あくあぱっつぁっつぁ 6
さぁ、本日最後のスイーツは、
「ほい、夜は短し楽しめホムパも最後のひと皿となります。フラウウィードで教えてもらったどらやきまりとっつぉをホムパ用に作り替えたどらやきケーキです」
「マリトッツォの部分が完全に消えてしまってるじゃないか」
すみれの手よりあらわれいでたるはふわもち食感のどら焼き生地でたっぷりのバタークリームとこし餡をサンドしたケーキ。
超巨大どらやきとも言いかえられるそれは、見たことがあるようでないような、不思議な雰囲気を醸し出す。
すみれの水玉マリトッツォが原型。独自解釈して作られた倭国風マリトッツォは米粉を使用した生地でふわもちに。
中身は濃厚なバタークリームに加え、砂糖を加えてないこし餡のダブルパンチ。
バタークリームの甘さとこし餡の風味が抜群にマッチした至極の逸品。
参考にした生地にはドライストロベリーを細かく砕いたものが混ぜられており、フルーツのアクセントがくわえられた。目の前にあるものはストロベリー要素を抜き、よりシンプルに仕上げられたもの。
入れたナイフを弾き返そうとする強い弾力性。
切り込みを入れるとふわりと香る生地の柔らかく芳醇な香り。
金色、白、黒、金色。なんて美しいカルテット。恍惚となってよだれがたらり。
見ただけでおいしいと分かってしまうやつ。
「うんまあ~~~~いっ! もっちもちの生地とバタークリーム、こし餡が口の中で混然一体となって、幸せが脳天直撃!」
「なるほど。こし餡に砂糖を使わなかった理由がわかりました。バタークリームとこし餡が持つ風味が混ざるだけで抜群においしいです。逆にこし餡まで甘かったら、甘すぎて食べ辛いでしょうね」
パーリーの番人、レーレィさんとグリムさんから超高評価。
「これ、上と下の生地の中身が微妙に違うよね。上が下より柔らかい。分量変えてる? (アポロン)」
「さすがアポロンさん。おっしゃる通り、食感を変えるために米粉の分量を変えてます。食感が変わると味の感じ方が変わりますからね (すみれ)」
「いつも思うけど、すみれって本当に芸が細かい。わざわざニンジンを星型に切ったりとか。プロフェッショナルだわ (レレッチ)」
「シチューに入れたニンジンをうさちゃんの形に切ってくれました。かわいくっておいしくって、ニンジンをシチューに入れる時はいっつもいろんな形にしてるの (シシリア)」
「そういうのいいね。料理はおいしいのも大切だけど、楽しいのも大事だからね (ラム)」
「ちなみに、すみれの作ったニンジンのうさぎって、平面じゃなくて立体です。ニンジンで彫刻してましたよ (レレッチ)」
「芸が細かいっていうか、超絶技巧っていうか (ラム)」
呆然と呆れて言葉に詰まるラムさん。
平面に切るならともかく、立体に彫刻してしまう離れ業。シチューからうさぎがこんにちはした時は驚いたわ。
それも含めて食事の楽しさ。エンターテイメント。他者の幸せのために努力を惜しまない。そんな彼女にみんな惹かれるんでしょうね。
椅子に深く腰をかけ、あたたかいハニーティーを口に含んで空を見上げた。
今日も快晴。満点の星空。
目を閉じれば、きっとこのまま幸せな夢へ一直線。
嗚呼、こんな日がいつまでも続きますように。
~おまけ小話『昼のグレンツェン』~
シシリア「ずっとずっと向こうまでお花がたくさん。こんな景色、見たことない!」
ライアン「マジですげー。見渡す限り、花ばっかりだ。噴水もある。涼しくていいな」
すみれ「ほんとに素敵だよね。見てるだけで気持ちがわぁーって明るくなっちゃう」
シシリア「ラクシュが言ってた。シャングリラの丘をお花でいっぱいにしたいって。きっとこれを見たからなんだね」
ローザ「それなら、ぜひともダマスクローズを植えましょう。見渡す限りのピンクの絨毯。きっと壮観になるに違いない!」
シシリア「ダマスクローズ? バラですか?」
ローザ「そう! とっても香りのいい種類のバラなの。見た目も香りも最上。お菓子や紅茶にもなる素敵なバラ」
ライアン「でもラクシュは緑色が好きだからな。ピンクも好きだけど」
ペーシェ「ローザ、お前の好みを押し付けるなよ」
ローザ「緑色のバラもあるよ?」
ペーシェ「お、お前…………!」
すみれ「緑色のバラってちょっとミステリアスな印象。赤の対になるからかな」
ペーシェ「補色の関係からきてるのかな。たしかにバラって赤色のイメージがあるから、真反対の緑色はちょっと不思議な感じがするかも」
シシリア「一色は壮観かもしれないけど、わたしはグレンツェンみたいにカラフルな景色にしたいな。そっちのほうが楽しそう」
ライアン「シシリアがそう言うなら俺も賛成だ。せっかくだから世界中からいろんな花を集めたい」
ローザ「バラのことなら任せてっ!」
ペーシェ「バラ以外は?」
ローザ「ある程度分かるけど、そんなには知らない。というか、種類が多すぎて世界中の全てを網羅してる人はさすがにいないでしょ」
ペーシェ「それは、まぁねえ。シトラスさんレベルならなんでも知ってそうだけど」
シシリア「大丈夫。世界中のみんなはハティお姉ちゃんの友達だから、誰か知ってる人がいるはず」
ローザ「シャングリラの世界において、その言葉がそのまま現実だから凄いわ」
ペーシェ「とかく今はこの景色を目に焼き付けて、みんなに教えてあげてほしい。あたしたちもできることがあるならいつでも頼ってね。またシャングリラに遊びに行きたい」
ローザ「本音!」
アクアパッツァを用いてオリーブオイルと米油の好みの違いを解き明かした(?)キキは知的好奇心が満たされ、また一歩、素敵なレディへ近づくことができました。
これからもおいしい鮎料理を堪能し、楽しいホムパが続くことでしょう。
次回は、異世界旅行から帰省したばかりのシェリー主観のストーリーです。
ウララの占い通り、左腕にくっついたプリマをたずさえて、視察という名の旅行記録を騎士団長全員の前でプレゼンすることに。その中にお転婆ガールこと、シャルロッテ姫が。
彼女はどんな暴走を見せてくれるのでしょう。




