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異世界旅行1-1 驚天動地に咲くは薔薇 13

 興奮冷めやらぬただ中、そろそろ3時が迫ってきた。

 頬を緩ませてその時を待つ。フェアリーたちも自分たち専用のテーブルとイスに着席。体を左右に揺らして鼻歌を歌う。と、思い出したかのようにローズマリーが動いた。

 お皿のうえに乗せられたフルーツを前に振り向く。ターゲットはペーシェ・アダン。

 あたしか!


「ペーシェって桃が好きなんだよね?」

「うん、桃は大好き。ほかの果物も大好きだよ」

「じゃあねじゃあね、私が切り分けてあげる。この愛刀【愛我爆発丸(あいがばくはつまる)】でっ!」

「本当? ありが――――今なんて?」


 ライブラから取り出したるは一本の刀。鈍く淡く輝くそれはアナスタシアさんが欲しがる倭国刀に相違ない。

 もちろん、フェアリーサイズの小さな刃。ともあれ小さくとも刀。切れ味は抜群に違いない。素人目にもわかる。覇気っていうんでしょうか。尋常ならざる威厳を感じた。


 それもそのはず、これは暁さんが自ら打った刀の1つ。

 発端は、フェアリーたちが病気にかかってしまった草木を見つけた時だった。

 草木も生き物。病気にかかる。放っておけば浸食されて腐るどころか、ほかの個体にも感染して大惨事。だから手入れをするセチアさんは、常に彼らの健康状態に気を遣う。

 フェアリーも同様、見つけ次第、すぐにセチアさんに報告して対処してもらう。

 だけど、セチアさんもかかりきりというわけにもいかない。自分たちでできることはないだろうか。最初は人間の使う剪定鋏を使っていたものの、重くてなかなかうまく使えない。

 切ることはできても、切り口が汚くなって別の病気になったり、そこから腐ってしまったりと本末転倒。どうにかして綺麗で鋭い切り口にできないか。


 困ったことがあれば暁さんに相談だ。メリアローザの最終防壁。悩んだ時の知恵袋。暮れない太陽のギルドマスターに悩みを打ち明ける。


「なるほど、使いやすくて切り口が鋭い刃が必要なわけだな」

「そうなの。ハサミは重くて使いづらくて。妖精用のハサミがあったらいいんだけど、それだと小さくて。葉は薄いから切れるかも。でも枝は簡単に切れないかも」

「そういうことならいい手がある。ただ、少し努力が必要になるけどな」


 そう語って与えたのが【刀】。

 まさかの発想である。フェアリーに刀を持たせようなどと誰が考えようか。さすが暁さんというべきか。

 シュールな絵を眺める中、アナスタシアさんが合理的な判断を下した。


「でも合理的かもしれません。枝葉のサイズをフェアリーが鋭く切断しようと考えれば、剣や刀が最適解かもしれません」


 よく考えてみればアナスタシアさんの言う通り。しかし、なんか、納得いかねえ。


「試し切りに使う巻き藁のサイズ感がちょう草木の枝くらいになりそうですね。暁さんの視野の広さと柔軟な発想には脱帽です」


 すみれもキャパが広いな。


「でも切るだけなら鋸でもよさそうな気が」


 あたしが人間の感性を語ると、シェリーさんに難しい表情をされた。


「鋸……我々視点だとそれもいいかもしれないが、フェアリーに鋸を持たせるのはなんか嫌だ」

「だな。鋸より刀を持ってたほうがまだ愛嬌がある」


 ライラさんもシェリーさんに同意。鋸よりは刀。愛嬌があるかどうかはともかく、バイオレンス的な意味では刀のほうがかっこいいかも。


 我々の悶々をよそに、準備のできたローズマリーは特技を披露したくてうずうずする。


「よぉ~し。それじゃあ妖精流奥義を見せちゃうぞ!」

「妖精流奥義!?」


 刀剣女子のアナスタシアさんが食いついた。

 すかさず華恋が補足を入れる。


「あ、なんかかっこよく見せようと名前をそれっぽく言ってるだけです。適当な性格の剣術師範の受け売りなので、気にしないであげてください」

「暁さんが刀の修行のために手筈を整えてくださっているという話しだったけど、もしかして、その適当な性格の剣術師範ってのは私が教わる人?」

「外国から剣術を学びに来てる鬼人の人に手伝ってもらうって言ってた気がします。めちゃくちゃ強くてめちゃくちゃ顔が怖いですよ」

「まさかの人外」


 異世界には鬼とかいんのかよ。

 話題をそらすように、ライラさんが話しを戻す。


「えっと、確認なんだが、妖精流って流派があるわけじゃないよな?」

「彼女たちは人間のまねっこをするのが好きなんです」


 そこだけ聞くとすごくかわいい。

 かわいいローズマリーから気合いの掛け声が発せられた。


「妖精流剣術開祖ローズマリー。参るっ!」


 いったいどんなことを吹き込まれたのやら。

 かわいいからもうなんでもオーケーですけどね!


 小さな子が背伸びをする姿をほのぼのと見るような感覚と同じだ。

 実にかわいらしく愛らしい。いつまでも見ていたい魅力がある。

 あぁ~もぉ~メリアローザに移住してくんないかなぁ~。

 毎日がハッピーデーになる気しかしねぇ~。


 見る人間はほのぼの。

 しかし本人は真剣。刀だけに真剣。

 笑いをこらえてしっかり見届けてあげなくては失礼というもの。

 何が起こるのかわからないが、何が起こっても拍手で全肯定したい。

 刀を構え、大上段からの一撃を桃に当てる。決め台詞は、


「妖精流奥義。白桃六等分斬りっ!」


 ようするに桃を六等分にするということ。まんまかっ!

 ヤバい。面白すぎて吹き出しそう。我慢して、秒で決壊。紅茶を口に含んでなくてよかった。

 さらに被せるように決め台詞。


「ふっふっふっ。またおいしい果物を――――切り分けてしまった……!」


 桃に背を向け、鞘に刀を収める際にカチンッ、という金属音をきちんと立ててかっこよさを演出。神妙な面持ちがさらなる爆笑を誘う。

 おいしい果物を切り分けてしまった。全身全霊全力全開のどや顔が炸裂。面白すぎて笑い死にしそう。

 なんなんだこのかわいいの権化は。楽しすぎるっ!


 金属音が鳴り響いたのち、桃はぱっくりと割れて見事な六等分に。中心部の大きな種は切断されず、種と実の接地面を断ち切られて皿の上に転んだ。

 感嘆のため息と感動の拍手が鳴り響く。喝采を浴びた剣豪は方々に礼をしてはどや顔。礼をしてはどや顔を炸裂させて笑いを誘う。これを真剣にやってるってんだから愛らしい。我々はすっかり彼女たちの虜になってしまいました。


「あたしたちのためにありがとう。みんなで味わって食べるね」

「ふっふっふっ。礼には及ばぬ。あ、ほかにも果物があるから、切り分けて欲しい時には言ってね。6等分でも15等分にでも、どんなサイズにでも切り分けちゃうんだから!」


 ローズマリーの任せてちょーだいの笑顔が炸裂。ありがとうの言葉に力が入る。


「偶数はともかく、奇数に切り分けられるってすごいな。てかなんで15等分?」


 ライラさんの疑問に名探偵シルヴァさんが答える。


「きっとおやつの時間にちなんでいるんですよ。私も奇数で等分にはしたことがありません。すごい技術です!」

「それもすごいけど、刀が桃に触れただけで実が切断されたカラクリが知りたい」


 刀に興味津々のアナスタシアさんは切れ味に注目した。

 言われてみれば疑問が残る。まず物理的にはありえない。ということは魔法。いったいどんな魔法を使えばこんなことになるのか。ご丁寧に皮まで実から剥がしてくれてるじゃないか。めっちゃ食べやすい。


 アナスタシアさんの疑問に、魔法大好きアルマが前のめり。


「ウェポンスキルですよ。刀で切断したイメージを具現化するんです」

「イメージを具現化って、そんなことが本当に可能なのか? いくら魔法の行使にイメージが大事だからとはいえ」


 騎士団長のシェリーさんは半信半疑。


「ですです。フェアリーはあくまで超高密度のエーテル生命体です。だからこそ、絶技とも言える超絶技巧的な魔力の扱いができるのかもしれません。さきほどシルヴァさんたちが驚かれていたダマスクローズオイルもそうです」


 名指しされて、シルヴァさんは食い気味に前のめり。


「フェアリーが採取するなら、1輪のダマスクローズから平均して5gものローズオイルが採取できるって話し? 彼女たちは、『元気なお花さんからはたくさんのオイルがもらえる』ってことだったけど」

「それも理由にあると思いますが、アルマとしては彼女たちの出自が起因していると思います。そもそもエーテルとは」


 ここですかさず、セチアさんの待ったが入る。


「ちょっと待って。アルマの魔法の話しって長くなるよね?」

「5時間くらいはいけますよっ!」


 5時間はちょっと……。

 輝くアルマの周囲に暗雲が立ち込める。しかし彼女はそれを知らない。

 セチアさんは沈黙して、ため息をついて、ようやく口を開いた。


「アルマが魔法大好きってことは知ってるんだけど、まずは乾杯しよう。話しはティーパーティーを楽しんで、七夕祭りを楽しんだあとでも遅くはないと思うから」


 つまりここでは話しを展開しないで欲しいという暗黙のメッセージ。

 伝わったかどうかは分からない。とりあえず彼女はすっごくいい笑顔で頷いて、コップを掲げて乾杯の音頭をとってくれた。

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