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異世界旅行1-5 棘のない薔薇と花畑 9

 アルマちゃんほどでないにしても、いつか私も魔法が使えるようになりたいな。

 とりあえず今はきらきら魔法が使えるように頑張ってます。

 さらに成長して、私はある魔法をマスターできるように努力してるのです。


 その名も【バイバイ・アニサキス】。

 魚の切り身にこの魔法をかけることで、身からアニサキスを追い出すという生活必需魔法。

 おかげでメリアローザでのアニサキスの被害者はゼロ。なんという奇跡の魔法。

 ただしビジュアルが閲覧注意。これから食べようというものから白くて細くてうねうね動くものが這い出てくるので、見るのは勇気が必要です。

 というか見たくはないですが渋々見てしまうやつです。


 月見酒と聞いてお風呂の時間を察知したアルマちゃんがやってきた。バイバイ・アニサキスの魔法を思い出して苦い顔をする。


「アレは便利なんですけど、なかなかにエグいやつです。しかしお魚を捌くに際して必須の処理です。アニサキスに腹を食われると死ぬほど痛いらしいですからね。歴戦の冒険者も立てなくなるほどの激痛らしいです」

「そこまでして生魚を食べなくてもよくない? いやまぁ対策できる魔法があるならいいんだけど。ビジュアルは最悪だったけど」


 ローザさんの常識では忌避しても仕方ない。でも、生魚のおいしさを知ってしまえばそんなことは言ってられないのだ。


「それはもう仕方ありません。アニサキスがああいうものですから」

「歴戦の冒険者が立てなくなる? こいつぁそんなに強ぇのか?」


 またまた出ました、クロさんの思考停止する謎理論!

 素手でアニサキスをつまみあげて疑いの目を向けて首をひねる。

 疑うとかそれ以前によくそんなものを素手で掴めますね。さすがに私もそれに触るのは嫌です。

 怖いモノ知らずなのでしょうか。好奇心が強いのでしょうか。

 脳内でモザイクがかかるそれを早く捨てていただきたい。


 ローザさんなんて顔真っ青です。


「ッ!? つ、強いとかそういう次元の生物ではないんですよ。というかよく素手で掴めますね。見るのも嫌なんですけど」

「ただの動く白い紐だろ」


 紐ではないですけど。

 ほかの掃除も終わったみたいなので、アニサキスのことは忘れて、そろそろ月見フルーツジュースとしゃれこみましょう。


 クロさんの手をとってお風呂に行こうと誘うつもりが――――――脊髄反射的に叫び声が出た。生涯、これ以上の声量が出ることはないだろうと確信できる。


 大絶叫!

 からの、クロさんの手をぶっ叩いて壁ドン。

 クロさんをど突いて壁にドーーーーーーンッ!


 大絶叫!

 からの、クロさんの手から落ちた白い紐を踏んづけて踏みつけて踏みにじって跡形もなく消滅させた。


 大絶叫!

 からの、アイシャさんに土下座&謝罪。

 せっかく綺麗にした床を汚してしまって申し訳ございません!


 大絶叫!

 からの、クロさんにも土下座&謝罪。

 咄嗟に本能的に突き飛ばしてしまって申し訳ございません!


「今のは仕方ありません。今のはどうしようもありません。今のはクロさんが悪いと思います。暁さん、ジャッジをお願いしますっ!」


 アイシャさんの嘆願に暁さんは、


「クロ、ギルティ! そもそもなんで――――――なんでアニサキスを食おうと思ったんだ!? 旨い飯を食いすぎて逆にパニックになったのか?」


 そう、なにを思ったのか、彼女は白い紐をつまんで呑み込もうとしたのだ。

 びっくりしすぎて引っぱたいて突き飛ばしてしまいました。

 本能的にこういう人って言葉で止めても止まらない人だから。

 暁さんも言った。言葉で言っても分からないなら、暴力は必要善。


「善ではないよ?」


 ヘラさんも正論を言ったと思いつつ、今回のはしょうがないやつと擁護してくれた。

 突き飛ばされたクロさんは痛みのためか、茫然自失。


「不意打ちとはいえ…………すみれに負けた…………」

「なんの話ししてんのか分からん。あたしの話しを聞け」


 ひと呼吸おいて息を吹き返したクロさんの言葉からは信じられないような、どこか既視感すら感じる不思議な感性が飛び出した。


「アニサキスってやつに腹を食われたことなんてねえから、食われてみようと思っただけだ」

「かなりなにいってんのかわかんねえな」

「経験は金に勝る宝だけど、しなくていい経験もあるからね?」


 暁さんもヘラさんも深いため息が漏れる。


「そうですよ! 自分からお腹を壊そうとするなんてどうかしてます! そういう痛いことは自分から体験しなくていいんです! ひとづてに聞くだけで十分です!」

「くっ…………すみれがそういうなら、従おう」


 おや?

 おやおや?

 これはもしや、お友達になったという証拠でしょうか。

 きっとそうに違いない。

 そうであると思いたいのでそうだと思います!


 人のことを散々、謎理論と思って衝撃を受けたことなど棚に上げ、自己都合100%の私はクロさんとお友達になりたいから、自分の都合のいいように解釈します。

 クロさんだって私の話しに付き合ってくれる。お料理だって一緒に作って、一緒に食べてくれた。これからお風呂で裸の付き合い。

 これはもうどう考えたってお友達です。


 またお友達がひとり増えました。

 なんて素敵な日なのだろう。

 グレンツェンに来て、ううん、今までもずっと、毎日が記念日。

 お友達ができた時が一番嬉しい特別な日。

 クロさんとは私がグレンツェンに戻るとしばらく会えない。

 だからアルマちゃんに頼んで、いつか必ずグレンツェンに招待しよう。


 ★ ★ ★ 【ペーシェ・アダン】


 肩まで湯舟に浸かってため息がこぼれた。

 湯舟に浸かることでかかる水圧はなんと約1トン。

 心地よい圧力が全身にかかり、あたかもマッサージのような安堵感を与えるというのだから不思議だ。

 今日も夜空は満点の星空。見て、体験して癒される。

 いや~極楽とは湯舟の中に見つけたり。


「ペーシェもすっかり慣れてきたな。夜空を見ながらの月見酒は最高だろ」

「いやもう本当に。グレンツェンではシャワーかスチームバスですからね。肩までお湯につかれるなんて贅沢はできません」


 隣に赤毛の少女、ではなく女性が並ぶ。

 やっぱりどう見ても暁さんは年下にしか見えん。歳が近いとはいえ童顔すぎるでしょ。

 逆に貫禄だけはすごい。初めて会った時も異様なオーラを纏ってて違和感を感じたものだ。見た目と中身の落差が激しい。暁さんも、ハティさんも、クロさんも。


 とても言葉にするのは憚られるのだが、お胸が見事な大平原。

 そこもまた親近感が湧く。

 目指すべきかっこいい女性としても尊敬してますよ、もちろん。

 尊敬してるので、いつかまたグレンツェンに来た時は実家にホームステイしてほしい。もっといろんな話しを聞かせてほしい。


 月を仰ぎ、水面をぱしゃぱしゃさせてため息ひとつ。


「いやぁ~おかげ様で堪能させていただいてます。グレンツェンに来たらあたしの実家にもホームステイしに来てください。大歓迎しますから」

「それは楽しみだな。次にグレンツェンに行くとしたら来年のフラワーフェスティバルだろうから、その時にまたよろしく頼むよ」


 もちろんですとも!

 これまでお世話になった分と、これからお世話になる分の恩返しをさせてください。


 そ・れ・よ・り・もっ!


 あたしには気になって気になって仕方ないことがある。

 当然、アンチクロス・ギルティブラッドという人間について。

 女の勘が叫んでる。この人はかなりヤバい人だと。暁さんから聞いたよりもずっと。

 身の安全のために彼女のことをもっともっと知っておかなくてはならない。

 そんな気がする。


「呆れるほど勘がいいな。クロはあの通り、ひたすらに【強さ】を求める求道者だ。それゆえに世間の感覚からズレてる。アニサキスを呑み込もうとするような女だからな。あれにはさすがに度肝を抜かされた」


 そういう意味でもヤバい。

 でももっと、その先がある気がした。


「受け答えはきちんとしてるんですけど、なんていうか、ギルドの仲間に対してこんなことを言うと失礼極まると自覚してるんですけど」

「外面は綺麗な顔をしてるが、根っこは悪だから気をつけろ」


 マジ顔の暁さん。嫌な予感的中である。


「やっぱり。強さ以外に興味ないって聞いてますけど、強さを求めるためなら倫理も超越する感じですか。さすがにそれはないですよね」

「ペーシェの勘の良さが身を滅ぼさないことを祈る」


 ううううううぅぅぅ嘘だと言って欲しかったところおおおぉぉぉぉぉぉッ!

 マジ顔の暁さん。

 温泉に入ってるはずなのに冷や汗が出る不思議。

 クロさんの真っ赤なバラの刺青を嘗め回すように見ながら、金髪赤眼の女性の背中を流すすみれ。

 遠目で心配になるあたし。

 この人、友達になって大丈夫な人なんだろうか。

 いや絶対にヤバい。

 できればあまり関わりたくない。


 性格がぶっ飛んでるところも然り。

 彼女がいるとすみれの意識が頬のバラに向いてしまうのも然り。

 独占欲のあるあたしからすると目の上のたんこぶ。できれば近づきたくはない。すみれに近づかせたくない。

 あたしはすみれを独占したいのだ。

 友情的な意味でも。

 性的な意味でも!


「あんた、なんかヤバい顔してるけど大丈夫じゃないんだった、ごめん」

「うっさいわ!」


 ほんとあたしの幼馴染ってろくなのいないな。


「わぁ~、なんの話しされてるんですか? ちらっとホームステイの話しが聞こえましたけど。ショコラにもいらっしゃってください。暁さんたちなら大歓迎です♪」


 下心が見え見えのシルヴァさんが現れた。


「それは嬉しいな。もしも来年中に異世界間交流を公にできれば、フェアリーやリィリィたちも連れていくから、その時はよろしくな」

「うぇるか~むっ♪」

「あたしもショコラでフェアリーたちと一緒にティーパーティーしてぇ~。きっと驚きますよ。グレンツェンには世界中の花々が咲いてますからね。きっと見たこともない色に目移りしますよ」

「想像に難くないな」

「その前に世界中が大パニックになる」

「想像に難くないから怖い」


 パニックで済めばいいけどね。

 異世界の存在が明らかになるだけでパニックになるだろうに、フェアリーが現れようものならワールドクラスのフェアスティバルが始まるかもしれん。

 全世界の人々がシルヴァさんのような脳内お花畑ガールならいい。中には邪悪な考えをもつ輩がいないとも限らない。

 人間が人生を歩むに際して、清濁併せ呑むことが大事な場面はある。

 しかしフェアリーには純真無垢でいてほしい。

 一切の穢れを知らないでほしい。

 すみれにも一切の穢れを知らないままでいてほしい。


 手を振ってこっちに来てちょアピールをするも、手を振り返されるだけで終わり。

 彼女の片手は憎ったらしいあんちきしょうに捕まってる。

 クソがッ!


「どうした、ペーシェ。顔が怖いぞ?」

「そうですかー? そんなことないですよー?」


 両頬を両手で抑えてかわいく不満をひょうg


「キモッ!」

「うるさいわいッ!」


 ローザめ、こいつほんと隙あらばフラストレーションを与えてきやがる。

 ぶん殴ってやりたい。でもヘラさんがいるからできない。さすがに母親の前での殴打はギルティ。それもヘラさんとなればなおさら粗相はできない。

 ここは第三者にびしっと説教していただきたい。


「ローザがあたしのことをキモイと言ってくるので、暁さんからビシッと叱ってあげて欲しいと思いますっ!」

「自分で言えばよくね?」

「言っても聞かないんですよッ!」

「あんたもわたしのことキモイとかよく言うじゃんッ!」

「そーだっけ?」


 藪蛇だった。

 そういうわけで喧嘩両成敗。さーせんしたと謝って仲直り。


「びっくりするほど誠意を感じないんだけど」

「まぁまぁかたぐるしいことは抜きにして、ほらほら月見酒としゃれこみやしょうや」


 そらしそらし。


「調子いいな」

「この飄々としたところがペーシェちゃんのいいところ」

「娘を甘やかしてよ」

「もぉ~甘えんぼさんなんだからぁ~♪」

「あ、やっぱいい」


 断られた甘えんぼさんが娘の元へダイブ。

 大きな波しぶきをあげて温泉水がぶっかかる。

 まるで姉とやんちゃな妹のスキンシップ。母のことを本当の妹と間違えられるから、凄く嫌がる娘の気持ちも気にせずじゃれあう親子。

 ローザが最も嫌がるやつ。

 ヘラさんが一番好きなやつ。


 駆け付けた番頭の紫にめっちゃ怒られる2人。

 ローザも巻き添え。南無三。

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