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ハイジの夢

今回は海凪ハイヂーが主観の回です。

作中ではハイジという表記です。ヂよりジの方が見た目が可愛いという理由だけです。

南国の島国で育ったため、水着姿の男性を見る機会が多く、筋肉好きになっていきました。

ガチガチのガチムチ大好きっ娘。

普段はクールだけど、好きなことになるとテンションが上がりすぎて鼻血が出ます。




以下、主観【ワンハイジー】

 ハティさんはみんなに説明を終えたのち、知り合いに話しを通してくると言ってさっそく出かけてしまった。

 なんの話しを通してくるのかの説明が無い。

 天然が仕掛けるサプライズほど恐ろしいものはありません。

 本当に自由奔放というか、掴みどころがないというか、不思議な人だなぁと感嘆のため息がでてしまう。


 ため息が出ると言えば、ハティさんが牛と一緒に持ち帰ったこの朱色の反物。絹のような肌触りを持ち合わせ、輝くような朱色はわずかなグラデーションをつけて郷愁を誘った。

 秋晴れの夕日のような印象を受ける。


 アポロンさんによると、これは天網恢々(てんもうかいかい)を作る天蓋蜘蛛の糸を撚り合わせ、手織りの(はた)で柔らかく織り込まれたものだという。

 色は夕焼けの色で染め上げた超一級品。夕焼けで染めるだなんておしゃれな言い回しから察するに、反物の作者は相当なロマンチストに違いない。

 蜘蛛の糸で織られた反物だなんて聞いたことがない。噂によると、蜘蛛の糸を特殊な製法で編み上げる技術もあるという。これもそれなのだろうか。

 強靭でしなやかであるとは聞いたことがある。まさかこれほど上品なものだとは知らなかった。

 こんなにも素敵な物をドレスにできたらどれだけ美しいだろう。

 テーブルクロスにして刺繍を施すというのもアリだ。

 和服のような優雅な装いにするのも素晴らしい。

 あぁ、妄想が止まらない。


「ハイジは大丈夫? 反物を抱きしめて恍惚としてるけど」

「はっ! すみません。あまりにもいい肌触りだったもので」


 マーリンさんに肩を叩かれてようやく正気に戻った。


「ハイジは刺繍作家になるのが夢だもんね。気持ちはわかるけど、少しだけこっちにも意識を向けてくれると嬉しいわ」

「す、すみません」


 いかんいかん。今は大事なディスカッション。

 素敵すぎて精神が酔っぱらってた。

 今はチームワークが大事な時。陶酔に浸るのはあとにしよう。


「それじゃあ。えっと、シルヴァちゃんと相談したんだけど、まだ日にちもあるし、食材も経費も残ってる。だけど、みんなってこういう食堂を運営するのって初めてだよね。だから本番に備えてプレオープンをするのはどうかなって思うの」


 言われてみれば確かにその通り。運営側の人数も対応人数も設備もなにもかもが未経験。そもそもほとんどの人は飲食店での仕事が未経験。

 なんとなくの流れは想像できる。でも実際にやってみると思い通りにいかないなんてことは当然として存在する。

 どこかで経験しておかないと、本番になって絶対につまずくだろう。


 万一のことがあっても一般的な学祭とか、小規模なお祭りならまだ小規模の事故で済むかもしれない。

 しかしフラワーフェスティバルは世界中から人々がやってくる超大規模なお祭りの1つ。小さな小石で数百人という規模の人間が将棋倒しになってもおかしくない。

 問題点の洗い出しはしておかなければならないのだ。


 マーリンさんを中心に、みんなはあれやこれやと意見を出し合う。

 正直言ってそういった飲食店関係の話題についていけないというのもあるのだけれど、この柔らかな肌触りが癖になってしまって仕方がない。

 自分でも気づかないうちに頬ずりしてしまう。全然話しに集中できない。


 これを刺繍するならどんなものがいいだろうか。

 キッチン・グレンツェッタで使うなら、やっぱり今回の狩猟や漁で携わった経験を活かすのがいいだろう。

 どちらもエスニックな感じで抽象的な模様がいいかもしれない。これほど見事な朱色であれば、シンプルに白の絹糸。それに金糸をアクセントに使えば、より上品かつ神々しい寄りの豪華なものに仕上げられるに違いない。


 想像しただけでよだれが出てしまう。当日の給仕服なんかは全てレンタル品を使うから、あたしの出番はない。自分の長所を生かす場所がなくて残念に思っていたフラストレーションを発散できるかもしれない。

 ペーシェと一緒に展示物の手伝いはしてるものの、本当に補助って感じで、9割がたはペーシェが担っていた。


「なんかもう、ハイジちゃんは恋しちゃってるわね」

「はっ! すみません。あんまりにも肌触りがよくって」


 やべえ。また自分の世界に入り込んでた。


「でもそれって、一応ハティちゃんのでしょ?」

「お願いしたら譲ってもらっちゃいました。裁縫はそんなに得意じゃないし、大事に使ってもらえる人に持っていて欲しいって言われて。それで、これを使って何かできないかと思ってるんです。例えばランチョンマットに加工して雰囲気づくりをしたりとか。刺繍して、ジャングルや港町で出会った景色を落としこんだりとか。展示だけだと、全体としては少し寂しいかなって思ってて」

「本当にそういうところに頓着ないな。ハティさんは」

「とっても素敵なアイデアね。でも時間的に大丈夫? 結構かかると思うけど」

「その辺は大丈夫です。難しい模様にしなくても、あたしたちの見て来たものを落とし込めます。これはいつも持ち歩いてるスクラップブックなんですけど、ダイナグラフとアイザンロックに行った時にスケッチしたやつ。刺繍をする時に参考になると思っていつも書きとめてるんです。ちなみにこのハンカチの刺繍はあたしがしました。どうですか?」


 真っ白なハンカチの淵沿いに、鯨と雪うさぎと熊の模様を並べた渾身の力作。

 一匹一匹の仕草に個性を入れ、見ていて飽きないような仕上がりになっております。


「かわゆい。雪林檎を抱きしめてるゆきぽんが一番かわゆいの!」


 ヴィルヘルミナが絶賛。どやぁ!


「凄いな。いつも何かメモをとってると思ってたが、これのためだったのか。恐竜王の鱗の模様って……いつ見たんだ?」

「近づいた時」

「あ、うん…………」


 ペーシェは淡白な回答に言葉を失った。


「なるほどね。それじゃあそっちはあなたに任せるわね」

「よっしゃあっ! あ、すみません。任せて下さいっ!」

「めっちゃ生き生きしてる!」


 ヴィルヘルミナのつっこみにみんな大爆笑。

 当の本人は赤面必死で顔から火が噴出しそう。

 リーダーのエマは涙を浮かべて笑いながら、『こっちのことは私たちに任せて。ハイジさんは元々、店舗レイアウトの方が担当だからそっちをお願いします』とフォローを入れてくれた。

 これがどれほど助けになるか。アーディさんがリーダーに推薦したのも納得できる。

 そういうわけで、あたしは少しの間、離脱するけど本領発揮といきますわ!




~おまけ小話『ナチュラル』~


ガレット「ハイジさんはどうして刺繍作家になりたいと思ったんですか?」


ハイジ「それはね、初めてタイドレスの刺繍を見た時だよ。両親の友人の結婚式だったんだけど、それがすっごくキラキラしてて、超かっこいーって思ったの。そこから刺繍とかテキスタイルに興味を持って、グレンツェンに来たってわけ」


ペーシェ「あれ? でもグレンツェンって刺繍の本場ってわけじゃないよね?」


ハイジ「まあね。でもここからなら、ハイラックスや首都のベルン、北欧に足を伸ばしたりと利便性がいいからね。それに自然と人が調和してる街ってすっごい大切なことだと思うんだよ。美は自然の中にあり。色彩と花の都なら、いい刺激が得られると思って。多国籍の街ってのも理由かな。あとは、父がグレンツェンの下水処理場で出向してたことがあって、世界中を見てきたけど一番素晴らしい景観の街はグレンツェンをおいてほかにない、って断言したっていう理由もある」


ヘラ「市長として、このうえない賛美だわ♪」


ガレット「グレンツェンは本当に素敵な街ですものね。市が管理してる庭園だけでなく、ここに住む人たちみんながなにかしらお花のお世話をしていて、一つ一つは小さくても、寄り集まって大きな花になる。とっても素敵な街だと思います」


ハイジ「あたしもグレンツェンに来てよかったよー。お隣さんもすっごくいい人で、よくお食事を一緒にするんだー」


ガレット「わぁ素敵! 今度ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」


ハイジ「きっと大丈夫だよ。予定が立ったら連絡するね」


ヘラ「ナチュラルに約束をとりつけちゃうあたり、文化的背景があるのよね?」


ベルベット「彼女の故郷の生活では、相互扶助が前提みたいです。最初は本当に驚かされました」


ヘラ「それもまた異文化交流の醍醐味ね♪」

普段何気なく入っている飲食店。美味しいご飯もそうですが、雰囲気作りって大事ですよね。

極端な話し、ラーメン屋さんなのにインド風のレイアウトで、カレーラーメンでもあるのかと思ったら普通にラーメンしかないってなるとなかなかカオス感しか出なくなります。

かと言って何もないと、おいおいマジか。となるわけです。


逆に言うと、同じ系統の業種でも店主の趣向でレイアウトが違うので、注意してみてみるのも楽しみの一つかもしれませんね。特に個人経営の居酒屋なんかは面白いです。

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