背が伸びた 8
「ハティお姉ちゃんの気持ちは分かるけど、わたしはお姉ちゃんと一緒にご飯が食べたいよ。いっぱいっぱい勉強して、おいしい料理を作るから!」
「あたしだっておいしいお野菜をいっぱい作るもん。あたしたちが作ったお野菜、ハティお姉ちゃんにもたくさん食べてほしい!」
「俺だって頑張ってお菓子作りを勉強してるんだ。それなのに、ハティお姉ちゃんに食べてもらえないなんてあんまりだ!」
「私も孕伽もハティお姉ちゃんが大好き。だから一緒にご飯しよ?」
ライアンくんも、シシリアちゃんも、ニノニンちゃん、ママラくん、セノくん、リグドラくん、リーナちゃん、孕子ちゃん、孕伽ちゃん、ジュークくん、ラクシュミーちゃん、キィアくん。みんなみんなハティさんが大好きで、ハティさんのことを心配してる。
彼女と食卓を共にする時間はかけがえのない瞬間。一緒に畑仕事をする時も、お昼寝をする時も、遊ぶ時もお風呂の時も、いっつもハティさんと一緒にいた。
そんな彼女が遠くに行ってしまったみたいで寂しかった子供たち。すがるようにご飯を食べようと、背が伸びてもなにも気にすることなんてないと励ます姿は本物の家族の姿。
なんて素敵な光景だろう。いつか私も、こんな景色を描きたい。
感涙に身を打たれている中、空気の読めない女性が飛び出した。
エリストリアさんである。
「みんな心配してたんですよ、ハティさん。背が伸びたくらいなんですか。誰も気にしたりなんかしません。ハティさんはハティさんなんですから。そうだ、今日を記念日にしましょう。みんなでチーズを炙って食べましょう♪」
「なんでそうなるのか分からないよ。エリストリアのねーちゃんはちょっと黙っててくれる?」
「いや、えっ、だってチーズはおいしいから」
全然懲りてないようだ。子供たちに嫌われてないか心配である。
「わたしもなんでそうチーズを食べようとするのか分からない。チーズを押し付けてくるエリストリアお姉ちゃん、嫌い」
「き、キライッ!?」
手遅れだった。ド直球に彼女の精神を抉りにいく子供の言葉ほど残酷なものはない。
「ハティお姉ちゃん、あんまり意固地になってると、エリストリアお姉ちゃんみたいに嫌われるよ?」
「わ、私、嫌われてるんですか!?」
「それは嫌だ。ご飯食べる」
「最初にエリストリアさんを引き合いに出してれば速攻解決したのでは?」
「私を引き合いに出さないでくださいっ!」
エリストリアさんを見てるから、一瞬で舵を切りなおしたハティさん。なんにせよ丸く収まったようでなによりです。
「全然丸く収まってないよ! 私の立場がより悪くなったじゃないですか!」
「自業自得ですよ。まずはマシュマロとチーズを交互に挟んで炙ろうとするところからやめましょうか」
マシュマロとチーズ。個人的にはアリな気がするので肯定したい。しかしそれをやるとエリストリアさんの暴走を許してしまいそうだから言葉にしないでおこう。
今度、別日にやってみよう。子供たちのいないところで。
エリストリアさんはともかく、ハティさんが元気になったみたいでよかった。
いつもみたいに子供たちと一緒においしいものを食べて笑顔になる。かけがえのない幸せが戻ってよかったです。
当たり前のようで、だからとても愛おしくて、大好きなお姉ちゃんに抱き着く子供たちと、大好きを分かち合うハティさんたちを見てると、私まで嬉しくなっちゃいます。
あぁ、いつまでもこんな温かな胸の輝きがありますように。
~おまけ小話『お肉大好き役立たず』~
アルマ「いやぁ~、ハティさんの絶食の原因が分かってよかったですね。一時はどうなることかと思いました」
すみれ「ほんとだね。私の料理が不味いのが原因じゃなくてよかった」
レーレィ「すみれちゃんの料理が口に合わないなんてありえないわ。はぁー、すみれちゃんたちのことを知ってたらホームステイさせてあげたかった」
グリム「そうなってたら私もシェアリングしてたかもしれません。みなさんと一緒にいるのは本当に楽しいです」
アルマ「そう言ってもらえると嬉しいです。シャングリラの子供たちも、みんないい子ばっかりで楽しかったですね。今度はシャングリラでホムパしたいですねっ!」
すみれ「それいいね! バーベキューはお肉もいいけど、シャングリラはお野菜とキノコがとってもおいしいから、ベジタブルパーティーなんてのも面白いかも!」
レーレィ「行きたい! シャングリラってところに私も行きたい! ペーシェから聞いたわ。すっごくいいところだって!」
ルーィヒ「ボクも連れてってほしいんだな。おっきな狼さんをもっふもふしたいんだな!」
オリヴィア「みなさんなら大歓迎ですもぐもぐ! 果物もお魚もとってもおいしいので、ぜひに遊びにきてもぐもぐ!」
すみれ「オリヴィアさん、途中からずっとお肉食べてばっかりでハティさんの絶食問題を忘れてましたよね?」
オリヴィア「ぐふぅっ! そ、そんなことありませんよ。彼女は私の家族です。心配しないわけないじゃないですか」
グリム「本心なんでしょうけど、態度に出てないですよ。それから目を見て話してみましょうか」
アルマ「ま、まぁまぁ、クレアちゃんのおかげで解決できたわけですし、とりあえずよかったじゃないですか。ところで、アポロンさんは気づいた様子でしたけど、どうしてわかったんですか?」
アポロン「いや、見上げた時の見え方が微妙に違うなーって思って。まさか本当に背が伸びてたとは」
レーレィ「よく見てるのね。ホムパ中、ずっとハティちゃんのことばっかり見てたもんね。好きなんでしょ?」
アポロン「好きですね。めっちゃかわいいですから!」
レーレィ「言い切った! 赤面して照れるかと思ったのに! グリムちゃん、アポロンくんがハティちゃんのことが好きですって!」
グリム「それは見てればわかります。ずっと目で追ってるんですから。むしろハティさんがモテないわけないですもんね。あれだけ美人ならなおさら。中身はともかくとして」
アポロン「個人的にはかわいいところ満載だと思うんだけど、同性からするとポンコツ感あります?」
グリム「好きな人に対してポンコツ感があると言ってしまう肝の太さたるや。まぁそうですね、かわいい女性とは思いますが、聞く限りでは行動が極端すぎて驚かされてばかりです。そこをポンコツと捉えるか、かわいいと捉えるか、彼女に対する好感度の違いで表現が変わってくるので、私からはなんとも申し上げられません」
アルマ「それも含めてハティさんの魅力なんですよ。そこに痺れちゃいます憧れちゃいますっ!」
レーレィ「痺れるっていうか、感覚が麻痺しちゃってない? あと、憧れる部分については要検証」
ラム「好感度の違いで見方が変わってくる。子供たちにもお酒に好感を持ってもらえれば、あるいは」
プラム「お姉さま、未成年にお酒を勧めるのは犯罪ですよ?」
ルーィヒ「他人を変えるんじゃなくて、自分が変わりましょう。っていうのを人に向かって言うもんじゃないけど、ラムさんは少し自重したほうがいいかもですね」
ラム「うぅ~っ! 私の存在を全否定されてる気がするっ!」
グリム「そんなことはありませんよ。マシュマロを使ったカクテルは絶品でした。それよりも、あちらの方ですよ」
すみれ「あれだけ言ってまだお肉を食べてる」
ルーィヒ「飢えすぎなんだな」
アポロン「ほんとうにずっとチキンステーキばっかり食べてたね」
アルマ「ハティさんとは別の意味で、たいへんなことになりそうですね」
レーレィ「言っちゃ悪いけど、彼女はポンコツ」
(自称)24歳のハティがこの歳になって、まさか背が伸びるとは思ってなかったものだから、たかが1センチでも絶望の淵に落とされてしまいました。
それでも、彼女を愛してくれるシャングリラの子供たちの真心によって救われ、エリストリアのようになりたくないと振り返り、平穏な日常が戻ってきたのでした。
めでたしめでたし。
ちなみに、一般的に25歳までは身体の成長が続くらしいので、もしかすると今後も背が伸び続けるかもしれません。再びのメンタルブレイクがやってこないか心配です。
次回は、レンタルビーチでサマーバケーション!
なんとそこは世界的に超有名な心霊スポット。大航海時代、悲恋の内に死んだ海賊たちの幽霊が元気に暴れ回る海賊島・キバーランド。
ベルン寄宿生の夏合宿に参加したアルマが不慮の事故の加害者になる。
償いのために奮闘するも、新たな問題を海底から引っ張り上げます。
その後、霊視できるマーガレット主導のもと、海底から引っ張り上げられた幽霊船長の悲願を達成すべく、奮闘しまくる物語です。




