summER VAcatioNs in The ghOstLand 8
「なるほど。それならメタフィッシュで探索できますね」
「めた……メタルフィッシュ?」
潜水艦のこと?
魔力を使いすぎてぐったりとしてるアルマさん。椅子に深く腰をかけてどろどろに溶けそうな顔でくつろいでいた。
「なんというタイムリー。いや、海にサマーバケーションってんだから不思議な展開ってわけじゃないか」
謎の弁解を始めたペーシェさん。なにはともあれ、なにかしらの手段があるらしい。
やったね♪
「メタフィッシュなら海中を潜って海中散歩、ではなくて、海中探索できます。アルマの魔力はまだあるので、探索してきましょうか?」
「いや、今朝の海中潜水でかなりの魔力を消費しただろう。陽介さんに頼むとするよ」
「大丈夫ですっ。魔力の大半をマルコに肩代わりしてもらったので! それにこんな面白そうなことに首つっこまずにはいられませんっ!」
さすがアルマさん。未知の冒険に対する好奇心が素敵っ!
「アルマ、君ってほんとにいい性格してるよね」
アルマさん以上にどろどろに溶けてぐったりするマルコさんが隣で小さな悲鳴を上げた。なにがあったのか知らないが、きっとアルマさんにコキ使われたのだろう。
アルマさんはなぜか男子を異様に酷使する。イッシュさんもネーディアさんも死ぬほど辛い目に遭わされた。アーメン。
「まずは船員を決めましょう。操縦士のアルマ、郵便屋のミカエルさん、ウェディングコーディネーターとしてマーガレット、シスターとしてベレッタさん、魔力ねんr…………補充要因としてエミリア」
「魔力の補充要因ってことね。はいはい」
「えっ、僕じゃないの?」
めっちゃわくわくしてたサンジェルマンさんが選ばれなかった。理由はちゃんとあるみたい。
「エミリアが水の魔力持ちだからです。それに魔力の練度も高くて安定した波長なので、メタフィッシュの燃料として最良です」
「ついにはっきりと魔力燃料と言いやがった。まぁわたくしも海中洞窟には興味あるから、行きたくないと言ったら嘘になるんだけどね」
「待って待って待って待ってよっ! あたしのほうが先に友達になったじゃん! あたしを先に連れてってよっ!」
この人、数秒前の話しを聞いてなかったのかな。
「気持ちは分かるけど、フィティを連れてくならサンジェルマンさんに頭を下げるっての。メタフィッシュは水を操作するから、水の魔力持ちが優先なの。すみません、サンジェルマンさん。そういうことなので」
「そういうことなら了解した。しかしいきなり全員向かうのは無しだ。洞窟の入り口がどこにあるか、まだ入り口があるのか。崩落の危険はあるのか。酸素は、ガスは、調べることがたくさんある。安全を確保してから本格的に動こう」
ぐぬぬ。まさかのおあずけである。でもサンジェルマンさんがそういうのであればそうなのだろう。
できれば早く2人を再会させてあげたい。しかしわたしたちが倒れてしまっては元も子もない。ミイラ取りがミイラである。マジな意味で。
「むむぅ。それじゃ、これからどうするの?」
ペーシェさんが問うと、サンジェルマンさんはひとつ微笑んでバーベキュー会場の中心にいるすみれさんを見た。
「まずは腹ごしらえだ。腹が減ってはなんとやら。今日のバーベキューはキッチン・グレンツェッタに作ってもらってるからね。とても楽しみだよ」
「キッチン・グレンツェッタ。ということは、すみれさんの料理!」
なんてことだ。急がなくてはならない。すみれさんの料理とならば、一分一秒でも後れをとるわけにはいかない。
わたしが、わたしこそが、すみれさんのビーフシチューを堪能するのだっ!
★ ★ ★ 【小鳥遊すみれ】
待ちに待ちましたサマーバケーション。バーベキュー会場に前日入りして仕込んだ私こと、小鳥遊すみれと、ハティさんとアポロンさんと、多くの人々の努力と手助けのおかげで今日ここにいる。
食材は十全。仕込みは万全。燃料は暁さんから譲ってもらった最高級の銀炭。乾杯の音頭で気分は最高潮!
今日はイラさんの胃袋をがっつりホールド。私ができる女であるということを知らしめるのだっ!
ガッツのポーズで彼を見てると、赤毛おさげのナイスレディに肩を叩かれた。フィーアさんだ。騎士団寄宿生合宿のサポートとして参加してる。グリムさんの妹さん。長く綺麗な赤色の髪を2つに束ねて百合の花のようにしてる姉御肌。
サラサラストレートヘアーが羨ましいっ!
「すみれ、めっちゃ気合入ってるね。好きな男子がいるの?」
「はいっ! イラさんですっ!」
「まさかのド直球! せっかくなんだからめいいっぱいアピールしてきたら? こっちはあたしたちで切り盛りできるから」
「いいえ、ライラさんに頼まれた仕事は完遂しますっ! 公私混同はいたしませんっ!」
「た、多少はいいと思うけどなー……」
彼女としては、私の色恋を応援してくれてるのだろう。無碍にしてすみません。でも仕事は仕事。おろそかにすることはできない。
フレッシュサラダ。冷製スープ。ビーフシチュー。生野菜は炭火で焼いてこんがりと。ジュースにフルーツ、アルコール。新鮮な魚介類も準備万端。
メインはチキンステーキ。多種多様なソースを塗って食べるジューシーなチキンはみなを幸せにしてくれるはず。
今回は趣向を凝らし、水分をたっぷりと含ませてぷりぷりジューシーにしたものと、塩麹に浸けて柔らかうまうまに仕上げた特別製をご用意しております。
「すみれさん、ビーフシチューは!?」
チキンの準備をしてたらマーガレットちゃんがバーベキュー会場の中心でビーフシチューを叫んだ。よっぽど待ち遠しくしてくれたのかな。わくわくで目がきらきらしてる。
「ビーフシチューはペンションのキッチンに保温して置いてあるよ。たっくさん用意したから、いっぱい食べてってね♪」
「ありがとうございますっ!」
礼をすると同時に背中を見せて猛ダッシュ。そんなに楽しみにしてくれてたのか。嬉しいなぁ。料理人冥利に尽きるというものです。
マーガレットちゃんのダッシュと同時にライラさんも走り出した。少女を拾い、お姫様抱っこしてペンションへ走り出す。ライラさんも狙ってた。大人げなくも全力疾走だ。
敬愛する人にお姫様抱っこされた妹を見て嫉妬に駆られた姉も背中を追う。普段の女子走りを忘れ、スプリンター顔負けの超全力疾走だ!
――――さて、気を取り直してチキンステーキの説明をいたしましょう。
と、そ、の、前に、その、前にっ!
事故が起きないように説明の順番を繰り上げておかなくては。
「エディネイさん、アナスタシアさん、それから劉吴然さんはいらっしゃいますか?」
この3人を呼んでおこう。みんなの生命の安全と、楽しいサマーバケーションのために。
「ん、どうしたんすか。この3人が呼ばれるってことは、まさか」
エディネイさんが期待の眼差しを向ける。
「2人は顔見知りってことだけど、俺は初顔合わせのはずなんだが」
ウゥランさんは理解できてない様子。
「アンケート用紙を見て、お名前だけは」
「なるほど。そういうことか。あぁ、あれってそういうことだったのか」
そういうことです。ベルン寄宿生の方々にはあらかじめアンケートを取り、出身地や好みを聞いたのです。なので危険人物である3人と、その他大勢の一般ピーポーには伝えなくてはならない。
あの日の惨劇を繰り返してはならないっ!
「こちらにご用意いたしました激辛ソースは3人専用です。ほかの方々は間違って食べないように注意してください」
「まるで劇物扱い」
アナスタシアさんは納得がいかない様子。
「仕方ない、劇物大好きだからな」
背後から被害者のひとりが舌打ち。
「「「……………………」」」
言葉もでない3人は黙ってソースをぺろり。天に吠えて絶叫。そして、
「う、うまいっ! 醬油ベースのタレに絡む複雑な味のハーモニー。スパイスの組み合わせと種類もさることながら、唐辛子の旨さを際立たせているッッッ!」
唐辛子の旨さってなんだろう。作っておいてなんだけど、私には分からない。
アナスタシアさん、頭と舌は大丈夫だろうか。すごい気になる。だけど、聞いたら話しが止まらなくなりそうだからやめておこう。
続いて劉さんも吠えた。
「特筆すべきはこの粒、いや、実は。この実はまさかッ!?」
「山椒の実を潰さずそのまま入れてます。劉さんは四川省出身でらっしゃいますよね?」
「ッ! まさか、俺の故郷の味を…………ッ! 感動したッ!」
気に入っていただけたようでなによりです。四川省の料理ではしばしば、山椒の実をそのまま料理に入れるらしい。あんな刺激物を潰さず実のまま使用するとは、恐ろしい地域です。
3人に何度もありがとうを言われて照れちゃう私。なにはともあれ、喜んでいただけたようでなによりです。
「ちなみに、まさかとは思うけど、アレってアイシャと一緒に作ったっていう新作ソース?」
シルヴァさんの顔が青ざめた。
「ですです。激辛と言えばアイシャさんなので。めいいっぱい振り切ってもらいました。個人的には肯定しづらいところですが」
「お姉ちゃんに? ということは、あれはもはやソースの領域を超越した兵器ってことだね。絶対に近づかないようにしなきゃ」
妹さんも険しい顔をして冷や汗たらり。そうです。あれは兵器です。絶対に近づいてはなりません。
と言うと、アイシャさんには失礼なので、喉の奥にしまっておきます。Asr。




