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異世界旅行1-1 驚天動地に咲くは薔薇 17

 広がりゆく星空の下で憧れの人と再会する。

 妖艶な笑顔とタイトドレスが美しい。なんという抜群のビジュアル。星空に勝る輝きを放つ彼女の声があたしの脳を溶かす。


「本当に素敵な星空ですね。それ以上に、また皆様とお会いできて嬉しいです。誰と一緒に居るかということは、とても大事だと感じさせてくれますね」


 セクシーなアラクネートさんが話しかけてくれた。

 星明かりに映る笑顔がキュート!

 めっちゃどきどきしちゃいますわ。

 見惚れてしまって声が、息ができん。

 あたしが返答するより早く、アルマが先に躍り出た。


「本当ですね。落ち着くのに胸が高鳴って。楽しくて嬉しくて、わくわくしてしまってしょうがありません。アルマたちがグレンツェンに留学してくれて、暁さんやアラクネートさんたちに会えて本当に良かった」

「ええ、私も同じ気持ちです」


 どきっとさせられる大人の女性の笑顔が輝いた。

 マジで綺麗な女性だ。魔族だからなのか。それとも人と成りがそうさせるのか。あたしもこんな女性になりたいなぁ。

 胸が欲しいよなぁ。胸。せめてもう少しあったらなぁ。人は見た目じゃなくて中身って言っても、やっぱりボディラインは気になってしまう。


 ついつい首を曲げて自分の胸元に目をやってしまった。

 無い。まるで起伏が無い。今更嘆いても仕方がない。諦めが肝心。今はこの時をめいいっぱい楽しみましょう。考えたくないという気持ちもあるので、他のことに意識を向けよう。そうしよう。


 夕焼け色の空も青黒く染まり、屋台のある区画に着く頃にはすっかりお星さまが瞬いた。天を見上げれば満点の星空。快晴の天には雄大な天の川が流れる。

 幾万幾億の星が煌めいて、奇跡のような光景が広がった。宇宙には数えきれないほどの星がある。そんな中、我々は無量大数を超越する確率で出会えた。

 運命ってすげえ。

 生きてるってすげえ。

 世界は祝福で満ちている!


「本当に綺麗な星空。これだけ星が瞬いていれば、灯りも必要ないほどですね (ペーシェ)」

「ほんとですね。まるで昼のように明るい。信じられない光景です (アラクネート)」

「なんてロマンチックなんだろう。アダムにも見せてあげたい (ローザ)」

「わぁ~~~~っ! お星さまがきらきらだね。すっごくすっごくきれいだね! (すみれ)」

「ふわぁ~~……てをのばしたらとどきそう。おほしさまがいっぱいだー! (ラクシュミー)」

「いやぁ~晴れてよかったですね。最高のロケーションです。さてと (アルマ)」


 夜空を見上げ、歩みの止まった少年少女の心を湧き立たせようと、踵を返した小さなお姉さんが子供たちに投げかける。


「お星さまを食べに行こう!」


     ♪     ♪     ♪


 時間は少し進んで開けた場所に出る。アルカンレティア・第二層部【居住区画】。

 人が住む住宅地として予定されたこの場所は家屋はもちろんのこと、公園やスポーツ施設。病院、市場などなど、生活に必要な施設が立ち並ぶ。

 屋台で賑わう区画は我々が知ってる知識の中で言うスポーツ施設。しかも開閉式の天窓付き。どんな競技が行われたかは定かではないが、きっとアルカンレティアがあった世界で栄えたスポーツだろう。

 今は屋台と酒と宴と星を楽しむ会場として機能した。

 本来の使われ方ではない。だけど、きっとアルカンレティアを建造し、残した誰かの夢の形に似てるに違いない。


 散開した子供たちは散り散りに、思いのままに走り出して物珍しさを堪能する。

 ミニゲームに夢中になったり、腕相撲大会が開催されていたり、酒の飲み比べとか。なんでもありのカオスフェスティバル。楽しければなんでもいい。

 あたしたちは祭りの華である飲食ブースを巡っていた。食べることを祭りの第一目的にする時点で女子として終わってると思いますか?

 そんなことはないと断言しよう。屋台でしかお目にかかれない食べ物とかってあるもんね。空気感も大事だよね。日常にあるよりも、非日常にあるほうがふさわしい食べ物とかね。

 例えばこれ。たこ焼きっていう小麦を使った丸い食べ物。甘辛ソースと鰹節を乗せて食べるこれが熱々でうまいんですわ。ただ…………。


「なんか、私が思ってたのとちょっと違う……?」


 アナスタシアさんの琴線にぬるりと触れた。

 タコ焼きというからにはタコにまつわる何かだろう。デビルフィッシュを恐れながら口に含んだアナスタシアさんの口から出た疑問は的をえている。なぜなら。


「なんでも、今朝、タコを仕入れられなかったから他の具材で代用したらしいですよ。チーズとか、キャベツの千切りとか、お餅とか、塩サバとか」

「それもうたこ焼きじゃねーじゃん」


 すみれの仕入れた情報が正しければ、ひどい詐欺じゃないでしょうか。


「だからむこうのたこ焼き屋は『ちゃんとタコの入ったたこ焼き』ってわざわざ言葉に出して宣伝してたのか。なんか奇妙だと思ったら」


 エディネイの視線の先にはもう一軒のたこ焼き屋。わざわざ口に出したのは差別化したかったからか。


「でもでも、タコの入ったたこ焼きも、タコの入ってないたこ焼きも、どっちもおいしいね!」


 リィリィちゃんの言う通り、ちゃんとおいしいところがプロの技というべきか。これが意外にいけるんですわ。

 イカ焼き。焼きそば。寿司。蕎麦。うどん。おいしいものの目白押し。

 晩御飯を食べたあとだっていうのに食べまくったせいでお腹がいっぱい。幸せいっぱい。

 空を見上げればこの世のものとは思えぬ景色が広がってるっていうんですから、もう最高ですわ。

 さぁさぁお腹いっぱいでもまだまだ頑張れる気がするぞ。気合いとテンションでまかり通る。


 次にやってきたのは暁さんイチオシの綿飴屋台。

 ふわっふわのあまあまスイーツをくるくるしてるのは――――白骨死体。お前がこれをやっとんかい。

 頭蓋骨にハチマキをしてノリノリのスケルトン。なんだこれ。メリアローザでは普通なのか。少なくともシャングリラでは異形の存在らしい。

 子供たちがこぞって顔を真っ青にする。さすがのハティさんも眉間にしわを寄せて棒立ち。肩に乗るゆきぽんも臨戦態勢。引率の大人たちまで距離を置いて立ち尽くした。

 お菓子は欲しい。だけどスケルトンには近づきたくない。

 気持ちは分かる。暁さんにたかピコさんの安全性と有用性を説得された今なお、彼には申し訳ないが、ただただ怖い。

 アンデットなんて空想の産物。それが目の前にいるというのだから。


 そこに1人の勇者が現れる。黒曜石のような2本の角。自信なさげに顎を引く女性はチックタック・クロックライム。

 改装された鍾乳洞の中でひたすらにチーズを作り続ける職人さん。

 暁さんがキッチン・グレンツェッタのために持ってきてくれたチーズは彼女が作ったもの。それを知ったローザとシルヴァさんは彼女に話しかけようとするも、人見知りが異常に激しいらしく、子供たちの影に隠れておどおどとした。

 せめて隠れ蓑に子供を使うのはやめてくれ。


 そんな彼女が自分から話しを切り出そうとしている。暁さん曰く、こういった光景は見たことがないらしい。

 まさか、骨フェチなんですか?


「あの、しゃれこうべさんの親戚ですか?」


 スケルトンに親戚とかあんの?


「いえ、存じ上げません」


 全然違った。

 チャンスとばかりにチーズ大好きエリストリアさんがチックタックさんの背中越しに注文をつける。


「あのあの、綿飴をみんなの分だけ作ってもらっていいですか? できればそっちのきらきらしたものでお願いします」

「えっと、具体的に何個作ればいいかな?」


 そりゃこれだけ人数がいればそういう返答になるわな。

 てか、人を壁にして震えるのは情けなく見えるのでやめましょうよ。


 動く白骨死体はともかく、彼が作る綿飴は食べてみたい。

 通常の綿飴と言えば、白くてふわっふわのあま~いスイーツ。彼が作るものはここからさらに1段階レベルが高い。

 ふわふわの砂糖の糸をくるくるする途中、横から小さな粒を絡めとるように撒いて合体させた。赤、青、黄色。色とりどりの宝石たちの名前は甘納豆。豆や芋を原料にした風味豊かなお菓子である。

 ふわふわの綿飴にきらきらな甘納豆。なんという美しい取り合わせだろうか。満点の星空にぴったりのお菓子ではないか。


「みんなのぶんも作ってもらったぞ。そんなに怖がらなくっても大丈夫だって。あいつ、いいやつだから。見ためはヤバいけどな!」


 暁さん、その見た目が大問題なんですよ?


「その見ためが問題なんですよ。もっとオブラートに包めなかったんでしょうか」

「腐ってるよりは1000倍マシだと思いましょう」


 ヘラさんからまだマシ理論が出させる。

 慣れた様子の暁さんは大きく笑って頷いた。


「そうですね。腐ってるのは困りますね。まだ乾燥してるほうがいいです」

「乾燥って……」


 たしかに乾燥してるけど。

 いやもう考えないようにしよう。考えても仕方のないことは考えても仕方がない。

 過程はどうあれ、子供たちもあたしたちも甘いお菓子にありつけたのでよしとしましょう。

 あまいっ!

 うまいっ!


 魅惑のスイーツに舌鼓を打つと、暁さんをめがけて少女が走り込んできた。

 キキちゃんたちと同じくらいの少女。尊敬するお姉さんに高い高いをしてもらって上機嫌。

 一緒に来た女性が暁さんに声をかける。


「こんばんは。今日は晴れてよかったね」

「ええ本当に。まぁ曇ったらアルマたちに晴れにしてもらいましたけど」


 晴れにするって、どういうこと?


「しれっととんでもない会話をしてるよな。こちらの女性は?」


 ライラさんの疑問に答えたのはクール綺麗系女性。少女の姉か、母親か。


「お初にお目にかかります。私は癌専門の外科医でネイサン・マーリンドと申します。こちらは私の娘のレベッカです。レベッカ、自己紹介をしようね」


 元気溌剌な少女は元気いっぱいに自分の名前を告げ、大好きなのはお母さんと言って抱きしめた。

 純粋でかわいらしいなぁ~。羨ましいわぁ~。あたしの幼い頃もこんなんだった気がする~ (希望的観測)。


「お姉さんたち、とっても綺麗だね!」


 お世辞でも嬉しい。子供大好きライラさんはレベッカちゃんの浴衣を褒める。


「ん! ありがとうな。レベッカの浴衣もとってもよく似合ってるぞ」


 褒められた少女は満面の笑みを…………返してくれなかった。眉を八の字に曲げて興味なさそうな顔でため息をつく。

 え、なにこの反応。なんか変なこと言ってた?

 疑問に思うも束の間、少女から不穏な言葉が飛び出した。


「ん~……ちょっとつまんないなぁ」

「こら、綺麗なことはいいことでしょ。健康の証なんだから。ごめんなさいね、初対面なのに」


 謝罪する母親と思いきや、またも不穏な言葉が耳を打つ。


「検診なんてしちゃって」


 検診?

 検診ってなに。どういうこと?

 疑問の渦中、質問を作るよりも早く手を振って別れてしまった。

 いったいなんだったのだ。今の親子は。何を検診したっていうんだ?


「よかったですね。みなさん、問題なかったようで。もし捕まったら手術台行きでしたからね」


 暁さんも不穏なことを言い出した。

 すかさずライラさんのつっこみ魂が炸裂。


「手術台行きってなに!? 何が起きてたの!?」

「レベッカの固有魔法(ユニークスキル)は人体に癌があるかどうかを見抜くものなんです。母親のネイサンさんは癌の摘出手術のスペシャリストです。あの母親にしてあの子あり、って感じですよね~」


 しばらくの沈黙のあと、最初に口を開いたのは元医療術者のヘラさん。


「それってつまり、私たちの体が綺麗だっていうのは、癌がなかったってことでいいのかしら?」


 暁さんが全力で肯定。メリアローザではこんなことが日常茶飯事なのか。

 安心していいのか、不安になったらいいのか、驚きを通り越して疲労感が襲ってくる。

 癌なんてないならないで最上。あったらあったで治療してもらえる。どっちに転んでもオイシイ話し。まるでデメリットがない。

 とはいえ、癌というのは見つかった時のショックが大きい。それを突然に宣告されるなんて心臓に悪すぎる。

 そういうのは先に説明しておいていただきたい。


「いやぁ~すまん。そういう話しは多すぎて、説明してると日が暮れるから、遭遇した時に解説させてくれ」

「多すぎるほどあるんですかっ!」


 これが異世界。ちょ~怖ぇ~。

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