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summER VAcatioNs in The ghOstLand 15

 個人個人が個人的な感情を抱きながら、慎重に進むことおよそ10分。ついに終着の地へとたどりついた。

 おそらく教会を模したのであろう作りはサン・セルティレア大聖堂にもあるような作り。

 参列者が座る長い椅子。質素な教壇。背に巨大なステンドグラスが立てかけてある。壁には蝋燭を立てておくための突起物が等間隔に配置されてた。


 花嫁さんは教壇の前に、佇むように待っている。

 肉は朽ち、骨だけになろうとも、愛は不滅だと示すように。


 きっと彼女たちは仲間たちとここで、かけがえのない幸せを叶えようとしたに違いない。

 生きてるうちに叶わねど、今日ここで、ついに悲願が達成される。

 世紀の一瞬に立ち会える。なんて素晴らしい出会いなのだろう。船長さんを連れてきたアルマさんに感謝です。


 でもその前に、祝福してくれる仲間たちを呼ぶための準備をしなくてはいけません。

 どうするかっていうと、


「アルマさんアルマさん。船長さんたちを祝福するなら、彼らの仲間がいなくてはいけません。でも彼らは船長さんたちがここにいることを知らないから、地上にいます。彼らを結婚式場へ招待しましょう」


 と言うと、アルマさんは目を丸くして、


「ど、どうやって?」


 そんなに難しいことではないのです。


「地上まで続く通り道を天井に開けてください。できるだけまっすぐに。教壇の前、新郎新婦が光を浴びるように」

「おーけーっ! まっすぐに穴を空けてみせるぜっ!」


 ノリノリのアルマさんに待ったをかけるサンジェルマンさん。


「待って! それは僕がやるよ。崩落しない場所を探知しながら掘削するから!」

「ですね! よろしくおねがいします!」


 冷静なサンジェルマンさんの提案で一命をとりとめたかもしれないわたしたち。椅子に座って待とう。


 ごりごりごりごり。

 じゃりじゃりじゃりじゃり。

 ごりごりごりごり。

 じゃりじゃりじゃりじゃり。

 ごりごりごりごり。

 じゃりじゃりじゃりじゃり。


 サンジェルマンさんが掘削したあとの砂塵がぽろぽろ落ちてこない。アルマさんによると、掘削した粉塵に圧力をかけ、壁面を硬化させることで強靭な縦穴を作ってるとのこと。

 すごい。サンジェルマンさん、すごい。そしてテンションアゲアゲのアルマさんのテンションがすごい。自慢のツインテールをぶんぶん振り回してる。髪の先っちょが顔面に当たってもおかまいなし。


 しばらくして。

 無事、船長さんの仲間たちと、幽霊の船員さんたちと戦ってた人たちがやってきた。敵じゃなかった?


「もう死んだんだし、敵も味方もねえだろうよ」

「そういうもんなの!?」


 ペーシェさんのつっこみが手紙を人質にとった幽霊さんに炸裂。しかし効果はいまいちだ。死んでるから怖い物なし。

 続けて畳みかける。


「それにアレだ。これはストックホルム症候群だ。仲良くなるやつだ」

「なんでそんなん知ってんの!?」


 つっこみを入れるもどこ吹く風。どこかの誰かが言ってた気がするとのらりくらり。

 ふか~いため息をついたのは幽霊の相手をしたからだけではない。祝賀会に参加するメンバーに見知った顔がいっぱいいるからだ。

 なんと、寄宿生の人たちにキッチンのメンバーもみんな揃ってる。


 アルマさんとサンジェルマンさんが掘り抜いた先には幽霊さんたちを鎮めるための慰霊碑が置いてあった。全然活躍してないけど。

 やることのなくなった人たちは、念のためにお祈りをしようというシェリーお姉さまの提案で慰霊碑に赴いた。そこで慰霊碑をぶっ壊して現れたサンジェルマンさんと遭遇。

 縦穴めがけて滑りこむ幽霊さんたちとも遭遇。

 どういうことかを説明して、ライラさんが『結婚式は大勢いたほうがいいだろう』と言い放ち、わくわくしながら全員を縦穴に放り込んだ。


「驚天動地の現実なんだけどー。これどうすりゃいいんですかー」

悪霊(アーイ・ピー)じゃなければ大丈夫」

「なにこれホラーハウスも真っ青なんだが」

「なにもみえないきこえない」

「毒はないのかい? カビとか」


 声が反響して誰がなにを言ってるのかわからない。ケビンさん以外。

 とかくこれから結婚式です。みなみなさま、ご静粛に。


 檀上に花嫁さんと船長さんの頭蓋骨を載せると、瞬きをした瞬間に花嫁さんと船長さんが現れた。お顔はよく見えない。でも構わない。大事なのは心だから。


 ざわめきは一瞬。ライトの魔法に照らされた彼らは神々しく、息を飲むような美しさを放つ。

 真実の愛を胸に抱き、待ちに待った日がきたのだ。

 だからこそ、わたしは全力で彼女たちをサポートしたい。

 祝福には喝采を。

 花嫁には――――――花束を!


「これ、きらきら魔法で作ったウェディングブーケ。デイジーの花をいっぱいに詰めたよ。キバーランドに植えたナマクアランド・デイジー。故郷のお花なんだよね?」


 問うと、ひとつうなずいて手に取った。彼女の笑顔は『ありがとう』と言ってる。ありがとうはこちらこそです。

 受け取ってくれて嬉しい。わたしの初めてデザインしたウェディングブーケ。新郎新婦の幸せと、彼女たちに続く幸せを繋げる未来へのバトン。

 幸せのお手伝いがしたい。だからわたしはウェディングブーケのデザイナーを目指してるのだ。


 ブーケを手にして新郎と向き合う。と、まばゆい風が吹き抜けた。

 ふわりと揺れた純白のウェディングドレス。今度こそははっきりと見える。黒曜石の花嫁と、彼女を愛した海賊の船長さん。白いタキシードに包まれて、本当に光輝いていた。

 影響されるように、集まってた幽霊さんたちの顔も生前の表情を取り戻す。幽霊とは思えない、そこに実在してるかのように生気を取り戻してた。


 ベレッタさんが祝福を述べ、2人は誓いのキスをする。

 喜びの時も、病める時も、死してもお互いを愛する2人の想いが実を結んだ。


 讃美歌よりも荘厳に、漆黒の海より深い愛で、彼女たちは永遠に結ばれた。

 デイジーの咲き誇る楽園を天上に、2人は天国へ行くだろう。

 もう誰一人として彼女たちの幸せを邪魔する者はいない。喝采に包まれて、新しい旅路へと旅立つのだ。


 All life,be clothed in eternal love……


 ♪ ♪ ♪


 わたしは今、夢心地だ。

 あんなに美しく、愛に満ちた結婚式は見たことがない。

 数百年、死んでも愛し思い合ってるなんて、いったいどんな出会いがあったんだろう。

 身分も、種族も、性別も、全てを超越した愛があったのだろう。

 かつて隔たれてしまったことはとても悲しい。だけど今日、彼女たちの悲願は達成された。わたしたちの手で叶えてあげられた。

 今日はなんて素敵な日なのだろう。わたしが女王なら祝日に制定したいほどだっ!


 それだけじゃない。がんばったご褒美にと、シェリーお姉さまに肩車をしてもらってるのだ。なんて素敵な日なのだろう。祝日にしたいっ!


「祝日にするのは無理だけど、記念日にはできるな。きっと一生忘れられない思い出になるだろう。マーガレットにも、私にも、ここにいるみんなもな」


 シェリーお姉さまも同じように思ってくれてる。嬉しいな。嬉しいな~♪


「うんっ! とっても素敵な結婚式だった。みんなみんな笑顔だった。みんなに祝福されて、2人とも幸せそうだった。ずっと元気でいてくれたらいいな♪」

「ずっと元気で、か。そうだな。きっといつまでも幸せでいられるだろう。もう彼女たちの幸せを邪魔する者はいないんだから」

「うんっ!」


 大きくうなずいて、シェリーお姉さまは疑問をひとつ投げかけた。


「ところで、マーガレット。胸にあるロザリオはいつからしてたんだ? 出発した時には首にかけてなかったろう?」

「ロザリオ?」


 見ると、いつの間にかロザリオを首にかけてた。最初からわたしが持ってたものじゃない。全然気づかなかった。誰がいつどこでかけてくれたのだろう。

 その答えをペーシェさんが知ってた。


「すぐ後ろから見てたからわかったんだけど、そのロザリオをかけたのは黒曜石の花嫁だよ。きっとマーガレットにありがとう、って。感謝の証じゃないかな」

「感謝の? おぉ~…………」


 きめ細かな装飾の施された十字架。交差したところにはグランブルーの宝石がはめこまれてる。まるで黒曜石の花嫁の瞳のようだ。彼女の瞳も綺麗なグランブルーだった。花嫁さんの真心が込められてるようで、とっても心があったかくなる。

 一生の宝物にしよう。手に取るたびに彼女たちの幸せな姿を思い出し、わたし自身も、まだ見ぬ誰かも、幸せにしたい気持ちになるだろう。

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