
「火薬草を丸めて作った爆弾」
瞬間、全員がシェリーの背後に隠れるか、彼女の背後を走り抜けて距離をとった。
でしょうね。
手渡されたヘラさんだけは残った。身を硬直させて。
「え、それで、これ、どうするの?」
「海に向かって投げて。そのあとの爆発の感じで占うの」
「…………マ?」
「ま」
逡巡。のちに決意して振りかぶった。
放たれた宝玉は浅瀬で爆破。砂場は抉れ、海面は沈んで盛り上がり、しばらくすると水面は元の静寂を取り戻す。
「なるほど。アルマちゃんが解決の鍵のようね」
「アルマになにをさそそそそそそそうようとおっしゃられるのでありますかっ!」
シェリーの足元で震えあがる子猫が数十匹。その中で金髪ツインテールがぴょこぴょこ動く。
いくらなんでも火薬草にビビりすぎじゃない?
という程度の感覚なのは火薬草に慣れてる私だけ。一般人にとって火薬草は悪魔の植物。世界の嫌われ者。あってはならない禁忌の秘術。
涙目を浮かべ、恐る恐る近寄ってくる金髪ツインテールのフリルワンピース少女。両脇にはいつも元気な双子がくっついてる。でも今は元気がない。なぜか。なんでだろうね。
「ヘラさんが別のイベントしたいって話しなんだけど、なにかある?」
「別の…………ええと、魔力を限界まで圧縮して、空に打ち上げて魔力弾を花火に見立てるのはどうでしょう」
「なるほど、それいいね!」
試しに一発撃ってもらいましょう。
それなりの量の魔力を練り上げ、空へ撃ちあげ、パンパンに張った風船が自然に破裂するように天空で炸裂。光が弾けて空に花びらを描いた。
「わぁお! いい感じじゃん!」
「いや、でも、花火独特の音がないですね。魔力を圧縮して、空気抵抗を増やして花火の音を再現しましょう。それと、炸裂した時にも音が出るように魔術回路を組み込んでみましょう」
「さすがアルマちゃん! それ、私にも手伝わせて♪」
アルマちゃんの両袖をつかみ、魔術回路の組成を共有する。
魔力を内核と外殻の2種類で構成。外殻の密度を上げ、空気抵抗を上げることで打ちあがる際に聞こえる『ひゅ~』の音を作り出す。
外殻は空気抵抗を受けて剥離。圧縮された内核の魔力は外殻の強度が一定以下になると一気に炸裂。光が炸裂して花火となる。
「よし。こんなところでいいかな?」
「完璧だと思います。あとは内包する魔力と外殻の強度。打ち上げるために必要な推進力。これらの魔力量と質のバランスを調整して、炸裂したい場所、大きさ、色を変えます」
「さすがアルマちゃん。それじゃあ、みんなで撃ち上げますか!」
私、アルマちゃん。それからマルタ、ユノ、ベレッタちゃん。フィアナちゃん。ニャニャちゃん。まずはこのあたりで試してみよう。
「ではでは、さっそく空に撃ちあげましょう! 撃ちまくりましょう!」
「アルマさんってこういうの好きそうですわね」
冷や汗たらりのフィアナ・エヴェリック。
「魔法をぶっ放すのは大好きです!」
そう言うと、ヘラさんが首だけこっちに向けて笑顔で牽制。前科が2つもあるアルマちゃんは背中を向けて現実逃避。視線を満点の星空へ逃がす。




