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ぽんこつ慕情恋物語 2

 差し出された水着は三角ビキニタイプ。縁取りと紐は優しいリーフグリーン。布地は純白。見た目はとても綺麗だと思う。リーフグリーンはわたしの大好きな色。

 レレッチのフライヤーを作った時もそう。ペーシェは本当に色彩感覚に優れていると思わされた。

 でも、これを、こんなに布地の少ない水着を、わたしが着るの!?


「え……ビキニってだいたいこんなもんですよ? あたしの感性って人とズレてるのは自覚してるけど、これってそこまで変だった?」

「いや、これは驚くほどまとも。普通にかわいいと思う」

「いや、でも、こんなかわいい水着、わたしなんかが着ても」

「え~~っ! 絶対似合いますよ。試しに着てみましょう。それから考えても遅くはありません。あと、こっちも着てみて下さい」


 試着室に押し込まれてカーテンを閉められた。

 これはもうやるしかない。やるしかないがしかし。

 鏡の前に立って自分のスタイルを見直してみる。

 シスターの仕事を手伝うこともあり、見た目のスタイルには気を付けてきた。

 BMI値も健康水準。

 お腹は出てはいない。腕や足も細すぎず太すぎず。

 気になることがあるとすれば、二の腕がちょっぴりぷにぷにかもってことくらい。


 手元には2着の水着。

 ひとつはペーシェに勧められた布地の広い三角ビキニ。

 輝く白。鮮やかなリーフグリーン。どちらもわたし好みの色。

 だけど、う~~~~だけどだけど。肌色の露出が過ぎるのではないでしょうか。

 特に下腹部のところ。おへそはもとより、足の付け根から股下にかけて伸びるラインが丸見え。これはすっごく恥ずかしい。なんだか分からないけど恥ずかしい。


 対してアルマちゃんのチョイスはワンピースタイプ。

 全体は新緑を思わせる瑞々しい緑色。フリルはレースのついた黒。このへんはアルマちゃんの好みっぽいな。

 露出は腕と足だけ。太ももまで隠れるサイズのスカート。これなら全身のラインが隠れる。

 よし、まずはこっちを試着しよう。

 露出の少ないワンピース。と思ったら、あらびっくり。背中がばっくり割れていた。

 背中が丸見えっ!?


「一応、着てみたけど、どうかな?」

「お~~~~っ! やっぱりよく似合ってらっしゃいます。ちょーかわいいです!」

「赤色が足りないかと思いますっ!」


 すみれは相変わらず赤色激推し。

 緑に赤は目立ちすぎるよ。


「普段のベレッタさんのイメージをそのまま水着に落とし込んだ感じ。さすがアルマ。ベレッタさんの好みをよく分かってらっしゃる」

「じゃあじゃあ次はそっちのビキニを着てみてくださいよ。絶対似合いますって!」


 なぜかノリノリのペーシェ。

 当然、下心があってのことだった。

 ペーシェだってお年頃。彼氏が欲しいお年頃。

 知ってか知らずか、ペーシェのターゲットはお義兄ちゃん。

 義妹のわたしと仲良くなろう作戦を決行中なのです。

 彼女の気持ちに気付かない義兄も義妹も大概、ぽんこつだったのです。


「着て……みました。どうでしょう?」


 カーテンから真っ赤な顔だけを出す。恥ずかしすぎて誰とも目を合わせられない。


「いや、カーテンで隠れて見えないっす。そんなにビキニってハードル高かったですかね?」


 だったら自分でも着てみたらいいんじゃないかな?


「うぅ……意気地がなくてごめんね」

「い、いや、こちらこそすみません」

「せっかくなのでこれもこれも、こっちも試してみましょう!」

「う、うん。ありがとう。アルマちゃんは水着を選ばないの?」

「アルマはもう持ってるんです。それと、両腕がないので、どうしてもオーダーメイドなんです。先日、アラクネートさんに頼んで作ってもらいました。白の下地でハイキートーンの花吹雪柄です。これがその写真です」


 白地にカラフルな花吹雪。フリルのついたワンピース。裾は広く長い薄手のカーディガン。

 普段から腕の代替としてふりふりフリルをなびかせるアルマちゃん。

 海辺となれば和服フリルの代わりが必要になる。そこで、フリルがいっぱいついたカーディガン。彼女のかわいさと可憐さを象徴したかのようなデザインだ。

 かっ、かわいい!

 つば広の麦わら帽子もVery Cute!


 スワイプした先には水着の双子。アルマちゃんと同じ柄の型違い。ヤヤちゃんはワンピースタイプ。キキちゃんは大胆にもビキニタイプ。

 赤面する姉。

 ノリノリの妹。

 色がはっきりと分かれていてかわいらしい。


「いいなぁ。わたしも2人みたいにかわいかったらなぁ」


 発した途端、空気が変わった感覚を覚えた。

 なんだろう。今、一瞬、時間が止まったような気がする。


 地雷。

 それは誰しもが備える標準装備のひとつ。

 自己防衛のためか、はたまた相手を攻撃するためのものか。


「はぁッ!? 既にかわいい人が何言ってるんですかッ!?」


 起爆。


「ほんとなんだなッ! 今の発言は聞き捨てならないんだなッ!」


 誘爆。


「ベレッタさんはもっと自分に自信を持ったほうがよろしいかと思います。これ以上かわいくなってどうするんですか。え? かわいくなってどうする気なんですか? 世界征服でもするんですか?」


 爆裂。


「お、おいおい、そのくらいにしてやってくれ。ベレッタはこういうノリに慣れてないんだ」

「ノリじゃないですよッ! ガチで言ってるんですよッ!」

「そうか、すまん」


 義兄はまるで役立たず。

 責めれられて臆病風をふかすハリネズミは体を丸くして背を向けた。

 だってだって、まさかこんなに言われるだなんて思わなかったんだもん。

 自分のことをかわいくないだなんて思いたくない。でも、容姿について指摘されたことなんて全然ない。

 シスターには便宜上、大人っぽいとか、かわいらしいとか言ってくれる。それは教育者として当然の配慮であって、友達感覚で言われるような【かわいい】とか、そんなんじゃない。

 一般的なかわいいの定義が分かんないよ。


 この場をどうやって切り抜けよう。

 そんなことない、って否定したら逆切れ必至。

 かといって、『ありがとう』と言うと、かわいいことを肯定するようでいたたまれない。

 そもそも、わたしってかわいくていいの?

 かわいいって何?

 なにがなんだかわからない。

 かわいいの爆弾のせいでゲシュタルト崩壊。


 頭を抱えて膝を折るわたしのことなどおかまいなく、アルマちゃんは気に入った水着を持って爆撃開始。


「とりあえずこっちとこっちとこっちの服も試着しましょう。あっちもこっちもそっちも似合うと思います。新天地に赴くのです。心機一転。新しい自分を見つけちゃいましょ~う♪」

「そ、それはともかくとして、とりあえずみんなの水着を選ぼう。みんなの『かわいい』を見て勉強させて下さいっ!」

「ぐっ。そういう切り返しできますか」


 切り返したわけじゃないんだけど。どちらかというと、ストレートな突き。


「墓穴掘った?」


 ルーィヒが追い討ち。


「ペーシェさんはかわいいよりカッコいい系だよね。でもこれなんかどうかな。ネコちゃん柄の水着だよ。私とおそろ!」

「すみれとお揃い! よし、試着してみる」


 息を吹き返した。さすがペーシェ。すみれのこととなると理性が飛ぶ。


「それはそうとして。はい、どーんっ!」

「おぉ~っ! 思った通り、やっぱりかわいいっ!」


 掛け声とともにカーテンが開かれた。

 勢いよく弾き飛ばされ、布地の少ない水着が露わになる。

 顔を真っ赤にしたわたしはすぐさまカーテンを閉めようとするも、アルマちゃんが両腕を掴んで離さない。


 やだやだやだやだ恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ!

 ひどいひどいひどいひどいよっ!

 人の嫌がることをするなんてガッカリだよ~っ!


 叫ぶとともに戸は閉められた。

 この隙に着替えてしまおう。

 速攻で着替えて試着室を脱出。

 するとそこには号泣必死で顔をしかめるアルマちゃんの姿。

 どうしたのだ。見てないところで何があったというのか。

 困惑するわたしの顔を見るなり、地にひれ伏して謝罪を述べる。

 しかも、すっごい大きな声で。


「うえ~~~~~~ごめんなざいぃ~~~~~~~~っ! どうじても、どうじてもかわいいみずぎすがたのべれっださんがみだがったんでず~~~~~~っ! あやまりまず、あやまるどできらいにならないでぇ~~~~~~~~っ!」

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