左腕のプリマ 4
おじいちゃんの興奮が冷めるのに時間がかかるので、気にせずサンジェルマンさんがエディネイに質問をかける。魔剣の話題だ。
「エディネイくんは魔剣の視察の助手だったんだよね。ぜひとも忌憚なき意見を聞かせてほしい」
「結論から言えば【凄まじい】と表現するしかありません。魔剣自体の威力もさることながら、その使い手は魔剣以上に強く、誇り高い戦士です。逆を言うと、魔剣は諸刃の剣です。ライラさんたちもおっしゃってましたが、使用者の選定は慎重にすべきかと」
エディネイの言葉をライラさんが繋ぐ。
「それでだな、サンジェルマン。報告書にも記載してるからあとで見てほしいんだが、エディネイは自分専用の魔剣を手に入れたぞ。しかも特注品。単純な魔剣の性能だけでいったら、天下無双だ」
「でもまぁ、あとは使用者の俺次第なんすけどね」
そうだぞ、エディネイ。
魔剣を使いこなし、リィリィちゃんが憧れるような女になるためには、剣と魔法の技量もさることながら、心の鍛錬も怠ることはできない。
その点を忘れてはならないのだ。
得意げになって照れ隠しながら自慢話をひけらかしてるようではいかんぞ?
続いて、隣に座るアナスタシアにレオさんが話題を振った。
「アナスタシアは出張じゃなくて個人的な旅行って形だったんだよね。異世界はどうだった? ご飯はおいしかった?」
「私は暁さんに専用の刀を打っていただける幸運に恵まれました。彼女が刀を打つ姿は力強く、とても神々しく映りました。刀身は呼吸を忘れるほどに美しく、優しさと厳しさを併せ持った素晴らしい刀です。その刀も魔剣なのですが、暁さんが打たれる魔剣は他のものとひと味もふた味も違うんです。折り返し鍛錬を行いながら、折りたたまれた鉄の中に魔術回路を刻んでいくという超絶技巧なのです。あ、でも、拵が完成してないのでまだ手元にはありません」
「すごい熱量だ。エディネイもアナスタシアも魔剣を手に入れたのか。今後の展開が楽しみだな」
生き生きとしたアナスタシアの熱量が伝わってくる。夢にまで見た刀を打ってもらった。暁が、彼女のために。
だけれども、それは始まりにすぎない。念のためにとライラさんが釘を刺す。
「実技で魔剣を使わせるつもりはないけどな。魔剣持ちの戦闘を肌身で味わったからわかる。あれは神器と肩を並べる代物だ。2人とも、そのところをしっかりとわきまえるように」
「「はいッ!」」
覇気のこもったいい返事だ。
彼女たちの将来が楽しみである。
魔剣の話しもいいけれど、と切り出して、お姫様が乗り出した。
「フェアリーのお話しをもっと聞きたいです。みなさん、夕食とパジャマパーティーと翌日の朝食とランチとティーパーティーをしながらフェアリーのことをもっと教えていただけますか?」
「姫様、要求が多すぎます」
「姫様さえよければ、どこまでもおつきあいいたします」
「ええ、わたくしもフェアリーの素晴らしさを語りたいと思います」
「彼女たちは本当にかわいかった。永住したくなるほどに」
止めに入ったソフィアもまんざらではなさそう。話しを聞きたくてしょうがないといった顔をしてる。
お姫様の願望はとどまるところを知らない。高い頭脳を巡らし、合法的に、根拠を添えてフェアリーと触れ合う機会を探る。結論が出るのに時間はかからなかった。
「これはもう、わたくしが外交の親善大使として任命されるしかありませんねっ!」
「もちろんだとも。存分に楽しんできなさい。間違えた。異世界間交流の橋渡しとして、存分に尽力しなさい」
そこは国王として間違えちゃダメなやつ。
ほんとうに親バカなんですから。まぁでも異世界であれば姫様が誘拐されたり、襲われたりする可能性は極めて低いだろう。
つまり彼女が思いっきり羽を伸ばす機会が増えたということ。
まだまだ遊び足りない青春真っ盛りの女の子。ガス抜きをしておかないと破裂しますからね。内臓されてるガスの容量が半端じゃないんですけどね。
全体を見渡してわきあいあいとした雰囲気。
会議を始める前は、異世界の存在を公開して否定的な意見が浮上するだろうと予測していた。その否定的な意見はフェアリーの存在で吹き飛ぶことも予想してた。
なので計画通りである。
総じて前向きな発言が多く、全員一致で異世界間との貿易をはじめ、技術交流をしていく流れとなった。
会議の資機材を片付ける合間も、プリマは左腕にくっついている。もはや防具を装着しているような感覚すらあった。
どれだけ私のことを愛してくれてるのだ。嬉しい限りじゃないか。
左腕のプリマの背をさすってやると、気持ちよさそうに甘え声をあげてくれる。ふさふさの毛並みににゃんにゃんと愛らしい嬌声が耳に触れた。なんという至福。
「プリマちゃん、本当に左腕にくっついてらっしゃるのですね。占い師の言葉通りです」
手伝いをかってでてくれたアナスタシアが羨ましそうにプリマに視線を落とした。
もふりたいか。そうだろう、もふりたかろう。仕方ない。もふらせてやろう。
なでるか、の問いに、ぜひ、と返してくれる素直な君は素晴らしい。存分にもふってあげておくれ。
「あ、ずるい。俺ももふらせてもらっていいですか?」
「無論だ。優しくなでてやってくれ」
ふさふさ。
もふもふ。
にゃ~ん♪
これが癒しか。
~おまけ小話『使い魔と主人』~
バスト「あれから3日、お出かけの時は必ず腕にくっついて行動を共にしておるわ」
フィアナ「それだけシェリーさんのことが大好きということですね。全身で愛を表現する。ちょっと妬けちゃいますね」
アナスタシア「フィアナにはラックスがいるよね。帰ってきてから甘えてきたりしたの?」
フィアナ「それはもう寂しくて寂しくて仕方なかったみたいですわ。声をかけるなりわたくしの腕に飛び降りて甘えるように鳴くんです。それはもうかわいくてかわいくて仕方ありません。あ、アナスタシアさんももふもふしますか?」
アナスタシア「もふもふ。相変わらずいい毛並みだ。フクロウだけどちっちゃくてかわいい」
フィアナ「そうでしょうそうでしょう。アナスタシアさんは使い魔を使役するというのは考えてらっしゃらないのですか?」
アナスタシア「考えたことはある。けど、センスというか、相性というか。そもそも寿命が延びるというが、生物としてどうなのかとか考えたら、真剣に向き合わなきゃいけないと思ったんだ。だから軽々に使い魔を使役するつもりはない」
バスト「よい心がけよな。お互いが強い絆で結ばれなければ、使い魔として契約することは叶わぬ。もしそうでなく契約してしまえば、おそらくお互いにとって不幸な結末しかあり得ぬだろう。使い魔との契約は、人間で言う結婚に似ておるからな」
フィアナ「おっしゃる通りですわ!」
ライラ「寿命を全うする前に使い魔との契約を解除したあとの放逐問題は国際問題になってるからな。使い魔に関する法律というものはまだないが、それでもペットを飼う以上に責任が伴う。慎重に、真剣に考えるのは大事なことだ」
フィアナ「ええ、使い魔契約を解除したあとは通常の動物に戻ります。主人から捨てられたと思った動物は衰弱死したり、辛辣に扱われていた使い魔は解約後、元主人に報復をしたというケースもあります。愛よりも深く、結婚には至らずとも、正しく友情と尊敬を育むことこそ大事なのです。これは使い魔に限った話しではありませんが」
バスト「素晴らしい気概である。世界中の使い魔と人間がおぬしらのような関係でいられれば、世界はもっと平和になるというものだろう」
シェリー「動物を軽んじるものなど万死に値するな」
バスト「気持ちはわかるが、それは行き過ぎな」
異世界間の問題などフェアリーに会いたいという気持ちひとつでどうでもよくなってしまった面々。魔剣、魔鉱石、異世界、アンデット、フェアリー。未知なる世界に可能性を感じ、両者の世界は繁栄を共にすることでしょう。
プリマは大好きなご主人様と一緒にいられて大満足。シェリーの輝かしい未来は約束されました。
次回は、少し時間を遡ってベレッタがユノの元に助手になった時のお話しです。
曲者のユノの奇行に戸惑いながら、己のすべきことを見つめ、実行し、強硬し、あの手この手でユノを納得させようとする回です。
後半は異世界渡航から帰ってきたシェリーたち一行をホムパへ呼び、周囲の圧力でもってユノを篭絡していきます。




