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異世界旅行1-1 驚天動地に咲くは薔薇 7

 ブルーハーブとは、メリアローザの中心にあるダンジョン【薔薇の塔】の第2層【群青鍾乳洞】に自生するハーブのことである。

 青色の色素を持った子葉は成分を抽出することで、人体の傷を修復するマジックアイテムとなる。

 群青鍾乳洞にはハーブのほかにムカデやクモが生息しており、奥の空間に進むほど巨大な姿をした。ムカデとクモは覇権を競って争い合い、一定周期でどちらかの巨大モンスターと遭遇する。

 さすが異世界。モンスターとか本当にいるんだ。おっかねぇ。


「話しの腰を折って申し訳ないんですが、ダンジョンの中にいるモンスターって、街に出てきたりしないんですか?」


 身の安全が第一。こういうのは遠慮なく質問させていただきます。

 暁さんが笑顔で答える。


「それな。安心してくれ。ダンジョンにあるワープゲートをモンスターは使うことはできない。実証実験済みだから間違いない」


 大きなため息とともに胸をなでおろす。

 よかった。本当によかった。

 なにより身の安全が第一。

 ちなみに、巨大ムカデは平均的に全長20mもあるそうだ。想像しただけで倒れそうです。


 話しは戻ってブルーポーション。経口摂取をし、傷口に魔力を集中させるだけで傷を修復してしまう超チートアイテム。

 ゲームやフィクションで出てくるような、冒険者にとっての必須アイテム。冒険者だけではない。魔獣と戦うベルン騎士団や紛争地域で活動するハイラックス国際友軍。死闘を繰り広げる剣闘士にとっても必需品となるだろう。

 それを異世界間交流のための道具という。

 素人でもわかる。それは劇薬であると。


「効果効能は喉から手が出るほど欲しいですね。でも、便利すぎるものの唐突な出現は危険ですよ?」


 さすがライラさん。想像力が豊かなのは長生きの秘訣。


「その辺はいい感じに規制しながら供給していく予定よ。救急医療現場の応急措置のためとか、紛争地域で活動する非営利団体に提供とか。回復薬のせいで戦争が激化でもしたら本末転倒だもん。あとは使う側のモラルと責任の問題ね (ヘラ)」

「どんな薬も毒になりえます。我々は人間の善の心を信じるしかありません (ローザ)」

「そう言われると返す言葉もない (ライラ)」

「大丈夫。法規制を整えてから製造を開始する予定だから (ヘラ)」

「1つ質問いいかな。ブルーポーションはメリアローザではどんな使われ方をしてるんだ?(シェリー)」

「ぶっちゃけ、あんまり使われてないですね (暁)」


 えっ?

 飲めば簡単に傷を癒せる便利アイテムを使ってない?

 それはいったいどういうことか。お値段が超絶高額とか?


 理由は1つ。使いすぎると体に耐性ができてしまい、いざという時に効果がでなくなるから。

 ブルーポーションに限らず、薬を常用すると人間の体には耐性がついてしまう。今まで1錠でよかったものが、これからは2錠飲まないと効果が期待できない。それは薬に対する耐性を獲得してしまうから。


 ブルーポーションも同じ。使いすぎると体に耐性ができて傷の治りが遅くなる。これらの現象を避けるため、ちょっとやそっとの傷ではブルーポーションは使われない。

 もちろん、万一に備え、ダンジョンに潜る際には即効性のある液体状のブルーポーションを購入して出かける。が、使用頻度は少なく、そのほとんどは破棄されるそうだ。

 もったいないと思うも、体にとってはこれが一番良い。結局のところ、自然治癒に任せるのが最良なのだ。


「なるほど。デメリットを忌避して使わないようにしてるんだな。一番良い考え方だ。しかし人間、便利なものがあれば使いたくなってしまうものだが (ライラ)」

「過去にいたんですよ。ちょっとのケガでもすぐにブルーポーションを使うやつ。いざ大ケガした時に効果が出なくて、製造されたブルーポーションを全部買い占めて狂ったように飲んだって人が。冒険者はみんなそれを知ってますから、なるべくケガをしないように、無理をしないようにモンスター討伐に行ってます。ケガをしても少々のことでは経口摂取しません (暁)」

「でも感染症は怖いので、消毒はきっちりしますね。病院は怖いですし。みなさん、応急手当は完璧にこなせますよ。アルマも然り (アルマ)」

「消毒っていうとエタノールか。科学的なものもあるんだな (シェリー)」

「いいえ、ブルーポーションって経口摂取して魔力を傷口に充てると傷が塞がるんですけど、殺菌作用があるので消毒液としても使えるんです。どのみち、消毒して傷を塞がないとバイ菌が入りますからね。そっちの使い方のほうがメインな感じです (アルマ)」

「消毒液と回復薬の2役もこなせるの? 普通にチートアイテムじゃん (ペーシェ)」

「でも液状のものは劣化が早いので、品質はもって1日ってところですね。ほかに、お茶っ葉のように乾燥させたものと、練り上げて団子状にしたものの3種類があります。それぞれ仕様感と保存期間が違うので、常備薬として保管してますね (アルマ)」

「一般家庭向きにも加工されてるのか。めっちゃ便利じゃん (ライラ)」

「あ、乾燥させたものならここにありますよ。これは保存期間が最も長く、製造されてから2~3年は保ちます。紅茶と同じ要領でお湯で煮だして効果を得ます。回復薬としても、消毒液としても利用できます。もう1つが団子状のものです。ブルーハーブの成分を抽出したもので、最も強い効果があります。ただ、これは固形で、お湯で煮だしても成分が溶けないので消毒液としては使えません。それと、丸薬が溶けて体に吸収されるまで時間がかかるので効果が出るのが少し遅いです。あとクソマズいらしいです (華恋)」


 華恋の手持ちの乾燥ブルーハーブが回ってきた。匂いはトランペットのマークをした丸薬か、あるいは病院独特の匂いに似てる。

 団子状のものがもっと効果が強くてクソマズいなら、きっとこれ以上のフレグランスなのだろう。良薬口苦し。この言葉を体現するかのようだ。

 あとやっぱり病院は怖いんだ。どんなところなのか、逆に気になる。


 液体に乾燥したものに固形の丸薬。場面に応じて様々な使い方ができるのか。なるほどこれは便利である。

 便利すぎるがゆえに、あたしたち側の世界に持ち込んだ時の衝撃が大きい。

 メリアローザからすれば日用品程度のもの。しかし、我々からすれば神代の代物。奪い合いになる可能性極大。

 想像しただけでも悪用の方法なんて10や20も思いつく。絶対にやばいですって、こんなもの。もっと他にいいものないんですか?


 思うも言葉は腹の底で横たわって口から出ようとはしない。

 出たところで意味がないからだ。あたしの裁量の範疇をはるかに超えている。だからここはヘラさんと世界の良心を信じよう。


 ヘラさんの言葉がひと段落ついたところを見計らってメインの料理が現れた。

 鮎の炊き込みご飯。

 金色の鮎出汁のお椀。

 鮎の塩焼き。

 鮎尽くしの鮎定食。黄金定食とだけあって塩焼きの鮎の腹は金色に輝いている。スープも光を反射して金色に煌めいてるようだ。

 香りも抜群にいい。川魚のたんぱくな香ばしい香りが鼻をくすぐる。湯気に乗るお米独特のかぐわしさもたまらん。鮎からとった出汁のなんと優しくふくよかな味わいだろう。

 素材の味を最大限にまで引き出す技巧。いやぁおみそれいたしました。


 ここで倭国文化好きのアナスタシアさんの手が挙がる。曰く、食べ方などあるのだろうか、とのこと。

 なるほど、異国の、もとい異世界の食事マナーなどを聞いておきたいというわけですな。さすが真面目なアナスタシアさん。ナイスクエスチョンです。


 女将のアイシャが笑顔で答える。しかしなぜだろう。額に怪我をしてるようだが…………?


「好きなように食べて下さって構いません。順番などお気になさらずに。でも、そうですね、個人的には、まずは椀物をひと含み。それから鮎の塩焼きを半身だけ食べます。鮎の炊き込みご飯を半分食べて、最後に出汁汁を炊き込みご飯に注ぎ、鮎の身を崩しながらお茶碗に入れてお茶漬けのようにして食べるのがおすすめです。塩焼きのしょっぱいのと、鮎出汁の旨味が炊き込みご飯と一体になって、とってもおいしいんです♪」

「むむむっ! なるほど、そんな方法が。食べきってしまったので、おかわりをいただいてもよろしいでしょうかっ!」


 すみれの顔を見て、手元に視線を落とすと完食していた。配られて2分も経ってないはずなんだけど。どんなスピードで食べたんだ?


「鮎の塩焼きがすごくおいしい。私は2匹おかわりしたいのだが、いいだろうか」


 シェリーさんの手元も空になってる。おいしかったのか。ただの早食いなのか。尋常じゃないスピードでくらいついていた。

 そんなにお腹空いてたのか。前菜のマリネとすね肉も結構な量を食べたように見えたけど。


「騎士団の中じゃ、シェリーの早食いは有名だ。泊りの演習なんかじゃ、周囲の人たちとペースが合わなくて苦労したそうだ。シェリー以外が (ライラ)」

「早食いしただけでペースが合わなくなることなんてあるんですか? (ペーシェ)」

「飯を食い終わったら警戒任務とかな、1人だけ速攻で食べ終わるから待つことになるんだよ。そうなると、ほかのやつらは急いで食べなきゃいけない気がするだろ? (ライラ)」

「なるほど、そういう (ペーシェ)」

「今日はプライベートだからいいんですよ。それに、今日はおしゃべりするネタが山ほどありますからね (シェリー)」


 そう言って食事中の華恋を捕まえ、耳にしてるピアスの話題を振った。乳白色に輝く小さな丸。主張しすぎず、小さくきらりと輝くそれは女性的な美しさを強調してくれる素敵アイテム。

 あたしもすごい気になってた。どこで切り出そうか機を窺っていたのです。

 蝶貝の真珠層を削り出して嵌め込んだもの。見る角度によって受ける印象が違ったのは気のせいではなかった。

 真珠層のオーロラがわずかなグラデーションを描き出していたのだ。アクセサリーを身に着けないあたしも1つ欲しいと思わされる。


 次のターゲットはローザ。ヘラさんから異世界の話しをあらかじめ聞いていた、というところから切り始め、今日に至るまでの心境を聞き出す。

 さすが騎士団長。話しの持って行き方がうまい。ローザも楽しそうに言葉を返した。

 なんでも、暁さんのエスコートの前にヘラさんから大量のケーキ(賄賂)を贈られたり、セチアさんから素敵なバスボムセットやフラワーオイルを用いた石鹸を貰ったらしい。

 今日はお昼ごはんを済ませたあと、セチアさんの営む工房で石鹸作りをさせてもらう。どんなわくわく体験が待ち受けるのか楽しみだ。


 3人目の獲物はシルヴァさん。彼女は旅行の途中で倭国にあるフェアリー基金の支部へ赴き、倭国で販売されているフェアリーグッズを買い揃える予定だったそうだ。

 残念ながら、異世界なのでそれはできない。でも倭国へは飛行機に乗ればたどり着ける。異世界にはワープができないとたどり着けない。今日は異世界の地をめいいっぱい楽しむ、と気持ちを切り替えた。


 フェアリー基金とは、シルフィード財団が設立したものであり、世界の福祉向上を目的とする。活動の一環として、世界中でオリジナルグッズを販売、収益の一部を貧困にあえぐ人々の救済のために使われていた。

 シルヴァさんの求めたフェアリーグッズは、焼き物の淵にフェアリーと花々が踊り舞う絵柄が絵付けされた限定商品。フェアリー基金はその国その土地が持つ伝統工芸品とコラボレーションすることが多く、地域活性にもひと役かってるのだ。

 グレンツェンでも、シトラスさんが作るモスポットとコラボした商品が販売されたことがある。フェアリーはみんな大好き。かわいかったり綺麗だったりする商品は大人気である。


 4人目はすみれ――――――と、これってもしかして、全員と話すつもりでいるんですか?

 いくら時間があっても足りないんですけど。

 ライラさんの耳打ちによると、シェリーは基本的に国防を担う役割柄、内に籠って仕事をすることが多い。

 だから一度しゃべり出すと鬱憤を晴らすように止まらない。元来、人とおしゃべりをするのが好きな性格ゆえ、こういうストレスのかからない場になると、開いた口が塞がらない、のだそうだ。

 騎士団長様もたまってらっしゃるんですなぁ……。

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