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ねいるしょっく! 2

 本日のランチはペーシェさんに招待されて、彼女の実家にお邪魔してます。レーレィさんとグリムさん、ペーシェさんにサンジェルマンさん。キキとヤヤの6人です。

 ジロール茸を使ったクリームパスタ。濃厚な卵のソースにほうれん草とベーコン。粗く砕いた胡椒とジロール茸の甘酸っぱい味のコントラストが抜群においすぅいぃ~♪

 3種類の野菜をムースにしたカラフルなテリーヌも、さっぱりふわとろでりしゃすです♪

 バゲットのラスクに生ハム・茹でたブロッコリー・ニンジン。その上にとろ~りチーズ。

 うまいっ!


 先日にレレッチさんのお誘いでジロール茸狩りに出かけた我々は、エメラルドパークが所有する森の中で沢山のジロール茸を採りに出かけた。

 通常であればガイドの手助けを受け、そこかしこに生えるキノコを籠に入れて持ち帰る。

 自然に触れること、キノコ(宝物)を探すこと、日常では体験できない貴重な時間と楽しい経験ができる。


 整備された山道はジロール茸が生えやすい環境を整えていた。

 この時期、ジロール茸狩りはエメラルドパーク屈指の観光の目玉。来場客がしっかり楽しめるように準備される。

 山登りの道具や技術だけではない。採取するキノコすらも用意していた。

 そんなことができるのか。異世界ってすげぇって改めて思いました。


 自慢げに胸を張るレレッチさん。しかし、彼女の背が曲がるような事態が訪れる。

 どこを見てもジロール茸が生えてないのだ。早朝、我々が訪れるよりも早く現場を確認してジロール茸が群生していることを確認した。

 なのにどこを見てもどこにもない。他の来場客はいない。地元の人間も、この時期は一般客向けにジロール茸狩りを公開しているから山には入らない。

 だとしたらなぜか。どこにお宝が消えたのか。


 理由は山を登って500mほど歩いた先。円形に切り出された休憩所にあった。

 たんと積まれたジロール茸。周囲には山に住む動物たちが鎮座している。

 なんと、なんとなんと、これらは動物さんたちが集めてくれたのだ。お礼を言ってもふもふ。記念写真を撮ってもふもふ。朝露に濡れてつやつや。こんな体験をさせてくれるジロール茸狩りとは。なんて素晴らしいのだろう!


 と思っていたけど、これはレレッチさんにとってイレギュラーな事態。

 ハティさんがジロール茸狩りに訪れると知った森の動物たちが、獣の神にして王のために朝から集めてくれたのだ。なにがなにやら分からないレレッチさんは困惑するしかない。


 とりあえずジロール茸は手に入れられたものの、自分たちでキノコを採取するという目的が果たせなかった。

 別ルートを通ってキノコ狩りを再開することになる。

 なのでめっちゃたくさんのキノコが手に入った。あまりに多いのでおすそ分けして回った次第なのです。

 おすそ分けしておきながら、人にあげたキノコでランチを食べるという。

 なんだか申し訳ない感じになっちゃってます。でもちょーおいしー!


 今日はペーシェさんのお母様のレーレィさんとグリムさんの手料理をいただきます。


「気に入ってくれてよかったわ。気合い入れて作った甲斐があったわね」

「ですね。それに今日のクリームパスタには、キキちゃんたちが採って来てくれた新鮮なジロール茸を使ってあります。春はやっぱりジロール茸を使ったクリームパスタですね。キキちゃん、ヤヤちゃん。本当にありがとうございます」


 レーレィさんとグリムさんに喜んでもらえてなによりです。

 感謝されるというのは素敵です。なので私も、いっぱいいっぱい感謝します。


「いえ、沢山採れたので。気に入っていただけて嬉しいです。おいしいランチを作っていただいて、本当にありがとうございます」

「いいのいいの。みんなで食べたほうがおいしいもん。今度はすみれたちとも一緒に食べよう♪」


 ペーシェさんもサンジェルマンさんもご満悦。ジロール茸はみんなの大好物。来年もまた行きたいな。


「あのねあのねー。ジロール茸を採り行ったんだけど、採ったんじゃなくてね、森の動物さんたちが集めてくれてたの。だからいっぱい手に入ったんだー。リスさんがちょーかわいかった!」

「動物たちが集めてくれてたの!? それは素敵な体験ができたんだね。他にはどんなことがあったんだい?」


 感動を分かち合いたいキキは先日あった出来事を楽しそうに語る。

 ジロール茸を採ったあとに、レレッチさんの実家でキノコたっぷりのピッツァを御馳走になったこと。

 帰りにハイゼンディ農場へ寄って、乳しぼり体験をさせてもらったこと。

 ヴィルヘルミナさんが現れて、もっこもこの鳥さんをもっふもふさせてもらったこと。

 グレンツェンに来ても楽しいことがいっぱいだ。

 ここが野原なら全力で走り出したい気分です。

 さぁ勢いのままにクエスチョンタイム。みなさんの爪を見せて下さいっ!

 ペーシェさんに突撃だっ!


「あたしはパソコン作業をすることが多いから、ネイルハードナーを使って保護してる。だからまぁそこそこ綺麗なんじゃないかな。爪割れが怖いってのもある」


 続いてグリムさんにインタビュー。


「爪割れは切り落とすのも手間ですし、衣類に引っかかると嫌ですよね。私は特に保護はしてはいませんが、爪を切ったあとには必ずヤスリで整えるようにしています。爪切りはお風呂上りに。爪の長さは手のひらを前にして、爪甲が指の先から見えないところで切り揃えるようにしています」


 ペーシェさんもきちんと爪を労ってる。

 さすがグリムさん。完璧なお手入れです。

 レーレィさんはどうだろう。


「私もグリムと同じかな。総菜コーナーで料理をするから、爪は深爪に気を付けながら短めにしてる。サンジェルマンは?」

「僕は男性なせいか爪が厚いから、爪はネイルニッパーで切ってるよ。ヤスリは電動のやつで簡単に済ませてる」

「「ネイルニッパー!?」」


 ネイルニッパー。爪への負担が少なく、どんな形の爪でも自在に切ることができる爪切り人のマストアイテム。

 普段使いをする人が少ないのは、爪切り専用のネイルニッパーが高価であるから。

 サンジェルマンさんは軍人時代から愛用している支給品のネイルニッパーを使用。遠征先でも活躍したそれは医療道具としても活用された。

 食生活や栄養の不足している地域。特に老人などは変形した爪を持っている人も多く、医療行為として爪を切除しなくてはならない場合がある。

 その時、一般的な爪切りでは切除が困難なため、万能なネイルニッパーが大活躍。本来の用途ではないが、ハサミの代用としても大活躍。

 爪切り人垂涎のアイテムなのだ。


 ちなみにレーレィさんとペーシェさんが声を上げたのは、まさか父親がそんなおしゃれアイテムを持っているだなんて知らなかったかららしい。

 当然、男性でも健康には気を遣うものだ。しかもサンジェルマンさんは騎士団の副団長。重い物を持ったり、剣を振るう際に踏ん張ったりと、爪にとってよくない場面も多々あるだろう。

 体を労わる気持ちはよくわかる。それに肉体労働をするにはお年を召していらっしゃる。50歳にして現役騎士団員というだけでも凄い。


 メリアローザ的に言うと、50歳の冒険者になるだろうか。40歳前後で引退がセオリーの冒険者視点だと働きすぎである。

 だいたいそのくらいの歳になると、手仕事を見つけてのんびり生活をしているはずだ。

 家族のため、国のために働くサンジェルマンさん。かっこいいです!


 実は我々もネイルニッパー。というか、メリアローザでは爪を切る時に爪用のハサミを使う。ぱちんぱちんと音を立てて爪が飛ぶような爪切りは存在しない。

 だから今日の講義で爪切りだなんてアイテムがあることを初めて知った。でもニッパーの方が爪には優しいということなのでちょっと安心しました。


 我々のか弱い爪にはダメージの少ないネイルニッパーが一番。

 不意に手のひらを返して自分の爪を見てみる。いつもなら、爪を眺めて爪切りで切ったらどうなるだろうかと想像していた。でも今日の我々の指はひと味違うのだ。

 なぜなら、プレシャス・フォーチュンで出会ったシルマさんにネイルアートしてもらったからです。

 手作りクッキーをおすそわけすると、楽しい時間とおいしいお菓子を貰ったお礼にと、キキと私のネイルをアートしてくれたんです。


 キキは花びら吹きすさぶカラフルネイル。花の都グレンツェンということで、お花をいっぱい咲かせてもらったのです。

 花びらが舞う姿。大きな花弁を切り取った景色。キラキラキュートな春夏ネイル。


 私はもちろんチョコレート。小指から親指にかけて、ストーリー性のあるデザインが特徴的。

 これがシルマさんの得意分野。ネイルを窓のようにとらえ、奥行きと物語性のある独特な感性を表す芸術作品。世界が愛してやまない小さな世界。

 小指の板チョコがパキパキと崩れ、中指で溶けて液体に。親指でココアに大変身。妖精がカップの淵で踊ってる。

 ありふれた非日常を、童心の憧れが描き出す。

 とっても素敵なネイルアート。大好きなチョコレートは見ていて飽きることがない。私もいつか勉強したいなぁ。


 自慢すると、ペーシェさんが羨ましいと嘆いた。


「シルマさんのネイルアート講座って倍率がヤバいって聞いたことがある。ベルンとか、ハイラックスからも応募があるんだって。しかも丁寧に教えたいから定員は10名までって制限してた気がする」

「私も毎年応募していますが落選しています。さすがセレブに愛され、映画でも起用される人気ネイルアーティストです。美容系の大学講師ではなくてフリーなんですよね?」


 グリムさんの視線の先はサンジェルマンさん。社交界で交流のあるセレブリティは顔が広い。


「ヘッドハンティングはあったけど断ったって聞いているよ。教授になると研究報告書とかを大学に提出しないといけないんだけど、彼女は事務仕事はおろか、ネイルアートと骨董品蒐集以外のことをしたくないらしい」

「好きなことだけで生きてるって感じね。羨ましいわ」

「君がそれを言うかい?」


 自由人のレーレィさんはひとつうなずいて微笑んだ。

 自由にできるのはサンジェルマンのおかげ。おしどり夫婦は見ていて羨ましくなる。私もいつか、こんな素敵な旦那さんに巡り会えたらな。


 目の前の料理を平らげて、上機嫌のキキが思い出したかのようにシルマさんの話題を振った。


「羽のようにふわふわした女性でした。自由人って感じで素敵」


 そして私はそのまま本題へ突入する。


「足の爪も綺麗でしたね。というわけで、みなさんの足の爪も見せてくださいっ!」

「すごいところから話しを滑り込ませてくるね……」


 今日はみんなの爪を見たくて仕方ない気分なんです。なぜなら新しい知識を得たから。

 新鮮な感動に突き動かされた子供の衝動的な行動力は凄いんですからっ!

 私を含め、好奇心旺盛な子供には興味に対して熱しやすく冷めやすい特性を持ち合わせていることがしばしばある。

 大人視点から言えば、1つのことに集中して極めることが、長い人生を生きるために必要なこと。金銭を得るために従事する職業は1つ、多くても2つといったところ。

 ならば頂点に向かって最短距離を走るのが合理的。そう、この考え方は間違ってない。

 懐事情を鑑みない多趣味は身の破滅を呼んでしまう。


 でもそれは大人視点での合理性。子供に合理性を求めること自体、非合理的である。

 興味の移り変わりは早く、投下した資金は無駄になるかもしれない。

 合理性から言えば無駄なことはしたくないものだ。それは私も同じ。と、頭では分かっているものの、一過性であろうとも、興味を持った関心事に首を突っ込んでみたいと思うのが子供。

 それに付き合わされるのが大人という生き物なのです。

 なので我々の興味関心に巻き込まれてもらいます。

 付き合っていただいてありがとうございますっ!

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