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summER VAcatioNs in The ghOstLand 4

以下、主観【マーガレット・バディラン】

 時間を少し遡ろう。わたしこと、マーガレット・バディランたちは早朝にグレンツェンを出発。首都ベルンを経由して海水浴場へ向かう。

 キッチン・グレンツェッタのみんなと、空中散歩のメンバーと、ベルン寄宿生と呼ばれる人たちと一緒にサマーバケーション。

 場所が決まるまではわくわくしてた。そう、場所が決まるまでは。

 なんと海水浴場は幽霊が出る島、キバーランド。別名・海賊島。霊感のあるわたしは知っている。この島は本当に幽霊がいる。それもかなりの数の幽霊が!

 刺激しなければ害はない。刺激しなければ。でもライラ騎士団長のことだ。肝試しとか言いかねない。むしろそれをするためにキバーランドへ招待されたと思ってる。


 相談はできない。気味悪がられるのが分かってるから。

 だから1人でやるしかない。バッグの中いっぱいに詰め込んだアイテムで結界を張らなくてはならない。

 いくらハティさんが悪いものを寄せ付けない体質だとはいえ、全員をカバーすることはできないだろう。わたしがみんなを守るのだ。楽しいサマーバケーションにするために。

 シェリーお姉さまを守れるのはわたししかいないのだから。ふんすふんすっ!


「どうしたの、マーガレット。そんなに楽しみなの?」


 なにも知らない、なにも見えないライラック(お姉ちゃん)はライラさんに会えるとあって有頂天。わたしもこんなふうに有頂天になれたらどれだけ幸せなことか。

 楽しみではある。それ以上に、何も起きないことをひたすらに祈ってる。

 シェリーお姉さまとバーベキュー。シェリーお姉さまとビーチでお散歩。シェリーお姉さまに添い寝。想像しただけで楽しいサマーバケーション。

 幽霊さえいなければ、わたしは鼻歌混じりで小躍りしたことだろう。


「海なんてひさしぶりだから、とっても楽しみ。シェリーお姉さまも一緒。すっごく楽しみ!」


 嘘ではない。純度100%の本音である。が、それと同じくらいの不安が行く先に待ってるの。


「私もライラ様に会えるって思っただけでそわそわしちゃってたまらないよ。教練に励んでるライラ様。きっととってもかっこいいんだろうなぁ~♪」

「野戦演習で教練をしてるライラさんを見るけど、鬼のようにめちゃくちゃ厳しい人だよ。容赦なく追い込んでるところを見ると、魔法兵科でよかったって心底思う」

「そうね。だけどそれだけ愛の深い女性だと思う」

「そうですよ。ライラ様は愛に生きるお方なのですっ!」


 アダムさんとローザさんもドン引きする姉の迫力。今日はご家族も一緒ということで、いつか家族ぐるみの付き合いができるようにコンタクトをとるとママと約束した。

 わたしはシェリーお姉さまをホムパに呼べるくらいの間柄になりたい。プリマちゃんももふもふしたい。バストさんの話しも聞きたい。

 あぁ、わくわくがとまりませんっ!


 ♪ ♪ ♪


 島に上陸してまず目に入ったのは、共同ペンションから飛び出した半円形の炭の入ったバーベキューコンロの陣形。バーベキューのためにすみれさんが前日入りし、チキンステーキやその他諸々の下ごしらえを終えていた。

 すみれさんはものすごい料理上手。ホムパに行くたびにお姉ちゃんはすみれさんに料理を教わり、めきめきと腕を上げている。

 わたしはおいしい紅茶クッキーの作り方を教えてもらった。シェリーお姉さまに食べてもらいたい。たくさん作ってきたから、バストさんやライラさんにも配りたい。喜んでもらえたら嬉しいな。


 荷物をレンタルペンションに置き、水着に着替えてバーベキューの準備だ。


「わぁ、キキちゃんとヤヤちゃんはお揃いの水着なんだ。カラフルなハイキートーンの花吹雪の水着。とってもかわいいっ!」


 キキちゃんは大胆にもビキニタイプ。急に大人っぽく見えるマジックがかかってる。ヤヤちゃんはワンピースタイプ。露出少なめで落ち着いた雰囲気。


「マーガレットちゃんの水着もかわいいね。桜色がキュート! わっ! シルヴァさん、すっごく大人っぽくてセクシー!」

「シルヴァさん!? スイーツフェアリーからダークチョコレートフェアリーにジョブチェンジ!?」


 なんということでしょう。いつもふわふわきらきらなスイーツフェアリーコーデのシルヴァさんが、お年頃なのか、セクシーでキュートな黒色水着を身に纏ってるではないか。

 大人セクシーかわいい。次に水着を新調する時は黒の水着を選ぼう。


「ダークチョコレートフェアリーってなに!? ええと、まぁ、その、これは」

「男を狩るための決戦兵装」

「ちょっと、ハイジ。なに言ってるの? そういうわけじゃないから」


 そういうわけじゃなければ、いったいなんのためのセクシーキュート水着なのか。答えはヴィルヘルミナさんが語ってくれた。


「黒は収縮色だから、くびれて見えるかもって思って黒を選んでるの。ついでに腰の紐でお腹周りを縛って、無理やりくびれを作ってるの。こんなことしてもお腹壊すだけなのにねー」

「ちょっとヴィルヘルミナ! それは言わないでって言ったじゃん!」

「気持ちはわかりますけど、普通にダイエットすればいいのでは?」


 ハイジさんの指摘はもっとも。しかし、クイヴァライネン家にはどうしてもくびれを作ることのできない理由がある。


「それは無理なのー。なぜなら、クイヴァライネン家はちょっと変わった骨格をしてて、肋骨が1本多いの。骨が邪魔でくびれができないの」

「「「肋骨が1本多い? と、くびれができなくなる?」」」


 キキちゃんとヤヤちゃん、わたしの言葉がシンクロした。それがなんか嬉しくて、3人でハイタッチ。いぇ~い♪


 通常、肋骨は24本。だが、彼女たちには26本備わっている。体のラインというのはお腹周りの脂肪はもとより、肋骨の形で決まってくる。なので、肋骨が1本多いシルヴァさんはくびれる部分が生まれないのだ。


「くびれができない分、いくら食べても太らない体質だからギブアンドテイク」

「テイクの割合多すぎるんだな。羨ましすぎるんだな」


 ルーィヒさんがすかさずつっこんだ。目がちょっと怖い。

 たしかにいくら食べても太らないというのは羨ましい。女子垂涎の体質。それに比べれば、くびれができないなんて些細な問題のように思える。

 しかしシルヴァさんの考え方は違う。


「体系は自分の努力で維持すればいいだけじゃん」


 否をつきつけるは彼女をよく知るヴィルヘルミナさん。


「いや、スイーツを作っては味見してるお姉ちゃんを客観的に見ると、太らない体質じゃなきゃたいへんなことになってると思うの」

「普通のお菓子好きならともかく、シルヴァさんはパティシエだからね。食べると作るは切り離せない」


 ローザさんの適格な指摘が飛び出す。そうなんだけど、と言葉を繋げようとしたシルヴァさんは脊髄反射的にローザさんのお腹周りを見て目が血走った。


「ローザのお腹、くびれができてる! このラインが綺麗なんじゃない。なっ!? ルーィヒ、貴女、お腹に縦筋が!」


 ホットパンツにスポーツブラのようなスポーティーな水着にサイドテールのルーィヒさん。よく見ると細身ながら引き締まったボディが輝いてる。


「ふふん♪ ハイジに相談してシェイプアップの筋トレを教えてもらったんだな。今日、わりとガチで彼氏作るって気合い入れてきてるからっ!」

「裏切リモノッ!」


 シルヴァさんの顔が怖い。


「いや、シルヴァさんだってスタイルだけでモテるでしょ。おっぱい大きいし。母性的だし。パティシエだし」

「主観的にはそう思えないのよ。人生で一度だって告白されたことないしっ!」

「「「「「まじでっ!?」」」」」


 えっ、そうなの?

 心の中で驚嘆した。シルヴァさんくらいの美人なら恋のひとつやふたつはお手の物と思ってた。彼女ですら恋愛経験がゼロというなら、わたしなんて一生ないかもしれないじゃないか。

 それは困る。なのでシルヴァさんには素敵な彼氏を作っていただきたい。


 着替え、シルヴァさんの心が落ち着きを取り戻したところで浜辺へGO!

 遊んでくると踵を返し、キキちゃんたちと一緒に島に結界を張るため、アイテムの詰まったバッグを持って逃げるようにダッシュ!

 お姉ちゃんはバーベキューの手伝いをしなさいと後ろ髪を引いてきた。でもごめん。みんなを守るためなの。だから逃げるようにだだだだっしゅ!


 お姉ちゃんたちが見えなくなったところで作業開始と思いきや、島の入り江にシェリーお姉さまを発見。迷ったすえ、お姉さまの膝元に転がることを選択。

 どっちにしても、入江にも結界用のアイテムの設置が必要なので、順番が変わるだけ。そう、順番が変わっただけです。


「シェリーお姉さまっ! お慕いもうしておりますっ!」


 ダッシュしてジャンプからのハグっ!

 ああ、この日をどれだけ待ちわびたことかっ!


「マーガレットじゃないか。ひさしぶり。遊んでやりたいところなんだが、今は教練中でな。バーベキューのあとに時間があるから、その時になったらまた声をかけてくれ」

「わかりました。でも先にお願いしたき義がございます」

「どこで覚えた、そんな言葉。で、お願いってなんだ?」


 シェリーお姉さまであればきっと信じてくれるはず。希望的観測のまま、これからわたしたちがしようとしてる一大プロジェクトの説明をしよう。


「海賊の幽霊から身を守るために、島に結界を張る手伝いをしてほしいのっ!」


 眉間にしわが寄った。信じられないといった顔だ。こんな表情には何度もでくわした。でもわたしは信じてる。シェリーお姉さまならきっと信じてくれるって!


 続けて、見ようと思えば見えるヤヤちゃんが援護射撃。


「シェリーさん。とても信じられないかもしれませんが、この島に海賊の幽霊が出るというのは本当のようです。刺激しなければ害はないそうですが、刺激すると害があるので、対応策を講じておきたいのです。それに、その、約1名、刺激しそうな人がここに、えっと、はい」

「ライラさんのことだな」

「…………………」


 図星である。やっぱりそうか。ライラさん、肝試しを予定してたな。

 危ないところだった。死人が出るかもしれないところだった。


「キキは2人のこと、信じてるのか?」


 シェリーさんがキキちゃんに問う。彼女は満面の笑みでわたしたちの手をとった。


「キキは幽霊さんは見えないけど、ヤヤとマーガレットちゃんがそうならそうなんだと思う。グレンツェンの本とか、バケーションに来た人にも聞いたけど、めっちゃ出るって言ってた。見たって人もいたから」

「ああ、キバーランドは心霊スポットで有名だからな。遊び半分なら止めてたが、本気でやるなら手伝おう。しかし、実は今、立て込んでてな。私は今、ここを動けない。寄宿生に手伝わせることもできるが、適任が分からない。マーガレットに選んでもらっていいだろうか?」


 それならもう決まってる。見てわかる。幽霊に取り憑かれにくい体質の人。

 ぬっ、気配を感じる。


「とりあえず、ライラさんが一緒に来るのはお断りさせていただきます」

「なんでっ!?」


 背後から抱きしめようとしてくれたライラさん。面白そうな話しと思って手を握ろうとしたみたい。ぎゅっとハグしてくれるのは嬉しい。けれど、この人は間違いなく余計なことをするからノーサンキュー!

 あと、絶対に一緒にいたくないのはリリィ・ポレダさん。怪談好きの人は幽霊が寄りやすいから御免被る。でも彼女はアルマさんが放ったビームの犠牲者の看病のためにここにはいないらしい。よかったよかった。

 いや、よくはないか。

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