summER VAcatioNs in The ghOstLand 14
ヘラさんの友人の部下だろうがなんだろうが、そんなことは知ったこっちゃない。そんなことより、夢爛れてもなお願い、成就しようと祈り続けた彼らの想いのほうが遥かに重い。
「ベレッタはどう? 私の代わりに引き受けてくれない? 世紀の結婚式を記録できるまたとないチャンスだよ?」
しつこいな、この人!
「気持ちはわかりますが、彼らの願いを優先させることのほうが大事です。彼らは人知れず、ひっそりと執り行いたいと願ってるなら、宗教者として、祝福を援ける者として、彼らの意志を尊重します」
さすがベレッタさん。わかってらっしゃる。
「アルマちゃんは記録に遺したいよね?」
「キルシュさん、この人、クビにしてくれまちす?」
アルマってほんと、無遠慮な人に容赦ないな。素面でえげつないことを言える鋼の心臓の持ち主よ。そして語尾から察するに、デイジーさんのことをクソどうでもいいと思ってる。
もっと言っちゃえっ!
「部署が変わったんだから私のやり方でやれっていっつも言ってんだろうがッ!」
一喝が轟いた。ミーナのお母さん、怖っ!
島に到着した時はふんわりした印象だったのに、爆発した時の破壊力たるや核弾頭。
「せっかく普段から頑張ってるから、特集記事を取らせてやろうと連れてきたのに、私の顔に泥を塗るんじゃないよ! 今から強制送還してやろうか!?」
「それだけはごかんべんをかんにんしてください! さいきんいいきじとれなくてかたみがせまいんですほんとごめんなさい!」
「謝るのは私じゃねえッ!」
部下にも自分にも厳しい人はいい人だ。しかしこれはさすがに、叱咤が強すぎるのではなかろうか。
「そこんとこどうなん? ミーナ」
「おかんは仕事の鬼だからな。特に記者とか一般人と関わる機会の多い職場では、コンプライアンスのジャイアントオーガと呼ばれてるくらい厳しいらしいぞ。絶対に一緒に仕事したくないな!」
「母親の前でそれは言わんでも」
あからさまな蛇足。
すると母親からも言いたいことがあるみたいで、
「私もミーナみたいな脳内お花畑すかぽんたんなんかと仕事できんわ!」
仕事の鬼とはいえ、母親も母親で言いすぎ。うちのお母さんがお母さんでよかったー。
「ミーナの夢はフェアリーを見つけて、一緒に暮らしながら自給自足の生活をすることだから、おかんと一緒に仕事をすることはないから安心してくれ!」
「そうかそれはよかった。でも」
でも、と続けて、熱湯に氷山をぶちこんだが如き勢いで柔和な笑顔になっていく仕事の鬼。
「私もフェアリーとお茶会したいから、その時になったら呼んでねー♪」
「オーケーッ!」
ダブルサムズアップで約束を取り付ける2人。
仲良いな、この親子。
割って入るようにヘラさんからお断りが入る。
「ごめんねー。キルシュは昔っからこういう性格で、仕事が絡むと鬼なのよ。信頼はできるんだけどね」
「仕事は信用第一。破産しても信用があれば生きていけるっ!」
なんて力強い言葉なんだ。貫禄を盾にされると突っ込む隙がなくて困る。
ところで、と切り替えたヘラさん。聞いてはならないことを聞いてしまった。
「ユノの姿が見えないんだけど、どこに行ってるの? もしかして、幽霊が住む島だからって特殊な龍脈が流れてるんじゃないかって観測にでも行った?」
あたしも、アルマもベレッタさんも硬直して下を向いた。聞かないでほしかったシークレットシット。聞いたら絶対、ヘラさんが怒髪天になるから。
沈黙を守る我々を前に、嫌な予感を募らせるヘラさん。誰に狙いを定めようか。一瞥して、彼女の助手となったベレッタさんにロックオン。
「ベレッタちゃーーーーん。ユノは、どこに、いるのかなあぁーーーー?」
圧がヤバい。これが蛇に睨まれた蛙というやつか。ベレッタさんはヘラさんを直視できず、かといって逃げることもできず、かといって嘘をつくこともできず、涙目になりながら親愛なる市長に告白する。
「ユノさんは、ペンションの中で――――中に、います」
「中で、なにをしてるの?」
「て、く、くつろいでらっしゃいます。休暇、なので。仕事では、来てない、ので」
「『て』? なに?」
「て――――――――れびを見てます」
「誰と?」
「――――――――1人で、です…………っ!」
「なるほど。ちょっと行ってくる」
ユノさん逃げてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
そっちにほんものの鬼がいきますよぉーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
★ ★ ★ 【マーガレット・バディラン】
おいしいご飯を食べてお腹いっぱい。
お昼寝もして元気いっぱい。
すみれさんがホストのバーベキューは感動するほどおいしかった。いろんな国のチキンソースが食べられた。
魚の丸焼きも、貝やエビの丸焼きも、なにもかもがおいしい。
なによりおいしかったのはビーフシチュー。すみれさんのビーフシチューは絶品の中の絶品。何度食べても食べ飽きない。
わたしもいつか、すみれさんのビーフシチューが作れるようになりたいな。
小耳に挟んだところによると、ディナーはピッツァが食べられるらしい。そのためのピザ窯を手作りしたアポロンさんがそんなことを言ってた。
焼きたてのピッツァが楽しみだ。できることなら、自分でピッツァを焼いてみたい。
船長さんと花嫁さんを再会させたら、頑張ったご褒美にピッツァを焼かせてもらえるかな。
「よぉし。覚悟決めて行きますか! いざ、花嫁が待つ秘密の鍾乳洞へ!」
「「「「「「おぉーっ!」」」」」」
潜水艦を操る操舵手はアルマさん。祝福の祝詞をあげるベレッタさん。思いを届ける仕事を生業にしてるミカエルさん。頼れる護衛のペーシェさん。と、あとなぜかサンジェルマンさんが一緒に行くらしい。
なんでか分からないけど、大人の男性がいるのは安心できる。
でも肝心なことを忘れてるのではないでしょうか。
「そういえば、鍾乳洞の入り口って見つかったの?」
問うと、サンジェルマンさんがわたしを安心させるために笑顔を向けてくれた。
「大丈夫。ベルン寄宿生のお兄さんとお姉さんたちが見つけてくれたんだ。内部の調査も済んでる。あとは船長を花嫁に会わせるだけだ。さぁ行こう」
「うんっ!」
なるほど、それでベルン寄宿生のみんなが浜に打ち上げられた小魚のように、砂浜につっぷして干上がってるのか。
なんとかっていうマジックアイテムで潜水したっていうのは聞いてた。まさかそこまでの重労働だったとは。ありがとうございます。みんなの犠牲は無駄にしない(死んではない)。
快活に返事をして手を引かれるままに潜水艦に乗船。
ちょーでっかいハコフグの形をした潜水艦。プリンのような感触の被膜を突き破って中に入る。
まるでハコフグに丸のみにされたような気持ちだ。とても不思議な気分である。
「なんていうか、お魚さんに丸呑みにされたみたい」
ベレッタさんも同じことを思ったらしい。仲間だ。嬉しい。
「空は飛ぶけど海の中は初めて。わくわく♪」
ミカエルさんもわっくわく。わたしはこれに乗って海中散歩をしてみたい。わくわく♪
「それじゃ、さっそくだけど出発進行! ほんとは海中散歩でお披露目したかったんだけど、悪しからずということで」
ちょっと残念とアルマさん。肩を落とすと同時にハコフグ潜水艦が海中に潜った。天を見上げるも見知った空はなく、白と青のモザイクな世界が広がる。
これが海中の世界。なんて神秘的なんだろう。
こんな世界をお散歩できたなら、きっと夢にまで見たワンダーランド。一週間は海中散歩の夢を楽しめそうだ。
「アルマさん、わたしも海中散歩したいっ!」
「いいよー♪ メタフィッシュはそのために持ってきたんだもん。でも今日はもうこれから暗くなるから、明日のお昼ごろに遊ぼうね。あ、もちろん、ライラさんご指名のライフセイバーの一環としてもですが」
やった。明日の楽しみがひとつ増えた!
「ほんとうに、アルマくんの国の技術は素晴らしい。メタフィッシュがあれば、個人の魔力の練度にもよるが、荒波の海だって救助にかけつけることができるだろう。海中散歩も楽しめて言うことなし。まぁ、ライラくんにだけは、体質的に合わないんだがね」
お姉ちゃんが言ってたな。ライラさんは雷の魔力だから海に入れない。具体的な理由は忘れたけど、ライラさんが海に入るとたいへんなことになるらしい。
水着は着てたのに。
水着といえばシェリーお姉さま。完璧なプロポーション。太陽よりも眩しく輝く素敵な笑顔。腕に抱かれれば、幸せのままにまどろんでしまう。
嗚呼、シェリーお姉さま。わたしはシェリーお姉さまと一緒に海中散歩がしたいです。
ゆっくりと沈んでいく潜水艦。ライトの魔法で照らされた未知の世界は見たことのない夢の世界。
照らされた魚たちは驚いて身を翻す。
揺れ動く海藻はダンスを踊るよう。
光と影がはっきりする岩肌はミステリアスな舞台。
ここは伝説に聞く竜宮城かっ!
「たしかに見ただけなら竜宮城かも。今から行くところは、どっちかって言うと墓地」
「ウェディング会場」
「ご、ごめん……」
ペーシェさん、間違えてはいけません。今から行く場所は竜宮城でも、ましてや墓場でもない。黒曜石の花嫁の待つ結婚式場なのだ!
「ペーシェ、余計なことは言っちゃダメ。マーガレットちゃんは本気だから」
「す、すんません」
ペーシェさんの認識が改まったところで上陸開始。いや、上昇開始。入り口は先の短い洞窟の天井に隠されてた。崩落のせいで入り口は開いたまま。ここを昇っていけばたどり着くのだ。
わくわく♪
「はい、上陸。ここから徒歩でしばらく歩くよ。足元に気を付けてね」
わくわくはもう少し先だった。
よし、ペーシェさんに手を握ってもらおう。そして一番前をペーシェさんに進んでもらおう。それが確実。それが安全。
「え、なんであたしを前に押すの?」
「ペーシェさんならなにがあっても大丈夫」
「どこでそんな信頼を得たのかは分からないが、行けというなら行くしかあるまい。お父さんが」
「僕が!? いいけど……」
サンジェルマンさんでも大丈夫。ペーシェさんなら全方位探知できて、全方位に守備できる。ペーシェさんの精霊さんが言ってる。『自分は自分を知ったから、誰だろうとなんだろうと、神からだろうと悪魔からだろうと、仲間を守ることができる』と。
もしかするとペーシェさんなら、グレンツェン大図書館地下に埋められてるアレを、なんとかできるかもしれない。
足元をライトで照らしてもらいながら、滑って転げないように少しずつ進む。砂と岩の入り組む道。壁には様々な姿の魔術回路だったものが刻まれていた。
これはきっと罠だろう。船長さんが言ってた。罠が生きてたら、入り口すぐの秘密の制御室に入って罠を停止させろって。秘密の制御室は崩落して入れなかったけど。
でも罠は経年劣化で全て沈黙。ガスもたまってない。酸素は十分にある。魔獣とか危ない生き物はいなかった。それを聞いたケビンさんは残念がってた。なぜか。考えなくていいことのような気がする。
「この先に花嫁さんがいらっしゃる。わくわく♪」
どんな人だろう。早く見たいな。早く会わせてあげたいな。
「きっとデイジーの花が似合う素敵な花嫁さんに違いありません」
ミカエルさんもわくわく。船長さんに取り憑かれた時は真っ青だった顔色もすっかりよくなった。
「ゆ、幽霊さんの結婚式だなんて、ミステリー&ミステリアス」
まだちょっと怖がってるベレッタさん。大丈夫。この先にいる幽霊さんに悪い気配はない。これから集まる幽霊さんたちにも、悪い人はいない。
「じごくのくんれんおわってぱらだいすだとおもってたのにじごくいきつあーかよーせめておたからざっくざくであってくれー」
無感情のペーシェさんが無表情で念仏を棒読みで唱える。否、愚痴をこぼしただけだった。
なんだかわからない。だけど、人間的に成長するために地獄の訓練を潜り抜けてきたらしい。
「我が娘ながら見事な物欲っぷり。その性格のせいで恋愛が破綻しないか心配だ」
娘の行く末を案じるサンジェルマンさん。物欲が強いと恋愛が破綻する。知らなかった。気を付けなくては。
「お宝もいいですけど、罠の魔法陣のほうが気になります。全て終わったら、あるだけの魔術回路を転写して復元にいそしむのも面白そうです。どんな罠なのか、どんな構造になってるのか、わくわくが増えましたね!」
さすがアルマさん。魔法ならなんにでも興味を示す情熱、感服いたします。




