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異世界旅行1-3 出会いの数だけ喜び増して 15

 目をきらきらさせて懐石ステーキを凝視する少女は五十嵐詩織。

 雪子とともに薔薇の塔の34層【なれの果て】を星ごと再生させる事業に従事している。

 かつて栄えた高度文明の残したマザーコンピューターを制御下に置き、星管制御システムを用いて砂漠の大地を緑と青の世界に回帰させるため、3食昼寝付きで頑張っていた。


 異世界にコンピューターなるものが存在してるとは思ってもみなかった。

 メリアローザ側の世界は魔法技術に舵をきって文明が発展したっていう話しじゃなかったっけ。

 詩織の言うところによると、


「【なれの果て】はダンジョン内にある場所です。薔薇の塔のゲートは異世界に繋がってるようです。なのでダンジョン内は異世界と思ってもらって間違いありません」


 驚愕の事実。

 ダンジョン=異世界ってマジか。

 っていうかダンジョンに続くゲートってテレポートサークルじゃなかったのか。思い返してみればそんな説明はされてない。

 されてないが、そんなたいそうなものだなんて誰も思わない。


「メリアローザは魔法文明に偏って発展してます。でも34層の世界は魔法と機械文明の両方が切磋琢磨して成長したみたいです。だから機械文明に強い我々2人が星の再生に挑んでいるというわけです。どやっ!」


 どや顔を炸裂させる詩織。不意に訪れた疑問の答えを求めてペーシェが突っ込む。


「ちょっと待って。機械文明に強い、ってことは、2人ってまさか」

「異世界転移者です」

「私は転生者です」

「言いたくなかったらいいんだけど、異世界ボーナス的なものってあるんですか?」


 異世界ボーナスってなんだ?


「期待したけど何もなかった」


 雪子は何もなかったらしい。


「相手の嘘を看破する能力らしいですが、しょぼいので認めたくない」


 え、それ、相当ヤバい能力じゃないか?


「いや十分凄いけど。それじゃあ星の再生っていうのは、具体的にどんなことをしてるのか聞いてみてもいいかな?」

「そこは詩織に任せる」


 雪子が詩織に丸投げした。


「任されましょう! まず星が滅んだ経緯からざっくり説明します。魔法文明がいきすぎて、なんでも願いを叶えてしまうマジックアイテムを開発してしまいました。奪い合いになりました。機械文明側が世界中の水資源を奪い地下に閉じ込め、人質に取りました。共倒れしてしまいました。世界は終焉を迎えました」

「えぐっ!」

「文明レベルは高くてもモラルは低かったようだな」


 しゃれにならんぞ、その世界。


「C級映画でも思いつかないようなチープな理由で滅んでしまったのね」


 雪子がメリアローザでは絶対に聞き慣れない言葉に反応した。彼女は目を見開いて飛び上がる。


「映画!? そちらの世界には映画があるんですね。ということは、車ってありますか? できれば砂漠を走行できるオフロードカー。ないしは戦車。それとプロペラ機。ないしは戦車も搭載できる軍用貨物飛行機」

「なんかどんどん大きなものになってるんだけど」

「なれの果ては砂漠地帯が延々と続く世界なんです。移動手段が限定されてまして」

「フライの魔法を使って空を飛べばよいのでは?」


 魔法があるならフライを使えばいいじゃない理論。

 しかし、『なれの果て』はアルマの想像を超えて過酷らしい。


「それは無理。直射日光が肌を焼く世界で、無防備で空を飛ぶなんて自殺行為だから。魔法は便利なんだけど、ここは機械文明のほうに軍配があがる。移動と輸送の両立。日差しや熱風から身を護る装甲。冷暖房完備の走行する施設。なにより重厚なエンジン!」


 もしや雪子は軍オタ?


「それって雪子さんが軍用車両に乗りたいだけでは?」

「いや実際、過酷な世界だから。あ、こちらからはキ●ーマシーンの設計図をお渡しできますよ?」

「不穏すぎる取引!」

「交換条件がミスマッチすぎる」


 キ●ーマシーンの設計図なんていらないよ。

 戦争したいわけじゃないし。いやまぁ、対魔獣戦のための自動迎撃ゴーレムという観点から言えば有用な情報かもしれない。しかしそういったAIを用いた兵器の運用は製造もガイドラインも未完成。

 ルールができてない内に完成された殺戮マシーンを渡されてもどうしようもない。それどころか炎上必至の技術。

 願いを叶える魔法の道具っていうのもそう。きちんとルール作りがされてなかったから世界は滅んだのだろう。

 いや、これはもうルールとか以前の問題か。

 なんにしても、終末世界の二の舞だけは断固としてごめんだ。


 そもそも軍用車両の製造はトップシークレット。それをおいそれと手に入れることなどできるはずがない。

 オフロードカーを購入するにしても使用者登録がある。それが異世界に渡ったとなれば権利者問題があやふやになってしまう可能性大。税金とか、燃料の輸送とか、さまざまな問題が発生するだろう。

 できることがあるとすれば設計図を渡すこと。技術者を紹介すること。


「大丈夫よ。アーディくんに相談しましょ。アルマちゃんが持ってたマギ・ストッカーをエンジンに置き換えれば造れるはず。魔力動力炉の研究は彼の取り組んでるプロジェクトのひとつだから、絶対に乗ってくれると思う。異世界間共同研究ということで推進しましょう」


 ヘラさんって、アーディのことをなんでも屋だと思ってません?

 消えたアンティークカフェの時も無茶振りしたし。


「こちらとしてはオフロードカーかプライベートジェットが手に入るならなんでもいいです。安全に長距離移動ができるようになりさえすれば」


 プロペラ機からレベルアップしてやがる。


「そもそも砂漠の世界なのに移動してどうするんですか? まだ生き残ってる人間がいるとか?」

「ごふっ! ぶふくっ! それは私から説明しますっ!」


 蕎麦をすすりながら言葉を吐き出そうとするから、詩織は咽てたいへんな惨状になってしまった。

 ひと呼吸整えて落ち着きを取り戻した詩織は自慢げに胸を張って語り出す。


「星の再生が成れば緑を取り戻します。作物が成ります。それを回収するために移動手段が必要というわけです。環境によって育つ作物が違いますからね。ただし、数年で星を元通りにするのは無理なので、数年で作物ができるところから再生を始めます。とりあえず過酷な環境でも育つハーブです。香辛料です。悠々自適な不労所得生活ですッ!」


 最後の言葉に籠った語気が強い。

 ダンジョンは階層ごとに別々の世界に繋がるゲートが開く。

 各ダンジョンには次の世界に繋がるゲートが設置されており、ゲートを見つけることで塔をクリア。当該階層で手に入るアイテムの売却額の数%をロイヤリティとして受け取ることができる。

 彼女は34層【なれの果て】の塔破者。34層で手に入るアイテムの売却によって生まれる金銭のいくばくかを受け取る権利を持っていた。


 が、砂漠しかない。文字通りのなれの果てと化した世界で得られるものはなく、せっかくの権利も無意味。骨折り損のくたびれもうけ。

 そこで暁が提案したのが星の再生。ランプの魔人の言葉を頼りに、機械文明の遺した地下施設を探索。先日、ようやく再生に向けての目途が立ったそうだ。

 自分の仕事がいかにすごいことか、詩織は胸を張って語る。


「遺されたコンピューターに使われていた言語を解析して、人質に取られた水資源を世界中に計画的に分配してるところです。現時点での私の仕事は、星の再生を促すプログラムの解析と実行。自動制御プログラムを構築してスパイダーネットに走らせます。走らせてる途中で細かいバグなんかが出てくると思うので、それらの除去と改善。平行してAIに学習させることで、ゆくゆくは全てを全自動で行います。それぞれがそれぞれのバグを解消できるよう、7つくらいのプログラムを自動並走させられるようにするのが理想ですね。それまでは缶詰です。でもいいんです。3食昼寝付きで日給のつく仕事なので。星の再生はきっと私が生きている間に完遂することは不可能でしょう。だからこそ、私は一生3食昼寝付きの日給付きで暮らします。さらに34層で得られる不労所得でひと財産を築いて悠々自適な、のんびりライフを実現させてみせますっ!」

「何を言ってるのか途中でわからんくなった。でもとにかくお金にすごい執着があるのは分かった」

「一生3食昼寝日給付きの生活。そういう魂胆だったのか」


 呆れる雪子。守銭奴の詩織。適材適所がハマってるとはいえ、とんでもない少女がいたもんだ。

 とはいえ、やってることは人々のためになること。ここは褒めて持ち上げるが大吉。


「下心はどうあれ、星を再生すれば作物が得られるのだろう。それはとても素晴らしいことじゃないか」

「え、私って凄いですか? 凄いですか?」


 褒められて涙を浮かべる少女はまっすぐに私の目を見つめて問いかける。

 ビジネススキル程度のパソコン操作ができるならともかく、コンピューター言語を理解して、しかも異世界の文明の技術をモノにしてしまうレベルの人間なら、日常的に褒められていてもおかしくない。

 もしや彼女の元いた世界ではそのくらい普通のことなのか。だとしたらとんでもないテクノロジーと教育をしてるな。

 ハティと暁と我々が住んでる世界は全部違う世界。とするならば、詩織もまたこれら3つの世界とは別の世界から来た可能性が十分にある。

 いったいどれだけの世界の住人が集まってるのか。考えても仕方ないので考えないようにしよう。と思うも、ふっと沸いて出てしまうのは人間の生存本能だから、それも仕方ない。


 とかくここは日々をより良き未来へ進めようとする小さな少女を褒めて褒めて褒めちぎる。教育の基本は相手の存在を肯定すること。

 良き行いには賛美を。


「そりゃ凄いさ。未知の世界を切り拓いて緑を取り戻す。しかも収穫する作物はメリアローザのためになるんだろう。いいことばかりじゃないか。そこまでになるのは並大抵の努力じゃない。困難に挑戦しようとする人を尊敬せずにはいられないな」

「えっ!? 尊敬って、私をですか!?」

「もちろん。共に働く雪子と、そして君だ。他に誰がいるというんだ。もしも私にできることがあるなら相談してくれ。私は異世界に住んでるが、協力は惜しまないよ」

「ほ、本当ですか? 女に二言はありませんか?」

「ああ、もちろん。とはいえ、雪子が言うようなオフロードカーとかプライベートジェットを簡単には用意できないから、可能な限りは、だけど」


 物質的にそっちは難しい。どうか理解しておくれ。有用な植物を調達するくらいなら、なんとかなるかも。

 無茶なお願いをした雪子は少し慌てて訂正した。


「だ、大丈夫です。すぐにすぐ必要なわけではないので。ワンチャンかけて相談した次第です。でもできれば、マギ・ストッカーを動力源に置き換える形で、車や飛行機の製造ができればな、と考えてます」

「おっと、こいつぁアルマの出番な予感がするぜっ!」


 魔法を得たアルマのテンション爆上がり。


「そのへんはまたアーディくんを挟んで協議しましょう。いっそ彼をメリアローザに招待して事情を呑み込ませて強制参加よ。彼は魔導工学のためなら異世界なんて気にしないでしょ」

「さすがにそこは気にすると思いますよ?」


 マギ・ストッカーを動力に使った車両や電化製品のようなものは、我々としても研究したい議題である。

 世界中が開発に四苦八苦する魔力保存器(マギ・ストッカー)。その完成形がここにある。とりあえず理論だけはレナトゥスの開発チームが構築したから、必要な素材を提供してもらえるように交渉しよう。

 明日の昼には焼肉パーティーを楽しむため、魔術師組合のトップである陽介さんがフレナグランに現れる予定だ。彼に相談して素材の供与を依頼しよう。願わくば、マギ・ストッカーの設計図も手に入れたい。

 と、さすがにそれは機密事項だから無理だろう。けれど聞くだけならタダなのでワンチャン狙っていこうと思います。

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