summER VAcatioNs in The ghOstLand 9
続きましては、アイシャさんから教わった特製グリーンカリーの登場です。
「ということは、私の大好物ですか? やったーっ!」
「うん、アイシャさんが妹のディピカさんによろしくって。私もおいしいグリーンカリーの作り方を教えてもらえて嬉しかった。ナンもあれば最高なんだけど、ピザ窯はこのあと、アポロンさんが作ってくれるってことで間に合わなくて。ごめんね」
「お姉ちゃん直伝のグリーンカリーが食べられるだけで嬉しいです。ってか、窯から作ろうとするバイタリティと情熱があることに驚きなんですけどっ!」
せっかくアポロンさんがいるのでピッツァが食べたいと言ったら、窯から作るってはりきってくれた。
ハティさんもアポロンさんのピッツァが大好き。みんな大好き。ならばやらねばならぬと、朝から大忙しなのです。
さてさて、グリーンカリーをかけて食べるチキンカリーのお味はいかに。
「おいしい! ありがとう!」
満面の笑みで両手をとり、ぶんぶんと振り回して嬉しさをアピールしてくれた。料理人としての幸せを感じる。自分の作った料理で笑顔になってくれた。料理人として、これ以上に嬉しいことはありません!
「あ、ちなみに隣の鍋の中身はなんですか?」
グリーンカリーの容器ともうひとつ。あつあつに熱された鉄の鍋の中身を気にするディピカさん。残念ながら、こちらはカリーではない。ではないけれど、
「こちらはですね、えっと、ダニエルさんはいらっしゃいますか?」
「もしやこっちはダニエルの故郷の料理? もしや全員の思い出の味を作ってるんですか?」
質問を返すより早くダニエルさん登場。ディピカさんとのやり取りを見てたのか、そわそわして期待に胸膨らませる。
これはトラハト人が大好きだというあの料理ですっ!
「なんてこった。まさかバーベキューでお目にかかれるとは」
驚嘆の表情を見せ、ダニエルさんは膝から崩れ落ちた。
「なになに? あっ、チーズフォンデュだっ! でもちょっと色が濃い?」
フィティさんも大好物。おっしゃる通り、少し手を加えてます。
「チーズフォンデュと白ワイン、それからモツで煮込んだツーリッヒャー・ゲシュネッツェルテスを混ぜてます。チキンステーキに注いでもいいですし、お野菜とも相性抜群です!」
「モツッ!」
いつの間にかアルマちゃんが背後にいる!
とろ~りチーズをチキンステーキに注いでぱくり。続いて焼きナスをチーズに絡めてぱくり。
「ありがとうございますッ!」
涙が滲みでるほど喜んでくれた。頑張ってよかったと報われる瞬間である。
「うっま! チーズとなんとかってソース? のコクなのかな。すんごいイケる!」
「モツこそ至高の食材! 合わないわけがない!」
一瞬で復活したアルマちゃんがモツの良さを語る語る。チーズフォンデュの底にたまったモツを掬い取って食べ尽くす尽くす。
モツは最後の楽しみに隠してたつもりだったのに、まさか全部バレてしまうとは。モツセンサーがあるのだろうか。さすがアルマちゃん。
「チーズまみれのモツうまーーーーーーっ!」
「そ、それはさすがにちょっと」
「モツがおいしいのは分かるけど、さすがにチーズにまみれすぎだと思う」
常識人の2人がドン引きである。
「このクソ暑いのに鍋料理だと!? だがそこが逆にいい!」
騒ぎを聞きつけた彼女はジュ・シェンリュさん。華国南部出身の彼女はきっと私と味覚が似てると思われる。
「シェンリュさんにはこちらを用意しました。東坡肉のタレに手を入れた特製ダレです。チキンに塗って、少し焼いてこんがりさせて食べてみてください」
「むむっ! あたしの大好物のトンポーロー。飴色のねっとりとしたタレ。これはうまそうだ。すみれさんがそうしろとおっしゃるなら、どれどれ」
じゅうじゅうと音を立ててこんがりと焼ける醤油タレのこうばしさたるや、ぐーぺこもの。煙を食べる習慣があるのか、沸き立つ湯気の前で深く深く息を吸う彼女の頬は緩みっぱなし。
そしてぱくり。
「んん~~~~っ! ありがとうッ! 繁華街で食べたトンポーローに串焼きも思い出したよ!」
「それはよかったです。あ、ちなみに豚肉と鶏肉の串焼きも準備あります。こちらもお好きなソースをつけて食べてください」
「サテアヤム! ということは、サテソースがあるんですかっ!?」
背後から歓喜の声色。バティック出身のカルティカさん。彼女の名前は土地柄もあり、ひとつしかない。カルティカ。それだけである。姓はない。名前だけ。
ピーナッツバターやコチュジャン、ハリッサや魚介類の殻をガンガンに煮詰めた特濃スープをミックスさせた自信作。彼女と同じくバティック出身のハイジさんにも味見をしてもらい、お墨付きをいただいたパンチ力抜群のアイテムなのだ。
「めっちゃおいしい! 故郷の味なのに今までに食べたことない味です!」
「めっちゃ煮詰めた魚介スープを混ぜてパンチ力を上げました。どんな相手もノックアウトです! サンドイッチやホットドッグにも合いますよ♪」
「なんてことですか! 焼き野菜につけてもおいしいです!」
「たっぷり作ったのでいっぱい食べてくださいね♪」
ふふふ。みんな喜んでくれてる。頑張ってよかった。いや、ちょっと違うな。楽しかったと言ったほうが正しい。あまり頑張ってはない。頑張った気はしてない。だって楽しいから。
異国の食文化を吸収して新しい知識と体験を身に着けるのはとても楽しかった。これからも続くのかと思うとわくわくが止まらない。
わくわくが生き急ぐままに次のターゲットにロックオン!
「カルロスさんとサンジェルマンさん、どうぞっ!」
「おっと、俺たちハイラックス出身者が呼ばれましたよ。こいつぁなにが出てくるか楽しみだ」
「まったくだ。ほかのソースも格別においしかったよ。ほんとうにありがとう!」
熱い握手を交わすのは情熱的なハイラックス人特有の挨拶。本気で握り返さないと私の小さなお手手が潰れちゃいそう。
「ところで、ハイラックスからインスピレーションを得たソースってなんぞ?」
背後からペーシェさん登場。いきなりのことでびっくりしちゃった。
「いつからそこにっ!? ええとですね、月並みなんだけど、生ローズマリー、オレガノ、ニンニク、ローレルを中心に使った特製香草チキンソース。生の香草をすり潰してより風味の強い味わいに仕上げました♪」
「なにこれめっちゃおいしそうっ!」
「故郷で食べたチキンソースの定番のやつ! しかもアレンジされてめっちゃいい香り!」
「わざわざ生の香草を使ったのか。手間と情熱を感じる。それではさっそく」
むしゃむしゃ。むしゃしゃしゃしゃむしゃむしゃ。
「「「うまいっ!」」」
「やったね♪」
「ジューシーなチキンとめっちゃ合う。これ、衣に香草を混ぜて揚げても超おいしいでしょ!」
「フリットも考えたけど、油物は後片付けが大変なのでごめんなさいっ!」
「いやいや、十分うまいよ! ところですみれさんって彼氏いるの?」
「好きな人がいますっ!」
「ちくしょう!」
いきなり膝から崩れ落ちたカルロスさん。なんだかスパルタコさんと雰囲気が似てる。
サンジェルマンさんとペーシェさんからも大好評。実はシェアハウスでも人気のハーブソースなのです。
最後に紹介いたしますのはエクスプレス合衆国からやってきた双子のパーカー&カーター兄弟。
「俺たちの故郷の味ってなんだろうな?」
「日常的にあるやつってよくわからんよな」
なるほど。それはよくわかります。物事が当たり前になってくると、それが当然すぎて疑問にも思わないやつです。それではご賞味いただきましょう。
「パーカーさんとカーターさんにはノーマルなバーベキューソースと、チリペッパーとスパイスをミックスした特製バーベキューソースをご用意しましたっ!」
「「「チリペッパーッ!」」」
双子より先に声を上げたのは激辛三人組。チリペッパーの言葉に反応する速さたるや猟犬の如し。オルトロスを押しのけて奪い合う姿はケルベルスが如し。
「お、お前ら…………少しは残しといてくれよ」
「容赦ねえな、ほんと」
本当に容赦なく貪ってる。怖いくらい。
「だ、大丈夫です。今晩のディナーはエクスプレススタイルです」
「「と、言うと?」」
双子ならではの合唱。キキちゃんとヤヤちゃんが目の前にいるみたい。実際、双子に親近感を湧かせてお話ししたそうにしてる小さなオルトロスが目を輝かせて待ち構えてた。
さて、彼らへの返答は、
「実はですね――――まだ内緒です♪」
「焦らすね~~♪」
「でもでも、期待しててください。お二人の思い出の味を用意してます」
「もしかしてそれって、アンケートに書いたやつ?」
「そ、それを言われるとサプライズの意味がなくなっちゃうのでっ!」
内容を理解した2人は天に向かってガッツのポーズ。歓喜の叫びを上げ、子供たちがびっくりするから黙れと怒られ、地を踏みしめて無音で吠えた。
「すみれさんすみれさーん♪」
「この声は、アルマちゃん! お疲れ様!」
アルマちゃんの隣には海賊探索組のベレッタさんとミカエルさんの姿がある。彼女たちはひょんなことから海賊の船長さんのフィアンセを探すべく、海賊島にて東奔西走してるのだ。
なぜそんなことになったのかは知らない。知らないけど、いっぱい食べて精をつけていただきたい!
「そのために、さっき捕獲してきたシャコ貝を食べたいです。調理できてますか?」
「ごめんね。まだ下ごしらえが済んでなくて。今日の晩御飯には仕上がるから、それまでのお楽しみ、ね♪」
「あぁ、そんな…………」
露骨にがっかりするベレッタさん。すみません。まさかあんな大物をとってくるとは思わなくて。でも、だからこそ、付け焼刃でなく、しっかりと考えて調理してあげたいのです。だってベレッタさんが本当に楽しみにしてるから。
「そういうことなら、もう少し我慢だね。ちなみに、どんなふうに料理するか決まってる? 全然想像つかないんだけど」
ベレッタさんの瞳が輝いてる。ものすごく楽しみにしてるみたい。
「新鮮なので刺身にします。それと、肝がおいしいので貝柱と一緒にバターと醤油で煮て食べます。濃厚な肝とぷりぷり食感の貝柱がたまらない逸品になると思いますっ!」
「モツッ!」
内臓と聞けば即反応するアルマちゃんの執念たるや、恐るべし。
「身は刺身。シャコ貝の濃厚な肝。バターと醤油で煮た貝柱。んん~~~~っ! 想像しただけでよだれがでちゃうっ!」
「へぇ~、ベレッタってこんな食べ物が好きなんだ。あ、変な意味じゃないよ。こんな見た目の食材は見たことが無くて」
アーディさんの腕に絡みついて猛烈アピールしてるのはユーリィ・サッドマッドさん。以前、シャングリラに行った時に出会った魔導工学技士の女性。あれから2人は親密な仲になったようで、どうやら彼氏彼女の間柄のよう。
いいなぁ羨ましい。私もイラさんと手を繋いで、夕日の中を散歩したいなぁ。
でもなぜか、2人を見ると不機嫌になるベレッタさん。もしやベレッタさんは義兄さんのことを!?
眉尻を上げて義兄の背中を追うベレッタさん。嫉妬の視線を見てわたわたする小鳥遊すみれ。これは修羅場です。修羅場の予感ですっ!




