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ベレッタ奮闘記 7

 美しき茜空の輝きが差し込むリビングに机が1つ。椅子が7つ。

 わたしとユノさんの同居する家にしては多すぎる家具。だが、今日はこれでいい。今日のディナーは7人で楽しむ。

 わたしを助手として認めさせる、そのダメ押しのために!


 この日のために、あらゆる努力を惜しまなかった。

 家事の全てをこなし、助手としての仕事を覚え、冷蔵庫の中身を充実させる。冷凍庫の中身を消化しながら、すみれのアドバイスで冷食にアレンジを加え、半手料理へと昇華させた。

 冷食のサブスクを解約させ、サプリとプロテインのサブスクを解約させ、たっぷりと睡眠時間を確保させ、押し込まれていた日用品の山をあるべき場所へと全て戻した。


 傍から見れば、わたしは助手としての仕事をしているらしい。

 マルタさんから見ても、シェリーさんから見ても、ユノさんの講義を受けている学生さんたちから見ても。だけど、肝心の本人が助手として認識しないと意味がない。

 本人としては、ベルン来訪1日目から、わたしは助手をしていたのだろう。けど、明らかに、ユノさんの認識は一般人のそれとズレている。


 ズレているのなら、無理やりにでも合わせればいい。

 今日はユノさんと一般人の認識をすり合わせ、強引に認めさせるの会です。

 ユノさん以外の人たちにわたしをよいしょしてもらうのです。

 わたしが正しいと評価されれば、ユノさんだって認識を改めるはずです。


 という計画自体、自意識過剰なサイコパスな人間の発想だと思わなくもありません。

 八百長甚だしいにもほどがあります。それをシェリーさんとマルタさんに相談したところ、『そのくらい強引にやらないとダメだろうな』という反応。

 ユノさん、これまでどれだけの人を困らせてきたのでしょう。考えるだけでも恐ろしいです。


 そんなことを思い出してたらユノさんが帰宅されました。マルタさんを伴って、ホームパーティーを楽しみにしてくれる。

 明日が休日なのでマルタさんはテンションマックス。久しぶりのホムパということで、わたしもとっても楽しみです。


「いらっしゃいませ、マルタさん。わざわざのご足労、ありがとうございます」

「こちらこそ、呼んでくださってありがとうございます。と、それで」


 ちらり、とユノさんがリビングにいないことを確認したマルタさん。わたしの耳元で小さく確認事項をつぶやいた。


「彼女は、いらっしゃるのですよね?」

「大丈夫です。予定に変更はないそうです」


 マルタさんが握りこぶしを作る。眉尻は上がり、口角も少し上がった。

 わたしも貴女と同じ気持ちです。返すように、わたしも握りこぶしを作って笑顔を返す。


 続いて現れたのはシェリー騎士団長とバストさん。プリマちゃんも一緒にご登場。

 バストさんとプリマちゃんは仕掛け人ではない。単純に彼女たちがシェリーさんの家族だからついてきた。無論、邪魔者というわけではない。バストさんであれば、シェリーさんの言葉を肯定してくれるはず。

 きっと仕掛け人のシェリーさんの後押しをしてくれる。とても心強い助っ人です。


 プリマちゃんがマルタさんの手に渡されてもふもふ。ユノさんが厨房にこないようにもふもふ誘導。その隙に、シェリーさんがわたしの元へ歩み寄る。


「いい匂いだな。今日のコースはどうなってるんだ?」

「今日はフレッシュサラダにソラマメのバターソース添え。野菜スープ。天然酵母を使った自家製パンとパトゥルジャン・イマム・バユルドゥをアレンジしたパスタ。デザートはメルヴェイユのアソート3種です」

「ほ、本気も本気のコース料理だな。で――――ヘラさんは本当に来るのか?」

「大丈夫です。そろそろご到着されます」


 そうです。超多忙と噂のヘラさんをご招待いたしました。

 なぜなら、彼女はユノさんの師匠。彼女の言葉には基本、絶対服従なのです。外堀から埋めていくならば、ヘラさんをおいてほかに適任はいません。


「これ以上ないカードだと思うが、ベレッタ、随分と成長したな。なんていうか、強かになったというか、容赦がなくなったというか」


 冷や汗たらりとシェリーさん。客観的に見て成長したというのなら、わたしは以前より、大人になったということでしょう。そう捉えておくことにします。


「お褒めにあずかり光栄です。シェリーさんたちの土産話も楽しみにしてますので、よろしくお願いいたします」

「ああ、まぁあくまで仕事だったから、話せる部分だけな」

「はい、もちろんです。あ、噂をすれば」


 友人の来訪を報せる幸せのベルが鳴り響く。

 対応したのはユノさん。液晶越しのスペシャルゲストを認識するなり『げッ!?』と、とてもレディの口から出てくるとは思えない感嘆符を吐き出した。

 金髪ツインテールがトレードマークのアルマちゃん。

 隣には我らが市長、ヘラ・グレンツェン・ヴォーヴェライト氏。


 血の気が引いて自室に閉じこもろうと歩きだすユノさん。

 そうはさせまいと片腕を掴んで椅子に座らせるマルタさん。そのくらい強引でないといけないのですね。勉強になります。


 ユノさんの心の準備以外が整ったところで、玄関を開けてお出迎え。満面の笑みのアルマちゃん降臨。熱烈なビズを交わす。

 ヘラさんにも感謝のビズ。ご来臨いただいた女神様の手を引いて、今宵のパーティー会場へご案内。


 長机に7人席。時計周りに、ヘラさん、ユノさん、ベレッタ(わたし)、アルマちゃん、バストさん、シェリーさん、マルタさんの順番で並ぶ。物理的、精神的にユノさんが逃げられない陣形を構築。

 今日でケジメをつけてみせる。虎の威を借る狐のようで申し訳ない。が、つべこべ言ってる余裕もない。


「みなさま、お集まりいただき誠にありがとうございます。本日は友人としてのご招待ですので、気兼ねなく楽しんでくだされば幸いです」


 さぁ、謀略のホームパーティーの始まりだっ!


「まずは前菜。フレッシュサラダとソラマメのバターソース添えです」


 最初はオードブル。さっぱりとした新鮮野菜のサラダ。サニーレタス、トマト、ハスイモ、わかめ、ひよこ豆、ベビーホタテを和えた栄養満点サラダです。


「このきらきらしてる薄緑色のがハスイモですか?」


 初めて見たらしいアルマちゃん。照明にかざして美しいと呟いた。


「そうだよ。さくさくした食感が楽しくて、栄養価も高いからサラダにおすすめってすみれに教えてもらったの」

「ソラマメのソースとよく合うな。これもすみれから教えてもらったのか?」

「こっちのソースはヘイターハーゼのアポロンから教えてもらったんです。作るのが簡単で、おいしくて栄養満点のソースなんです。サラダもいいんですけど、ムニエルにつけたり、マッシュポテトに和えても抜群なんです」

「これはうまいな。シェリーも気に入ったようだし、よかったらレシピを教えてくれないだろうか」

「もちろんですっ!」


 シェリーさんとバストさんにも大好評。さすがプロの料理人が教えてくれたレシピ。完璧ですっ!

 ユノさんもヘラさんも満足な表情。マルタさんもワンダフルと笑顔をみせてくれた。アルマちゃんもすっかり食べきって、次の料理を楽しみにしてくれる。


 すみれ家のホムパになんどかお邪魔させてもらって、いつもすみれが楽しそうにしてた理由が実感として分かった。

 自分の作った料理で誰かを幸福にできる。それってとっても素敵なことなんだなって!


 お次は天然酵母を使ったパンと野菜スープです。


「んふ~♪ 外はパリッ。中はふわっ。当然、イースト臭もしない。とってもとってもワンダフルですっ! でも天然酵母って時間と手間がかかるのでは?」


 疑問を呈するマルタさん。たしかにイーストを使ったほうが早く仕上がる。けど、それは時間の使い方次第。上手に時間管理を行い、酵母の種を管理してあげれば、それほど難しいことはありません。


「実は家庭で作る分にはそんなに難しくないんです。種を適切に保管して、材料を捏ねて、適切な温度で保管しておけば勝手に発酵してくれます。朝に仕込んで、寝かせて、帰ってきた時ぐらいにちょうどよい具合に発酵してるので、ちぎって丸めてオーブンで焼けばできあがりです」

「え、そんなに簡単なんですか? なんだか難しいイメージが先行してました」


 小さめに作ったとはいえ、既に8個目に手を出してるマルタさん。

 よっぽど気に入ってくれたみたい。仕事の時には間食用にも作って行こうかな。


「アルマたちも天然酵母から手作りパンを作ってますよ。種は意外になんでもよくて、ニンジンでもイチゴでも、米でもなんでもいいんです。常に発酵した生地を寝かしてるので、おやつ用にちぎって焼いて食べてます。これがもうめちゃんこおいしいんですよ!」

「前にホムパしてもらった時は、それでフォカッチャを作ってたよね。すみれのビーフシチューを入れたり、チーズたっぷりのクリームチーズだったり、すっごくおいしかったなぁ~♪」


 思い出しただけでよだれが出てしまう。

 特にすみれ特製のビーフシチュー。お肉が信じられないくらい柔らかくて甘くておいしくて、今度は自分でも作ってみようと思います。


 パンの次は野菜スープ。カップ一杯にお野菜の旨味を凝縮した、これまた栄養満点スープです。隠し味には、


「なんとっ! スパイスを混ぜて味に深みを出しておるな。薬膳カリーの亜種のようだ」


 鼻のきくバストさんが気づいた。さすが猫の神。嗅覚は尋常じゃない。


「シルヴァの紹介で、ナマスカールのアイシャに話しを聞いたんです。野菜スープにスパイスのエッセンスを加える場合、どのような取り合わせがよいのか」

「参考にしたのはグリーンカリーかな?」

「正解です! スパイスと、隠し味にココナッツを入れてます」

「すばらしい味のバランスよな。これはおかわりをしてもよいだろうか?」

「もちろんですっ!」


 これまた大好評。サラダとメインの箸休め的な料理だったので、カップ一杯にしたのだけれど、予想以上に気に入られて2杯、3杯とおかわりしてもらえた。

 自分でもなかなかに力作の野菜スープ。好きを共感してもらえるって嬉しいです。

 ついで、バストさんから面白いお話しを聞くことができました。


「バティックで食べたグリーンカリーはうまかったのだが、油通しされた野菜や肉がふんだんに入っていて、熱々で食べにくかったから妾はこちらのほうが好みだ」

「ありがとうございます。って、え、カリーをバティックで? ナマス国でなくて、ですか?」

「うむ。便宜上、カリーと言ってるだけで、グリーンカリーはバティックの料理だ。そもそも語源は緑色をした甘い汁物料理だと現地人が言っておった。ちなみにこの写真はホームステイさせてもらった家で出してもらった豪勢なシーフードグリーンカリーだ。スパイスだけでなく、魚介から出た旨味が溶けだしてな、絶品であったぞ」


 現地人と思われる人々の中にダブルピースのバストさん。中央にはカニの爪や巨大なエビやら、煮込んだ魚の頭やらなんやら、とにかくめちゃくちゃ入ってる。

 料理を取り分けて食べる文化のある国の料理は、ひと皿の比重が偏るからとんでもなく豪勢に見えた。実際、きっと食べきれないくらい入ってる。

 料理以上に、みんなとっても楽しそうで素敵です。わたしももっとたくさんの人を笑顔にしたい。

 魔法で世界中の人々を笑顔にすると決意してるアルマちゃんのように。

 龍脈の謎を解き明かし、魔獣の被害を抑えて安寧の世界を実現しようとしてるユノさんのように。

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