あくあぱっつぁっつぁ 4
歓談しばらく、遂に待望の新メニューがお目見えです。
まずはうるかを散らしたフレッシュサラダ。
お次はメインの2皿のアクアパッツァ。具材はじゃがいも、トマト、パプリカ、あさり、タケノコ、半身の鮎が2枚。1枚は一般的な工程を踏んだもの。もう1枚は一般的な加工の最後に燻製にして旨味を増したもの。
使用したオイルはオリーブオイルと米油。
アヒージョはオイルを食べる料理。
アクアパッツァはオイルは使うがメインは魚や野菜。
そこまで味に違いが出るものなのか。
そんな疑問を浮かべるみなさん。食べてみたらわかります。
「おいしい。どっちもとってもおいしい!」
ハティさんはそうでしょうね。
この人の舌にかかれば、なんだっておいしいという。
「ジューシーなトマトにもパプリカって野菜にも煮込んだ魚と貝の旨味が染みててうめー!」
「本当においしい。全部食感が違って楽しいね」
13歳と自己紹介してくれたライアンくんとシシリアちゃん。その歳でだいぶ舌が肥えてるな。
シャングリラの食事の文化レベルは決して高いものではない。
しかしそれを凌駕するほどに、土地がいいから食材ひとつひとつの品質が高いのだ。料理もシンプルながらに食材の長所を活かすものだった。
よくよく考えてみれば、なるほどそりゃ舌も肥えますな。
「んん~♪ これだけ具沢山で、しかも2種類の鮎の身があるとなると、ひと皿で何通りもの食べ合わせができて楽しいです。はっ! これ、完成した料理ごと燻製にしませんか? 絶対にもっとおいしくなると思います」
「いいですね。試しにやってみましょう!」
燻製大好きなプラムさん。まさかのオーバーキル。
やってみましょうと受けるすみれ。食への飽くなき探求心とは恐ろしい。
「鮎って話しだったけど燻製にするって聞いて、ワンチャン赤ワイン要るかもって持ってきて正解だったね。白身魚に白。燻製は赤もいける♪」
「ですね。淡泊さを残しながら、燻製にすることでしっかりした味になってます。きっと燻製前の下味がしっかりしてるからでしょう。これは新しい発見です」
「はふー。どっちもうまうまですね。あ、そうそうこれなんですけど。故郷のメリアローザで作ってる梅酒です。よかったらみんなで飲みましょう」
恐ろしく用意周到なレーレィさんとグリムさん。白身魚料理って聞いて、それを燻製にするからって、ワンチャン予測して赤ワインを持ってくるとか冒険者すぎるでしょ。
悉く常識を破壊してくるクラッシャー。だからこそ、パーリーの総菜コーナーを長年に渡って愛される場所にできたのだろう。
アルマのお土産の梅酒。
ただの梅酒だったら忌避してたかも。しかし倭国産の梅酒は別。
梅酒の醸造において倭国の右に出る国はない。欧州の梅酒でさえ、倭国の醸造メーカーと技術者に指導してもらって、やっと売れる商品になった。それも高級ブランデーとかすごいやつ。
梅酒はただただ酸っぱいだけの酒。そんな世界の常識を覆した島国の情熱。
はてさて、真実やいかに。
「うっっっま! なにこの心地いい酸味と梅の香りと独特の甘味。めっちゃ飲みやすい。食前酒にもデザート酒にもなれるでしょ。やっば、これ。ネット販売とかしてんの?」
お酒大好きバーテンダーのラムさんが大興奮。
「おいしい。すごく飲みやすくて酸味と甘みのバランスが絶妙です。野暮かとは思いますが、1本おいくらするのですか?」
お酒に目がないエマもご満悦。
アルマが自分のことのように喜んで笑顔を向けた。
「えっとですね、まずこれは知り合いの農家さんが趣味で作ってるだけで、ネット販売はしてません。価格はその時の収穫量とか質にも左右されるんですが、今年は豊作で出来もよくて、それでだいたい2000ピノです」
「この品質が750mlで2000!? 安っ! あれ、趣味? それって密造では?」
「免許というか、許可証は持ってますので大丈夫です。あ、こっちのボトルはみなさんへ。レーレィさんに1つ。グリムさんに1つ。ラムさんとプラムさんに1つ。エマさんたちに1つ」
「1人1本じゃ…………ない?」
エマはお酒のことになると体面を忘れてしまうのが玉に瑕。
「すみません。数に限りがございまして。メリアローザでも人気商品なので、勘弁してつかぁさい (アルマ)」
「ぐぬぅっ! (エマ)」
「エマって酒のことになると積極的になるよな (ウォルフ)」
「ちなみに料理に使っても超おいしいですよ! (すみれ)」
「いよいよ欲しい。今度里帰りする時に一緒に連れってくれない? (ラム)」
「ぐっ、ぬぅっ、その、ええと、日が合えば。それと暁さんが会社の社長的なアレなので、秘密的なアレを守ってもらえるなら (アルマ)」
秘匿主義の倭国にはいろいろあるらしい。
そこは外部の人間には分からないのでとりあえず首を縦に振るラムさん。
実際はメリアローザが異世界なんて言えず、嘘を吐けず、頑張って嘘じゃないけどーーーみたいな言葉で頑張って誤魔化そうとした。
アルマの故郷はめっちゃ気になる。
だけどあんまり触れるとスルーされそうなので話題を変えましょう。
ハティさんにロックオン!
「今日はラクシュミーちゃんと、孕子ちゃんと孕伽ちゃんは来てないんですね」
続いて妹大好きラムさんが悲し気な声を上げた。
「そうですよー。シャングリラから子供たちを連れてくるって聞いてから、てっきりラクシュミーちゃんたちも一緒かと思って、今日はお酒とかお肉じゃなくてフルーツティーを持ってきたのに。5ℓも」
「気合いがすごい! ちなみに私も持参しました。キュウイとベリー系が入ってます」
心の妹を笑顔にしたフルーツたっぷりフルーツティー。
またあの笑顔に会いたくて、お土産分も作ってきてる。なので余った分は持って帰らせるつもりでいた。
私が持参した分も飲んでもらいたいので持ってってもらおう。
「みんなを連れてくると屋上テラスがたいへんなことになる。だから今日は2人だけ。グレンツェンが初めてのライアンとシシリア。2人ともすっごくいい子」
ハティさんに紹介されて、ライアンくんが前のめり。
「ラクシュから聞いてるぜ。料理がめっちゃおいくてカラフルですっげーところだって。マジやべーぜ! こんな景色見たことねえ。飯もちょーうめえ! あと久々にチーズの入ってない料理を食った気がする」
どうやらエリストリアさんは相変わらずのようだ。
続けてシシリアちゃんが後を追う。
「こんなにたくさんのお花に囲まれてご飯を食べるなんてとっても素敵! お日様に照らされたグレンツェンも見てみたい! それと久々にチーズのない料理なので、心が休まります」
想像に難くない情景に心が痛む。
「え、なに? 毎食チーズ食べてんの? 飽きるほどに?」
ラムさんがつつくと、ハティさんが超珍しく眉間にしわを寄せて語気を強めた。
「辟易しているっ!」
「ハティさんが難解な語彙を使ってます! これはよっぽどのようですね」
エリストリアさん………………。
相変わらずのようでなによ――――いや、よくないのか、これは。
彼女のチーズの暴挙から逃げるには、暴君をグレンツェンに留めるしかなかろう。そうなるとすみれたちに被害が及ぶのか。
ああもうこれ、どうしようもないな!




