あくあぱっつぁっつぁ 2
うまうま。まぁでも、森の中ならともかく、川縁で火を使うこと自体は禁止してないのでいいでしょう。ちょっとグレーな気もするが。
風に煽られて火の子が飛ばないようにしっかり石でガードしてる。
風下が川側になるように配慮もしてるしスルーでいいでしょう。
うまうま。
それにしても、だよ。
キキちゃんとヤヤちゃんが鮎を釣り上げるペースが異常すぎるんですけど。
いくら養殖とはいえ、釣れすぎではないでしょうか。
ごちそうさまでした。
釣っては捌き。釣っては捌き。釣っては捌いた魚を食べる。
阿吽の呼吸でキャッチ&クッキング&イート。
1分で1、2匹以上は釣り上げてるんですけど。
なにこれ。ハティさんから伝授されたスぺシャルな魔法でも使ってんの?
食べ終わったので土に還そうと、ちょうどいいくぼみを見つけて近づくと、おそろしいことに数十匹の亡骸が埋葬されていた。
既に何匹かお腹の中。
燻製にされてる魚は30を越えた。
彼女たちのバケツには満員電車も真っ青の鮎。
これ、100とかそんくらい釣ってんじゃん。
順次放流してるから川の中の鮎がゼロになることはない。時間いっぱいまで多くの人々に楽しんでもらいたいからだ。
スタッフに声をかけられるまで、時間いっぱいまで釣りを続ける人はそうはいない。だいたいの人は終了時間前に片付けてしまう。
そうなればもう彼女たちの独壇場。体力無限の双子は延々と竿を振り続ける。
それが悪いわけじゃない。
ルールの範囲を飛び越えてはいない。
いないがしかし、子供の無邪気ってこえええぇぇぇぇぇぇっ!
宴もたけなわ。残念なことに終了時間と相成りました。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうもの。もう終わっちゃったと肩を落とす無邪気の化身たちは、まだまだ遊び足りないらしい。
「はぁー、楽しかった。でももっと釣りしてたかったな」
マジか、すげー。
もうそんなバイタル、私にはないわー。
「残念ですが撤収しましょう。今晩は鮎祭りです。スイートフィッシュでホームパーティーです!」
鮎祭りのホームパーティーなんてエメラルドパークでもしたことないわ。
「でもその前に、機材を貸してくれたプラムさんたちに恩返しにいこうね。それから、グレンツェンに戻る前にライラさんのところに寄ってかなきゃ」
「おばさんのところに? 用事でもあるの?」
「うん。鮎釣りイベントのことはライラさんに教えてもらったの。それにメリアローザで食べた鮎の黄金定食を息子たちにも食べさせてあげたいってお願いされてるんだ」
「もしかして、鮎釣りイベントのこと、と、ルールとか内容を聞いたのって。ほら、釣ってすぐに捌いてたじゃん。そういうのが問題ないって聞いたのって、まさか」
「ライラさんからだよ?」
あばさあああああああああああああああああああああああんッ!
たしかに違反行為じゃないけど、まさかの身内が裏技教えたやつ!
裏技を知ったからって、実際にそれを実行しちゃうすみれ!
なにより、分速1匹で釣り上げちゃう双子の釣りの上手さよ!
おかげでバケツ4杯を満杯まで満たした。
すみれの背中には、燻製と日干しにした鮎の干物が連なり重なり、二宮金次郎みたいな姿になっちゃってる。
おかげで私がバケツを1つ持つはめになったじゃないか。
みんなが楽しんでくれたならそれでいいんだけどね!
本部に戻ると彼女たちの話題で持ち切り。
放流係からは、『放っても放っても鮎が足りなくなるからおかしいなって思ってた』と大笑い。
鮎釣りイベントの運営に古くから携わった古参も、こんなにたくさんの鮎を釣って帰ってきた子は初めてということ。でしょうね。
釣った先から捌いて加工しちゃう人も初めてとのこと。でしょうね!
更に言えば、釣ってから捌いてその場で食べちゃう人も前代未聞でしょうね。
「鮎はお野菜とも交換してくれるらしいよ。せっかくだからお野菜も買って帰ろう。今日は鮎を使ったアクアパッツァだ♪ うるかをちょっとずつつけて、味にアクセントをつけてみよう」
「なにそれめっちゃおいしそう!」
新鮮な鮎のアクアパッツァとか、想像しただけでお腹が鳴っちゃうんですけど。
「あくあぱっつぁっつぁ♪ 今から楽しみがわくわくだ~。キキは塩焼きも食べたいな」
「シンプルなアクアパッツァには塩味のきいたうるかがよく合いそうですね。今晩はライラさんの家にお泊りです」
「え、いいな。私も鮎のアクアパッツァが食べてみたい。ライラさんのとこに行って旅行のお土産話しも聞きたい」
「キキもレレッチお姉ちゃんと一緒にホームパーティーしたいな!」
無邪気に抱きしめてくれるキキちゃん、かわいい。まるで妹ができたみたいだ。
よし。そうと決まればパパとママとライラさんに相談だ。
両親はOK。明日も鮎釣りイベントがあるので資材は片付けなくてよいとのこと。ラッキー。
一緒についてきた3人も大喜び。話しの流れのまま、すみれがパパに交換交渉を申し出た。
「もしよろしければ、燻製にした鮎とお野菜を交換してもらってよろしいでしょうか?」
きょとんとして驚いた様子。
まさか釣ってすぐに燻製器にかける人間が存在するだなんて想像の外。常識人から常識的な返答がかえってくる。
「燻製にした鮎? ここで釣った鮎なら農作物と交換するサービスはしてるが、持ち込んだものは、ちょっと」
「違うの、パパ。信じがたいと思うけど、この燻製された鮎はここで作ったものなの。燻製する道具を持参して」
「燻製する道具を持参して?」
「燻製する道具を持参して」
背中に積まれた香り高い鮎を見て手を叩き、そういうことかと理解したのはママのほうが早かった。
その場で焼き直し、ひと口食べて絶賛。
パパも同じようにして食べ、やはり称賛の言葉がとび出る。
「うまいっ! 桜のチップスがほのかに香り、口に入れるとじゅわりとあふれ出す旨い脂。ふっくらと、それでいて引き締まった肉質。パサつかず、食べ応えのある白身。見事な調理だ。これは私が買い取ろう。農作物は好きなものを選んでくれてかまわないよ」
「わぁ、ありがとうございます! 今晩はライラさんちで鮎のアクアパッツァにしたいので、その材料が欲しいです」
「なんだそんなことか。レレッチ、案内してあげなさい」
すっかりすみれの料理にメロメロのパパとママ。
それもそのはず。彼女の料理は本当においしい。叔母様がハウスキーパーに雇いたいと本気で思うほど、彼女の料理の腕は磨き上げられていた。
ホームパーティーに呼んでもらってはいつも楽しませてもらってる。
ほかのみんなもとてもいい笑顔をするのだ。彼女の作る料理の輪はとても暖かくて居心地がいいのだから。




