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異世界旅行1-1 驚天動地に咲くは薔薇 3

 暖簾を越えた先はまだ見ぬ世界。

 木造建築ならでは温かさ。

 人工光はなく、全て窓からの日差し。よりくっきりと光と影のできる場所のなんと赴きのあることか。

 給仕をする人たちは全員和服。まさにイメージ通りの倭国。ただちょっと意外だったのは来場客の服装。和服もいる。洋服も着ている。それはいい。少し違和感があるのは、半分以上の人々がファンタジーで見るような戦闘服を着ていること。ダンジョンがあるって言ってたな。それ関連なのだろうか。

 促された席には銀色のプレートが置かれてる。首に掛ける紐がついてることから、暁さんの客人である証明的な何かかな?

 あるいはGPSが内臓されてて、進入不可地域に近づくと警告音が鳴る装置的な?

 さすが秘匿主義の倭国。ハイテクですな。


 上座の暁さんの隣には大和撫子。

 超綺麗な黒髪ロングのストレート。なにこの綺麗かわいい系の美少女。本当に同じ人類なのか。何を食ったらこんなふうに育つわけ?

 軽くヒくんですけど。

 全員が着席したことを見計らって、暁さんのよく通る快活な声が心に響く。


「さて、改めましてギルド【暮れない太陽】のギルドマスター。(くれない)(あかつき)だ。暁と呼んで下さい。それではご飯でも食べながら、と言いたいのですが」


 歯切れが悪いわけではない。

 言い淀むのは我々の心を案じてのことだった。

 なにせメリアローザとは――――


「ご飯を食べる前にいくつか説明しておかないといけないことがあります。でないと、下手をしたら食べた物を吐き戻すか、失神するかもしれません。と、ヘラさんが言ってました」

「はい、ヘラさんが言いました」


 ヘラさんが言ったらしい。

 しかし吐き戻すほどの事実とはいったい?

 きょどる我々を意に介さず、暁さんは淡々と話しを進める。


「お話しすることは3つ。メリアローザとグレンツェンは異世界の関係にあること。異世界の関係なので、通貨の換金ができないため、目の前にある専用プレートを使用してもらうこと。最後に、たかピコを紹介することです」


 今なんと?

 あたしが脊髄反射的に立ち上がったのは仕方ないことだと思う。


「えっと、聞き間違いですかね。今、メリアローザとグレンツェンは異世界の関係にあるって聞こえたんですけど…………?」

「その通りだ。聞き間違いではないな」


 はきはきとした暁さんの物言いが耳に痛い。

 沈黙。

 当然の沈黙。

 異世界だって?

 そんなのファンタジー以外のなにものでもない。

 旅行客に対してとんでもない冗談を言うもんだ。

 暁さんがこういう類のジョークを放ってくるとは思わなかった。そういう点では驚きの極地。

 だが残念なことにあまりウケてない。ファンタジー小説に慣れてない人間が多いゆえか。


 そういった方面に多少なりとも見識のあるあたしでも、なんて返したらいいか分からない。

 まさかこんなトークがこの世に存在したとは。

 これはなんて答えるのが正解なのか。

 答えが出ないまま、常識人は沈黙を続けた。

 答えが分からない天然ポジティブレディは、容赦なく沈黙を打ち破る。

 シルヴァさんだ。


「異世界ってことは、我々が住む場所とは別の場所、ということですよね?」


 暁さんは慣れた様子で胸を張る。


「そういうことになるな。まぁ外国旅行に来たのとおんなじようなもんだ」

「ということは、我々の世界にはない果物とか、考え方とかあるということですよね?」

「そういうことになるな。ヘラさんから話しを聞く限り、倭国という国とかなり似たような文化らしいけど。まぁ人間という種族が同じだから、考えることもまま同じになるということなんだろうなぁ」

「なるほど。ということは、まだ見ぬスイーツがあるということですねっ!」

「比較対象ができるほど知識がないから分からんが、その可能性は多分にあるっ!」

「最高じゃないですかっ!」


 意外なところに伏兵が隠れていた。

 ポジティブの尖兵。スイーツの前には異世界がどうのこうのなんて関係ないらしい。

 間髪入れずにヘラさんの援護射撃が続く。


「そうね。スイーツもそうだけど、グレンツェンでは見られないようなお料理もあるわ。独特な食文化に食材。特にフラウウィードで採集されるハーブには素敵なものがたくさんあるのよね?」

「グレンツェンで見たこともない料理に食材!」


 すみれが満面の笑みで立ち上がる。未知への期待にわっくわく。

 料理の話しになって、暁さんがランチのお品書きを教えてくれる。


「料理はうまいものがたくさんあるぞ。とりあえず、今日の前菜にはグレートキングサーモンとシロミウオのマリネ。ブルーラプトルのすね肉の蒸し焼き。メインは鮎の黄金定食。デザートには四色豆腐だ」

「鮎の定食っ!」


 前のめりになるすみれを制して、暁さんは大事な話しを続ける。


「すまないがもう少し待ってくれ。あと2つ、しっかり説明しておかないといけないことがあるからな」

「なるはやでお願いしますっ!」


 すみれは一刻も早くご飯が食べたくて仕方ない。

 よだれを飲み込みまくって足をばたばたさせた。

 シルヴァさんとすみれは食欲の権化。異世界とかどうでもいい派。

 リィリィちゃんにメロメロなエディネイも彼女と一緒にいられるなら、ここが地獄だろうが天国だろうがどうでもよさそうな顔をする。

 異世界というパワーワードにわくわくするのは脳内お花畑モードの3人に加え、当事者のヘラさんだけ。あとの6人は――――あれ、ローザはなんか随分と冷静だな。


「わたしは、その、母さんから事前に話しは聞いてたから」

「そ、そうなんだ。まぁ娘だもんね。ちなみに、いつから?」

「暁さんたちがフラワーフェスティバルに来た時。お祭りの案内をする日の前日に聞かされた。驚いたけど、大事なのは『彼女たちが我々の良き隣人であり、大切な友達ということ』って。よくよく考えてみたらそうだと思って。といっても、今日ここに来るまで半信半疑だったけどね。異世界なんてね。ファンタジーとかフィクションの世界だもんね」

「結構前から知ってたのか。あぁ、批難したいとかそんなんじゃなくて、なんていうか、あぁ…………ごめん。無意味な質問だった」


 そうだ、こんな質問をしても無意味だ。

 だから意味のある質問をしよう。ここが異世界だとして、大事なのは2つ。

 身の安全。そして、ちゃんと元の世界に戻れるのか。


 暁さんに問うと安心できる答えが返ってきた。


「それについては安心して欲しい。あたしの友人として、国の客人として来てくれているみなさんには、心身の安全が保障されています。ただし、とはいえ100%とは言えません。限りなく0であるとは言えます。それから、アルマ」


 促されて、アルマが元気よく袖を振る。


「戻るに際してはアルマがいるので大丈夫です。ハティさんもいるので問題ありません。ワープの魔法が使えますからね。アルマの場合はワープの亜種の【ハイバーボリア・ワープアンカー】ですが」


 ライラさんが初耳の魔法に興味を示す。


「ハイバーボリア・ワープアンカー? 以前にハティに見せてもらったワープとは違うのか?」

「ちょっぴり違います。具体的には

「ちょっと待った! 魔法の話しになると長くなるので、それはあとでお願いします。お腹をぎゅうぎゅう鳴らしてる子がいるので」

「ぎゅうぎゅう~~」


 ライラさんへの疑問の答えを遮って、暁さんが待ったをかける。


 すみれのお腹がぎゅるぎゅる。どころではない。ぎゅうぎゅう鳴ってる。どんだけ激しく胃液が移動してるんだ。たしかに、あたしもそろそろお腹が空いた。

 とかく身の安全と帰れる保証があるのが分かったのでよしとしよう。

 異世界だなんてとんでもワードに関しても、ガチにしても冗談にしても、メリアローザに来てしまってからではもう遅い。討論したところで着地点は現れない。無限に落下するだけ。虚しいだけだ。


 これ以上、異世界がどうのこうのいう議論は無駄。

 さっさと2つ目に移るとしよう。そしてご飯にありつきたい。

 話しを聞きながらご飯を食べる流れではダメなのだろうか。

 ヘラさんに聞くと、難しい顔をされた。


「話しを聞きながらの食事をしても大丈夫だけど、驚いて食べ物をリバースしない自信があるならいいよ」


 ヘラさんの顔がガチ。この先になにが待ち構えているというのか。

 暁さんもヘラさんの意見に同意。


「順序立てて話しをしようと思ったんですけど、2番目のものはたいしたことないし、順番を変えますか。それじゃあさっそく『たかピコ』を紹介しましょう。あちらをご覧ください」

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