シューティングスター・ティアドロップ 1
今回はすみれ、マーリン、アルマ、ペーシェ、最後に三人称視点でお送りいたします。
すみれはイラといちゃいちゃしたい。
マーリンは死ぬ気で仕事を終わらせての参加。サマーバケーションを堪能したい。
アルマは寄宿生の教練に参加。シェリーの鬼教官っぷりを見て余計なことを言いたくなる。
ペーシェはすみれの誕生日を盛大に祝うことに東奔西走。
最後にアーディとペーシェの恋路に幕が降ります。理不尽な幕の降り方に憤怒したベレッタとマーリンが一矢報いるため、アーディに毒を盛ります。果たして、彼女たちの復讐劇は無事に完遂することができるのでしょうか。
以下、主観【小鳥遊すみれ】
素敵な結婚式だった。大勢の人々に見送られて、彼女たちは幸福な未来へ向かうのだろう。死んでるけど。あと、女性同士だったな。でも愛さえあれば関係ないよね。
初めての結婚式の参列にふわふわしてる。私もいつか、彼女たちみたいに素敵な相手と一緒になれるかな。
素敵な相手。片思いの相手が隣にいることを考えると幸せな気持ちになる。彼はどんな料理が好きなんだろう。普段、どんなものを食べてるんだろう。イラさんの故郷の特産品ってなんだろう。ファイさんの焼いたパンは絶品だった。きっとお野菜も海産物もおいしんだろうな。
なんでも知りたくなっちゃう。もっと知って、知ってもらって、手を繋いで一緒に料理を作りたいな。
「ということなので、一緒に明日の朝ごはんの仕込みを手伝ってもらえませんか?」
「うん、いいよ」
快諾。やった!
なんてまぶしい笑顔なのだろう。なぜだか特別、輝いて見える。
これが恋。青い夏の煌めきっ!
「すみれちゃんとイラの初めての共同作業!」
「ピィさん、なに言ってんですか?」
イラさんと私をくっつけたいピィさん。下ネタだろうが既成事実だろうが、なりふり構わずぶっこんでくる。
でも残念なことに、私にはそっち方面の知識がない。だから言葉そのままに受け取ってしまう。受け取って、そっち方面のAtoZをスルーした。
「よかったらみさなんも手伝ってもらっていいですか? 明日の朝ごはんは飲茶ですっ!」
「飲茶とはいったい?」
疑問符をつけたファイさんに説明しましょう!
「ひと口サイズで食べられる軽食のことを点心と呼び、それらと共にお茶を飲むことを飲茶と言います。点心の種類や定義には様々ありますが、とかく明日の点心は小籠包を作ります。なので、アポロンさんとハティさんに生地を。我々で餡を作ろうと思います。よろしくおねがいしますっ!」
「餡作りもいいけど、パン屋のあたしとしては生地作りに参加したいな。いいかな?」
「もちろん! いっぱい作ろう!」
「明日のディナーで使うピッツァの生地も作っておきたいからね。人手があるのは助かるよ」
よし。ハティさんとアポロンさん、ファイさんは生地作りに邁進していただきましょう。
「それじゃ、あたしたちは餡作りか。しかし小籠包なんて作ったことないんだが」
心配そうに腕組みをして難しい表情を浮かべるフィーアさん。大丈夫です。なにも難しいことなんてありません。
「食材を下処理して、切って捏ねて寝かせておくだけで大丈夫です。全然難しくはありません。物量がいるだけです」
「なるほど。人手がいったわけね」
納得のフィーアさん。背後に忍び寄る影が彼女の肩にかかる。
レーレィさんとグリムさんだ。途中参加の2人はなにかお手伝いできないかと名乗りを上げてくれた。
なんて頼もしい助っ人だろう。怖い物なしです!
「で、材料は? どんなレシピなの? 早く教えて教えて!」
「フィーアは教練の助っ人に行ったほうがよいのではないでしょうか。料理なら私たちに任せていてください」
「ちょ、それはたしかにそうかもだけど、あたしも料理の勉強がしたいんだが」
「それなら私が後日、教えてあげますよ」
「グリムの手料理は怖いから嫌だよ」
やる気満々のフィーアさんから不穏な言葉が飛び出した。
「グリムさんの手料理が怖い?」
ううむ。どういうことだろう。グリムさんの手料理が怖かった試しなんて一度としてない。もしや、作った料理が食べられまいと、逆に人間を襲うのだろうか!?
「そんなわけありません。フィーアの言葉はただの妄言です。気にしないでください」
「妄言!?」
「そうなんですか。それはよかった」
「すみれも納得しないでくれよ!」
知らないことが幸せなこともある。グリムさんのユニークスキルを知ってたなら、きっと今の私のようなきょとん顔などできないだろう。
さて、お手伝いしてくれるメンバーが揃ったところで役割分担をいたしましょう。
食材の下処理は終わらせたので、あとは切ってこねるだけ。超簡単。
私こと小鳥遊すみれとグリムさん、フィーアさん、レーレィさんが包丁係。
エマさんはマッシュポテトを作る係。
ティレットさん、ガレットさん、ルージィさんがこねる係。
餡の出来具合を確かめるため、試食する係にピィさんが手を挙げてくれた。
「いや、ピィさんの立場いらないよね?」
すかさずイラさんの待ったがかかる。
「ばかめ。味を確認するのはとても大切なことよ。そんなことも分からないなんて信じられないわ!」
十中八九、食べたいだけ。でも、それでも、私が作った料理を食べてくれるのは嬉しいのでスルーします。
「味見はとても大切です。なので、あとでちっちゃい小籠包を作ってみんなで試食しましょう。今回の具は自信作ですが、ワールドワイドな内容なので味見していただきたく!」
「ワールドワイド、ですか?」
「もしかして、さきほどのバーベキューにあったように、寄宿生の方々の故郷の味を参考に作られてるのですか?」
エマさんとティレットさんの疑問符にお答えしましょうっ!
「大正解です。シンプルな豚肉餡。干しシイタケに干しアワビを中心に据えた乾物餡。肉味噌と豆板醤を使用したちょっぴり辛搾菜餡。シェンリュさんの大好物の角煮を詰め込んだ角煮点心。ピザトーストとベーコン、角切りトマトとチーズを詰めたピッツァ餡。タマネギと蕎麦の実いっぱいのカーシャ餡。マッシュポテトに煮込んだビスクとスパイスを仕込んだ地中海餡。こちらは油で揚げて、外はカリッ、中はふわふわのクリームコロッケ風に仕上げます!」
「それで私だけ、マッシュポテト担当なんですね」
その通りでございます。エマさん、よろしくおねがいしますっ!
「途中から点心と結びつかない単語が並び始めましたね」
グリムさんは驚きとともにわくわくがほとばしる。
「俺にはほぼほぼ全部分かりません。ビスクとクリームコロッケだけはわかりました。まぁすみれのことだ。どうあってもうまいものができるだろ」
ルージィさんの言葉に全会一致で肯定。
そんなまたそんなにおだてたってなにもよういしてないのでこれからいっぱいおいしいものをつくろうとおもいますっ♪
食材を切ってとんとんとん。まな板ドラムをとんとんとん。
ボウルの中でこねこねこね。こねて丸めてお肉の塊ぽんぽんぽん。
「よし、試食タイム」
「早いよ、ピィさん。勇み足すぎる」
イラさんのおっしゃる通り。まだ餡のまま。このまま蒸し焼きにしてもおいしい。でも、点心なので皮が必要。
「今日のディナー用に用意した生地の予備を拝借しましょう。アポロンさん、どのくらい使っても大丈夫そうですか?」
楽しそうに生地の指南をするアポロンさんは満面の笑み。少し鼻の下が伸びてる気がしないでもない。
美女に挟まれて幸せなお花畑の中にいるアポロンさん。夢見心地も仕方ない。
「それなら、500グラムは使って大丈夫だよ。明日分は今作ってるから、少し使いすぎても大丈夫。今日はカリフォルニア・ピザの予定だし、ステーキもあるから。それに、グリーマンさんが海産物を獲ってきてくれるってことだから、新鮮な海産物でバーベキューもできる。思ってたより食糧が多くなって生地を使う量が減りそう」
「つまりいっぱい味見できるってことか!」
ピィさん、見た目によらず食欲の権化。
「ま、まぁ、点心は小腹が空いた時に食べる間食です。味見と言わず、普通にしてもらって大丈夫だと思いますよ?」
ピィさんの気持ちに寄り添って、将来の義母へ好感度アップアピールだ。
「ふふん♪ であるならば、せっかくだし将来の義娘にもてなしてもらおうかしら?」
「は、はいっ! よろこんでっ!」
将来のお婿さんの意見を無視した、将来の義母と義娘の試練の幕が開けるっ!
ふつふつ。ふつふつ。ふつふつふつ。
蒸籠ごと蒸し焼きにした点心が真っ白な息を吐いて食べごろを報せてくれる。
くつくつ。くつくつくつ。とぽぽぽぽ。
お供に座るはプーアル茶。飲茶にかかせない大事な大事なお友達。
ラウンドテーブルにひとつ、ふたつ、15個並べていただきます。
「では、将来の義娘の自信作、いただくといたしましょうっ!」
「ふつつかものですが、よろしくおねがいしますっ!」
「ねぇ、誰か大事な人のことを忘れてない?」
「忘れてませんっ! イラさんもどうぞ、お召し上がりくださいっ!」
「う、うん。ありがとう」
ピィさんにイラさん、ハティさん、アポロンさん、ファイさん、フィーアさん、グリムさん、レーレィさん、エマさん、ティレットさん、ガレットさん、ルージィさん。そして私。と、キキちゃん、ヤヤちゃん、マーガレットちゃんと飲茶です。
「「「ちょーおいしそー♪」」」
「いつの間にか仲良し三人組が!」
「「「すみれさんが厨房にいるということは、おいしい料理があるということっ!」」」
「よくわかってらっしゃる!」
娘が増えたみたいで嬉しいレーレィさん。とても楽しそうに点心の解説をしてくれる。
ほかのみんなもおいしいと言って褒めてくれた。料理人冥利に尽きます。さて、ピィさんの評価たるやいかにっ!
「ぐっ、ぬっ、んんんっ!」
手が、届いてなかった。身長150cmのピィさん。座高が足りなくてちょっぴり苦しそう。
いかんっ!
いい嫁として、義母に辛い思いをさせるなど言語道断。ここはすかさず、クッションを用意だ!
「大丈夫! ピィが本気を出せばこんなこと、些事にも入らぬわっ!」
と、大見得をきって椅子を降り、たんたたんとステップを踏むと、ピィさんはぐんぐんと大きくなって、大きくなって、ナイスバデーなお姉さんに大変身。
「なんという成長速度!」
感嘆のひと言にファイさんが訂正を入れる。
「違う違う。ピィさんは普段は省エネモードで子供サイズなの。本気出す時か、見栄をはぐぎゅう!」
「いい女ってのは、余計なことを言わないものよ? マーガレットちゃんだって知ってるもんね?」
ほっぺをむぎゅっとされたファイさんはやんわりと制裁。
マーガレットちゃんに同意を促すと、彼女は全てを察した眼差しで大きくうなずいた。
「うんっ! いい女は余計なことは言わないっ!」
いい女が全力でガッツのポーズ!
「ほら。こんなに小さな子だってわかってる。ファイもまだまだね?」
「うぐぅ……」
小さくうめいたファイさんはしょんぼりと縮み、もうなにも言うことなく点心を食べ続けた。
「さて、それでは改めまして、いただきますっ!」
「改めまして、ふつつかものですがよろしくおねがいしますっ!」
ぱくり。もぐもぐ。
ぱくり。もぐもぐもぐ。
ぱくり。もぐもぐもぐもぐ。
ぱくり。もぐもぐもぐもぐもぐ。
すぅーーーー、はふぅーーーー。
ぱくり。もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
ぱくり。もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
ぱくり。もぐも
「あつぅっ!」
「気を付けてください! 7個目の揚げ饅頭の中身はマッシュポテトとビスクのクリームコロッケ風ですっ! すんごいあつあつですっ!」
メリアローザで食べたさくふわとろとろのカニクリームコロッケを参考に作った揚げ饅頭のビスククリーム。ふわふわとろとろのマッシュポテトと魚介の旨味たっぷりのビスクを練り込んだ自信作。
深呼吸を整えながらお口の中を冷やしてむしゃむしゃ。
「全部おいしいっ!」
「お粗末様ですっ!」
やったー!
ピィさんに喜んでもらえた。彼女だけじゃない。キキちゃんたちにも、ティレットさんたちにも、グリムさんたちにも、もちろんイラさんにも!
「これは入籍待ったなしっ!」
「ありがとうございますっ!」
ピィさんが認めて下さった!
「ピィさん、落ち着いて! すみれちゃんは私の息子とくっついて私の子になるんだから!」
レーレィさんの待ったがかかる!
「なんですかこの修羅場は! 当人無視で一親等がどろどろです! 昼ドラを通り越して夜ドラです!」
困惑と興奮入り乱れるガレットさんはなぜだか楽しそうだ!
「どっちも自分都合じゃないですか。本人の意志を尊重してあげましょうよ」
つとめて冷静なルージィさんの鋭いつっこみが2人の胸に刺さった。
が!
「「だってすみれちゃんと一緒にいると楽しいんだもんっ!」」
力業で棘を抜いた!
抜いた棘が勢いそのまま、私の胸を貫いた!
「い、いやぁ~、そう言ってもらえると嬉しいですっ!」
嬉しい。心の底から嬉しい。こんな私でも、誰かの役に立てると思うと感極まって赤面しちゃう。
プロポーズされたみたいできゅんきゅんしちゃいますっ!
よし。この勢いのまま、イラさんを散歩に誘おう。キバーツリーの丘に群生してるナマクアランド・デイジーを見に行こう!




