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異世界旅行1-1 驚天動地に咲くは薔薇 19

 ところ変わって東側エリア。

 星明かりのみが道しるべ。

 神聖なまでの静寂が横たわる。

 沈黙をかき分けるように、一直線に目指した先はルクスアキナさんが出張してるバー。

 老朽化のせいか、天井の抜けてしまった店舗を借りてお酒を出した。

 廃墟のような様相も、満点の星空のおかげで雰囲気抜群。お酒を飲みながらお星さまの歌を聴く。なんてロマンチックなんでしょう。


 そのせいか、そこかしこで聞こえるカップルの小言が耳障り。

 あぁ、聞こえたそばから爆撃してぇ…………ッ!

 震える拳を理性で抑えろ!


 こんな時はすみれの顔を見よう。癒し成分を摂取して心を鎮めるのだ!

 頼みのすみれはルクスアキナさんのところへ行った。当然と言えば当然ですわな。


「お久しぶりです、ルクスアキナさん。バーテンダーの恰好もとても似合ってらっしゃいますね!」

「久しぶり、すみれちゃん。貴女の浴衣もとっても素敵ね。赤い金魚と青色の水波が涼し気で素敵。さぁ、カクテルなんていかがでしょう。今日はいろいろと仕入れてるから、なんでもオーダーしてね♪」

「「「「「お酒…………」」」」」


 振り向くと、がっくりと肩を落とした子供たちの姿がある。

 仕方がない。子供はお酒が飲めない。大人たちばっかりいい思いをしてずるい。

 なによりハティお姉ちゃんたちが愉しむ【お酒】という飲み物に興味津々。好奇心旺盛な少年少女たちはぶーぶーと鳴いて不満を募らせた。


 普通であれば、『みんなも大人になってから』だとか。『無茶なことを言わないの』だとか。挙句の果てには、『子供が飲んだら死んでしまう』とか。そんな言い訳を並べて追い返そうとする。


 が!

 できる女はひと味違った。


「ふふふ♪ そうよねぇ。大人ばっかりいい思いをしてずるいよね。それじゃ、今日は特別。みんなもお酒を飲んでみよう。でも、ほんの少しだけ、ね♪」


 お酒の魔女のウィンクに期待を募らせる子供たち。きらきらとまばゆいばかりの瞳は星々の輝きにも負けてない。

 しかしどうするのか。ほんの少しとはいえ、本当にお酒を飲ませてしまうのか。

 もしや、ここは異世界で、飲酒の年齢制限がないからセーフなんて詭弁じみた抜け道を使うのか?


 冷暗室から取り出したるはキンキンに冷えたグラス。中には8層のアイスクリーム。バニラ()トマト()マスカット(薄緑)バニラ()ぶどう()りんご()いちご()みかん()

 カラフルなきらきらが大好きなラクシュミーちゃんはグラスを猛奪取。

 お酒のことなんて忘れて目を輝かせる。グラスを揺らしたり、星空にかざしたり、ほっぺにグラスを当てたりと楽しそうだ。


「うふふ。気に入ってくれて嬉しいな。それじゃ、さっそく始めていきましょう。ここにブランデーがあります。りんごの蒸留酒です。なかなかいい代物ですよ♪ それでは年長者のヘラさんにストレートで楽しんでもらいましょう」

「めっっっちゃおいしいっ! これどこ産の?」

「ソフィア経由でマーリンさんから頂きました。アイザンロックの雪りんごをブレンドしたマーリンさんオリジナルのアップル・ブランデーです。ほんっっっとにおいしいんですよ!」


 テンションの上がる大人を前に、メアリさんが冷や汗たらり。


「あの、なるはやでお酒の魔法を」


 子供たちが悲しい目で見ていた。早くしてくれと訴える。


「ご、ごめんね。それじゃあね、まずはこのブランデーをグラスの上に薄く注ぎます。それから、このステッキを振ると」


 ブランデーをヘラさんに渡し、ガラスのマドラーをグラスの淵にカンと当てる。と、ふわりと小さな星が生まれた。ふわふわと揺れる小さな炎。息を吸うと芳醇なりんごの香りが胸を焦がす。

 なるほど、フランベでアイスを香りづけしているわけですな。

 子供がお酒を飲めない理由はアルコールにある。フランベによってアルコールを飛ばし、さらに香りづけまでする工夫。話術と魔法を組み合わせた演出も素晴らしい。ルーィヒに見せてあげたい。


 しだいしだいに炎が小さくなる。

 最後にぽっと小さな音を立てて魔法が解けた。

 アイスもいい感じに溶けて食べごろ。

 子供たちの笑顔が満開。


「すんごいおいしいです。トマトとバニラのアイスの取り合わせがこんなに合うなんて知りませんでした」


 スイーツ辛口評論家のシルヴァさんが手放しで絶賛。


「味も見た目も演出も最高です。いつもあんなふうにしてるんですか?」


 ローザの質問に、できる女はアルカイックスマイル。


「ううん。即興の演出」


 マジか。バーの店主で接客はお手のものとはいえ、手慣れすぎでしょ。

 シェリーさんも同じことを思い、同時に別のことも考えた。


「すごい手慣れてるように見えたが。それより、ルクスアキナがここにいるということは」


 そういうことです。というウィンクが飛んできて、シェリーさんは星空を見上げた。綺麗ですからね。涙がこぼれないようにしたいですよね。

 念の為にと、アルマが口に出して事実を語る。


「ソフィアさんもフィーアさんも、デーシィさんも異世界人ということですね」

「まさかの展開。身近に異世界人がいたとはな。しかもベルン騎士団の中にとは。ところで」


 飲み過ぎのヘラさんを見て、シェリーさんが心配を募らせる。


「え、なぁにぃ~? (ヘラ)」

「飲みすぎ。遠慮して。ペーシェも (ローザ)」

「いやこれマジでうまいんだって。果実酒(リキュール)は好きなんだけどさ、今まで飲んだ中で一番おいしい。そうか。ワープが使えるようになればアイザンロックにも行けるのか。死ぬ気で覚えなくては (ペーシェ)」

「たしかに。じゃなくって! (ローザ)」

「ローザちゃんにはバラのエッセンスを加えたホワイトラムなんてどうかな? (ルクスアキナ)」

「いただきますっ! (ローザ)」

「エレニツィカちゃんとヘレナちゃんはなににする? (ルクスアキナ)」

「私たちは一応仕事中なので。アイスをいただきます (ヘレナ)」

「アイスも食べたい (ペーシェ)」

「まだまだあるよ♪ (ルクスアキナ)」


 さすができる女は用意がいい。

 子供たちの心を鷲掴みだ。

 大人たちの心も鷲掴み。

 アイスもお酒も絶品です。

 綺麗な星空も見られて最高ですな。


     ♪     ♪      ♪


 はふ~。

 いかんいかん。ちょっと飲みすぎたかも。アップル・ブランデーは甘めで飲みやすいとはいえ、蒸留酒だからアルコール度数45度。ロックにしてもなかなかの火照りっぷり。これ以上は飲酒規定を超えてしまう。あ、ここは異世界だから飲酒規定とかないんだった。

 でもおいしく飲むための指標としては世界基準。最後はあまぁ~いアイスで締めくくるといたしましょう。

 お酒で火照った体にひんやりあまあまアイスが染みわたる~♪


「本当に素敵な夜ね。ずっと夜が明けなければいいのに。なんてね」


 流し目で笑顔を作る妖艶な女性が現れる。

 アラクネート・ウィルハート。尊敬する魔族の女性。

 大人っぽい雰囲気と色気のある口元がセクシー。黒のドレスもめっちゃ似合ってる。

 やっべぇ~。大人のエロスに溢れてるんですけど。同性だってムラムラくるわ。やべぇよ。このまま見つめてたら瞳に吸い込まれそう。

 なんか話題とかないかな。そうだ、アラクネートさんの得意分野。景色染めの話しを振ろう。なんだったら今日の天の川の景色を反物に染めるなんてどうだろう。一生の思い出になると思うんですよ。


「えぇ、よい考えですね。それでは、お酒を1杯いただいたら、みんなで景色染めをいたしましょう」

「アラクネートさんは普段からお酒は嗜まれるんですか?」

「いいえ、そんなにお酒は強くなくて。祝い事の席で少しだけ、ですね」


 困ったような表情で作る自然な笑みが大人かわいいを演出してる。

 なんだこれ。かわいいを通りこしてエロいんですけど。

 こんなん男子が見たら脳死するわ。


 お酒に強くないアラクネートさんでも飲みやすいと勧められたのはエル・ディアブロ。テキーラをベースにしたカクテルの一種。さっぱりとして飲みやすい。お酒初心者や女性に好まれる味わいのカクテル。

 これをボール状にカットされた氷とともにグラスに入れて飲むという。

 のだが、友人の前だから狙ってやってるんじゃないでしょうけど、なんていうか、アラクネートさんって天然なところがあるのだろうか。氷を指でくるくると回転させ、ボールの表面にお酒をまとわせる。それをキスをするように飲んだ。


 いや、いやいや、ロックで飲む時の作法として間違ってはいない。いないのだが、お酒のせいで頬が紅潮しているのか、あまりにもセクシーすぎて、横顔とか髪のかかり具合とかああああああああああああああああもぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおエロすぎて直視できねぇぇぇえええええええええええええええええッッッ!


「んはぁ……とても飲みやすくておいしいですね。あら、どうしたの、ペーシェちゃん。気分でも悪いのかしら?」

「い、いいえ。そういうわけでは! それより、今日はメリアローザに泊まっていかれるのですか。あたしたちはしばらく暁さんのところにご厄介になるんですけど」


 一緒にお風呂に入りたい!


「残念だけど、明日もまた仕事があるから。今日はこれで」


 残念。と思っていたら、会話を聞いたハティさんがガッツのポーズで延長滞在を提案。


「最後にお風呂に入って帰ろう。ここのお風呂はすっごく大きくて気持ちいい!」

「ハティ様がそうおっしゃるのであれば是非もございませんっ! よろしければこちらのお酒を召し上がってみてください。とっても美味でございますよ♪」


 相変わらずハティさんと対峙する時は恋する乙女のようだ。ほんと、この2人の過去に何があったんだろう。ちょっぴり嫉妬してしまうなぁ。


 はぁ~……織姫と彦星の伝説になぞらえたお祭りかぁ~。

 年に一度だけ再会が許されるなんて切ない話しだよなぁ。

 そもそもあたしには彼氏なんていないけど。

 いつか彼氏とかできるのかなぁ。全然想像もつかないや。いろいろと策を練るも、アーディさんに近づく口実とか見つかんないし。

 あぁ~、天の川よ、どうか素敵な彼氏を連れてきておくれ。


「それは自分でなんとかしなよ」

「うるさい!」


 ローザめ。彼氏がいるからって調子乗りやがって!

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