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異世界旅行1-3 出会いの数だけ喜び増して 1

前半はエディネイが主役です。

ドラゴノイドとして生まれた彼女は奇異な見た目のせいで周囲の人間はおろか、家族からも疎まれて育ちました。幸い、理解ある大人たちにも恵まれて反骨精神が宿り、学生になってからは持ち前の(虚勢を隠すための)明るさと、(恩讐由来の)向上心のおかげで周囲から一目置かれる存在に。

リィリィちゃんは生まれて初めて出会う自分と同じ境遇を持つ相手。そんな彼女にラブアタックされ続けて心の隙間がバンバン埋まっていくお話しです。


後半はシェリー主観で流れます。

魔剣工房の視察をするため、ライラとシェリーはアルマの案内で工房へ向かいます。

共同研究用に作成された魔剣を受け取り、魔剣持ちの技術を目の当たりしたシェリーとライラ。ここでライラの冒険心が大爆発。魔剣持ちが実際にモンスター退治をしているところを見てみたい。魔剣の研究に入る前に、実際に使用されているところを見てみたい。


モンスターをぶっ殺してみたい!


というものだから、優秀な冒険者を集めてダンジョンへ赴くことに。

暁の客人として異世界渡航したシェリーとライラ。いろんな意味で無事に帰還することができるのでしょうか。




以下、主観【エディネイ・ガーヴァリオウ】

 薔薇の塔・第1層【フラウウィード】

 多種多様なハーブの草原と湖のある心の原風景のような世界。

 ダンジョンの中でも数少ない、モンスターの出ない階層は観光客も訪れることのできる人気スポット。

 空気の澄んだ早朝には、地平線から昇る神々しい太陽を拝むことができるとあり、日も昇らぬうちから日の出を楽しもうと集まる人の影があとを絶たない。

 大地の緑。

 朝日に染まるグラデーションの空。

 世界に光をもたらす太陽のコントラストは、心を震わせるに十分な神威を放っていた。


 カフェを併設するログハウスには、フラウウィードで作られた数多くのお土産が並ぶ。

 乾燥ハーブ。アロマスティック。香り付きのハガキセット。アロマオイルなどなど、自分用にもお土産にも嬉しい商品がずらり並んで人々の心を魅了した。


 最も人気の商品は、フラウウィードにあるダマスクローズの丘で採取されるローズオイル。人間の手では数千本から5gしか採取できないオイルも、フェアリーの手にかかれば1本から約5gのオイルが採取できる。

 たかだか5g。

 しかし効率にして数千倍。

 それも超高品質というのだから、フェアリーに足を向けて寝ることなどご法度である。


 フラウウィードのカフェ【そよかぜ亭】で楽しめるメニューは各種ハーブティー。

 季節の食材を使った魅惑のスイーツ。中でも定番の商品はシフォンケーキ。材料はメリアローザからの輸入に頼ることなく、第1階層のフラウウィードで栽培、採取、精製される。

 人工的に穢されてない海水から製塩した塩。

 無農薬で栽培された上質な小麦。

 純白の綿の中から採取する綿実で精製された植物油。

 甘くコクの強い砂糖を生み出すサトウキビ。

 最も特徴的な食材は卵。卵を生み出す鶏の飼料にこだわりがある。オリーブ、ハーブ、ダマスクローズの花びらのみを食べて育つ超リッチチキン。

 鶏の貴婦人と呼ばれる彼女らが生み落とす卵を使ったシフォンケーキは、華やかな香りと濃厚な卵の味が楽しめる芸術作品。卵のスイーツの女王様と呼ばれ尊敬された。


「ふわっふわの~卵のすい~つ~♪」


 月下美人のフェアリーがまだかまだかと、空中をふわふわ舞い踊る。

 綿毛のようにぽわぽわと、風のようにたなびいて。


「月下は果物とシフォンケーキが好きなの? ティーパーティーの時もベルガモットフレイのオレンジケーキのシフォン部分に食いついてたけど」


 ふわふわの綿毛を手のひらで受けとめたペーシェさん。果物好きな彼女を最も気に入っている。


「ふわふわなのは大好きです。どらやきまりとっつぉのもちふわ生地も大好き♪ 抱きしめたくなりますっ!」


 エアハグをして体を震わせる月下のかわゆさたるや世界遺産もの。見てるだけで幸せになれる。


「抱きしめたくなるほどに素晴らしい感触の生地なんて、どれだけ素晴らしいのでしょうっ!」


 つられてスイーツ大好きシルヴァさんも、両頬を持ち上げて月下と同じ仕草をする。

 大人かわいい系の彼女のようになりたいものです。


「リィリィも大好き。小倉餡とバタークリームに、もっちもちのどらやき生地がもっちもちでもちもちなのっ!」

「そんなにもっちもちなのかー。それは楽しみだなー♪」


 今日は朝からスイーツ三昧。

 日の出を拝んで6時50分。

 正真正銘の早朝。早朝からスイーツなんて考えたこともなかった。贅沢ここに極まれり。

 しかもただのスイーツタイムではない。フェアリーがいて、友人がいて、リィリィちゃんがいる。

 俺の膝の上にちょこんと乗って笑顔を向けてくれるだけでセロトニンが大爆発。幸せすぎて心臓が破裂しそう。


 昨日はリィリィちゃんに連れられてセチアさんの家に泊めてもらった。

 晩御飯はセチアさん特製のポトフ。ハーブソーセージがめちゃくちゃおいしくて作り方を教えてもらった。

 畑で採れた夏野菜のサラダも絶品。焼きたてのバゲットも最高だった。

 フェアリーのみんなもいて、一緒に食事を囲んで、楽しくて、これが俺の欲しかった景色だと確信した。

 家族で温かい食卓を囲む。

 なにげない、どこにでもある日常的な風景。

 俺の世界には無かった、どこにも無かった非日常。

 それが手に入るなら、俺はなんでも捨てられる。

 そう思ってしまった。

 思ってしまうほどに、輝いていた。


 今もそうだ。素敵なスイーツを囲んで女子トークをして、朝食のあとはどうしよう。明日は何をして過ごそう。未来に目を向けて進んでる。前へ前へ、俺たちは立ち止まることなどできないのだ。

 過去を悔やんで泣いても、どうしようもないんだ。


 記憶にある食卓ではいつも母が泣いている。

 父は顔を伏せて沈黙を守っていた。

 俺が何か言おうとすると、母は黙れと叫ぶ。

 変異種(ドラゴノイド)として生を受けた俺は世界から呪われてるのだと知った。

 友人もおらず、俺はいつも本の世界へ逃げた。物語の主人公になりきれば、そこでだけは人気者になれた気がした。現実に戻りたくなくて、閉館時間まで図書館に通い詰める日々。

 うつむいた日々に転機が訪れたのは妖精図鑑を読んた時だった。きらきらとした世界が広がり、妖精の住む世界には異業種も生活するという。

 彼女たちは種族を超え、性別を超え、自然を愛し、世界を愛する者にキスをする。

 俺もそんなふうになりたい。本当に妖精がいるならば、彼女たちに愛してもらえるかもしれない。

 俺を、認めてくれるかもしれない。

 ここにいていいんだって、言ってくれるかもしれない。


 夢よりも儚い希望を胸に努力を重ね、遂にここまでやってきた。

 まさか本当にフェアリーが存在したとは。成長するにつれ、世界を知るにつれ、現実を見るにつれ、フェアリーが夢幻の住人だと認識せざるをえなくなった。

 からの~~~~っ、超超超超超超超どんでん返し!


 今日も今日とて自由奔放!

 初夏の風に舞う天衣無縫!

 ある意味素敵な傍若無人!


「おどりたくなる~おどりたくなる~おどりたくなる、いい天気~♪」


 楽しすぎて全身で喜びを表現する純真無垢なローズマリーたちの姿に癒される。

 マジで移住したくなる0.1秒前!


「ええ、本当にいい天気ね。晴れてよかった」


 セチアさんは快晴に負けないほどの笑顔を咲かせる。


「晴れの日も素敵ですけど、雨の日だって素敵なんですよ? フラウウィードではしとしとと雨が降って、少し暗いけど魔力灯の明かりがふわりとログハウスを照らすんです。暖かい光に濡れる木目は赴きがあるんですから♪」


 メルティさんはロマンチックでセンチメンタルな雨の日を推す。

 なるほど、たしかに暗がりの中に輝くガス燈とか趣がありますもんね。

 続けて、華恋さんが魅力的な事実を教えてくれた。


「むしろ雨の日にどれだけ素敵な景色になるかを考えて設計されたんですよね」


 そう聞かされると雨の日も見てみたくなっちゃうじゃないか。


「雨、ですか。雨、は、好きじゃない、です」

「獣人の方々は、湿気が強いと毛がぼわぼわしてしまう毛質なのですわ」

「どちらもよくわかります。雨はなんだかセンチメンタルな気持ちになっちゃいますが、それがいいんですよね。私の髪も雨が降ると湿気でくるんくるんになってぼわってなっちゃいます」


 リンさんの毛もすみれさんの髪の毛もふわふわくるんくるんなのに、雨が降るともっとすごいことになるのか。ちょっと見てみたいな。


「髪の毛だけでも特徴的なのに、雨の日のすみれはもっとすごいことになるよね。メリアローザの雨は霧雨だから、そういう髪質の人ってすっごい大変だって聞いたことがあるわ。エディネイもちょっと癖っ毛があるけど雨の日とかどうなん?」


 ペーシェさんに話しを振られてどきっとする。

 好印象を与える材料はないか。1秒考えて、なにも思いつかなかった。


「俺っすか? 先っちょが少しカールしてるだけで雨の日は特になんともないっすね。ただ不思議と、どこで髪を切っても1日するとくねるんっすよ」

「だから少しでも髪を切るとすぐにわかるよね。切ってすぐはストレートになるから」


 切ってすぐの髪はストレートなのに、寝て起きるとなぜかくねる謎の髪。

 困ることはないが、どんな構造になってるのかはとても気になる。


「面白い髪質してるねー。にしてもみんな乳でけぇな! 何を食ったらそんなんなるの? 異世界人ってみんな乳でけぇの?」

「もみじさん、セクハラですよ?」


 黒髪ポニテの姉御肌は秋紅もみじ。アナスタシアが刀を振るうに際して技術指導をする人物である。

 メリアローザにある剣術道場の中でも特に優秀な人物であり、時折、冒険者としてダンジョンに赴くこともあるそう。

 冒険者としてはまだまだ新米ではあるが、腕っぷしと技術は並みの冒険者を超えると評判である。

 腕もよく、指導ができ、信頼でき、アナスタシアと同性。セクハラチックな発言が珠に瑕であるものの、暁さんが指名した彼女はアナスタシアにとって良き友人になれそうだ。


 東風谷あざみさんはギルド【暮れない太陽】が経営する旅館【日輪館】の女将。

 きっちりとした性格が生真面目な華恋と合い、2人でよくスイーツ巡りをする仲だそう。

 友人との外出だというのに、和服をばっちりと着付け、化粧をし、結った髪に乱れなく、手入れの行き届いた簪はきらきらと輝く。

 我が振り見比べて恥ずかしくなるような清廉さ。嫉妬を通り越して憧れるほどに整った顔立ちも、己の羞恥心に拍車をかける。眩しすぎて直視できねぇ。

 しっとりと濡れたように見える艶やかな黒髪と、優しそうな目元が印象的なお姉さん。妹の紫とは正反対な性格に見える。


 エルドラドに1泊したフィアナとリンさんには素敵な異変が生じていた。

 いつもフィアナがしているサファイアのピアスをリンさんが、リンさんが被っていたベールをフィアナが被ってる。どうやら友情の証にお互いの持ち物を交換したらしい。

 おっとりとした性格の2人だからきっと仲良くなるだろうとは思った。これは想像以上に心が通じ合ったようだ。

 一生の友か。俺もリィリィちゃんとそんな仲になりたいな。


     ♪     ♪     ♪


 俺とリィリィちゃんの前に黄金色をしたシフォンケーキが運ばれる。

 小麦と卵の香ばしい匂いが脳天直撃。これを食べてしまったら、もうほかのシフォンケーキを食べることができなくなるかもしれない。そう直感させるほどに強烈な存在感を放っていた。

 まずは半分に切り分ける。俺とリィリィちゃんの分。リィリィちゃんもそうだけど、朝食のお品書きを聞いた瞬間に全部を食べられる気がしなかった。だからリィリィちゃんと半分こずつにしようと決めたのだ。


 シフォンケーキとハーブティーにくわえ、すみれさんが考案した水玉ラスクのマリトッツォからインスピレーションを受けた、どらやきまりとっつぉが現れる。

 春の名物スイーツとして勇名を馳せる春色プリン。

 夏場のこの時期に提供されるラベンダーのヨーグルトケーキ。

 八朔などの柑橘類を使ったあまなつとフサスグリの寒天。

 とても食べきれる気がしない。1日で食べきることなく、日を改めて訪れることも考えた。だけどみんなで食べられるのはこのひと時のみ。であれば全部を欲張ってしまっていいじゃないか。もっともっと欲張っていいんだ。

 遠慮なんてすることはない。自分の思うように生きればいい。


 よし、リィリィちゃんとともに、いざぱくりっ!


「ん~~~おいしい~~~♪ エディネイお姉ちゃんと一緒だからいつもよりもっとおいしいっ!」

「俺も最高においしいよ。リィリィが一緒だからもっとおいしい!」


 あーーーーもぉーーーー永住してぇーーーーッ!


「本当にラブラブな2人だな。こっちまで顔が赤くなっちまうよ」


 でしょ〜♪

 うらやましいでしょ、ライラさん。でも絶対にこのポジションは譲りませんからねっ!


「彼女が華恋の言っていたエディネイさんですね。とても素敵な角飾り。よくお似合いです」

「いやぁ~♪ そうっすか? そうっすかぁ~?」


 褒められたら褒め返すの礼儀も忘れ、嬉しくて嬉しくてしょうがない俺はもぅほんとうにしあわせのぜっちょうです!


「どろどろのでれでれだな」

「ああ、シェリーがプリマに向き合ってる時とそっくりだ」

「え……私ってこんな顔をしてますか?」


 ライラさんの指摘にシェリーさんがきょとん顔。

 どうなんだの吹き出しを見せて後輩に向き直った。


「してらっしゃいます」

「してますね」

「想像に難くありません」


 フィアナもアナスタシアも、アルマも肯定。

 1人だけ、当の本人だけ唖然として、


「マジか」


 のひと言を呟いた。

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