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しゃぼんのように世は儚くも 1

今回はしゃぼん玉回です。

構想をしていた時点ではキッチンの話しだけでした。アルマの企画はやんわり触れる程度にしようかと思っていたんですが、なんだか考えている内に楽しくなっちゃったので書くことにしました。

作者がツンデレではないツインテールは可愛いと思っているのでテコ入れという面もあります。

頑張る人は見ていて応援したくなりますね。




以下、主観【アルマ・クローディアン】

 グレンツェン大図書館の北側に位置する演習場。

 街の人や外国の軍人。ベルン王国騎士団員の選抜試験。野外で行われる講義でも活用される運動場の1つ。

 子供のアトラクションとして設置された沼地や障害物のコースもあれば、砂利道や地面から大小様々な岩石が顔を出す山道のようなステージもあり、訓練を行うにはもってこいの場所。


 城壁を兼ねていた大図書館の背に位置するこの場所は、かつて敵を迎え撃つ人工的な沼地として建設されたものを改築した場所なのだ。

 アルマたちは一部の開けた場所を借りて、徹夜で完成させた試作品の実験と、看板やフライヤーの進捗状況の確認を兼ねて集まった。


「しゃぼん玉の改修は終わったのかい?」


 顎の裏見せネーディアが現れた。

 脊髄反射的にイラつくが、ここは我慢だアルマ・クローディアン。


「とりあえずしゃぼんの中に入って飛べるはず。なんだけど、まだ試行錯誤してるところ」

「これが完成しないことには始まらないんだから、しっかりしてくれよ」


 イラっ!


 ライラックはアルマの怒りのオーラを感じてネーディアに釘を刺す。


「ちょっとネーディア。そんな言い方はないんじゃないの。アルマだってめっちゃ頑張ってるんだから労ってあげなよ」

「事実じゃないか」

「事実だからって、言い方ってものがあるでしょ?」


 ネーディアとライラックが一触即発。精神的にお姉さんのアルマが仲裁に入ろう。


「いいの。気にしないで。実際、これが完成しないと企画倒れなのは分かってる。でもひと言だけネーディアに言わせてもらうけど、そんなふうに論理を優先させて感情をないがしろにするのはよくないと思うよ」

「自己弁護はやめろよな」


 イライラッ!


「そこまで言わなくてもいいだろ」

「事実を言ったまでだ」

「はいはい、ケンカはやめてよね」


 イッシュは鼻で笑って顎の裏を見せるネーディアにとってかかる。ライラックが仲裁に入って2人をなだめてくれた。

 確かに彼の見下すような態度と、自分が傷つかないところから人の心をおろそかにする性格には辟易する。

 でもそんなことにいちいち目くじらを立てる暇などない。アルマにはそれが非生産的なことくらい分かってる。


 それはいいんだけど、この3人、担当した看板のアイデアや宣伝に使う道具の意見をデッサンノートに書きなぐってきてはいるものの、方向性がまるでバラバラ。


 ネーディアはクール系。

 イッシュは熱血系。

 ライラックはゆるふわ系。


 どれにするか決めさせようにも決着が着きそうにないので、年下3人に選ばせると、当然のようにライラックのゆるふわ系アイデアに手を挙げた。

 題材がしゃぼん玉。ガーリーでカラフルなデザインがいいというしっかりとした意見に男2人は渋々納得する。渋々である。すんなりとは納得しない。

 実は3人の選考理由はもう1つある。選ばれなかった2人の伝えたいことが全く分からなかった。

 ネーディアは文章で書いてるが文字が小さすぎる。小難しい表現も多くて読めないし理解できないというか、読みたくないし見る気も失せるというもの。

 イッシュは絵だけで表現していて、説明も擬音が多く理解不能。


「それじゃあデザインは私が考えるね。どんなのにしっようっかなぁ~♪」


 意気揚々のライラック。悔しくて仕方ないイッシュが食い下がる。


「えぇ~。俺にも考えさせろよ。チームじゃんよぉ」

「あんたたちに任せたらまとまるものもまとまらないでしょ。でも力仕事や単純作業はお願いね」

「ふん。まぁいいだろう」


 とりあえずまとまった。心配が先に立つがライラックを信じよう。


 それにしてもよ。イッシュはいちいち声がでかいのがムカつく。

 ネーディアも無意識にほとばしる侮蔑的な態度が鼻につく。

 いつか衝動的に魔法をぶっ放してしまいそうで怖い。

 唯一、ライラックは普通の女の子。可もなく不可もない普通の子。普通って素晴らしい。


「そういえば今日って新しいメンバーが参加するんだよね。ベルン在住で成人してるってだけがプロフィールに書いてあったけど。まだ来てないね。道が混んでるのかな」


 ライラックは思い出したかのように地雷をスルーパスしてくる。不可避の地雷なので受け取るよりほかに術がない。

 なぜ新メンバーが地雷なのか。彼女の使ってる魔法に理由がある。


「あぁうん。そのことなんだけど、実はもうすぐそこにいるみたいなんだよね」

「すぐそこ?」


 普通にきょろきょろと見渡しても、一般人のライラックには目視できない。

 なぜなら、なぜかわざわざ透明化の魔法と認識阻害の魔法をかけて近づいてるのだ。しかも2人。

 違和感を感じて看破(インサイト)の魔法を使うと、アルマの後ろに背の高いオネエさんと、髪を左右に揃えて三つ編みにしている女性が何やら話し合っている姿が見えた。


 1人は飛行(フライ)の魔法の講師をしているイ・エプリーナ・ハンヤ・デガンさん。以前、飛び込みで講義に参加してお世話になったオカマさんだ。

 彼 (?)は元シューティングスター団体戦チャンピオンの1人。引退後はベルン王国のシューティングスターチームのコーチをしている。同時にメイクアーティストとしても有名人。彼 (?)にメイクをしてもらうために世界中からオファーがあり、弟子を多く抱えていた。

 月間グレンツェンの表紙を飾るほどの有名人。


 もう1人はたしかベルン騎士団長。雑誌の写真で見るよりも、見た目だけはしっかりした大人の女性という雰囲気。それでいてどこか子供っぽいというか、隙あらば童心に帰りたいという願望を持ってそうなオーラを感じる。


 聞こえてないと思って色々としゃべってる内容を聞く限り、参加したはいいが立場もあって姿を現しがたいらしい。

 ベルンに出入りしていて交遊のあるハンヤさんに一緒に来てもらったはいいが、やっぱり恥ずかしいとのこと。


 もうここまで来たなら腹をくくれよ。

 そう思うも声には出さない。彼女はあくまで気づかれてないと思ってるのだから、出すのはため息だけにしておこう。

 ちなみにヤヤちゃんの常時発動型魔法(パッシブスキル)である魔術感知(マジックセンサー)に引っかかってるため、彼女にも気付かれてた。


 どうしようか。隠れてる理由は2人の会話から理解できた。

 せっかくここまで来てくれたのだし、積極的に参加して欲しいと思う。

 マーリンさんはキッチン・グレンツェッタ・チームにも顔を出すみたいなことを言っていた。今日は鯨漁に行ってるので欠席。

 子供ばっかりの運営陣に、できるだけ大人の参加者がいてくれるほうが何かと助かるのだ。

 仕方がないので自然な会話から、何も知らない子供からの尊敬をもっておびき出してみようか。


「マーガレットはベルン王国の騎士団長さんって見たことある?」

「騎士団長様? 見たことあるよ。キラキラのお洋服を着ててね、キリッとしててかっこよかった」

「実際にお話ししたことってあるの?」

「そんなのないよ。だって雲の上の人だもん。でも一度でいいからお話ししてみたいな。わたしの憧れの女性!」


 露骨に自信を取り戻す不審者としか判断できない王国騎士団長様は、マーガレットを見ながら満面の笑みを向けてくれた。

 雲の上の人が自分の言葉で笑みを浮かべてると知ったらどうなるだろう。

 狂喜乱舞するだろうね。


 騎士団長の形容詞を出すと、ネーディアとイッシュが顔を出してきた。

 お前らはライラックの方に行ってろよ、と思ったが言葉には出さない。


 なんとこの2人、去年の春に行われた騎士団寄宿生の入学試験を受けていた。

 そして見事に落ちた。

 その理由は――――まぁなんとなく分かるけど、突っ込まないことにしよう。

 憧れの人のことを存分に褒めちぎったのち、自分が落ちたのは何かの間違いだの。チームで行動する演習で仲間になったメンバーが言うことを聞かなかっただの。試験官の誤審だったと疑ってるだの。その日は腹の調子がいまいち良くなかっただのと言い訳を連ね始めた。


 そういうところだよっ!

 お前らは自己肯定感が一周して自己中なんだよッ!


 照れながら顔を緩めていた不審者が一変して仕事人の顔に早変わり。

 腕組みをして険しい表情のまま2人の言い訳を黙って聞いている。

 もういい加減に作業に戻れと怒鳴りたくなるほど、延々と呪いの数珠を繋げてアルマたちを呆れさせた。

 こいつら天才か。

 言い訳を思いつく天才か。

 その才能をもっと別のベクトルに持って行ってくれ。

 とりあえず今のところは手を動かせ。

 お前らより小さな女の子が可哀相な目で見てるぞ。気付け。


 静かなる巨人は、腕組みをする指をぺんぺんと音を鳴らして二の腕を刺激した。

 眉間にシワが寄ってきている。

 そろそろ堪忍袋の緒が切れるようだ。

 アルマとしてはここで一喝を入れて欲しい。しかし盗み聞きをしている状況で、パッと姿を現すはずがない。

 さて、どう持って行こうか。こういう時はなんて言って収めればいいのかな。


「貴様らそこになおれッ!」


 出て来ちゃったよ!

 この人、怒りの勢いのあまり喝を入れちゃったよっ!

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