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異世界旅行1-1 驚天動地に咲くは薔薇 8

 マシンガントークもそこそこに、メインディッシュのあとはデザートタイム。四色豆腐とはこれいかに。

 倭国文化大好きアナスタシアさん。『TOFU』という響きにわくわくが止まらない様子。すみれも本物の豆腐が食べられると聞いてそわそわが見てとれた。本物ってことは偽物があるってこと?


 リィリィちゃんもそわそわした。デザートが待ち遠しいのではない。エディネイに渡したいものがあるそうだ。

 恋をした乙女のように頬を紅潮させる金髪碧眼の美少女。大好きな赤毛のお姉ちゃんのために、いったいどんなプレゼントを用意したのでしょう。


「えっとね、エディネイお姉ちゃんのためにね、華恋お姉ちゃんたちにも手伝ってもらって一生懸命作ったの。受け取ってもらえるかな?」


 上目遣いの吸血姫(ヴァンパイア)。ひっそりと魅了(チャーム)の魔法をかけられていてもそれと分からない。遍く防御魔法も軽々と突破してしまいそうな桃色の眼光。人類に抗う術はない。


 エディネイは喜々として笑みを向ける。手渡されたそれは木箱に入った髪飾り。ならぬ角飾り。短冊のように並んだ3本の柱は赤・黄・白と並ぶ。

 四角柱の赤いルビー。1面だけが擦りガラスのような加工がされており、ルーン文字が刻まれている。

 ダブルポイントのイエローダイヤモンドが2つ連なった連結柱。きらりと優しく輝く姿はリィリィちゃんの笑顔のよう。

 最後は多面カットされた球状のダイヤモンドが3つ連結されていた。1つ1つのカットに違いがあり、どこから見ても光を反射するようにできている特注品。


 どれもため息が漏れてうっとりとしてしまう超一級品。ただ煌びやかなだけではない。

 そこにはリィリィちゃんの想いがたっぷりと詰まってる。


「あのねあのね、赤色はエディネイお姉ちゃんの赤で、黄色はリィリィの黄色なの。透明なのはリィリィとエディネイお姉ちゃんがずっと友達でいたいな、っていう気持ち。ですっ!」

「~~~~~~っ! ありがとう、リィリィ! すっっっごく嬉しいっ!」


 エディネイは涙を浮かべてリィリィちゃんにありがとうのハグをした。リィリィちゃんも嬉しくて、力いっぱいに抱きしめる。


「やったね、リィリィちゃん」


 お手伝いした華恋も感無量。

 リィリィちゃんの弾けるような笑顔が炸裂。

 うっかりのけ反って吹き飛ばされてしまいそうだ。それからというもの、リィリィちゃんはエディネイにべったりとくっついて離れようとしない。

 それこそずっと一緒にいたい。一緒に暮らしたいと駄々を捏ねてしまいそうなくらいだ。いやぁ~、愛されてるって素晴らしいですな。


 本当にもう癒されっぱなし。異世界とかそんなことが些細な問題に感じられてくる。

 幸せそうな2人を見てられるなら箱に入れて飼いならしたいくらいですわ。

 思い出したように、華恋はライブラから木箱を取り出してフィアナさんに差し出した。


「それと、これも忘れないうちに。注文を受けていた金水晶のペンダントです。フィアナさんと、たしかルーィヒさんとユカさんへのプレゼント、ということでしたが」


 華恋がライブラから取り出した箱は3つ。

 蓋を開けて出てきたのは3種類のきらきらどんぐり。殻は金。実は水晶。

 1つは細長のっぽのどんぐり。

 次に少しぽっちゃり気味のどんぐり。

 最後のは小ぶりの双子どんぐり。

 どれも個性があってかわいらしい。こんな素敵アイテムならあたしもねだっておけばよかった。不謹慎な後悔が口からこぼれてしまうのは愛嬌ではないでしょうか。

 だって本当にかわいいんだもん。


 受け取り人の1人であるフィアナさんは、金水晶を見て頬を紅潮させる。


「まぁ素敵っ! どれも個性的でかわいいですわね」


 作り手の華恋は自信作と言わんばかりに自慢げに声を張る。


「ええ、水晶は天然物ですので、全て形も大きさも違います。私の仕事は彼らをどう活かすか。気に入っていただけて幸いです」

「これならルーィヒさんもユカさんも満足されると思います。華恋さん、暁様、本当にありがとうございます」

「いえ、この子たちも大切に扱ってくれる人に巡り合えて、きっと幸せですよ」


 黒髪ストレートの大和撫子。切れ長の涼しげな目元がクールビューティーを後押しする。外面もよければ中身もいいものなのか。どう育ったらそうなれるのか教えてほしい。


「文句言ったらあたしが取り上げるんで安心してください。大事に使ってあげますからね♪」


 反面、あたしの口から出てくる言葉はこんなもんだ。

 自分で言っといて、あぁ~ほんとどうしようもないな~、なんて思う次第。

 しかしこれがあたしという人間。認めよう、自分という存在を。


 なんてくだらないことを考えてる場合ではない。あたしにも使命があるのだ。

 それはハイジのアルバイト先に遊びに行った時、ベルベットさんから渡されたプレゼント。暁さんへの心のこもったオーダーメイドバッグ。

 キッチン・グレンツェッタで解体した牛肉のほか、残った牛革は大事に扱ってくれる人へ渡そうということで、牛革を使ったオーダーメイドのバッグやポーチなどを作るベルベットさんにお譲りした。


 彼女はたいそう喜んだようで、我々に無償でオーダーメイドの革製バッジを作ってくれた。

 そして暁さんにも感謝を伝えるとともに贈り物をしたいという。単に牛革を譲ってくれたという理由だけではない。牛革を通し、屠殺した人の人となりの温かさを感じたからだ。

 命に対して最大限の敬意を示している。それを彼女は感じとったという。


 これが本物の職人という人種なのか。

 間接的にも、アイテムに触れただけで想いが伝わる。

 それってなんか、なんていうか、暁さんの心が誰かに知ってもらえたみたいで、他人事なんだけど、どういうわけか胸が熱くなった。尊敬する人が称賛されて、自分まで嬉しくなる。多分、そんな感覚と同じなのかも。


「おぉ~っ! これがベルベットさんのオーダーメイドのバッグか。縫製もすごく丁寧で綺麗だな。これは使い込むにつれて肌触りがよくなりそうだ (暁)」

「革製品は大事に、そして使い込むだけ味が出てよい物になりますからね。中にはヴィンテージ物だけを収集する人もいるくらいです (シルヴァ)」

「わたくしの母もベルベット様にはお世話になっています。上質でありながら牧歌的で、とても温かみがあって、お出かけが楽しくなってしまいます。使い勝手もよく、その人に合わせたデザインにしてくれるのですよ (フィアナ)」

「フィアナもおさがりって言ってひまわりのロゴの入った革製バッグを持ってたよね。おさがりとは思えないような風合いで羨ましかったな (アナスタシア)」

「最近はライブラの普及でバッグとかキャリーケースの需要が落ち込み気味です。でも、やっぱりいい物というのは残っていくものだと思います。心がこもっているものは特に (フィアナ)」


 彼女の言葉通り。いいものというのはなくならないものだ。必要とされるだけではない。効率を考えただけの魔法や道具にはない、感情的なものが宿る。これぞまさに不滅と呼べるのではないでしょうか。

 特段、暁さんのような体質の人はその良さを肌身に染みて理解できる。


「いやぁ~、あたしは魔力を体外に放出しづらい体質だから、資料や道具の持ち運びには必ずバッグを使うんだ。そろそろ新しいものを買おうと思ってたところなんだよ。ベルベットさんにお礼を言っておいてもらっていいかな (暁)」

「もちろんですとも。ベルベットさんも、それを聞いたら喜びますよ (ペーシェ)」

「もしかして、今使ってるやつは捨てちゃうんですか? 捨てるくらいならアルマに譲ってください。限界までリユースしますっ! (アルマ)」

「いや、あれはあれでまだ使えるから、限界まで使い続けるつもりだよ。そんなにバッグが欲しいなら買ってあげるよ。てか、アルマはライブラがあるだろう (アルマ)」

「アルマも暁さんみたいなかわゆいバッグが欲しいです。できれば暁さんのおさがりがいいです (アルマ)」

「なんで? (暁)」

「根拠はないですが、運気が上がりそうな気がします (アルマ)」

「「「「「わかる気がする (一同)」」」」」

「なんでっ!? (暁)」


 それには激しく同意です。

 なんていうか、暁さんにはいい気の流れがありそうな雰囲気がある。

 スピリチュアルな話しってあんまり信じないほうなんだけど、暁さんに限っては例外。よくあるよね、よく笑う人には幸運がついて回るとか。科学的な論文とかを見ても諸説ある。

 しかし、人は自然と笑顔の集まる場所に集うもの。そう考えると、暁さんには善良な氣が回ると思っても不思議ではない。

 本当にいい笑顔をするんだ。

 自己防衛本能からの張り付いた笑顔ではない。心の底から『楽しい』と思って出る笑顔。こういう人には好かれたいと思うのが人情というものです。


 はぁ~、あたしもいつか暁さんみたいな素敵なレディになりたいもんですな。

 暁さんのかばん持ちをしたら少しは近づけるかな。

 でもここは異世界だから長くは滞在できないか。

 まずはアルマに誘われたクリスタルパレスの企画を成功させよう。

 そのためのアイデア集めも兼ねて旅行に赴いたのだ。いっぱい見ていっぱい体験して楽しむぞ。


 そんな決意を知ってか知らずか、このあとに待ち構える衝撃に、我々一同は心臓がはち切れそうになるのです。

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