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summER VAcatioNs in The ghOstLand 7

 ひとしきり周囲を周回してみるも、秘密の洞窟の入り口とか、別次元への入り口とか、洞穴とかも見あたらない。映画とかだと滝の裏側に洞窟があったり、蔓植物をかき分けたら道があったとかが定番。

 しかしそんなものはどこにもない。

 でも霊界への入り口はあった。これはわたしたちには関係ない、ことはないか。これのせいでミカエルさんが一緒に来てくれなかったんだ。

 よし、彼女が自由に動けるように石碑を建てて塞ごう。塞ぐというよりは、扉を作ると言ったほうが正しい。


 手頃な石を拾ってペーシェさんにルーンを刻んでもらう。正面側には普通のルーン。裏側は左右反転させたルーンを刻めば大丈夫。


「あたしはいま、なにかとんでもないことにかたんしてるきがする」


 ペーシェさんは本当に勘がいい。でも今は無視。


「これでよし。入り口は塞いだからミカエルさんも自由に動けるようになった。それじゃ、バーベキュー会場に戻って作戦会議!」

「マーガレットちゃんにとって、こういうのって普通のことなの?」

「?」


 普通とは個々人の持ち物である。ゆえに、他人と比較するべきではない。なのでベレッタさんには素直に分からないとだけ答えておこう。


 ミカエルさんのもとに戻ると、バーベキュー会場は大賑わい。炭に火がくべられ、下処理を施した料理がバケットに並べられていた。楽しみだ。夏の海でバーベキューなんて初めてだから。

 でも、我々にはやり抜かねばならぬことがある。おいしいご飯はそのあとだ。


「え、ご飯食べてから再開じゃダメなん?」

「ペーシェさん、腹が減ってはなんとやらっ!」

「幽霊さんに憑かれてるミカとしては、なるはやで解決したいですっ!」

「えっと、骸骨さん、が、デコレーションされてるみたいですけど?」


 見ると下顎部のなくなった頭蓋骨に花冠が乗っかってた。頭部には土が詰められ、眼窩に花が生けられてる。

 おしゃれこうべさんだ。


「バチが当たるのでは?」

「やっぱりかわいいほうがいいと思ったので」

「呪われません?」

「まんざらでもなさそうだから大丈夫」

「「まんざらでもないのッ!?」」


 まんざらでもない雰囲気がにじみ出てる。むしろ嬉しそう。


「フィアンセに故郷のお花畑を再現させてあげようとするロマンチックな人だから。お花は大好きみたい」


 まだ青ざめてるペーシェさんとベレッタさん。理解はできても納得できないって顔してる。


「な、なるほど。船長さんの気質はわかった。で、ええと、洞窟の件はどうする? もう情報ソースがないんだけど」

「こんな時は、ヘラさんに相談ですっ!」

「グレンツェンあるある。ヘラさんならなんでも知ってる説」


 正面の誰でもない人の声。振り返ると、赤髪ポニテ長身美女が立ってた。ベルン寄宿生の1人らしい。隣には見たことのある顔。フィティ・ランメルスさん。


「ごめんね。わたくしの名前はエミリア・ウゥ。グレンツェン出身なんだ。同郷が困ってるって聞いて、教官に頼んでしばらく抜けさせてもらえることになったんだ。隣の彼女はフィティ・ランメルス。彼女も手伝いたいって」

「やっほーみなさんひさしぶりー♪ 今どんな流れになってるんですか? ちなみにこっちはお手上げ。手紙が見つからなくって困ってるサンジェルマン先生が許可をもらって千里眼使ったり、探知魔法使ってるんだけど全然ダメでさ。なにかてがかり見つかりました?」


 なんてことだ。きちんと情報共有しないと無駄足を踏ませることになる。幽霊さんに持っていかれた手紙は探知魔法で探せるはずもない。

 彼はいまどこにいるのか。早く伝えなくては。それと、生でサンジェルマン(バティックの英雄)を見てみたい!


 ♪ ♪ ♪


 開けた木々を抜けた突き当りには縞々の岸壁。かつて地盤沈下で沈没した地盤の地層が暴露されたミルフィーユ。紅茶を混ぜた茶色の、おいしそうなケーキのようだ。

 見上げることおよそ20m。風化して突き出したような箇所から植物が生っている。フォークを突き刺したように伸びる木々の間に彼はいた。


 バティックの英雄。ベルン第二騎士団副団長。サンジェルマン・アダン。

 彼は今、縞々の岸壁に足の裏をつけて手紙を捜索してる。

 縞々の岸壁に、足の裏をつけて(・・・・・・・)歩いてる。

 映画で見た忍者みたいに壁を歩いてる。すごい。めっちゃかっこいい!


「サンジェルマンせんせーい! マーガレットちゃんたちが伝えたいことがあるってー!」


 フィティさんが叫ぶと、彼は手を振って近づいてきた。一歩一歩確実に壁を歩いてる。

 すげえ!


「英雄はニンジャだったのか!」


 わたし、大興奮。


「うん、普通のオッサンだよ?」


 娘のペーシェさんは冷静そのもの。


「娘さんから見たらそうなんだろうけど、さすがに普通のオッサンではない、かな」


 副騎士団長としての顔を知るエミリアさんは、オッサン呼ばわりの英雄を見上げて乾いた笑いが出た。

 寄宿生として先生と仰ぐサンジェルマンさんはオッサンではない。わたしからしても、バティックの英雄はオッサンの域を超えてる。超凄い中年である。


 さっき出会った幽霊さんの話しをすると、さすがバティックの英雄というべきか、普通の人では冗談か嘘かと失笑する話しを信じてくれた。わたしのパパは全く信じてくれなかったのに。


「それにしても困ったものだ。彼から手紙を返してもらうためには、亡くなったフィアンセと船長の結婚式を挙げなくてはならないとは。さすがの僕も故人の結婚式を主催したことはない」

「全人類史上初の結婚式でしょうね」

「手紙うんぬんも大事だけど、死んでも愛し合ってる2人の幸せを叶えてあげたいの!」


 わたしの言葉に呼応するように、思いを聞いた全員が大きく頷いてくれた。仲間がいると勇気がわいてくる。空中散歩の時だってそう。辛くてたいへんだったけど、キキちゃんたちがいてくれたおかげで頑張れた。

 ここが踏ん張りどころなんだっ!


 だがしかして、肝心の洞窟がないのだからどうしようもない。


「困ったね。島の持ち主から詳細な地図を貰ったんだけど、洞窟は発見されてないみたいだ」


 ぐぬぬ。どこをどう見ても洞窟なんて見あたらない。上空からだけではない。3DCADで作られた島の全体像も記載されてる。万事休すか。


「とりあえず戻りますか? いったん休憩を入れないと体がもちません。水分補給もしないと脱水症状で倒れかねません。中間報告をしながらクールタイムしましょう」

「だね。ちょっと疲れた。マーガレットも疲れたでしょ。バスも長距離だったし」

「結婚式を挙げるまでは休んでられないっ!」

「やる気十分! でも、体調管理には気を付けてね?」


 サンジェルマンさんたちの助言のまま、またもバーベキュー会場に戻ってひと休み。冷たい水を一杯飲んで、浜辺を見渡すとキキちゃんとヤヤちゃんたちが砂のお城を作ってた。

 いいな。わたしも混ざりたい!


 子供というのは衝動的なもので、目の前に楽しいものがあったら飛びつくものなんです。なのでダッシュでキキちゃんたちのところへむかい、つまづき、転んでお城をぶっ壊してしまった。

 せっかくトンネルを貫通させたところだったのに、わたしの不注意で破壊してしまった。

 やばい、どうしよう。


「ごめん。半分壊しちゃった」


 半泣きである。


「大丈夫だよ。壊れたなら作り直せばいいんだから。そうだ、もっと大きなお城にしよう」

「いや、いっそのこと、海賊島のジオラマを作ろう。ちょうど半分壊れた部分の断層が、あの縞々の壁面にそっくり」


 優しい。キキちゃんもヤヤちゃんもどこまでも優しい。

 よし、そうと決まれば着工開始。断層を中心に据え、壊したところをたいらにならす。森があって、ペンションがあって、端っこのところにバーベキュー会場がある。

 ペンションと断崖の延長線上には公園とクラフトワークができる施設が設けられていた。ヤヤちゃんは大好きな昆虫を模したオブジェクトを砂で作る。キキちゃんは木々に見立てた貝殻を差し込みまくる。

 そしてわたしは砂に手を突っ込んでトンネルを掘った。海賊島に洞窟もトンネルもない。だけどせっかくなので砂に腕ごとつっこんでみたくなった。だってせっかくの砂遊びなんだもん。

 続いてさっき開けたトンネルからキキちゃんが腕を突っ込んだ。だからわたしはそっちにむかって腕をうねうねと動かし、ついに開通。キキちゃんの手が触れて固い握手を交わすことに成功した。


 楽しいっ!


「そっ、その可能性があったかーーーーーーーーっ!」


 背後で轟く中年の声。もとい、サンジェルマンさん。右手にバケツ、左手にショベルを持った彼が超驚いた顔でがに股をしてた。


「いい歳したおっさんが砂遊びに混ざんなや!」


 ペーシェさんのローキックが炸裂。


「どうしたんですか、先生。そんな大きな声を出して。どうせなら大人の本気を見せてください。滑り台みたいに滑れるくらいの高クオリティな砂のお城を希望します」

「フィティ、聞くことはそれじゃないでしょ?」


 ボケのフィティさんとつっこみのエミリアさんはとても仲良しだ。どっちかというと、わたしはつっこみ役がやりたい。


「それで、可能性とはどういうことですか?」


 しっかり者のベレッタさんが話しを軌道に戻してくれる。こういう人がいないと、世界って回らないんだろうなぁ。


「可能性っていうのは地盤沈下のことだ。もしかすると、洞窟のあったエリアが沈んで、入り口が海の中にあるのかもしれない」

「あっ! そうか、このビーチって地盤沈下して変形した土地なんだった。じゃあ入り口が海の、中、って、どうやってそこまで行くわけ? 探索だって必要じゃん。専門のダイバーとか設備とか必要でしょ」


 海中を潜ると言えば、さっきざっぱんした鯨さんがいる。つまりこれは、アルマさん案件に違いない。


「海の中をダイブ。海中探検。海中散歩。それならアルマさんに相談しよう。アルマさんはお散歩の達人だから!」

「お散歩の達人っ!」


 そうです。なんせ彼女はシャボン玉に乗ってお空を散歩することを思いついた散歩の達人。

 ちょーかっこいい女性なのだ。アルマさんならどんな状況だってなんとかしてくれるはず。

 希望的観測を胸に抱き、根拠のない自信を笑顔に顕して、いざアルマさんの元へっ!

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