表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/1090

異世界旅行1-2 恋も旅路も行方は知れず 13

 カラフルな世界から一変。

 ここから先は自分との闘い。

 人間の欲との勝負。


 (ゴールド)


 それは世界中で愛され、奪い合い、富と権力の象徴とされてきた魔性の輝き。

 人類が文明を栄えさせてきたその時から寄り添い、あらゆる偶像として君臨した鉱石の王。

 それがこの暗闇の先に待ち構えている。どきどきが収まりません。心臓がはち切れそうです。


「そんなに緊張なさらなくて大丈夫ですよ。ただの金鉱床ですから」

「ただの金鉱床なら大丈夫ですね」


 華恋さんとわたくしの合いの手に、ペーシェさんがすかさずつっこむ。


「いやいや、金鉱床ですよ。人生で一度あるかないかの体験ですよ。それより華恋、あたしが金を盗掘しないかしっかり監視しておいてくれ」

「ペーシェってそんなに理性が弱いの? そうは見えないけど」

「悪意なく無意識にやっちまうかもしれん」

「――――暁さんからは、今回旅行に来た人たちは留学してるアルマたちにとって大切な友人で、とてもお世話になってるから、自然金の1つや2つぐらいならお土産に渡してくれて構わないって言われてるんだけど。川底の自然金、この場合は砂金なんだけど、自然に作られた形だからどれひとつとっても同じ形がなくて赴きがあるから記念に、って」

「暁さんって太っ腹すぎるでしょ。それとも市場価値を知らないとか?」

「メリアローザでも金は超高額で取引されてるよ。もちろん本人はそれを知ってる。特にすみれは優遇してくれって。アルマたちに毎日おいしいご飯を作ってくれてるから、って」

「それはたしかに。すみれは貰っていいやーつだわな」

「マジでありがとうございますっ!」


 アルマさんの感謝が木霊する。わたくしも後夜祭のビーフシチューにはお世話になりました。

 すみれさんは感謝されてることを知り、恥ずかしながらも誇らしげな笑顔になる。


「いやぁそんな。私もみんながいてくれなかったら寂しさで死んでました」

「寂しさで死ぬの!? まぁそれはさておき、本当に遠慮しなくていいよ。暁さんがいいって言ってるんだから」


 ここですかさず強欲の化身が割り込む。フェアリー大好きなシルヴァさんだ。


「私は金なんかよりもショコラにフェアリーたちを招待したい。フェアリー御用達の店として毎日来店してほしい。紅茶もケーキもタダでいいからっ!」

「激しく同意」

「それは金に勝る贅沢」


 シルヴァさんもローザさんも、ペーシェさんもフェアリーと共にティータイムを楽しみたい派。

 無論、わたくしもです!


「フェアリーを前にすると金なんて鉄屑ですわ!」

「フィアナさんがそれを言っちゃいますか!」


 金よりもフェアリーの存在のほうが圧倒的に希少。

 金の輝きも魅力的ですが、彼女たちの笑顔のほうが温かみがあります。

 金はそこにあるだけ。だけどフェアリーには心がある。語らい、笑い、共に3時のティーパーティーを楽しむことができる。これほどの贅沢がこの世にあるというのでしょうか!


 昨日の楽しいひとときを思い出して興奮冷めやらぬ我々は、このテンションのまま金鉱床に足を踏み入れた。そこもまた幻想的な世界。あたかも宇宙の真ん中で瞬く星の煌めきに臨むかのよう。

 ごつごつとした岩肌。黒い岩石と金色の鉱物が混ざり合う。

 耳を澄ませると水の流れる音が聞こえた。金鉱床には地下水から溢れる水脈が通り、河川を形成して流れている。水の流れは金に含まれる不純物や銀の成分を洗い流すことで、純度の高い金として完成させた。

 床も、天井も、壁も、全てが高純度の金を含有した鉱物。

 川底にはぎっしりと敷き詰められたように並ぶ大粒の砂金。

 あぁ、わたくしは微睡の中で夢を見ているのではないでしょうか。


「すごいね。金っていうから、もっとギラギラしたイメージだったけど、ここはなんていうか、神秘的な印象を受けるばかりだ (アナスタシア)」

「わぁ~~~~っ! きらきらしててとっても綺麗。お星さまがそこにあるみたい! (リィリィ)」

「おっと、足元が悪いから気をつけるんだぞ。これだけ見るとまるで地下だが、俺たちって岩盤の中にいるんだよな (エディネイ)」

「現在地は地上から30mほどの場所なんです。ちなみに調査では、今立ってる地点より下部のほうが金の埋蔵量が多いようです。なので天井に向かうにつれて金の含有量が少なくなっていってます。だからこそ、小さな金の点が光源に照らされて星空のように見えるんです。この部分がそう見えることも、ここが空洞になってることも、奇跡としか言いようがありません (華恋)」

「ちょっと待て。ということは、この水の流れはどういうことだ? (シェリー)」

「水圧で押し出されているみたいです。自然の力ってすごいですね。陳腐な表現ですけど、こんな言葉しか選ぶ余地がありません (華恋)」

「砂金を作るために誰かが意図的に工作したとしか考えられないような奇跡的な確率。湧水穴が生まれないと岩盤の内部に水なんて流れるわけないし。水って高いところから低いところへ流れていく性質があるから (ヘラ)」

「すげぇー……常識が爆発して粉々に消し飛んでいくー…… (ペーシェ)」

「せっかくなので記念撮影をしませんか? データは保護して他人に見られないように厳重に管理しますので (シルヴァ)」

「金鉱床じゃなくて鍾乳洞って紹介すれば大丈夫。まさか誰も壁一面が金に覆われた金鉱床が存在するだなんて想像だにしないから。金って聞かれた時は黄鉄鉱って説明すれば大丈夫 (ヘラ)」

「そんなのを想像できるやつなんてある意味で病気ですよ。あるいは金の亡者 (ペーシェ)」

「いわんとすることは分かる (ローザ)」

「光源が弱いのでシャッタースピードを5秒に設定しましょう。さぁさぁ、並んで並んで♪ (フィアナ)」


 金鉱床をバックにハイチーズ!

 そのままじっと固まること5秒。息も止めて微動だにしなかった我々は、カメラの閉まるシャッターの音で大きく息を吸って笑みをこぼした。

 きっと一生の思い出になるだろう。いつか写真を見返して、かの日のことを思い出す。記憶にも記録にも残して大事にしまって遺したい。

 いつか子供ができたなら、彼女たちは自慢の友人なんだと語って聞かせることだろう。

 まだ見ぬ子供たちにエルドラドを紹介しよう。父や母にも知ってほしい。世界にはこんなにも素敵な場所があって、わたくしの友人たちは本当に素敵な人たちなんだと。

 住む世界は違えど、心は通い合えるのだと。


 金鉱床を抜け、水晶鉱床でも記念撮影を行い、泥炭地へ向かう道中でも写真を撮り、ようやく前へ歩き始めた我々を不思議そうに見つめるリンさんとミーケさんは、何をしているんだろうと首をかしげていた。

 メリアローザは機械文明が発達していない。だからカメラというものがなんなのか、それを使って何をしているのか。まったく理解できないでいる。なので彼女たちの心の内はこうだ。


『なんでいちいち立ち止まって小さな板に向かって笑顔を作っているんだろう』


 とてつもなく変なものを見る目で、早く先に進みたいなー、という顔をした。

 心は通えども、異世界間の文化の違いを乗り越えるのはたいへんな努力が必要そうです。


     ♪     ♪     ♪


 タイガーアイの階段から臨む泥炭地。広大で真っ黒な湖が雲形定規のように広がり、黒い湖を囲うように木々が生い茂る。青々とした樹木には白や黄色、青色などの花が咲き、訪れる人の心を豊かにしてくれた。

 花の蜜を集める虫や小鳥。

 木の実を求めて現れたリスやたぬき。

 都会では見られないような自然のままの世界が広がる。

 こんなところでピクニックなんてしたら最高に楽しいでしょうね。


「こんなところでピクニックなんかしたら、動物たちに襲われる可能性が高いからやめておきましょうね。気持ちはわかるけど」

「す、すみません……」


 現実的なヘラさんに諭されてしまった。

 たしかに、お弁当を狙って襲われそう。


「人間を見たことのにゃい動物たちばかりがいるから、みんにゃこっちを見てめっちゃ警戒してるにゃ (ミーケ)」

「それでタイガーアイの階段は途中までしか作ってないんですか? (ペーシェ)」

「いや、これは工事が途中なだけ。労働力は全部、漁港の建設に割いてるから。漁で魚介類が獲れればそれだけ食い扶持が増える。なにより魚は加工すれば保存がきくからね。冬を越すのに必要なんだよ。こっちは、まぁ山の幸がないことはないけど、ここに来るまでの道中の森や山の恵みだけで十分だから。採取に割ける人数も限られてるからね (華恋)」

「たしかにすごかった。山ぶどうにあけび、自然薯。各種きのこ。金柑とかザクロの木もたくさんあった (すみれ)」

「全然見あたらなかったけど (ペーシェ)」

「どれもこの時期には実をつけないから気づかんだろ。つまりすみれは木を見てそれがなんなのか判断できるんだよ。自然薯にいたっては、蔓と葉しか判断材料がないぞ。実は地中だからな。私に見えたのは山ぶどうの花くらいだ (ライラ)」

「ナチュラルにすごっ (ローザ)」

「泥炭地のど真ん中にある小山の向こうの山には、柿とか栗の木が群生してるね。山の恵みがいっぱいで素敵! (すみれ)」

「もはや全部同じ木にしか見えないレベル。どれだけ視力いいの? (シルヴァ)」


 望遠魔法で覗いても、全て同じような木にしか見えません。

 ここからゆうに数百キロ。彼女の眼球には望遠レンズが搭載されているのでしょうか。


 それはさておき、泥炭地から顔を出す小山、もとい巨大な鉱物。

 巨大な岩盤が水の流れで削れ、時とともに形を変えていったかのように見える岩山。

 が、あれは大地から飛び出ているものではない。素人目にはわからなくてもわたくしの目はごまかせません。

 これはまさしく隕石。

 宇宙より飛来した鉱石に違いない。


 考察を述べると、華恋さんは同じ穴のムジナを見つけて大興奮。


「大正解です! この泥炭地はもともとは隕石が落下したクレーター跡なんです」

「隕石って、まじか」


 さすがのシェリーさんもこれほど大きな隕石は見たことがないようです。

 わたくしと華恋さんの饒舌が始まる。


「はい。独特の光沢と、でこぼことした肌艶は間違いなく隕石です」

「しかもウィドマンシュテッテン構造を持つギベオンなんです」

「これほど巨大なギベオン隕鉄が目の前に!」

「ですです。しかしさすがに大きすぎて動かせないですけど、衝突の衝撃で飛び散った隕石群が見つかったんです。それらを裁断したのがーーーーーーこちらです!」

「なんて見事な網目模様。独特な光沢も素晴らしい!」

「「「「「すーん…………」」」」」


 はしゃぎまくる2人以外はなにがなにやら分からなくて茫然と立ち尽くした。

 そりゃ隕石は珍しいだろう。でもただの鉄でしょ。それがなんなんだ。その程度の認識である。

 ウィドマンシュテッテン構造はギベオン隕石にのみ見られる網目状の模様。これらを人工的に再現することは不可能であり、自然が作り出した芸術のひとつである。

 幾何学的な美しさを内包するギベオン隕石は、装飾品や時計の文字盤としても利用される、非常に人気の高いアイテムなのです。

 隕石由来の宇宙のエネルギーを持つと言われ、約40億年もの間、宇宙を漂っていた存在は星々のマナを持つとされています。

 後半は科学的、魔法的根拠の乏しいスピリチュアルな伝承ではあります。

 ですが、地球の自然界では存在しない鉱石が巡り巡って我々の元へやってきてくれた。大いなる宇宙の神秘と浪漫を感じませんか!


 イエス以外に答えのない質問。

 万が一にもノーを言ったなら、わたくしはギベオンと宇宙の神秘について延々と語っていたことでしょう。

 興奮冷めやらぬまま、エルドラドに戻るまでずっと鉱物について華恋さんと語り尽くしました。鉱石の話しができる人が少なくて、こんな機会は滅多にないので語り尽くしたいと思います。

 間に挟んだリンさんを交えながらの会話はとても楽しく、気が付いたらあっという間に目的地でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ