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親の顔が見てみたい 1

今回は最序盤から登場していたペーシェが主観で進みます。

一見して普通の子が変わった趣味を持っているとギャップ萌えってなる場合がありますね。

可愛らしい趣味ならいいんですが、おっとそうくるか、みたいな人も時々いらっしゃるので紳士な対応と鉄の精神でもって接するのでなかなか骨身が砕けそうな思いになる時もあります。

ついでにペーシェの両親の物語もさらっと説明してくれています。

どういうわけか子は親に似るものです。まぁ一番近くで接しているし、親の行動や言動、態度を真似てオリジナルになろうとしているわけですから当然と言えば当然ですね。




以下、主観【ペーシェ・アダン】

 カリカリのトーストをかじり、ホットミルクをすすりながらパソコンの画面を凝視する。

 カーテン越しに朝の陽ざしを浴び、ルーィヒが愛でる小さなサボテンに霧吹きをし、やりすぎるなと注意され、デスクワークに勤しむあたしは楽しく悩みながらも思考をフル回転させていた。

 キーボードをパチパチと打ちながら、マウスのお尻を撫でて淡々と作業に没頭する。

 何も知らない人から見ると、与えられた仕事を無感情に進めてるように見えるかもしれない。

 実際は外面と違い、内心ではかなり楽しく、それこそ心躍るように想像が遊び回っていた。


 キッチン・グレンツェッタの内装。

 最初に想像した通り、客の導線に展示物を並べて物語調に仕立てていく。

 まず最初にダイナグラフでのコカトリス討伐。入口にコカトリスの頭部の剥製を置いて、続くパネルには包装紙にある線画のようなタッチで彼の地の景色を落とし込む。壁にはテレビを掛けて編集した動画を流したい。

 次はアイザンロックでの鯨漁の姿。大きくて立派な白い城をどーんと推し出して、海、巨大船、太陽、そして鯨。複雑なものは無し。単体で置いてインパクトを重視する。


 脳内に躍り出す思い出を捕まえて、1つ1つをコピー用紙に押し込んでいく。

 全体のレイアウト。

 壁一面の配置とデザイン。

 描き出すタッチを微妙に変えて変化をつける。

 天井にはモービルのような吊り物をすると面白いかも。

 そこかしこにインテリアを置いて、アイザンロックで宴会をやった食堂のような雰囲気を出せたら面白いだろうなぁ。

 そういえば、プレオープンをするのに食堂の扉を開放して、目の前の通りを使うって言ってたっけ。てことはその辺の空気感の演出もしていかなきゃかな。


「ペーシェさ、めっちゃ楽しそうじゃん」


 淹れたての紅茶を受け取って、彼女の表情をうかがう。

 面白そうなものを見る目。ルーィヒがこういう顔をする時はたいてい物事が上手くいってる時だ。

 あたしは彼女の審美眼を信じてる。


「さすが付き合いが長いだけあって分かっちゃう? こういうデザインを考えるのって結構好きなんだよね。初参加でこれだけ凄いメンツも揃ってるってなったら、全力でやりたいって思えるし」

「そうだねぇ。最初は無難な感じで進むかなぁって思ってたのに、毎回、ハティさんがハードルを上げてくれるから楽しくなっちゃうんだな。やっぱり只者ではなかった!」


 ひと目見た時からルーィヒの面白そうセンサーに引っかかったハティさん。

 やはり彼女の目は正しく、【刺激的】という意味では群を抜いている。


「ハードルの上げ方が常軌を逸してるけど……。でも難易度が高くなりつつも、ついて行ってるあたしたちってマジで凄くない?」

「それなっ! 男連中はノリがいいから頼りになるし、お祭りの実行部との橋渡しはシルヴァさんとクスタヴィさんが積極的にやってくれる。マーリンさんの知識と経験が半端ない。特にエマの視野の広さが尋常じゃないんだな。どの時間帯にどの講義を誰がとってるとか、この仕事は誰に振ったらよさげとか全部お見通しなところとか、1周回って恐怖を感じるレベル」


 ほんとみんなスペック高すぎて気遅れするわ。


「物腰柔らかくて社交的で人当りがいいとか、どんだけモテ女子なんだよって感じ。アーディさんがリーダーに推薦するだけあるわ。あ、このレイアウトを写メして一斉送信しといて。実際に出力するのはプリンターで。発泡スチロールの板に張り付けるから安価で、そんなに時間をかけずに作れるって付け加えといて」

「オッケー。て、これもう完成? 仕事早いんだな」

「録画した動画を静止画にして切り出しただけだからね。あと、みんなが写真撮影をしたデータも貰ってるから、素材が豊富で助かったわ」

「そういえばそんなことをしてたな。前に吸い上げてたデータはこれのためだったんだな。やっぱり仕事が早い」

「時間ってありそうで、楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうからね」


 たしかに、と肯定してデータを送信するルーィヒもとても楽しそう。

 実を言うとあたしもルーィヒと同じ。参加当初は簡単に考えてた。

 ストライキで料理用ゴーレムが返ってこなくなって、困ったヘラさんが思いつきで募集した企画。面白いメンバーが集まってると思ってノリで参加した。それがキッカケ。


 正直言って、ここまで本格的なキッチンになるとは想像だにしてなかった。

 定番のアイスクリームだとか、レトルトの串焼きだとか、そんなものを仲間たちと一緒に売って、楽しみながら過ごす。

 あわよくば彼氏ができたりなんかなー……って思ってた。

 それでいいと思ったのに、人生とは面白い。思い通りには転んでくれない。

 しかし、良いか悪いかは自分の考え次第。

 負担が増えたと思うか、乗り越える楽しみが増えたと思うか。


 だからこそ、どうせなら面白いと思えるように考えよう。


 前を向いてみるとみんながいる。自分の出来ることを一生懸命にやりきろうって頑張ってる。一番最初にあたしも頑張らなくっちゃって思えたキッカケがエマだった。

 突然推薦されてリーダーになって、それでも懸命に自分のできることをする。

 心の底から凄いなって思ったよ。だからさ、どうせなら、自分のしたいことで誰かを幸せにできるなら、これほど素晴らしいことはないんじゃないか。そう思ったんだよね。


 紅茶をひと含み。ことんとカップを机に置くと同時に返事が返ってきた。


「お、これでオーケーだってさ。あとは作業工程の見積もりを出してくれって」

「それなら今から出すね。はいできた。これ送って」

「いや早いよ。怖いよっ! 瞬間で書きなぐったの!?」


 そんなに驚かんでも……。


「そんなわけないじゃん。あらかじめ作ったやつ。デザイン自体の構想はあったから、あとは脳の外に出すだけだったし。ボケってやつさ」

「はぁ~……もしかして、この時点のことを見越して、珍しく朝早くから起きてたのか」

「そういうこと。まぁ昨日、ハティさんが牛を5頭も連れて来たっていうから、巻きでやらないとなんかヤバい気がするって思って。監査まで約20日。牛を屠殺して加工。メニューの確定。準備。プレオープン。メニューの再考。料理の準備。展示の準備――――とまぁ、だいたいこうなってくるだろうけど、同時並行したとしてもかなりギリギリだと思うんだよね」

「なるほど、考えてみればヤバいかも。それも含めて時間割りをきちんと出したほうがいいかもね。これまでは材料が揃ってから出発しようって、ふわっとした感じだった。今はもう食材も揃ったし、本格的に計画立てないと。ちょっと打診してみようか」


 さて、ルーィヒがエマに相談してる間に、出力するデータの作成といきますか。

 慣れた手つきで画像を加工。

 切り出した一枚絵を組み合わせて完成予想図を嵌め込む。

 コカトリスの頭をここに置いて、恐竜王を左下に。

 叫び声の咆哮と絶叫を乗せて、コミックのように雲を切り裂く描写。

 南国の背の高い木を並べて…………。


 時間も忘れて昼過ぎまで作業が進み、お腹がすき始める頃にようやく終わった。

 ここまではとりあえず、最低限のアイテム、時間と予算が余ればもっと他のことをしたい。だけど今はこれが精一杯。他の人にもヘルプを出したい。装飾班だったハイジはテーブルクロス作りのために引きこもる。今は彼女に頼めない。


 クイヴァライネン3兄妹は設備の確保。

 ハティさんやすみれ、エマシェアハウスズ、ヘイターハーゼ衆は大黒柱の料理作り。

 ベレッタさんはアルマちゃんのほうに顔を出してるみたい。ケビンさんは諸事情により謹慎中。

 社会人ズは頼りになるが多忙すぎてフットワークが悪い。仕方ないんだけどね。


 ミーナはアホだからあまりアテにはできない。力仕事を任せようか。

 ローザに頼むとアダムも付いて来て、のろけを見せつけられるのは精神的によくない。

 残るはルージィさんだが、彼もティレットのところに行きたがるから声を掛けづらい。

 残るは…………あまり頼りたくはないが、パシリ程度には使えるだろうアイツ。


 あまり頼みたくないというのは我が愚弟。

 愚弟の性格を暴露する前に、まずは両親の説明からさせていただきます。


 あたしの父の名はサンジェルマン・アダン。ベルンの西にある国、ハイラックス出身のハイラックス人。

 彼は若かりし頃、ハイラックス国際友軍と呼ばれる組織の一員だった。世界各地の紛争地域や魔獣討伐のために飛び回る彼らは、戦闘、医療、建築などなど、困窮する人たちの救いの手として、世界中から尊敬と羨望の眼差しが送られる存在である。

 厳しい訓練は勿論、世界中の言語、道具、兵器、文化を身に着けて、彼らの心に寄り添うことのできる、掛値無しのスーパーマンたち。


 志し高く集う同志の中、その男は志願の理由をこう述べた。堂々と、恥ずかしげもなければ冗談でもなく、本気で言ってのけたのだ。


【私が軍に志願した理由は、世界中の女の子たちと仲良くなるためです】

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