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異世界旅行1-2 恋も旅路も行方は知れず 2

 真剣な表情でノートの隅々まで目を通す2人。その眉間にはしわが寄り、頭の上にはハテナマークが飛び出している。

 何かおかしなことでもあるのだろうか。古今東西の刀剣の装飾を独学で学び、理想の刀像を描き出した妄想の産物。

 当然、刀である限りは使い手の腕が最重要。実力が伴わなければ、どんな煌びやかな装飾も虚飾でしかない。

 まさか、デザインのセンスから私の腕を推し量ろうとしてるのか。

 だとしたら自信がない。ベルン寄宿生の基本武器は両刃のショートソード。刀の立ち振る舞いとは全く異なる。それはこれから学んでいくのでスルーでお願いいたします。


 本職の辰巳さんの口が開く。

 どうか、どうかお手柔らかにお願いしますっ!


「いえ、さすがにデザインから実力を推し量るのは無理ですよ。そうではなくて、刀の装丁が随分と煌びやかなのですが、これは観賞用のデザイン案ですか?」


 観賞用?


「いいえ、実践で使う用のデザイン案です。が、どこか変だったでしょうか。やっぱり素人の意見なんて愚案ですよね」

「いえいえ、これはこれで素晴らしいものだと思います。我々の文化にはないような意匠は見ていて非常に勉強になります。ただ、実践用の刀の装飾はもっとこう、シンプルな傾向にあるんです。もしかして異世界ではこういった量の装飾が普通なのでしょうか?」


 シンプルな意匠?

 間違えたと確信して言葉に詰まる私を見てライラさんから助け舟がでる。


「結論から言うと、人による。派手好きなやつは装飾過多な傾向がある。少なくとも剣闘士の多くは、武器は消耗品って意識がある。だから装飾は必要最低限かな。破損するのが前提だからだ。破損しても修理しないって決めてるやつもいるが、剣闘士は人気商売って側面があるから細かいところも気にするな」


 妄想を覗き込むシェリーさんも困ったような顔。理想があるのはいいけど、実践向きじゃないなって表情をしてる。


「騎士団の場合は集団戦が主だし、経費削減もあって大量生産された汎用的な武器が支給される。例外的に専用武器を用意してる場合もあるが。基本的に汎用的なものだから、装飾は全くといってない。あるとすれば、所属を表す刻印が刻まれるくらいかな。その点からいうと、アナスタシアのデザインは超装飾過多だな。維持費だけで金がかかりそうだ」

「メリアローザの冒険者は効率厨がほとんどなので装飾の類は必要最低限ですね。クエスト内容によって武器の種類や、同じ型で複数種類の武器を持ってる人もいます」


 ヤヤちゃん、異様に詳しいな。暁さんから教わったのかな。

 ヤヤちゃんの言葉に辰巳さんが付録を付け加える。


「武器を使うとなるとモンスター相手の討伐任務がほとんどですからね。あまり目立ちすぎるとモンスターに見つかります。なので、アナスタシアさんのいうような装飾はあまり見ません」


 辰巳さんの言葉通りなら、魔獣を相手にする私が装飾過多な武具を持つのは恥さらしと同義。自己顕示欲丸出しの間抜け。

 とはいえない私を前に、知ってか知らずか、キキちゃんから助け舟。


「え~? でもでも、シェリーさんっていっつもきらきらしてるよね。ちょーかっこいい!」

「私の場合はタンク職だから、あえて目立つ格好をして敵を引き付ける必要があるんだ。それと広告塔っていう理由もある。役割によって見た目も変えるんだ」

「なるへそ。じゃあなんで暁さんは商人なのに女侍のかっこうをしてるの?」

「えっと……それは…………」


 キキちゃんの純粋な疑問に視線を逸らすアルマ。

 暁さんは着たきり雀。

 どんな時でも袴姿。キキちゃん曰く、『暁さんの袴姿以外は見たことがない』とのこと。

 どんだけおしゃれに無関心なんですか。そのくせ、他人にはもっとかわいい服を着ろって言った。

 きっといつかしっぺ返しがくるんだろうなぁ。今まさにその時。矛先が本人じゃないだけタチが悪い。


 暁さんの私服について、金髪ツインテールを揺らしてひねり出した答えは、


「暁さんは自分の衣服を買う代わりに、修道院の子供たちに服を買ってあげてるんじゃないかな」


 苦しい。

 それはさすがに苦しい。

 実際にそんなことをしてそうだけど。


「そっか! 暁さんだもんね!」


 納得した!

 子供特有の、よくわからないけどそうなんだろうなぁ理論。

 納得してもらえなかったら、それはそれで面倒なことになってそうだったから助かったと、アルマは安堵のため息をもらす。


 しかし装飾過多とな。参考にした図鑑と比べるとかなり控えめだと思うんだけど。

 実践で使われる武器とも照らし合わせて豪奢になりすぎないようにも気を付けたつもりだった。何がいけなかったんだろう?


 答えは参考にした図鑑と倭国の文化背景にあった。

 倭国は戦闘における技術や魔法の多くを秘匿している。倭国刀もその1つ。一般に公開される刀は歴史的に価値のある骨董品であり、現代戦において使われることのない過去の遺物。

 特に図鑑などに収録されるようなものは観賞用として製造されたものばかりが掲載された。

 そんなものを参考にしたから、私のデザインノートの中身はカラフルな色合いで埋め尽くされている。まるで思春期の女子が友達と交換するメッセージノートのように。


「一般的に公開される倭国の武具は観賞用が主だからな。実践で使う武具の詳細は業者のカタログを見て参考にしよう」

「そんなのあるなら早く教えてくださいよっ!」


 身勝手な怒りをライラさんにぶつけて額にでこぴんされた。無表情で。

 でこぴんをもう一発放とうとするライラさんの前に辰巳さんが立ちはだかる。どうして2発目を放とうとしたのか謎だが、とにかく助かった。


「まぁこれはこれで貴女の人と成りが分かりました。考える時間はたっぷりあります。じっくりと時間をかけて考えていきましょう。僕は貴女のためにここにいます。なんなりと相談してください」


 辰巳さん、優しいっ!

 マルコより先に貴方に出会ってたら惚れたかもしれない。


「オーダーメイドの刀だけじゃなく、刀まわりの実装にも専属の職人がついてくれるとは。本当に恵まれてるな。羨ましいくらいだよ」


 シェリーさんも羨む現実を堪能する私は果報者。

 本当に恵まれている。

 だから私は、恵まれただけの幸運を誰かに分けてあげたいと思う。

 自分を育んでくれた故郷に、多くの仲間と出会わせてくれたベルンに。

 私を認めてくれた暁さんに。

 まずはベルン寄宿生の剣術部門で主席を取りたい。幸い、私は剣技関連の魔法適正が高い。だが、ベルンには刀の技術を伝授できる人間がいない。課題があるとすればこの点である。

 メリアローザにいる短い時間の間でどれだけの修行ができるか。どれだけ吸収できるか。自分の努力にかかっている。


 でもさすがにこの旅行期間でマスターできるはずないので、なんとかして異世界を渡らせてもらおうと思います。さいあく、師範になる人をベルンに招いて剣術師範になってもらうとか。さすがに虫が良すぎるかなあ。

 できれば暁さんに弟子入りしたい。土下座してでも技を教えていただきたい。


 切実な願望を漏らす。するとアルマが肩を落としてため息をついた。


「暁さんに教えを乞うのは無理だと思いますよ。超多忙なうえ、レベルが違いすぎて何がなんだかわからないと思います。あと、暁さんは魔力を体外に放出しづらい体質なので、剣技系の魔法も使えないです」


 レベルが違いすぎるのは理解してる。でもやっぱり、憧れの剣士に稽古をつけてもらいたいと思うのが人情なのっ!


「剣技系もダメなの? 剣士なのに? どうやって魔獣と戦うんだ?」


 アルマはエディネイの質問に超がつくほど簡潔に答える。


「技術と力技。そもそも暁さんがいたらモンスターはおろか、動物も寄り付かないから。ほら、小鳥も猫も犬も見あたらないでしょ?」

「ほんとだ。動物の姿がない」


 不思議なことだ。鳥のさえずりひとつ、虫の音ひとつも聞こえない。あるのは人間の喧騒だけ。


「でもさ、金牛の解体の時は普通にしてたじゃん。なんで?」


 言われてみればペーシェさんの指摘は正しい。動物に忌避されるなら、暁さんの前に牛たちはいないはず。

 理由はあります。と、アルマは続ける。


「それはハティさんがいたからです。ハティさんは超が付くほど動物たちに好かれますので。この前、動物の譲渡会に行ったんですけど、全動物がハティさんの前に出て甘え声を出してましたよ」


 なにそれ、ちょー見てみたい。

 エディネイは少し知ってるらしい。


「それニュースになってたやつだ。動物たちが一斉に公園に集まったってやつ」

「さすがハティさん。獣の神にして王よ」


 私もその場に居合わせたかった、とヘラさん。

 呆れ半分、感心半分のローザは腕を組んでため息をもらした。


 獣の神にして王?

 よくわかんないけど、それほどまでに好かれるのか。そこまで好かれないにしても、もふもふを堪能したい願望がある。ので、いつかハティさんにくっついて動物たちをもふもふさせてもらおう。


 譲渡会に行ったキキちゃんが当時のことを思い出し、面白エピソードを提供してくれた。


「でもゆきぽんがハティさんのおめめを体で塞いでたよ。鼻の頭にしがみついて、みょーんって背伸びて前が見えないようにしてた。ゆきぽんのお友達を迎え入れようと思ったんだけど、ゆきぽんがハティさんを独り占めしたいからって頑張って阻止しようとしてた」


 ゆきぽん、かわいいなぁ。

 必死な姿が目に浮かぶ。

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