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異世界旅行1-7 思い出は心を燃やす 1

異世界旅行最終日。ローザ視点で最後の幕が飾られます。

長期旅行も過ぎてみればあっという間。フェアリーたちと別れを惜しみ、エディネイとリィリィは離れたくないとごねまくり、お土産を選びに行っては時間が過ぎ、結局予定してた時刻を越えてお昼ごはんにたどり着きます。

それだけ居心地のよいところだったということでしょう。

通常の旅行と違い、ワープで移動するので、飛行機の時間を考えなくていいと思えば、多少ずるずる引っ張ってもいいやって思ってます。

そんなこんなしながら、暁やアナスタシアの真心にほわほわしちゃう回です。




以下、主観【ローザ・ヴォーヴェライト】


 楽しかった旅行も最終日。

 名残惜しみながら朝食を噛みしめる。本日のチョイスは、米粉を使ったもっちもちの食パンにジャムを塗ったひと皿。付け合わせはサラダ。チーズを浮かべたポタージュスープ。

 食卓にあるのは、楽しかった思い出を反芻する声。


 初日からエンジン全開でかっ飛ばした。

 第一声が、メリアローザはグレンツェンとは別の世界。異世界にあるという。

 それを証明するかのように現れたスケルトン。フェアリー。空飛ぶ要塞。

 驚きに満ちていて、それ以上にわくわくして、言葉で表現できないほど楽しくて。

 街のあちこちに咲き誇るバラが国の象徴であるメリアローザ。きっとバラを見たら、この国の素晴らしさを思い出すことだろう。


 わたしの名と同じ花なのだから。


「でしょ。だから貴女の名前をローザにしたのよ。この街に咲き誇るバラのように、素敵なレディになってほしいって願いを込めて」

「名前の由来を聞いたら、『かつて訪れた街に咲くバラのように、素敵なレディになってほしい』って言ってたもんね。まさか異世界の国のことだったとは」


 驚きはした。だけど、素直にとても嬉しかった。メリアローザに来て、ますますバラが好きになった。


「とっても素敵な由来ですね。ヘラさんの願い通り、ローザさんはとっても素敵な女性です」

「ありがとう、すみれ。すみれの名前の由来ってあるの? あったら教えてほしいな」


 問うと、すみれは珍しく眉間にしわを寄せて困ってしまった。

 両親とは会ったことはなく、育ての親たちも由来を知らなかったらしい。だから彼女は自分の名前の由来を知らない。


 花言葉でいうなら、紫色は愛、謙虚、小さな幸せ。

 ピンクは希望。白は純潔、あどけない恋。

 黄色は自然からの贈り物。

 青は愛情、晴れた日の心。

 どれもすみれにぴったりの花言葉。

 グレンツェンの市章にも使われるすみれの花。

 彼女がグレンツェンに留学したことは運命なのかもしれない。


「赤色のすみれってあるかな?」


 さすがすみれ。すみれの花ですら赤色への渇望は止まらない。


「赤は、聞いたことないかも。ライラさん、母さん、聞いたことある?」

「赤色のすみれの花ならあるよ。冬場に開花する花だから、冬場の大図書館の裏庭に植え替えるの。寒さには強いんだけど、暑さには弱いから、日陰になる北側。グレンツェンを代表する花だから、たーっくさん並べるから見てみてね。シトラスさんのモスポッドにすみれの花を使ったものがあったはずだから、オーダーしてみたらいいんじゃない?」

「そうなんですね。教えてくださってありがとうございますっ!」

「へぇー、知らなかった」

「貴女はバラのお世話ばっかりしてるから」


 母さんは、『それはそれで素敵なんだけど』と続けて、『せっかくグレンツェンに住んでるんだから、市を代表するすみれにももっと興味を持って欲しい』とくわえた。

 市長としては娘にはずっと故郷が大好きでいてほしい。そんな親心が垣間見える。


 故郷を離れてベルンで仕事をするグレンツェンの誇り、シェリーさんはどうなんだろう。

 彼女は修道院時代、誰よりも養蜂と蜂蜜を愛した1人。

 グレンツェンで蜂のお世話をするということは、花のお世話もするということ。最初に手に入れた花の蜜だけを愚直に採取するグレンツェン固有種の蜂。

 上質な蜂蜜を手に入れることはつまり、花々を元気にさせるための努力が必要不可欠なのだ。


「すみれの花。いいよね。甘い香りがして。花もかわいらしくて、みんな大好きだ。地味にもめるんだよね。街の人々から支えられて育つ子供たちは、街に恩返しがしたいって言って、すみれの花の世話をしたがるから。なんと言ってもやっぱり香りがいい。赤雷と白雲じゃないが、百合や鈴蘭のような香りの強い品種も大人気だ」


 シェリーさんは思い出すように空を見つめ、ふわふわと童心に帰る。本当に養蜂が大好きで、本当に蜂蜜が大好きなんだ。

 トーストに、はちみつをこれでもかというくらい塗りたくる。


 シェリーさんの手元を見たライラさんは珍しく呆れた顔を見せた。

 はちみつを頭の中から追い出すように、すみれの花に話題を戻す。


「香水の原料にもなるんだよな。エメラルドパークにも昔っから、すみれの花を栽培してる農家さんがいるよ。時期になるとめっちゃ甘い香りがしてさ、ついつい深呼吸しちゃう」

「わかります。香りが強いから1輪あるだけでも部屋中がいい香りに包まれるんですよね。色も鮮やかで、食用のすみれを使ったフラワーケーキは大好評です」

「フラワーケーキですとな。それはぜひとも食べてみたい」

「食用のバラを乾燥させて粉末にしてまぶしたローズケーキもあるんですよね。これからの時期に出回るということなので楽しみです。想像しただけでお腹がすいてきちゃいます」

「現在進行形で朝ごはんを食べてるところなんだけど?」


 さすがすみれ。食欲の権化とは彼女のことよ。

 フラワーケーキ。バラやラベンダー、パンジーなどのカラフルな花から採取した花びらをドライフラワーにしてスイーツに昇華する、グレンツェンを代表するスイーツ群。

 ジェラートしかり、フライドショップしかり、香辛料に見立てることでヴルストに混ぜてもおいしい。花の都ならではの考え方です。


 そういえば先日の昼、秋風亭で蕎麦をすすってると椿の天ぷらなるものを見かけた。

 メリアローザでも花を食べる習慣があるのだろうか。

 さすがに椿の樹木は大きくなりすぎて個人で植えるのは不可能。メリアローザならではの天ぷらかもしれません。

 他にも食べられるお花ってあるのかな。


「メリアローザでエディブルフラワーは椿以外に見たことないです。種とかハーブを含めると数えきれないですね。ちなみに椿は酢の物、天ぷら、ジャムになります。そしてなんと、アルマが食べてるジャムが椿と桜のジャムです。ほんのりと桜の香りのする華やかな見た目のジャムです。ぜひひと口」

「なんと。それではお言葉に甘えて」


 ふむふむなるほど。

 桜が持つ香りがほんのりと鼻を抜ける。まるで春にタイムスリップしたかのよう。

 赤色の椿とピンク色の桜のコントラストが美しい。

 しかし、にしても、椿の味ってどんなのだろう。

 食べたことがないから、自信を持ってこれって判断できない。


「実は見た目100%です。椿は花の根本に蜜があるので、まるごと天ぷらにすると華やかな甘みが楽しめます。しかしこのように花びらだけだと、椿は香りが強いわけではないので、残念ながら」

「味も香りもほとんどないわけか」

「ですです。見た目はすっごい綺麗なんですけどね。やっぱり天ぷらが一番かもしれません。ちなみに花も葉も根も生薬に重宝されます。花には香りがあって、ほんのりと甘い香りがするのでアルマは好きです。セチアさんたちが作るアロマオイルにも、毎年、椿を使ったものを作るはずです」


 と、アルマが説明するとシルヴァさんがどや顔でアロマボトルをライブラから取り出した。


「もちろん買ったわ。本当にほんのりと甘くて、それでいて清々しい春を連想させるような香り。冬の景色が抜けきらない春って印象」

「日差しは温かいけど空気は冷たい、みたいな。そういうのけっこう好きかも」


 ペーシェの比喩表現にぐっときてしまった。不覚。


「分かる。季節の変わり目を感じるよな」


 シェリーさんも同意。冬の終わりは人間にも、自然にも嬉しい季節。


「個人的には早くあったかくなって欲しい時期。寒いとバラが咲かないし」

「風情!」


 端的につっこむ母を一瞥して喝。


「だってバラって寒いと開花しないんだもん! そりゃ冬の時期に咲く椿やすみれだって綺麗だよ。だけどわたしはバラが好きなの!」


 春に一斉に咲き誇るバラは壮観。おやつを食べる時は決まって自前の薔薇園で紅茶を淹れ、プレシャスなティータイムに酔いしれるの。たとえ1人でも。


 返り咲きする夏のミステリーローズも素敵。数を少なく咲かせる夏のバラは、葉の緑と花びらが織りなす色彩のコントラストがはっきりと出て、ひとつひとつのバラの美しさが際立つ。

 秋バラは棘を切って花瓶に入れて1輪を楽しむスタイル。こじんまりとかわいらしい花を咲かせてくれるこの時期は、冬の訪れを告げる、ちょっぴり切ない季節なの。


 だけど冬を越えれば、蓄えたエネルギーを使って一斉に咲き誇る。明日頑張るために今を伏して耐える。

 春に元気いっぱいに咲くために。


「それで冬は肥えるのか」

「そんなことないよッ!」


 ペーシェはほんといちいちうるさいのよ!


「2人とも、お互いに容赦ないな」

「仲良きことは素晴らしきかな♪」

「気兼ねなく本音を言い合える仲ってのは、大人になるとなかなかいないもんだぞ。大切にな」


 ライラさんもすみれも、シェリーさんも人ごとだと思って、もう!


 傍から見ると仲良しに見える現象。

 違うんですよ。ペーシェとは親同士が仲良いだけで、わたしとペーシェはそんなんじゃないんですよ。お互いの悪癖を人質にして、ずるずると付き合ってるだけなんですよ。

 仲良く振る舞うのは、そのほうがお互いにメリットがあるから。

 なんてことを言うとひんしゅくを買うのは目に見えてるので、シェリーさんの金言を肯定して話しを逸らそう。


 お昼前に帰国してしまう我々の予定はタイトスケジュール。

 セチアさんの工房へ立ち寄り、エディネイを回収すると同時にフェアリーたちにお別れの挨拶。

 バラの塔の近くに併設してあるお土産屋さんで異世界の思い出を購入。

 フレナグランに戻って暁さんに挨拶ののち、帰路へつく。


 1週間ぶりのグレンツェン。

 メリアローザでの1週間が濃すぎて故郷の地を遠く感じる。

 帰ったら帰ったで、メリアローザを遠く感じてしまうんだろうね。それどころか、夢だったんじゃないかって錯覚するかも。

 あまりにも非常識な存在が多すぎて。

 あまりにも素敵な出会いが多すぎて。

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