背が伸びた 2
以下、主観【小鳥遊すみれ】
今日も今日とて素晴らしい1日でした。
午前中にスパイスショップの店長さんと一緒にスパイスの研究ができた。セントラルステーションにある調味料専門店。店内では店長さんが暇つぶしと料理研究のために設備した厨房がある。
肉料理にはどんなスパイスが合うのか。スープ料理にはどんな組み合わせのスパイスが決まるのか。
お昼ごはんの時間になると、店の奥からもんのすごくいい香りが漂ってくる。
あんまりいい香りなものだから、突撃してスパイスの勉強をさせていただきました。
ナマスカールとは違ったスパイスの使い方をしていてとても面白い。スープ状のカリーだけにとどまらず、肉や魚への挑戦も惜しまない。
最近はスパイスショップの店長さんであるユクタさんと一緒に、チキンステーキに添えるソースの開発に取り組んでます。
なぜなら、この夏にサマーバケーションがあるからです。浜辺でおいしいバーベキューをするために、多種多様なソースを作ってみんなに喜んでいただきたい。
キッチン・グレンツェッタのメンバーだけではない。ベルン寄宿生の人たちとも合同でバーベキューをする予定なのです。
ですので、参加者の出身や故郷で食べた思い出の味をアンケート。それらの情報をもとに懐かしの味を再現しつつ、ひと味違った、それこそスパイスの効いたスパイスソースを作るのです。
そういうわけで、今日の晩御飯はバーベキューを先取ってバーベキューを開催します。
現地で使うソースの試食も兼ねてホームパーティーです。
夕方にはハティさんがシャングリラから帰ってくるということで、チキンをたくさん仕込んでます。
帰宅すると、たくさんの靴が玄関に並んでました。
キキちゃん、ヤヤちゃん、アルマちゃん。それにレーレィさんとラムさん、グリムさん、ルーィヒさん。
チキンステーキでレッツパーリー!
お出迎えしてくれたのはレーレィさん。リビングから飛び出してハイタッチ。
「呼んでくれてありがとう。今日はチキンステーキって聞いたから、サラダをいっぱい作ってきたよ。さっぱり系多めのフレッシュなやつ」
「ありがとうございます! 今日はジューシーな鳥さんステーキなので、サラダがあると助かります」
レモンソースの効いたさっぱりフレッシュサラダ。キノコのマリネもおいしそう。
グリムさんからは飲み物のご提供。バーベキューに合うコーラやソーダを持ってきてくださいました。
「私はあまりこういうのは飲まないのですが、たまにジャンクに走りたくなる時ってありますよね」
「ですです。お肉にコーラって合うんですよね。なんででしょう」
「コーラに含まれる香草とお肉が合うのではないでしょうか。お肉には甘めのソースも合いますので、糖類との相性もよいのかもしれません」
グリムさんと共感するアルマちゃん。理論的に考察するヤヤちゃんもチキンステーキが待ち遠しくてたまらない様子。
だけど待って。今日作った新作ソースを今から作るから。
手伝いに参加してくれたのはキキちゃんとルーィヒさん。新しいもの好きなキキちゃんが我先にと厨房で待機している。
「今日はどんなソースを作ったの? おいしいやつ? おいしいやつかな?」
「もちろん。でもひとつだけ、もんんんんんんのすごく辛いのがあるから気を付けてね」
「すみれが辛いものを作るなんて珍しいんだな。どうして?」
「えっと、ベルン寄宿生の中に華国出身の人がいて、その人の出身の地域が四川なんだって。ホアジャオと唐辛子で有名な場所なの」
「ホアジャオは知らないんだけど、それも辛いやつ?」
「辛いっていうか、痺れちゃう」
「麻痺を付与してくるのかな?」
一抹の不安を隠さないルーィヒさん。大丈夫。怖いなら食べなくていいから。
でも好奇心旺盛なルーィヒさんはとりあえず口に入れてしまうだろう。牛さんの血を飲んだ時も、先陣を切って杯を掲げた。
意外にもイケイケゴーゴーな性格です。キキちゃんとシンパシーしてる。
さてさて、レーレィさんに頼んで持ってきてもらっておいたバーベキューコンロに炭を投入。アルマちゃんに頼んで備長炭に火をくべていただきましょう。
物珍しそうなレーレィさん。どうやら彼女はバーベキューをする時に炭を使わないみたい。
「うちは早さ重視でガスを使うから、こういう炭を使って調理するってやったことがないわ」
それはもったいない、とラムさんの喝。
「たしかにガスは早いですが、じっくり熱を与えてジューシーに焼き上げるなら炭が一番です。うちは温熱タイプで炭は使いませんが、バーベキューなら備長炭一択ですね。遠赤外線も出ますから。それにしても、私が知ってる炭と色が全然違います。綺麗な銀色。もしかしてこれ」
「お察しの通り、メリアローザで使ってたものを譲っていただきました。最高級の備長炭【銀】です。すごいんですよ、これ。こうやって打ち鳴らすと」
キィーーーーン。
甲高い音が木霊する。水分が抜け、炭素の塊となった上質な備長炭の成せる音。次第次第に小さくなっていく高音のなんと心地よい響きであることか。
「すっご! 料理へのこだわりの強さが違う。ほんと尊敬するわ。グリレで働いて」
「なにしれっと勧誘してんの!? ダメよダメダメ! すみれちゃんはパーリーの期待の星なんだからっ!」
いやぁ、頼りにされるというのはいいものですな。それが自分の大好きなことで誰かを幸せにできるというのなら、これに勝る喜びはございません。
ラムさんとレーレィさんのいつもの漫才が終わったところでハティさんが帰還。お土産の果物と海産物を持参してのご登場です。
今回はオリヴィアさんがやってきた。シャングリラの子供たちの前に立つお姉さん。2本の赤い角がチャームポイントの素敵な女性。
「ただいま。果物と、貝を貰ってきた」
「ありがとうございますっ! それじゃあ果物は食後に、貝はさっそく焼いちゃましょうっ! オリヴィアさん、お久しぶりです。今日はチキンステーキなので、たーんと召し上がってくださいね♪」
「お肉っ! あ、すみません。はしたないところを」
どうやらお肉が大好きみたい。下ごしらえされたチキンを見てよだれを垂らし、星々の瞬きが如く瞳をキラキラとさせる。偶然とはいえ、好物の料理が出せてよかった。
グレンツェンが初めてのオリヴィアさん。見慣れない景色に右往左往しながらも、見知らぬ全員に挨拶と自己紹介をして親睦を深める。
これぞホームパーティーパワー。誰とでもすぐに仲良くなれちゃう。
ホムパは最強無敵っ!
だがこの時までは思いもよらなかった。
まさかこのあと、あんな大事件が起ころうとはっ!




