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summER VAcatioNs in The ghOstLand 1

前半アルマ、すみれ、ペーシェ。後半はマーガレットが活躍します。

アルマが問題を起こし、すみれがおいしいご飯を作り、ペーシェとともに天啓が降り、幽霊とおしゃべりできるマーガレットが結婚式に参列する話しです。

幽霊です。夏と言えば怪談。

キッチン・グレンツェッタ、空中散歩、ベルン寄宿生と鬼教官、シャングリラの人々、すみれの文通相手とその友人。たくさんの人々が杯をかわすサマーバケーションです。


以下、主観【アルマ・クローディアン】

 青い空、白い雲、青い海、緑の森、崖際には一面に咲くカラフルなデイジーが人々の目を楽しませてくれる。

 暑い日差しの差し込む夏。

 新しい挑戦と出会いの待つサマーバケーション。

 わくわくに胸躍らせる男女は今、わくわくよりもどきどきが勝ってる。


 楽しみからではない。

 どうしようかと困っているからだ。


 白波が立つ浜辺で1人の女性が横たわっていた。白いワンピースを着た彼女の白い翼は焦げ、白目をむき、白い砂浜の上で真っ白になっている。

 なぜか。それはアルマのせいである。こともあろうにアルマ・クローディアン。サマーバケーションの初日、それも孤島に到着して数時間で問題を起こしてしまった。

 穴があったら埋まりたい。


 さて、それでは少し時間を遡るといたしましょう。


 ♪ ♪ ♪


 ベルン王国北部に広がるビーチから数十キロの地点に孤島がある。大航海時代、ある海賊の拠点として要塞化された島。

 私掠船として認可された海賊は身分違いの恋ののち、それを快く思わなかった貴族の手先によって殺害されてしまう。

 ゆえに、この島では森の中や浅瀬、果ては地盤沈下で隆起した土地から、上半身だけを出して剣戟を繰り返す海賊と騎士の幽霊が散見される。世界屈指の心霊スポットとして有名な場所。


「で、なんでそんな場所を夏合宿の場所に選んだんですか?」


 運動着に着替え、整列した寄宿生たちは怪訝な表情を浮かべた。当然だ。なにゆえにわざわざ幽霊が出現するスポットに赴かねばならないのか。

 ライラさんの答えはこうだ。


「ベルンから場所が近い。貸し切りプランがある。値段が安い。ペンションをはじめ、設備が充実してる。陸地と距離が離れてるから、魔法をぶっ放しても問題ない。バーベキューができる。気候が安定してる。地盤沈下でできた地形がサバイバル演習にもってこいの形になってる。その他諸々あるが、だいたいこんなところだ」


 どうやら幽霊の出現と天秤にかけてもおつりがくる利点のようだ。

 反論する者はいなかった。ライラさんになにを言っても無駄だということを経験として知ってるからだ。

 沈黙を納得と捉えたライラさん。さくさく進めて早々に午前の演習を終えようと、細かいところはすっとばして簡潔に言葉をまとめあげる。


「よし、訓練に入る前にスペシャルゲストの紹介だ。七尾さん、アルマ、自己紹介をよろしく」


 紹介され、アルマたちが前へ出る。目の前にはベルン寄宿生1年生。数人、別学年の人が混じってるけど、それは一旦おいておこう。

 同い年か。こいつら全員、同い年なのか。それにしては大人っぽいやつらばっかりだ。アルマが幼すぎるのは理解してるが、隣の芝がよく育ちすぎていて悲しくなってくる。

 別にアルマの責任ではないけども。はぁ……。


 まずは年上の七尾さんからの自己紹介から、どうぞ。


「七尾陽介と申します。メリアローザでマジックアイテムの開発を行っています。今回供与するマジックアイテム【メタフィッシュ】の説明に参りました。どうぞよろしくお願いいたします」


 大きな拍手ののち、次はアルマの番。緊張はない。あるのはやる気と自信と、彼らがどんな魔法を使えるのかという好奇心。


「アルマ・クローディアンと申します。みなさんと同じ15歳で、グレンツェンに留学してます。どうぞよろしくお願いいたします」


 深々とおじぎをすると、自慢のツインテールが白砂に触れる。アラクネートさんに特注してもらったツバ広の帽子でアルマの姿がすっぽりと覆われ、彼らからは真っ白なドーナツに見えていた。


 拍手ののち、元気よく挙手をする女子がいる。フィティ・ランメルス。フラワーフェスティバルで仲良くなった寄宿生。


「はいはいはーい。七尾さんはマジックアイテムを開発してるってことは、魔術師なんですよね。どうしてそんなにマッチョなんですか?」


 聞くことそれか?


「ワタクシの座右の銘は『健康な魔力は健康な精神と肉体に宿る』です。魔術師といえど、健体であることは非常に重要なことだと考えています。それに、ワタクシはアルビノマギですので、コモンマジックと非常に相性が良いのです。それもあって、筋トレは日課となってます」

「アルビノマギ?」


 疑問符を浮かべるフィティの隣の男子がすかさずつっこんだ。


「魔力に色を持たない人間のことを言うんだよ。授業で習っただろ」

「お、覚えてねぇ……」


 指摘した彼は真面目なのか、やれやれとため息を漏らす。

 しかし覚えてないのも無理はない。アルビノマギの人自体が少ない。それに自分と関係のないことや興味関心のないことは記憶に残りづらいものだ。一生の内でアルビノマギの人と関わることなどそうはない。

 今日、出会っちゃったけどね。


「まあまあ、アルビノマギについては今回、特に関係ないので忘れてくださって構いません。それではさっそく教鞭をとらせていただいてもよろしいですかねえ?」


 マジックアイテムの話しをしたくてうずうずする陽介さん。手に(メタフィッシュ)を持って今か今かと構えてる。

 だけどここでライラさんの待ったが入った。


「っと、その前に。アルマに少しやってもらいたいことがあるんです」

「えっ、アルマにですか?」


 何も聞いてないんですけど。


「ああ、アルマの実力は私の知るところだが、ベルン寄宿生たちにも矜持というものがある。共に勉学に励むだけの価値があるのか示しておいてほしい」

「なるへそ。しかしてどのように?」


 質問の答えが返ってくるより早く、前列の男子が割って入った。マルコ・アダン。ペーシェさんの弟でサンジェルマンさんの息子。


「ライラさん、その必要はないかと思います。彼女はフラワーフェスティバルで空中散歩を開催しました。それは我々寄宿生の間でも話題になってます。この中に誰も彼女の参加を疑う者はいません」


 持ち上げて、友を見渡すとみな笑顔で納得してくれた。そんなに話題になってたのか。嬉しい限りじゃないか。

 これで一件落着。と思いきや、食ってかかるはライラさん。なぜゆえかマルコの提案を拒否。


「みんなの気持ちはわかった。しかしこういうのは形が大事なんだ。とりあえず見える形で実証しておきたい」

「いえ、ですから、空中散歩の実績で十分と」

「ベルン寄宿生は戦闘を念頭においた集団だ。攻撃力を見ておく必要があるだろう」


 攻撃力。見たいのはライラさんでは?

 嫌な予感を想像した少年少女を代弁するように、サンジェルマンさんがライラさんに言葉を投げた。


「それってもしかして、ライラくんがアルマくんの魔法を見たいだけでは? 例えば、魔導防殻を粉砕した」

天崩(フォールン・デイズ)!」


 めっちゃ楽しそうな笑顔でアルマを見下ろしてくる。これって、ライラさんがアルマの魔法を見たいだけじゃん。まさかの私情。そういう人だっていうのは知ってたけど。


 アルマの呆れた顔を見てもにやり顔のライラさん。他人の意見など知ったこっちゃないと、青空を指さして啖呵を切った。


「大丈夫だ。安心しろ。夏の時期にこの海域に漁に出る漁船がないのは確認済みだ。夏空へ思いっきりぶっ放してやれ!」

「いや、でも、演習には魔法の鍛錬もありますよね。ここで魔力を消費するのは、ちょっと」

「大丈夫だ。魔法の鍛錬は明日だから。今日はみっちり、メタフィッシュの訓練だ。海難事故に対する有力な戦力を強化する目的でな」

「いや、ですけど、アルマは水のマナが少ないので、結構な魔力を消費するんですよね、アレ。水深によっては対水圧魔法も併用することになりますし。無駄打ちするわけには」

「私がアルマの魔法を直に見たいんだよっ!」


 ついに本音が出てきた。こうなったらもうなにを言ってもダメなやつ。


「わ、分かりました。アルマの残存魔力の30%の出力でよければ。それ以上は危険なので無理です」

「100%は出せないの?」

「さぁ、メタフィッシュの概要と、取り扱いと注意事項から説明しましょうか」

「すまん、悪かった!」


 大人に泣きつかれると虚無感に襲われていかんですな。暑い日差しを受けてるはずなのに、気持ちがブルーになるのはなぜでしょう。


 魔法陣と魔術回路を展開。増幅と収縮を繰り返した魔力は相互に相乗を繰り返していく。蓄積された魔法は超極太の光の柱となり、空を、雲、天を穿つ。

 アルマ史上最高傑作。超長距離殲滅魔法天崩(フォールン・デイズ)

 以前、うっかり魔導防殻を破壊してしまった最強の攻撃魔法。あの日の後悔が脳裏によぎり、微妙な気持ちになってしまう。


 ぶっ放して、ギャラリーからは感嘆の声色が聞こえてきた。どうだすごいだろう。以前のアルマであれば鼻高に高笑いをしたに違いない。今日は違う。淡々と仕事をこなす機械のように無感情でいた。少しは大人になったのかな。いや違うな。

 ライラさんにせがまれて渋々感がすごくて、魔法ぶっぱが楽しめない。まぁでも、ライラさんが夜空に打ちあがる花火を見るが如く喜んでるのでよしとしましょう。


 と、悠長に構えていると、空に放った魔法がなにもないはずの空間にぶつかって四散した。

 水鉄砲を壁に放ち、四方八方に弾かれるようにして、アルマの最強魔法が相殺されてる!?

 いったいなにごとが起きたのか。たしかに何もない空へ打ち込んだはず。見えないなにかにぶつかった?


 魔法を止めてみると、なにもなかったはずの空からひと粒の光が海へ落ちた。

 光と思ったそれは白い羽。白いワンピースを着た天使。意識がないのか、頭から真っ逆さまに海面へダイブ。


「――――やべぇ。なんか知らんけど撃ち落としてしまった」


 呆然とすること5秒。正気に戻ったアルマは烈火の勢いでメタフィッシュを手に取り、リリィを奪取。龍の形を模して全速力で泳ぎ出す。

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