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親の顔が見てみたい 2

 同僚や上官は緊張した空気を一蹴するためのギャグだと思っていたが、最初の出陣で彼の言葉が真実であり、残念なのか頼もしいのかはさておき、本気で言ってるのだと確信してしまった。


 決定的だった出来事がある。さる孤島での大型魔獣の討伐のおり、最新兵器を搭載した軍用ヘリでも太刀打ちできないほどの強力な魔物を相手にした時だ。誰もが絶望をひるがえして、軍備を整えて出直そうと決断した時だった。

 彼は1人、島へ飛び下り肉弾戦を仕掛けたのだ。曰く、『この魔獣を野放しにすれば、私たちが戦闘の準備を整えている間に島民のいる島へ向かうだろう。そうすれば、大勢の人々が犠牲になる。それだけは避けなければならない』。


 そして最後に、『バティックの女性はみな小麦色の肌をしていて、笑顔がとっても素敵なんだ。それに、タイドレス越しのお尻がとってもキュートなんだよ』。そう言い残して、彼は戦友が戻ってくる12時間もの間、たった1人で山のように大きな魔物を足止めしたのだ。


 本来なら命令違反で軍法会議にかけられるのだが、彼の勇気、将来性、世界中から浴びた称賛が『彼の身勝手な行動であり命令違反』という名目を、『島を離れる際、勝手に落下して戦わざるを得なかった』という、なんとも間抜けで誰の責任でもないような表現を使って世界中を涙と爆笑の渦に巻き込んだのだ。


 彼のキャラクターも相まって、一躍世界中の人気者になるも、謙虚な姿勢を崩すことなく、『これからも世界中の人々の笑顔を守っていきます』とだけ発信するにとどまったのがさらに彼の好感度を上げ、バティックでの奮戦はドキュメンタリー映画になった。


 そんな黄色い声援を浴びる彼も30歳を手前にして、そろそろ身を固めようかと考えた時、休暇で立ち寄ったベルン王国の宮廷魔導士に目を奪われた。

 世界中のかわいい女の子を見てきたサンジェルマン。ベルン王国の宮廷魔導士が最もかわいい。いや、みんなかわいいんだけど、個人的な好み的な意味で彼女たちはかわいい。


 思い立ったら吉日。彼は出世の道を棄て、上司の説得を突き返し、ベルン王国騎士団へ入団。

 それまでに培ってきた技術と経験をいかんなく発揮。メキメキと頭角を表した彼は、入団して1年もしないうちにベルン王国第二騎士団副団長の座にまで登り詰めた。

 そして、『箔もついたし、そろそろ婚活をするか』と考え始める。

 気になる宮廷魔導士を見つけてはナンパを仕掛け、玉砕し、性懲りもなくナンパをしては平手打ちを食らう毎日。

 それでも女の子好きなサンジェルマンはめげることもなければ諦めることもなく、毎日毎日ナンパを繰り返した。


 何故ナンパをしても誰も食事にすら付き合ってくれないのだろう。今まではこんなことはなかったのに。

 理由が分からないのも無理はない。故郷であるハイラックスでは声を掛けてお食事。お友達から始まり、気に入ったらアドレス交換。そこから交際に発展するなり、お友達のままで終わったりした。

 男女の関係というのはわりと軽いものだった。

 軍に入ってから女性に声をかけた時も、サンジェルマンとハイラックスの軍人というブランドもあって、世界中のどこに行ってもお食事までは成立した。


 しかし、ところ変われば水の味も違うように、ベルン王国の女性は硬派が多い。お互いの距離を徐々に縮め、お互いのことを少しずつ知り合って、それからお食事。デートを重ねて愛を育むといったスタイル。

 ベルン人にとって名前を知ってるとはいえ、いきなり声をかけられて、『お食事に行きましょう』は抵抗が強いのだ。

 彼のように誰彼構わずナンパする男は尻軽とみられ忌み嫌われる風潮がある。

 しかもサンジェルマンは生粋の尻軽。

 ベルン王国内でも彼の性格を問題視する人々が現れはじめた時期だった。


 そんな時に声を掛けたのが我が母、レーレィ・メリィ。

 父が変人なら母も変人。サンジェルマンと同じく、彼女もそろそろ結婚したいと思った矢先の出会い。


 彼女は王国が運営する騎士団や宮廷魔導士用の食堂でアルバイトをして働いていた。食堂でナンパをする彼を見て、彼女はため息をつくよりも先に、『この人……中身は尻軽だけど、地位も名声も財産もあるのよね。顔も私好みだし、浮気をしないならアリなんじゃないか。浮気をしても慰謝料とか養育費を貢がせればいいわけだし、どっちに転んでもアリかもしれない』そんなことを思った。


 そして口説き文句も一風変わって、『ねぇサンジェルマン。あなた、女の子に片っ端から声をかけてフられてるけど、ベルンで尻軽な男はモテないのよ。だからあなたに選択の余地なんてないの。でも貴方は地位も名誉も財産もある。顔も私好みだから結婚して子供を産みましょう』と言い放ったのだ。


 これにはさすがの尻軽もカチンときた。

 頭に血が上ったものの、すぐに冷静になって、変人らしい考えに至る。


『今までこれほどまでにはっきりと物を言う女性はいなかった。思い返せば、女性の方から口説かれたのは生まれて初めてかもしれない。いつもこっちから声を掛けてたからなぁ。それに、なかなかいいお尻をしてる』


 2つ返事で了承して、しばらく交際した後、めでたく (?)結婚。2人の子宝に恵まれたのだった。

 その片方があたし。ペーシェ・アダン。そしてもう一方が1つ下の弟、マルコ・アダンというわけ。

 あたしは母の実家があるグレンツェンへ。弟のマルコは父の英才教育を受けるためにベルンで過ごし、騎士団見習いの寄宿舎で寝食をしてる。


 この愚弟がまた曲者。小さい頃は年齢なりに姉のあたしに懐いて後ろをちょろちょろ付いてくる姿がかわいかった。

 そんな弟を弟として愛する自分がいた。

 しかし今はどうだろう。

 父の影響を受けすぎて見事な女たらしになる。

 絵に描いたような八方美人。男女にも受けのいい優男ときたもんだから始末が悪い。


 まぁでもそれだけならいい。それだけならいいんだけど、この愚弟、外と内で性格が豹変する。

 外面は社交的で紳士的なイケメン。本当に顔と物腰だけは上の上なもんだから女子にモテモテ。

 父親が息子に、ベルンで女の子にモテるコツを聞くほどのプレイボーイ。

 とりあえず父親は自重しろ。


 だけど家族の団欒となると突然、甘えん坊のわがまま坊やへと退化するのだ。

 退化するだけならいい。実害があるから迷惑千万。

 あたしがお風呂に入ってると、いきなり愚弟が入ってきて、一緒に背中の流しっこをしようなどという。

 姉弟だからと言ってもその辺のデリカシーを守れと言うも、いつの間にかシスコンになった弟は言う事を聞かない。


 家族会議を開くも、両親の話しに耳を傾けない。

 大好きなねーちゃんの裸が見たい。

 バカのひとつ覚えのようにこれを要求する。

 自分はつるぺた信者。ねーちゃんの体が一番綺麗だと抜かしよる。

 綺麗だと言ってくれるのは素直に嬉しい。が、シスコンもここまでくるとおぞましい。

 いつか襲われるんじゃないかと戦々恐々。

 あまり怒りを表に出さない両親もこればかりは激昂して怒鳴り声を上げた。


 父は、『お母さんのように桃尻の女の子の方がいいに決まってるだろう!』と声を荒げ、気絶するまで母に殴られる始末。

 母は、『姉弟は結婚できないの。従姉弟なら大丈夫だから、ルーィヒちゃんにしなさい』という飛躍と火の粉をまき散らす始末。


 いやもう始末に終えねぇよ。この家族、面倒くせぇ…………。


 この2人の親の顔が見てみたい。あぁ、おじいちゃんたちか。

 どっちの祖父も祖母もまともなんだけどなー。

 もしかしたら隠してるのかもなー。

 あたしみたいに。

 そういえば絶対に入っちゃダメって言われてる部屋があったなー。

 嫌な予感がするからそのまま思い出の奥に仕舞っておこう。


 そんなこともあって、あたしはルーィヒとシェアハウスをすることによって、一時でも彼らの影を見ないように逃げてるのです。

 あたしに彼氏ができれば、愚弟もさすがに諦めるだろうけど、どっちかと言うと弟の方が先に結婚できそう。

 先日送られて来た演習後の記念写真には、両手に女の子を5人も抱えていた。写真からですら伝わる好意の波動。

 さすが父の遺伝子を持ち合わせる男。

 その一点においては羨ましい。


 そんな弟が休日を利用してグレンツェンにやってくる。あたしを目当てにやってくる。

 できれば半径20000キロメートル以内に近寄りたくはないが仕方がない。だけどコイツはあたしの言うことだけはなんでも聞いてくれるからパシリに使える。

 寄宿生は結構な給料を貰っているから貢がせることもできる。

 ご褒美をねだってくるだろうけど、あいつを跪かせて足で頭を踏んでやれば喜ぶだろう。


「ペーシェも大概、変態なんだな」

「変態じゃありませーん。ちょっと好きなものが人と違うだけでーす」

「ちょっと…………と言う部分を肯定することはできないんだな」


 そう、かくいうあたしも変人の両親から生まれた子供なのか、人が喜ぶようなものも好きだけれど、自分で言うのもなんだけど、結構腹黒い性格をしていた。

 普段は社交的で明るい振舞いに務めてる。しかして中身はグロいの大好き腹黒少女。

 巨大な人に理不尽に居場所を追い詰められて、立ち向かうも食われて死ぬアニメとか。

 宇宙からやってきた謎の生命体にアレをアレされて結局、食われて死ぬPCゲームとか。

 ゾンビものとかも好きだ。

 C級映画の鮫系とかのパニック物も大好物。

 人には言えない趣味だから、生涯口外しないけどね。てへぺろりん♪。

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