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異世界旅行1-6 毎日が新しくて、明日が待ち遠しくて 7

以下、主観【シルヴァ・クイヴァライネン】

 妹とアリスはあるべき場所へ帰ってしまった。

 1日の最後に湯舟に浸かる。

 今日のティーパーティーも素晴らしかった。振り返って幸せな思い出に浸ろう。 


 妹とその友人の闖入によって事態は思わぬ方向へ転がりながら加速。雪ダルマ式に大きくなってしまった。

 朝起きて雨が降ってた時はどうしようかと焦ったものだ。日の出とともに体をあたためながらの朝食。フェアリーたちとの朝食。カラフルな花々に囲まれてガーデン・ブレックファースト。


 それはそれでよいものになった。

 暖炉に火をくべて大勢の人々とともに肩を寄せ合いながら、優しい火の灯りを瞳に映して語らう朝というのも新鮮で素敵そのもの。

 温かくて、とても幸せな気分になれた。


 お昼は雨上がりの中、冷えた空気に降り注ぐ太陽の光が心地よい。

 メリアローザ式の豪華なランチ。炊き込みご飯。豚汁。川魚の塩焼き。お新香。そこに加えて純真無垢なフェアリーたち。本物の太陽を拝んで『いつもいつも大地を照らしてくれてありがとう』とお辞儀をした。

 当たり前だけど、とっても大事なこと。

 実家に帰ったら、両親と兄にそのことを伝えよう。

 なんの前振りもなく言ったら驚かれるかな。


 毎日通うフェアリーたちとの3時のティーパーティー。

 テーブルで、ガーデンテラスで、ベンチに座って、少し場所を変えただけで違った景色を見せてくれる。

 食べるケーキも、愛でる花々も、話題にする内容も、毎日違って毎日移り変わって、楽しい時間に飽きがこない。

 今日は記念すべきスペシャルデー。メリアローザ始まって初めて、エルドラドでのティーパーティー。

 大人も子供も、人間も獣人もフェアリーも魔人も吸血姫も不思議の国の住人も、スイーツが作る笑顔の輪は最強無敵。

 シェリーさんの無双の盾だって貫通させられる自信がある!


「それは私にも防げそうにないな。むしろ優しく受け止めたい」

「はぁ~~~~っ! 早くみんなをショコラに呼んでティーパーティーがしたーーーーいっ!」

「その時は連絡してくれ。なんとしてでも駆け付けるから」

「どんな魔獣が現れても、秒で始末して涼しい顔でケーキを食べるライラさんが目に浮かびます」

「否定できないから怖い」


 否定されなくていいんです。

 ライラさんなら大歓迎なんですから。

 シェリーさんもいらっしゃってくださいね。

 あぁそうだ。大聖堂の中庭でティーパーティーというのもいいんじゃないでしょうか。

 シェリーさんから頼めば、プライベートパーティーを開いてくれるんじゃないでしょうか。


 頼んでみるも、中庭も公共の場の範囲なので難しいとのこと。残念!


 大聖堂の敷地の周囲を囲うように、ギンモクセイの生垣が揃い、中庭にはツツジやアベリア、たくさんの花をつけるサツキ。甘酸っぱくて真っ赤な実をつけるヤマモモがある。どれも季節ごとに違った表情を見せてくれる草花ばかり。

 そんな素敵フラワーに囲まれて過ごすティーパーティーはきっと忘れられない思い出になるでしょう。

 うぅ~~~~修道院の子供たちともスイーツタイムを楽しみたい。

 フェアリーと一緒にみんなでお菓子を作りたい。


「いろんなところでスイーツを楽しみたいという意気込みはわかる。わかるがしかし、スイーツを風呂にまで持ち込まなくてよくないか?」

「いやぁ、せっかくなので、これも経験だと思って、夜空を見上げながらティーパーティーをしましょう」

「シルヴァさんて、スイーツとフェアリーのことになるとなんでもやりますよね」

「なんでもやるわ。命懸けでっ!」


 だって私はスイーツ女子。

 ケーキ屋の家系に生まれた、スイーツの星の元に生まれし宿命の子。

 そういうわけで、露天風呂に入りながら酒蒸しの温泉饅頭を堪能したいと思います。

 緑茶がよく合うということで、温かい緑茶も用意していただきました。ありがとうございます!


「それはいいけど、温泉に入って饅頭を食べるやつなんて初めて見たよ。本当に甘味が好きなんだねえ」


 番頭の紫は呆れ顔。温泉に入りながらお酒と温泉卵を食べるのは普通なのに。変なの。


「念のために言っとくけど、ここまでするのは異世界でもシルヴァさんくらいのもんだから」

「奥に置いた蒸籠もそうなのか?」


 背後に仁王立ちする5基の蒸籠。

 無論、私が置きました。

 アリスの超巨大手作りクッキーからインスピレーションを受け、お昼に食べた炊き込みご飯の容器からヒントを得、みんなでおいしいスイーツを囲みたいという欲求が産み落とした黄金のスイーツ。

 みんな大好き3時のおやつ。

 もうすっかり日が暮れて夜ですけどね。


 蒸籠蒸しのプリンである!


 プリンも大好きなリィリィちゃん。

 生まれて初めて蒸籠と一緒に入るお風呂に特別感を覚えた。竹編みの蓋を開けては閉じて、開けて開けてまた閉じて。吹き出す蒸気の匂いを嗅いで、プリンができあがる時を心待ちにする。

 私もとっても楽しみです。蒸したプリンはゆっくりと熱が加わるため、オーブンで焼くものとは比べ物にならないほどなめらかな食感を実現できた。

 特別にフラウウィードの上質な卵を受け取り、温泉プリンとしゃれこもうというわけです。


 温泉で作るスイーツ。

 なんという特別感。

 これ以上ない贅沢。

 ここでしかできないかけがえのないスイーツを堪能しましょう♪


「シルヴァお姉ちゃーん。そろそろできたかな。もうそろそろできたかな?」


 わくわくしながら蒸籠とお風呂を行ったり来たりするリィリィちゃん。エディネイには悪いけど今、この時の主役は私なのだ。

 リィリィちゃんにハグされたからって嫉妬の眼で睨まないで。


「温泉でプリンだなんて考えたこともありませんでした。シルヴァさんは本当に柔軟な発想をお持ちですね」


 マリトッツォをどら焼きにしてしまう女性に褒められると照れちゃいますな。

 メルティさんにもグレンツェンに、我が家へホームステイしていただきたい。ショコラのスイーツを堪能して、メルティさんの手で新たなスイーツへとエヴォリューションしていただきたい。


「柔らかいプリンですか。グレンツェンで主流なのは固いプリンだから楽しみだね」


 ローザの言う通り。スイーツプディングは固いもの。


「アルマは柔らかいプリンしか食べたことなかったので固いプリンに驚きました。正直、プリンだとは思えませんでした」


 そうは言いながらショコラに来てくれた時は必ずチョコレートケーキとプリンを買って帰ってくれる。相当に気に入ってくれたのだろう。

 キキちゃんたちと一緒にスイーツを買いにきてくれるすみれ一家の来訪は、ショコラのみんなにとっても喜ばしい出来事。

 わくわくしながら、『今日のスイーツは何にしようかな』とショーケースに顔を埋める双子のなんとかわいらしいことか。

 愛くるしくて仕事を忘れてずっと見てます。


「あたしもワープの魔法が使えたら、自由にグレンツェンに行けるのになあ」

「暁ちゃんならいつでも大歓迎よ。マンモスにドラゴンに、ブルーポーションとかスライムとか色々、ほんとうに刺激的な世界だわ!」


 ヘラさん大興奮。だが、スライムと聞いて硬直する暁さんの顔がひきつってる。


「――――――スライム? 病院に行ったんですか?」

「虎穴が気になって飛び込んでみた」

「異世界の医療技術がどんなものか見てみたくて、一緒に行ってしまいました」

「行ってしまいました?」


 ローザも同行したらしい。医療術者というだけではない。難病の治療薬を開発する研究機関に興味が湧かないわけがない。


 それを聞いて怒髪天になったのは意外にもキキちゃん。

 姉のヤヤちゃんの暴挙を目の当たりにしたが如く、一心不乱に暴言を吐き捨てた。


「なんで行ったの!? ローザさんがそんなおバカだとは思わなかった!」

「はぅあっ!」


 続いてヤヤちゃんがヘラさんに抱きついて安否確認。


「ヘラさんは無事ですか。血を抜かれたりしませんでしたか。簀巻きにされませんでしたか。バンジージャンプさせられませんでしたか!?」

「私が行ったのは病院なんだけど。え? あの病院ってそういうことする人がいるの?」

「違います。そういうことする人しかいないんです」


 そういえば、歯科にホワイトニングに行こうって話しがあった時に死ぬほど怖がってたな。

 どれほど怖いのか。周囲の反応から察するに、常軌を逸して怖いみたいだから、聞くのも怖いので聞かないことにしよう。

 そうだ、病院が怖いんだったら怖くない病院のあるグレンツェンに永住するってのはどうだろう。

 大丈夫。うちの養子になればいい。

 私が一生懸命働いて養うから。


 提案すると死ぬほど真剣に悩む顔をした双子。それを見て暁さんが泣いた。

 次いでキキとヤヤを誘惑するのは許さないと怒られた。残念。


 体もしっかりあったまったので、2階のお座敷に移動するとしましょう。

 ラウンジに出てほかほかと湯気のあがる蒸籠を並べる。もう待ちきれないと椅子の上でぴょんぴょん跳ねるリィリィちゃんに開けてもらいましょう。

 ふわりと立ち込める湯気が消え、覆う麻布をよけると太陽のような金色のプリン。

 夜にお日様が現れたとおおはしゃぎ。瞳をきらきらと輝かせてスプーンを握りしめる。


「すっごく大きなプリン! こんなに大きなプリンは初めて!」

「グレンツェンのプリンはこんなに巨大なのか。すさまじいな」

「違います、暁さん。こんなでかいプリンは誰も見たことないと思います。少なくともあたしはありません。シルヴァさん、なんでこんなでかいプリンを作っちゃったんですか?」

「アリスの巨大クッキーからインスピレーションを受けたからよ!」

「これ、あの、もしかして、手に持ってるしゃもじでプリンをよそうんですか?」

「そうよ。秋風亭で見た炊き込みご飯のおひつを見て思いついたの!」

「お、おぉう…………」


 ペーシェのドン引きをよそに、まずはプリンを待ち遠しくするリィリィちゃんによいしょ。

 次に異世界渡航のきっかけをくれた暁さんによいしょ。

 敬愛するヘラさんへよいしょ。

 かわいい妹のような存在のキキちゃんとヤヤちゃんによいよいしょ。

 続けてみんなにもよいしょしてあげて、いただきます。


 想像以上になめらかなプリン。

 中心部分が少し半生なのか、とろりとしたソースのように流れでるところもマーベラス。

 卵黄だけを使った黄身プリンは濃厚そのもの。フラウウィードのものとなれば世界最強。芳醇な黄身の風味を贅沢に味わえるなめらかプリン。

 これは完売御礼待ったなし!


 キキちゃんとヤヤちゃんが開けた蒸籠の中には7つの器。

 陶器に入れられた真っ白なお月見プリン。今度はお月様みたいなプリンだと、小さな歌姫は金色の髪が乱れるほどに舞い狂った。

 こちらは卵白のみを使用したバニラプリン。

 フレナグランのプリンをリスペクトしたやつです。温泉の温度で長時間、ゆっくりじっくり蒸しあげたので、こっちのほうがよりなめらかなはず。


「ん~~~~♪ なめらかな舌触り。魅惑的なバニラの風味。淡泊な卵白が上品な仕上がりになってます。うまうま♪」


 メルティさんもご満悦。地団駄を踏んでおいしさを表現。


「どっちもうまいな。これって一般家庭でもできるの?」


 興味津々のライラさん。きっと息子さんたちに食べさせてあげたいのだろう。


「もちろんできます。レシピがあるので、今度送りますね。それにしてもフラウウィードの卵は格別です。これほどまでにスイーツに特化した卵は食べたことがありません。ハイゼンディ農場でもハーブとダマスクローズだけを食べさせた鶏の卵を作れないかな」

「ダマスクローズの丘みたいにバラだけを集めた景色を見てみたい!」


 それは私も見てみたい。ローザの欲望に共感すると、セチアさんも素敵だと褒めてくれた。


「それはいいアイデアですね。バラは挿し木でも接ぎ木でも増やせますので、無理のない範囲でならフラウウィードのダマスクローズを継承させられますよ」

「本当ですか! わたしもひとつ欲しいです!」

「ローザさんはバラが大好きだもんね。私もバラを植えてみたい。ピンクのダマスクローズもいいけど、個人的には」

「レッドローズね」

「なんでわかったの!?」


 それは私にもわかった。すみれは赤色が大好きだから。


 お月様を臨みながらのお月見プリンのなんと素晴らしいことか。

 せっかくだからアリスとヴィルヘルミナにも食べさせてあげたかった。

 アリスは、『晩御飯は家族みんなと一緒に食べる約束だ』と言ってワンダーランドへ戻ってしまう。

 妹も、『むーくんに無断で飛び出してしまって心配させてしまっただろうから、さすがに戻らないと捜索願を出されかねない』ということで夢の中へ飛び込んで消えてしまった。

 昼寝をして、振り返ると消えている。

 これがユニークスキルなのか。マジで転移できるんだ。異世界間交流が盛んになれば、いつでもメリアローザに、フェアリーたちに会いに行ける。

 なんと素晴らしいことか。さすが我が愛しの妹よ。エクセレントです!

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