背が伸びた 6
シャングリラの子供たちとエリストリアさんたちお姉さん組みを招待して、レーレィさんの家で大規模なホームパーティーの開催です。
バーベキューセットでチキンステーキを作っておもてなし。
シャングリラからは新鮮お野菜でサラダを作ってもらいました。
飲み物はラムさんからのおすそわけ。大人はお酒。子供たちにはフルーツティーをごちそうです。
焼けた先から子供たちにお肉を配る。彼らにとってお肉はごちそう。滅多に食べられない豪華な食事。綺麗に一列に並び、まだかまだかとわくわくしてる。
ただし本日、チーズの用意はないので悪しからず。
「チーズがないんですかっ!?」
思った通りの反応をするエリストリアさん。
「すみません。今日はチキンステーキで我慢してください」
「しばらくチーズをやめようよ。体がチーズになっちゃうよ」
「そうだよ。素材の味を楽しもうよ」
子供たちからの援護射撃が直撃。がっくりと肩を落としてホムパの隅で丸くなった。
よし、とりあえずエリストリアさんは沈黙。
これでハティさんに集中できる。まずは子供たちにアプローチ。チキンステーキを持ってハティさんのところへ吶喊するのだ!
「ハティおねえちゃん。おいしいおにくがやけたからいっしょにたべよ?」
「ありがとう。でも私は大丈夫。いっぱい食べて大きくなろうね」
ラクシュちゃんの上目遣いでもダメか。
「ハティのねーちゃん、いい加減にご飯食べないと体壊すぜ? サラダは俺たちが一生懸命育てた野菜で作ったんだ。みんなで一緒に食べようぜ!」
「ありがとう。でも今はお腹がすいてないから。すみれたちに食べさせてあげてほしい」
ライアンくんのストレートな物言いも華麗に回避。なぜそこまでかたくなに食事を拒むのかっ!?
「パーリーで作った総菜を買って帰ってきたよー。レーレィさん特製、キノコのマリネはいかがかな?」
「ありがとう。それはアルマの大好物だから、アルマに食べさせてあげてほしい」
レーレィさんのアタックをも防御。ハティさんだって大好物のはずのマリネをアルマちゃんに差し向けてしまった。
唯一、口に入れたのはフルーツティー。とりあえず飲み物だけは飲んでくれる。水分不足で脱水症状になる心配だけはないみたい。
こうなるともう、全ての食べ物をミキサーにかけてジュースにするしかないかもしれない。
しかしそれは私のプライドが許さない。そんなのもう食事じゃない。
どんなに策を弄しても打つ手なし。どん詰まりである。
このままではハティさんが干物になってしまう!
「干物にはならないだろうけど、たしかに心配ではあるよね。お酒で酔わせて食べさせるとか? 強行突破」
「それはさすがに卑怯というものです。そもそもハティさんが泥酔したところなんて見たことがありません」
ラムさんのお酒作戦は最後の手段として引き出しにしまっておきます。だってそれはさすがに無いでしょう。
はっ、いいことを思いついてしまったかもしれない。後夜祭で持ち出したククココの実の中果皮を発酵させて作ったククココ酒。蒸留前のふわふわの状態は食物繊維、ビタミン、ミネラル、乳酸菌、糖質たっぷりの栄養食。脂質はゼロだがとりあえずの栄養補給として申し分ない飲み物。
ひとまずアレを作ってハティさんの栄養管理をしよう。エリストリアさん、は一抹の不安があるので、オリヴィアさん、は悪い人ではないけれどなんか不安なので、メアリさんに相談しよう。
「よい考えだと思います。シャングリラに戻ったらすぐに作りますね!」
「お願いしますっ!」
「それにしても、どうしてハティさんは食事を摂らなくなったのでしょう。本当に心当たりがありません。グレンツェンではいかがですか?」
「グレンツェンでも心当たりがありません。突然、食べ物はいらないと言い出してしまって。もうどうすればいいか分からなくて困ってますっ!」
「「はぁ…………」」
大きなため息はネガティブ・ブルー。乾燥したわら草のような蒼色をしてる。
「どうしたの、お姉ちゃんたち。元気ないの?」
心配して声をかけてくれたクレアちゃん。メリアさんの頭をなでなで。私の頭をなでなで、してくれる気持ちは嬉しいけれど、手が額に当たったらまずいので、こちらからハグをしてむぎゅっとしてもらいました。
「ごめんね。どうしてハティさんがご飯を食べないのか分からなくて困ってるの。クレアちゃんはなにか心当たりがある?」
問うも首を横に振って困惑した表情を見せる。
「ううん。わかんない。でもハティお姉ちゃんのことだから大丈夫だよ。きっとすぐお腹が空いて、また一緒にご飯を食べてくれるよ!」
「そうだね。ハティさんはみんなと一緒にご飯を食べるために、シャングリラを拓いたんだもんね。うん、大丈夫。きっと大丈夫」
メアリさんがクレアちゃんの頭をなでなでしてあげて、『さぁ今日はパーティーです。めいいっぱい楽しみましょう』と告げると、満面の笑みでチキンステーキに飛びついた。
シャングリラでは滅多に食べられない御馳走。ここで存分に楽しんでいってほしい。
そうだ。今日はホムパなのだ。楽しまなくてどうする。うつむいてなんかいられない。前を向いていれば、きっといいことが起こるはず。
そう思ったらちょっと元気が出てきたかもしれない。
よし、チキンが終わったら炭火でマシュマロ焼きだ。楽しみだな!
肩車をして遊ぶラムさんとラクシュちゃんのところへ声を掛けにいってみよう。私も小さい子と遊んでみたいお年頃。トランプ、花札、麻雀。パーティーゲームは準備万端。
「我が弟と妹がこんなにたくさん。ここは楽園に違いない」
「我が…………? よかったね、ラクシュちゃん。肩車は楽しかった?」
「すっごくたのしい! きらきらのふるーつてぃーがね、あまくっておいしくって、しあわせっ!」
「ああ、みんな私の子になって欲しい」
ラムさんは大丈夫だろうか。ずいぶんと酔いが回ってるようだ。
椅子に座って股の間にラクシュちゃんを呼び寄せるも、さらなる高みを目指してハティさんの膝元へ急降下。大好きなお姉ちゃんに肩車をしてもらうため、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら催促する姿たるやかわいいの権化。
対して、ラムさんは願望が叶わなかったショックにより虚無感を感じていた。南無三。
「ま、まぁ、ラクシュちゃんはハティさんと一緒に住んでますから、仕方ありませんよ」
「じゃあ私も一緒に住む」
「そんなまた無茶な」
目が本気だ。どれだけ妹に飢えてるのか。貴女にはプラムさんがいるじゃないですか。
ひと呼吸おいて吹っ切れたラムさん。ツイン双子の元へ駆け寄ってお姉さんをしようと企む。
炭火で焼き魚を育てる2組の双子。出会ってからすっかり仲良くなって、4人で抱き合おうとしてスクラムを組む形になった。ラグビー選手も爆笑です。
「おいしく焼けてる?」
満面の笑みのラムさん。楽しそうでなによりです。
「いい感じに焼けてきてます。ラムさんもひとついかがでしょう。今日は鮎の干物を炙ってます。うちわで扇いで煙を纏わせてます。プロっぽいでしょ?」
「プロっぽい! いやもうプロの技だよ。こんがり焼けててすんごいおいしそう!」
「よかったら1本いかがでしょう。いい塩梅に焼けました」
「いいの? みんなで焼いてたんじゃ」
「ラムさんにはおいしいソーセージを御馳走になりました。今日もチキンステーキをいただいて嬉しいです。せめてものお礼に受け取ってください」
「ありがとうっ! その気持ちだけでもうお腹いっぱいだっ!」
「どういたしまして。すみれさんもどうぞ」
「私も? ありがとうっ!」
孕伽ちゃんの愛を受けたラムさんはドロドロに溶けてしまいそうなくらい頬が緩んで笑顔が絶えない。
私も私で嬉しくて頬が赤らむ。
それではさっそく。
ふっふっふーっ。
はふはふ。むしゃむしゃ。
うまいっ!
次はクレアちゃんとキィアくん、レーレィさんとハティさんがいるところへ行ってみよう。
昆虫好きなキィアくんはレーレィさんが持ってる昆虫図鑑に興味津々。それを貸してあげると食い入るように見つめて瞳をキラキラと輝かせた。
新しい昆虫を見つけては、これはなんなの、どんな昆虫なのかと質問攻め。世界にはまだ見ぬ昆虫がたくさんいるのだと、広がっていく心の世界にわくわくがあふれ出す。
「キィアくんは虫さんが大好きなのね。よかったらこの本、君にあげるよ」
「いいのっ!? ありがとうっ!」
「ええ、子供たちのために買ったものだけど、もうずいぶんと開いてなかったから。この本も、新しい持ち主が現れて嬉しいって思ってるわ」
と微笑むも、彼の意識は既に本の中。夢中に読み漁って凝視していた。でも文字が読めないらしく、昆虫の絵を指さして質問を飛ばしてくる。ハティさんにも。
「えっと、昆虫の王様。力が、ん、っと、すごくて、角、が1本、3本」
「レーレィおねえちゃん、これなんてかいてあるの?」
「えっとね、これは――――」
露骨にショックを受けるハティさん。文字の勉強不足がゆえ、見せ場をレーレィさんに取られてしまった。
もしやすると、これはチャンスかもしれないっ!
「ハティさん、チキンステーキを食べて元気出してくださいっ!」
「ありがとう。でも大丈夫。ショックでそれどころじゃない」
がびんちょっ!
元気を出すためにお肉作戦が敗れた!
「いや、すみれ。私にはお酒ダメって言っといて、結構エグイことやるじゃない」
「しのごの言ってる場合じゃないんです」
「お酒はダメなのに?」
「お酒はダメです。なんか違います」
「えぇーー…………」
謎の理不尽を押し付けられて天を仰ぐラムさん。
ダメなんですよ。なぜなら、
「お酒は私の作ったものじゃないのでダメなんです」
「えぇーー…………」
伝えると、再び天を仰いでため息を打ち上げる。そのまま魂までぽわんと出てきそう。
次だ。次の作戦にとりかかるぞ。
キッチンでカリフォルニア・ピザを焼くアポロンさんのところへ突撃だ。ライアンくんとシシリアちゃんの3人がオーブンの前で焼き上がりを待つ。
たっぷりのピザソースを敷き、大量に炒めた玉ねぎを敷き、ベーコンやらナスやらトマトやらなんやら入れまくり、最後にチーズをバカみたいに載せて蓋をしてオーブンにインする。
迫力満点。破壊力抜群のピザが出来上がるのだ。
とにかくでかい。
大きさとボリュームと攻撃力を追求した破壊の権化。
チキンステーキなど一蹴してしまう邪神のような存在。
「そこまで言わんでも」
「パイと言うならまだ分かるんですが、ピザと言われると首をかしげざるをえません」
「気持ちは分かるけどね。ピザとピッツァは違うものと割り切らないと」
「「割り切らないと?」」
言葉の続きを聞こうとしてしまったライアンくんとシシリアちゃん。アポロンさんの職人矜持に触れてしまった。
「割り切らないと、ピッツァに対する冒涜として火炙りにしてしまいそうだ」
既に火でおいしく炙られてるけど。
言おうとしたライアンくんの口をすかさず塞いだシシリアちゃん。彼女は空気の読めるいいお嫁さんになれるだろう。




