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summER VAcatioNs in The ghOstLand 2

 リリィの応急措置もあり、一命をとりとめた天使はなんとミカエル・ダンディライオンさん。どうやらお手紙の配達途中だったらしい。鞄の中から手紙が漏れ出ていた。

 海中に散見された手紙や小包はあるだけ回収したつもり。だけど、もしも紛失してたら、大事な手紙を、アルマが、アルマがうぉぉぉおおおおおおッ!


「まさか透明化の魔法を使った郵便配達の天使がいたとは。これ、事故だよな?」


 悪意はないと強調したいライラさん。


「いろいろと事故ですね。不慮かどうかはちょっと怪しいですけど」


 言い訳が無理筋だと伝えたいシェリーさん。


「わざとぶっ放してますからね。見えなかったとはいえ」


 リリィは淡々と事実を述べた。許してもらえると思わないで、とリリィの心の声が聞こえた気がする。


 呼吸はある。意識はない。

 パニックになるアルマは彼女の体を揺さぶろうとし、触るなとリリィに怒られ、例にもれず号泣した。


 冷房の効いたペンションの中。介抱をするライラさん、シェリーさん、リリィ。そして役立たずのうえに、医療の知識がないのにパニクっておかしなことをしようとするアルマがいた。


「まさかこんなところでオートファジーの魔法を実践することになるとは」


 そう言いながら、内心はどんな効果が表れるのか楽しみなリリィは笑顔を押し殺せてない。


「リリィが優秀で助かった。とりあえず、意識が戻るまで待機だな」


 弾倉を込めたライラさんはひと安心。これで死にでもしたら責任の取りようがない。


「それにしても、アルマの砲撃を防御できる彼女は本当に郵便屋なのか? できてなかったら丸焦げだったかもしれないから、助かったけど」


 シェリーさんもひやひやもの。演習中に一般人、かどうかわからないけど、とかく部外者に危害が及んだとなれば大問題。


「ですねっ! 出力30%とはいえ、まさか防がれるとは思いませんでした。魔法の精巧さもさることながら、魔力の練度の高さも素晴らしいものがありました。めっちゃ硬い盾だったので、起きたらぜひとも教えてもらいましょう!」


 不謹慎にも魔法の話題が上がると立ち直るアルマの性格のチョロさたるや。自分でも惚れ惚れしちゃますな。

 怪我人を前にして、しかも加害者の立場でありながら、瞳を輝かせるアルマに距離感を感じてる人がいるとも思わず、ミカエルさんの発動させた信仰の盾(ホーリー・シールド)について感想を述べた。


「さっきの魔法、信仰の盾(ホーリー・シールド)自動発動(パッシブスキル)ですね。光学系魔法に強い耐性があって、フォールン・デイズが霧散してしまったようです。非常に堅固な防御ですが、パッシブなので消費魔力が多めです」

「相性がよかったのか。不幸中の幸いだったな。彼女からしたら不幸が9割だろうけど」


 シェリーさん、それは言わないでください。

 一瞬で落ち込んだ顔になるアルマを見たライラさんが話題を変えてくれる。


「断言してくるな。どんな魔法なのか分かったのはユニークスキルのおかげなのか?」


 アルマ復活!


「ですです。見ればその魔法がどんな特性を持つのかまるっとわかります。おかげで見ただけで魔法が覚えられるので、魔法大好きなアルマにはもってこいのユニークスキルなのです!」


 どやぁ!

 素直なリリィは怪訝な顔を見せることなく、好奇心のまま素直な質問を飛ばしてきた。


「見ただけで使えちゃうなんてすごい。それってなんでも使いこなせるようになるの?」

「属性の適正とか、練度の高さ云々とか、魔力量の関係とかいろいろあるから、なんでもってわけじゃないよ。アルマはまだワープの魔法とか使えないし。あ、でも、見て覚えることができるから、アレンジして使いやすいように作り替えたりはできるかな」


 どやぁ!

 オリジナルは猿真似から始まるのです。

 アルマの言葉を聞いて、ライラさんが感心のため息を漏らした。


「普通に言ってるが、それってすんごい難しいことだよね。魔法に対する理解が深くないとできないだろ」

「もちろんですとも。たいへんですけど、超楽しいです!」

「そこなんだよな。レナトゥスに来てほしい理由は」


 シェリーさんが悩ましい笑顔をしてアルマにため息を向けた。

 好きこそものの上手慣れ。『好き』は最強の原動力なのだ。

 そんな話しをしてたらミカエルさんが目覚めたぞ!


「わかります! 好きってとっても大事ですよね!」

「開口一番それか!」


 衝撃のあまり、ミカエルさんの記憶が飛んでる。ことの顛末を説明すると、思い出してポンと手を叩いた。


「そうでした。お手紙の配達中に突然、高出力の魔法にぶち当たってホーリー・シールドを打ち抜かれたんでした。あまりに突然で高出力だったので防殻を抜かれたんでしたっ!」

「すみませんすみませんすみませんっ! 打ったのアルマなんですすみませんっ!」

「打てって言ったの私なんだすまんっ!」


 すかさずアルマとライラさんが土下座。脊髄反射的土下座。

 もう大丈夫。気にしなくていい。そういってなだめてくれるミカエルさん、優しい!


「大丈夫ですよ。お手紙と荷物が無事であれば」


 郵便屋さんは手元にバッグを引き寄せて、鞄と中身の無事を確かめる。商売道具と大事な手紙。誰かから受け取った、大切な人への真心たち。


「それなんですが、散乱したものは回収したんですが、もしかしたらいくつか紛失してるかも…………」

「――――――えっ!?」


 一瞬固まり、急いでバッグの中身を確認。どうか全部ありますように。どうか紛失してませんように。両袖が燃えるほどこすり合わせて祈願。結果やいかにっ!


「3枚、足りない…………」


 や、やばい…………ッ!

 罪悪感で魂が抜けてしまいそうだ。背中から倒れそうになったアルマの体をシェリーさんが支えてくれた。

 どうする。そんなの決まってる。探し出すしかない。命懸けでッ!


 ♪ ♪ ♪ 


「と、いうわけで、ミカエルの手紙探しをします」


 メタフィッシュの手ほどきを受けていた寄宿生たちを集め、ライラさんのひと声が響き渡る。

 もろに私情を挟んでくる。それは百歩譲っていい。いつものことだからだ。いつもこんなだからちょっと困るけど、言っても無駄だからもうどうでもいい。

 問題は海に落ちた手紙をどうやって捜索するのか。孤島の中心から約1kmまでは水深が浅い。しかしそこから先は急に深くなってるから、通常の潜水では海底を見る前に失神してしまう。


「大丈夫です。海底に落ちてしまったお手紙は1通だけ。ほかはこの孤島のどこかにあります。ミカエルレーダーに感アリです!」


 1通は海底だった。しかし幸い、2通は孤島にあるという。メタフィッシュを使いこなせるアルマが海底に向かわねばなるまいて。あとはライラさん、よろしくお願いいたします!


「よし、アルマは海底、我々は陸だ」

「海底に入る前にマルコを借りていいですか?」

「いいけど、理由は?」

「念のため、魔力の供給源を確保したいからであります!」

「よし、許可する」


 耳を疑いながら待ったをかけるマルコ。いったいどうしたというのか。


「ちょっと待って。魔力の供給源ってどういうこと?」

「言葉のまんま。アルマも海底の深いところには行ったことがないから、念のために人間燃料を連れていきたい」

「人間燃料って言っちゃってるんだけど!?」


 もしやこいつ、海の中が嫌いなのか。高所恐怖症ならぬ、海底恐怖症?


「マルコって海底恐怖症?」


 聞くと、首を横に振ってくれた。よかったよかった。


「なにもよくないよ。海底恐怖症なんて聞いたことないし、大抵の人間は海底が怖いと思う。そうじゃなくて、魔力の供給なら俺じゃなくてニャニャ先輩が適任じゃないか? 魔術師志望だし、俺より魔力量も練度も上だから」


 マルコの意見はごもっとも。だが、攻撃職特有の長所が今は短所になってるのだ。


「たしかに額面だけは。でもニャニャさんの魔力ってなんていうか、ムラがあるというか、荒いというか、攻撃系の魔法職の人にありがちな緩急の激しい魔力なんだよね。メタフィッシュを使う場合は安定した魔力が優先なの」


 マルコの隣でニャニャさんが苦虫を噛み潰していた。仕方ないんです。メタフィッシュのようなマジックアイテムは安定した魔力が求められるんです。

 決して貴女を否定してるわけじゃありません。気性の荒い魔力は戦闘において非常に有用。爆発的な破壊力を求めるなら、荒い魔力のほうが優秀なのだ。アルマも荒いほうだし。


 この時、アルマは気が付かなかったのだけれど、苦虫を噛み潰してたのはニャニャさんだけじゃなかった。マルコの取り巻きの女の子、みんな嫌そうな顔をした。

 魔力の適正において苦しい思いをしたのではない。マルコとアルマが2人っきりになることを嫌ったのだ。

 マルコを横からかっ攫われるんじゃないかと心配して。

 そんなことは杞憂だというのにっ!

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