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異世界旅行1-3 出会いの数だけ喜び増して 16

 懐石ステーキを食べ終え、すっかり満腹幸福になった体を背もたれに倒して天井をぼーっと眺めた。

 理路整然と並んだ格天井(ごうてんじょう)。ひとつひとつのマスには四季折々の花々が描かれていて、実に華やかで荘厳。豪華でありながら見ていて飽きのこない姿は謙虚な暁の心を映し出しているかのよう。

 薔薇、蓮、百合、エトセトラエトセトラ。

 どれもきらきらと輝いていて美しい。

 異世界人や異種族を受け入れ、ともに笑い語らう暮れない太陽を象徴してる。


 はふーっ。

 久しぶりに満腹まで食べた。

 食事をしたせいか少し眠気を感じるものの、寝るにはまだ早い時間。

 かと言って外を出歩いてもお店は開いてない。

 自然信仰の根強いメリアローザでは、フェアリーはもとより人間も日の出とともに起き、日没とともに家へ帰る。夜の帳が降りたなら、よい子はすっかり夢の中。


 よい子は、だ。

 悪い子というわけではないが、大人はまだまだ元気いっぱい。

 冒険者の面々は晩御飯を食べ終わったら早々に帰宅してしまった。

 というか、詩織と我々の話しが意味不明すぎて話しに乗れないから、さっさと退散したといったほうが正しい。

 機械のない世界でコンピューターがどうのこうの言ったってどうしようもない。


 冒険者はおろか、機械類に興味のないローザとすみれはアイシャの背中を追って厨房へ隠れてしまった。

 あまりに興味のなさすぎる話題は苦痛でしかない。


 さて、ではどうするか。

 桜に魔剣の話しを、聞こうと、思ったけど、ミノタウロス討伐の景色を思い出して言葉が詰まった。

 いくら殺傷能力を重視したとはいえ、傷口が爆散する武器の話しは聞きたくない。容赦なさすぎるだろ。


 話題に困る私の雰囲気を察したのか、アルマがペーシェに話題を振った。

 お題目は彼女が開発しようとしているパレスミステリー (仮)というもの。

 クリスタルパレスの魔法を利用し、魔法のギミックをふんだんに盛り付けたびっくりハウス。子供向けのアトラクションから、本格的な謎解きをやってみたいと考える少女の発想力と行動力の凄まじさよ。

 大学の卒業論文に匹敵しそうな内容には脱帽である。


「謎解きアトラクションを魔法で面白おかしくやりたいです。アルマはギミックの内容を納得させるだけの十分なストーリーの構築が苦手なので、ペーシェさんたちにお願いしてる次第です。ユカさんとルーィヒさんからはだいたいの骨子案をいただいてます。ユカさんは女児向けのゆるふわスイーツハウス。ルーィヒさんは子供向け勧善懲悪物。3人の合作でフェアリーを用いたホラーハウス。それからあとなんかあったらいいなって思ってます。薔薇の塔みたいなミッションクリア型の凶悪なやつ」

「凶悪なやつ! 途中までふんわりしてたのに、最後のところでいきなり落としてきたな」

「一過性で終わらせたくないので、インパクトのあるダンジョンにしたいんです。理論上はクリアできるけど実際やってみると無理ゲーって感じで」


 笑顔でえげつないことを言うアルマたるや、本当に感心してるのに、褒める言葉が詰まってしまう。


「なんか、悪いことを考えてるアルマを具現化したようなアトラクションになりそう」


 雪子も感心半分、呆れ半分。


「ふっふっふっ! 超豪華景品を用意して、何度も何度も挑戦させたいですね。全員を返り討ちにしたいですね」

「豪華景品か。金額によって難易度や内容を変える必要があるかもだから、概算どのくらいにするのか教えてもらえる?」


 アルマもペーシェもノリノリ。悪い顔して。


「1個約100万ピノを予定してます。シエル換算で120万です!」

「はっ!? マジか!」

「マジです。なので超絶地獄級の難易度でお願いします。ちなみに、現時点で確保してる景品の1つはステラ・フェッロ製のBグレードウォッチです。しかも今回のために特注で作ってもらったプレミアウォッチです」

「まだ内容が完成してないのに景品作っちゃったの!?」

「景品作っちゃったので絶対にパレスミステリー (仮)を完成させます!」


 これぞ背水の陣。


「異世界に留学してもアルマ節は健在なのですね」

「変わりないようで安心した」


 親友も先輩も、遠い異世界に行ったアルマが元気で安心してる。安心、していいのか?


「やっぱりこっちでもこんな調子なのか」


 勢いだけじゃなくて、きちんと計画と技術と人脈があるから凄いんだよなぁ。

 呆れればいいのか、尊敬すればいいのか。きっと両方が必要なのだろう。

 それにしても、超絶地獄級の難易度なんてそうそう作れるものじゃないと思うのだが。これはペーシェの負担が大きくなりそうだ。とはいえ、謎解きなど門外漢。悪いがペーシェを助ける船を出そうにも手元に船乗りがいない。

 必要そうな情報を受け取って、手札があれば切るくらいのことしかしてやれない。


 魔法関連ならレナトゥスも協力できるだろう。

 毎年、レナトゥスはエキュルイュのベルン支部が参加するクリスタルパレス国際芸術祭の補助を請け負っている。簡単な魔法の補助程度。それでもノウハウがないわけではない。もしかしたら彼女たちの手助けになれるかもしれない。

 その流れでアルマをレナトゥスに引っ張ってこれるかもしれない。

 ぜひとも乗りたい船である。


 提案すると、仕事の早いアルマは既に手を打っていた。


「実は既に話しを通してもらっていて、エキュルイュ・ベルン支部の方々と打ち合わせは済んでるんです。あと公立高校にミステリー研究会があるらしくって、そちらにも話しを振ってもらってます。かなり乗り気らしくて、今度打ち合わせのためにベルンへ行く予定です。なにげに初めてまともにベルンへ赴くので楽しみです。ライラさんの実家に行った時はワープしましたし。帰りはほぼほぼベルンを素通りして農場に直行したので」

「行動力の速さには脱帽だよ。大企業の役員並みのフットワークの速さだな」


 ため息とともに深く腰をおろす私と対照的に、ライラさんは前のめりになってアルマとペーシェに言葉を投げる。


「人脈は金脈と言われるが、まさにその言葉を実感させられたな。で、ペーシェのほうはどうなんだ。アルマから無茶ぶりを吹っ掛けられてるが」

「いや、実はですね…………」


 言葉尻を濁し、苦悶の表情を浮かべると思いきや、真逆の反応を示した。

 よかった、と漏らして安堵のため息をつく。

 曰く、『考えれば考えるほど、人間の限界では不可能な内容のダンジョンになっていくから困っていた』だそうだ。

 ペーシェ、お前も大概だよなぁ。


「いやぁ~、我ながらえげつない内容と構成のダンジョンになっちゃって、どうすればレベルダウンさせられるか考えてたところなんですよ。でも超絶地獄級でいいんだったらこのままでいいや。あ、でも理論上はクリアできる設計だから安心してね♪」

「なにひとつとして安心できる要素が見当たらないんだが?」


 不安しかない私をよそに、アルマは元気いっぱい。


「クリアさせる気皆無くらいで大丈夫です。景品は超絶豪華にしていきますから。とりあえず今考えてるのはセチアさんたちに頼んで作ってもらうオリジナルアロマボトル。アラクネートさんに頼んでる天蓋蜘蛛の糸で編んだロングソックス。マーリンさんからいただいた宝石魔法の書物を参考に作る護摩の魔法を付与した水晶(クリスタル)などなど、ここでしか手に入らないアイテムの目白押しです!」

「異世界原産のアイテムばっかりじゃないか。大丈夫なのか?」

「大丈夫です。身体に無害なので」

「そういう問題か。でもセチアとフェアリーたちが作ってくれるオリジナルアロマオイルは欲しい!」


 それは私も欲しい。事情を知ってるからこそ、だが。


「でもそれって、異世界間交流が始まったあとにセチアさんに頼んで作ってもらえばいいだけでは?」


 ペーシェの鋭い指摘もなんのその。アルマに秘策があるらしい。


「そうはいきません。実はセチアさんのとこのアロマオイルは、個人でいろんな香りの可能性を楽しめるよう、単一の香りのボトルしか作らず、複数の香りを混ぜ合わせたアロマオイルを販売してません。フェアリーが作ったアロマオイル。販売元が普段は製造しない商品。景品に使うボトルはみんなの大好きを詰め込んだミックスボトルにして、プレミアムアロマオイルにします!」

「でもフェアリーが作ったって公言できないじゃん? 付加価値を公表できないんじゃただのアロマオイルだけど」

「異世界間交流を始めて種明かしすれば価値は爆上がりです。仮にパレスミステリー (仮)が下火になってしまった場合、起爆剤として機能します」

「やりかたがエグいわ! でも誰の迷惑にもならないからそういうサプライズは大好き♪」

「どやっ!」


 本当にもう呆れていいのか、褒めればいいのか分からんなぁ。




~おまけ小話『女子同士の嗜み』~


詩織「はぎゅ~~~~~~~♪」


雪子「なにやってんの?」


詩織「シェリーさんが、できることならなんでも協力してくれるってことなので、頑張ったご褒美にハグしてもらってます」


雪子「迷惑なら突っぱねてくださって構いませんよ?」


シェリー「いや、別に迷惑ではない。が、突然のことで少々驚いてはいる」


桜「ガアアアアアアアアッ! ウラヤマッ! ウラッ、ウゥッ、恨メシヤッ!」


ライラ「ほらほら~。桜にも頑張ったご褒美にハグしてやろう!」


桜「はぎゅ~~~~~~~♪ もにゅもにゅ♪ はぎゅ~~~~~~~♪」


雪子「生理的にアウトなら突っぱねても怒られませんよ?」


ライラ「いやいや、このくらい女子同士なら普通にあることだろ」


ペーシェ「女子?」


ライラ「そこは突っ込まなくていいんだぞ〜?」

エディネイはリィリィちゃんと始終デート。

スイーツを食べ、畑仕事をし、お昼にはみんなで青空ランチ。

きっとお別れの際にはギャン泣きしてしまうでしょう。

シェリーとライラは無事に帰還。

大量のお肉をゲット。魔剣の凄まじさも体感できて順風満帆です。


次回は、ライラ主観で進むお話し。アルマと頑鉄親方が情熱と勢いで作った魔剣をエディネイに持たせてみます。火のマナのみを持つエディネイのドラゴノイドとしての特異体質と、火のマナのみを含む素材と力場で鍛錬した火属性に極振りした魔剣の邂逅はどんな化学反応をもたらすのでしょうか。

午後からはフィアナが居候しているエルドラドへ赴きます。宝石魔法を推し進めようとする彼女がエルドラドと良好な関係が築けているかを確認するためです。

それともう1つ、元奴隷の彼女たちが今の現状をどう感じているのか。本心を聞きいてみたいと思ったからです。エルドラドに移住した彼らの心の内やいかに。

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