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シューティングスター・ティアドロップ 4

 ベレッタはシャコ貝をリスみたいにほおばっちゃって。ずいぶんと変わったみたい。キッチン・グレンツェッタに参加する前の彼女ならこんなことはできなかっただろう。よくも悪くも、成長してるみたい。


「もぐもぐ、ごっくん。わたしは結婚式の祝詞を挙げました」

「それはまた素敵な体験をしたのね。にしても、ほんと好きね、貝」

「はいっ! 大好きですっ!」


 即答!


 ベレッタが独占してるバーベキューコンロの上にはアワビ、ホタテ、サザエ、夜鳴き貝。まさかの肉がない。バーベキューなのに。

 好きなのはいい。けど、偏食がすごい。


「ホタテが好きすぎて、仮眠用の枕は貝焼きのイラストをプリントした特注品だよね」

「そ、それは言わないでくださいっ!」


 突然現れたユノがカミングアウト。枕までホタテとは恐れ入る。


「たしか初任給で買った初の買い物だったぶふっ!」

「シェリーさんまで笑わないでくださいっ!」


 いやもうそれ笑わずにはいられないでしょ。私もうっかり噴き出した。

 赤面しながらぷりぷり怒るベレッタちゃん。そういうかわいいところも含めて、めちゃくちゃ男受けしてるみたいだよ?


「ところで、アルマちゃんはなにしてるの?」


 って言っても聞こえないか。砂浜に頭を埋め、頭の前方から砂が吹きあがってる。なにこれ。どういうこと?

 魔力の流れから察するに、アルマちゃん、口から風魔法をぶっ放してる?

 つまり、ベレッタちゃんにバレないように爆笑してる?


 それに気づいたベレッタちゃん。アルマちゃんを引っこ抜き、思いっきり抱きしめて、叫びながらお腹をこちょこちょして笑い死にさせようとしてる。

 大好きな子に笑われたくなかった。だけど客観的に見て笑ってしまうのも仕方ない。だけどやっぱり笑われたくない。

 恥ずかしさと、尊敬する人に笑われたくない感情の板挟みで大暴走。仲いいなぁ。


「それはそうと、貝焼きとか海産物を食べるなら吟醸が欲しくなるなあ。ちらっ」


 ワンチャンかけてすみれちゃんに目配せ。さすがにないか。グレンツェンの主流はワイン。吟醸や焼酎は希少品。


「こんなこともあろうかと、アルマちゃんに頼んで持ってきてもらいました大吟醸!」

「なんとっ!」


 それをはやく言ってよ~♪

 ほんともう、サプライズが大好きなんだからぁ~♪


「大吟醸! でもお酒は全部、幽霊に持っていかれたのでは!?(エマ)」

「幽霊に持っていかれた?(マーリン)」

「結婚式を挙げて成仏されたのですが、祝杯のお酒がなかったのか、我々が持参した全てのお酒を強奪していきました。幽霊ですが。海賊なので(すみれ)」

「なにその迷惑なやつ(マーリン)」

「その代わり、樽や瓶にありったけの財宝を詰めていかれました(すみれ)」

「豪快なところも海賊っぽい(マーリン)」

「でもお酒の補充は、ハティさんが転移魔法を使ってくださったのでなんとかなりました(エマ)」

「ゲニーセンビーアのビール樽の中身が財宝に変わって発狂してたよな(ウォルフ)」


 背後からひょこっと現れたウォルフがカミングアウト。こちらも赤面して親友をぽこすか殴った。


「と、とにかく! 大吟醸でシーフードを食べましょう! ゲニーセンビーアのクラフトビールと一緒にステーキを食べましょう!」

「大賛成!」


 シャコ貝を食べて一献。うまいっ!

 Tボーンステーキを食べて一杯。うまいっ!


「これ、もしかしてゲニーセンビーアのステーキと同じ下処理してない?」

「大正解です。フラワーフェスティバルの時のお礼ということで、お肉の目利き(仕入れ)と下処理をしてくださったんです。おかげでうまうまなバーベキューが実現しましたっ! あ、それと、こちらのソースは自由に好きなだけお使いください」


 すみれちゃんに促された先にはカラフルなソースの入った容器がずらり。古今東西、ありとあらゆる調味料が並んでる。すみれちゃんから褒めて褒めてのオーラを感じたのは間違いない。

 これ、全部手作りだ!


「もしかして、これ全部手作り?」

「はい! 寄宿生の学生さんの出身地に合わせて、故郷の味を再現しましたっ!」

「すっご! 気合いの入れ方が違う。すみれちゃんのおすすめは?」

「全部おすすめですが、そうですね、特製ハリッサをサーロインステーキになんてどうでしょう。こちらは通常のハリッサの材料に加え、ガンガンに煮込みまくったビスクのペーストを少量混ぜて深みのある味わいを実現しました。内陸のスパイスに海のエッセンスがマリージュです!」

「ペーストにしたビスク。ということは、殻も裏ごししてるよね。めっちゃ強烈な味になってそう」


 いざ、ぱくり。むむっ!

 唐辛子の辛みとビスクの風味がちょうどいいところで調和してる。これはうまいっ!


「ジューシーなお肉の旨味を引き出す陸と海の出会い! マイタケ入りのマヨネーズも、ピーナッツが効いたサテソースも絶品! ほんとにすみれちゃんは料理上手ね。私の助手として働いてほしい」

「ちょっとマーリンさんまですみれちゃんを誘惑しないでくれます?」

「そうですよ。いくらマーリンさんと言えど、すみれさんを勧誘するのはいけないことですよ?」


 反応が早い。5メートル先でサンジェルマン氏と談笑してた2人が、言葉を挟む間もなく現れた。

 しかし、簡単に引き下がると本気度を疑われかねない。少し押そう。


「私はワープが使えるから、いろんなところに旅行に行けるよ?」

「世界旅行!」


 掴みは上々。彼女は台所の前で料理本片手にうきうきするだけの器じゃない。


「ず、ずるいです! マーリンさんは意地悪の魔女です!」


 懐かしいな、その形容詞。まさかグリムからそんなことを言われるとは思わなかった。

 さて、人生において仲間を作るというのは大切なことだ。敵ばかりではどうにもならない。だからこそ、敵も味方にできたら素敵だと思わない?


「それじゃあみんなで行きましょう。4人で、世界グルメツアー!」

「マーリンさん、大好きっ!」


 グリムゲット!


「うちの旦那は世界中を旅してたから、彼に案内させてワールドグルメツアーをしましょう!」


 レーレィさんゲット!

 よし。全員ゲットだぜ!


 今回のディナーはエクスプレス合衆国スタイル。Tボーンステーキから始まり、窯焼きのピザはカリフォルニア風。小麦の生地に具材をたくさん乗せまくり、ボリューミーでカラフルなパーティーメニューを楽しみましょう!


「特製のピザソースとアボカド、玉ねぎ、燻製サーモン、スライスしたトマトとヴルスト。ゴーダチーズ。シュリンプ。マッシュルーム。千切りの赤トウガラシ。バジルソース。最後にレモン汁をふりかけて、召し上がれ!」

「具、入れすぎじゃない?」

「「「これがカリフォルニア・ピザですよ!」」」


 私の冷静なつっこみの隣で、情熱的な歓声が沸き上がる。

 エクスプレス合衆国を故郷にもつパーカーくん、カーターくん、クリストファーさんが狂喜乱舞。父親につられて、よくわからないがとにかく楽しそうなので息子のケインくんもおおはしゃぎ。

 ライラさんの腕の中で沈黙してた末っ子のフィオンくん。ピザを見るなり身を乗り出して食わせろの合図。


「この子ほんと、おいしいものセンサーの感度がすごい。将来は大物になるぞ!」

「ほんと、なんていうか、おばさまの子って感じがします」


 それはすごいよくわかる。将来は美食家で間違いないだろう。

 レレッチちゃんは取り分けたピザを小さくしてフィオンくんの口に運ぶ。と、彼は満面の笑みでダンス。もっとくれと催促が始まった。


 たっぷりの具材に多種多様な味のハーモニー。レモンの爽やかな酸味が食欲を引き立てる。

 うまいっ!


「こんな時じゃないとカリフォルニア・ピザは作れないので、とても勉強になります」


 自慢の腕を振るうアポロンくんも舌鼓。うまいと叫んで次のピザにとりかかる。


「ヘイターハーゼのピッツァは伝統的なナポリ式だもんね。あれは基準が厳格だから、こういう家庭で作るような自由なピッツァは意外に久しぶり?」

「そうですね。でも、ハティさんが来てから彼女の故郷のシャングリラで何回か焼かせてもらってるんです。彼らが育てた野菜や採取したキノコ。贈られてくる新鮮な海産物を使って楽しいピッツァを焼いてますよ」

「採れたて新鮮な材料で作るピッツァほど格別なものはないよね。それが大好きな人たちと一緒ともなればなおさら。ところで、彼女との仲は進展してる?」


 そう聞くと、アポロンくんは照れるよりは困った寄りの表情を見せた。


「いやぁー残念ながら、どうも彼女に恋愛感覚とか、そういうの無いみたいで。一度はっきりと告白してみたんですけど、言葉の意味が理解できずに疑問符を浮かべまくられて。今のところは平行線ってところですね」

「それはまた難儀な。そっち系の話題とか、経験とか、ナチュラルに触れてこなかったんだろうね。頑張れっ!」


 としか言いようがない。客観的に見ても、アポロンくんに対するハティちゃんの好感度は高い。実家に招待するくらいだもん。料理が上手以上の感情があってもおかしくない。

 もしかして、自分自身が好意を抱いてることに気付いてない?

 彼女の場合、無い話しじゃないから厄介。頑張れ、アポロンくん!


 恋仲と言えばスパルタコとリリアとルルア。まさかアイザンロックから双子が来てたとは思わなかった。

 文通を通して恋仲に発展した3人。いちゃいちゃとらぶらぶしてらっしゃる。

 それはいいんだけど、グレンツェン側で結婚しようものなら重婚罪。あなたたちの恋を先に進めるためには、そういう法整備がされてないアイザンロックにスパルタコくんを連れて行くしかないのよ?

 でもアイザンロックは異世界なのよ。仮に彼がアイザンロックに行こうものなら、この世界から人一人がいなくなる。それはまずい。


 どうするか。考えるより先に全体を景色として俯瞰する。だってここに居る人の半分くらい、異世界人じゃん!

 ハティちゃんをはじめ、シャングリラ出身者は全員異世界人。

 すみれちゃんの意中の人も、まかさ異世界人だったとは。当然、イラくん含め、彼の友人と義母も異世界人。しかも悪魔だ。

 ついでにアルマちゃんたちも異世界人。もちろん、私も異世界人。


 どうなんてんだ、この空間。

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