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ぽんこつ慕情恋物語 6

 自分らしい服。

 気負って明るい服にしなくてもよい、ということだろうか。

 頑張ろうとしすぎていたのかもしれない。

 新しい自分になろうと、そうあらねばならないと意識していた。しすぎていたのかもしれない。

 わたしの好きなわたしの色。

 それでいいなら、わたしのままのわたしでいいなら、それはやっぱり、これなんだと思う。


「やっぱりリーフグリーンと深緑のお洋服がよく似合いますね♪」


 と、言いながらゴスロリフリルを手渡そうとしてくるアルマちゃんの神経の太さたるや。


「えぇ、とってもお似合いですわ。やっぱり服は自分らしくないと」

「でもたまには違う自分に挑戦してもいいのではないでしょうか?」


 アラクネートさんが自分らしさを肯定するも、アルマちゃんはぐいぐいとにじり寄ってくる。

 なんとしてもゴスロリフリルを着せたいらしい。

 仕方ない。あんまり言いたくなかったけど、少しアルマちゃんを諭さなくてはならないようだ。


「う、うん。そうだね。それじゃあ、アルマちゃんもツインテールからポニーテールにしてみてほしいな。きっと大人っぽくて素敵だと思うよ?」

「ぐはぁッ!」


 よろけ、後ずさって静かになった。


「あはは。返されちゃったね」

「アルマさんのポニーテールは見たことあるよ。すっごいかわいくて大人っぽくてかわいかった!」

「ほんとに!? ポニーテールのアルマちゃん!?」


 それはすごく気になる。

 ツインテール姿しか見せない彼女。ポニテも三つ編みも似合うだろう。なのに頑なにツインテールを崩さない。シニヨンだってかわいいはず。

 ウォルフが背後から獲物を見る目でアルマちゃんの髪を見下ろす姿を何度も見たことがある。

 ハイジも同様、たまには髪型を変えてみないかと催促した。

 その全てを悉く断っていた彼女が、いったいどこでどんな経緯でポニテにしたというのか。


「お風呂に入った時に髪を洗うついでに髪を後ろでに束ねてみたんです。すっごい似合ってました」

「お風呂でならポニテ姿を見せてくれるってこと?」

「え、いや、まぁ、髪を洗うのに髪留めは邪魔ですから」


 これにはみんな大興奮。わたしもルーィヒも全力で食いついた。


「ということは、期せずしてストレートヘアのアルマを見れるってこと?」

「ストレート!」


 それは絶対に見てみたい。

 結うは無理にしても、手で抑えて髪型チェンジを見せてくれるくらいは許してくれるはず。

 よし、今度一緒にお風呂に入ろう。


「じゃあ交換条件として、ゴスロリフリルにツインテールの双子コーデで写真を撮りましょう!」

「ぐぬぅっ!」


 自分でもびっくりするくらい変な声が出た。


「キキもやりたい! ツインテールをやってみたい!」

「私も参加させていただきます。フリルの服を貸していただいてよろしいですか?」

「もちろん♪」

「うぅむ、一緒に写真には入りたいが」


 ゴスロリフリルとツインテールは恥ずかしい。

 言葉を濁したルーィヒの両手を双子が掴んで優しく微笑む。

 一緒にやろう。服はアルマさんのものを借りましょう。そう顔に書いていた。

 暗闇も昼間になってしまうほどのきらきら光線が放たれる。ルーィヒにこれを回避する術はなかった。

 でもまぁ、フリルスカートを履いて外にお出かけするわけでもなし。ここは笑顔で参加するが大吉である。


 談笑ののち、何か違和感を感じた。

 なんだろう。何かが足りない。何かではなく、誰かがいない?

 いつも大勢の輪の中に身を置き、小動物のように愛くるしい姿を見せる女性。三色髪の女の子。そうだ。すみれがいない。

 彼女が単独行動をするところを見たことがない。だから自然と、誰かにくっついて愛嬌を振りまいていた。

 一緒にいると自分まで楽しい気持ちにさせられてしまう。

 彼女と一緒にいると、不思議と安らいだ気持ちになるのだ。


 ここで直感が働いた。誰にでも愛嬌を振りまき、誰とでも仲良くなってしまう笑顔を持った小鳥遊すみれ。初見の人とでも会話を弾ませて仲良くなってしまう少女。

 とはいえ、友達がいるところでうろうろと千鳥足にはならないはず。

 ではいったいどこへ?

 どこへ消えてしまったのか。

 考えられる理由は1つ。


 用事を思い出したと踵を返し、店の中を端から端まで探索開始。

 それはすぐに見つかった。三色髪のくせっ毛をぴょこんぴょこんと弾ませて、3人一緒に楽しい時間を過ごしている。まるで親子か兄妹のよう。見知った顔と、見知った顔と、見知った顔が並んでいた。

 義兄、ペーシェ、すみれ。

 ペーシェ、すみれ、義兄。

 すみれ、義兄。ペーシェ。


 なんで3人で服を選んでるの!?

 せっかく2人っきりになれるようにセッティングしたのにッ!


 呆れて物が言えません。

 ここまでお膳立てして――――あぁそうか、すみれが2人の間に割って入ったのかな。それじゃあ仕方ないか。むしろ悪いのはわたしだ。すみれをしっかりと確保していなかったわたしの責任と言える。

 取り逃してしまった。

 すみれを、チャンスを、2人っきりになれる時間を。

 これまでの努力が水の泡となってぱちんと弾ける音が聞こえるようです。


「見てください。お二人が私に似合う服を選んでくださるって。どうですか? 白のワンピースに赤色のエプロンスカート。それに朱色と紺色のキャスケット!」

「すっごくよく似合って――――似合ってるよ。えっと、それで、2人がすみれのお洋服を選んでくれてたの?」


 満面の笑顔で全力の肯定。

 これはいったいどういうことだ。

 すみれが大好きなペーシェのところへ赴き、一緒に服を選ぼうと誘ったのか。

 不意に義兄に目をやると、視線を逸らして冷や汗を垂らした。まさかとは思うけど、誘ったは貴方じゃないでしょうね?


 まさかまさかのそのまさか。

 ペーシェと2人っきりでは間が持たないと判断した義兄。逃げ道として、緩衝役として、会話の手段として、すみれを引っ張り込んで3人で買い物をしていたのだ。

 うおおおぉぉぉぉぉぉッ!

 怒りで髪が逆立つとはこのことかっ!


 ちょっと義兄を借りていきますね。


「ちょっとお義兄ちゃん、これは一体どういうことなの!?」

「すまん、無理だ。2人っきりでは間が持たん」

「そこをなんとか会話で繋がないとダメでしょ。頑張ってよ。命がけで頑張って!」

「話しに乗れる話題があればいいんだが。ペーシェってどんなことが好きなのか知ってるか?」

「それは自分で見つけてっ!」


 義兄がここまで他力本願だとは思わなかった。

 これはもうどうやってもダメだ。

 ここですみれを引き離して2人っきりにしたとして、空中分解するのが関の山。

 あとはもう成り行きに任せましょう。

 わたしがここにいても何かできることもなし。


 恥ずかしながら、わたしも全然分かっていなかった。

 恋愛とは2人きりで成すべきものだと思い込んでいたのです。だからなんとかして2人1組にしようと画策してしまった。

 そうではない。人それぞれに歩調というものがある。わたしはそれを考えてない。


 わたしがグレンツェンにいるまでに、義兄とペーシェの間を取り持ちたい。せめて手を繋いで歩く姿を見ておきたい。

 無意識のうちに、個人的な希望的願望を胸に燃やしていたのです。

 だからせっついて、急かして焦って怒ってしまう。わたしはいつの間にか自己中心的になっていたのです。


 義兄は義兄で必死でいる。ペーシェとはキッチン・グレンツェッタが終わって会う機会もきっかけもない。

 どうにかこうにか気を引きたい。

 相手を傷つけたくない。

 自分をよく見せたい。

 普段から自然にできていることができなくなる。

 恋愛とは誠に不思議なものです。


 不思議なことはまだある。ペーシェも義兄と同じ心境なのだ。

 相手の気を引きたい。

 特別な人には優しくありたい。

 自分のいやらしいところは見せたくない。

 見事なまでに同じ形。

 同じすぎてかみ合わない。


 そこでとった2人の行動は、すみれを間に入れて通訳と会話の円滑な運用を図ること。彼女を通し、時には彼女を利用して話題を合わせる。

 共通言語変換人間。

 利用されているとはつゆ知らず、すみれはショッピングを楽しんでいた。

 すみれを通して共通の話題で盛り上がる。2人は少し罪悪感を感じながらも、すみれが楽しめるように気を遣いながら高度な情報戦を交わしていたのだった。

 そこへ現れたるは爆撃機。そんなの間違ってると機関銃を撃ちまくって割り込んでしまった女がいる。


 そう、わたしです。


 実はすごく上手くいっていた2人と1人の時間をぶち壊したのは誰あろうベレッタ・シルヴィアだった。

 義兄を連れ出してしまったわたしは義兄に対し、不機嫌という形で叱責。

 すっかりどうすればいいのか分からなくなった義兄を置き去りに、何も知らないすみれはペーシェと一緒にみんなと合流。自分の変身ぶりを褒めてもらいたくて仕方なかった。

 しょんぼりした義兄を連れて戻ると、そこには誰もいない。通知には、『そろそろ買い物を切り上げて、みんなでおやつタイムにしよう』とのメッセージ。

 こうして義兄とペーシェが2人きりになるチャンスを永遠に喪失してしまったのです。

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