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ヴィルヘルミナ・イン・ワンダーランド 7

 アルマたちが異世界人。

 ユニークスキルという未知の魔法。

 世界に影響を与えるハティさんの極大魔法。

 自分自身の能力で異世界に転移したという事実。

 考え始めたら終わらない。終わらないことを考え始めてもどうしようもないので、考えないことにしよう。

 目下、あたしがしなければならないことは、ドードー鳥を捕獲して持ち帰ること。今はそれだけを目標に頑張ろう。


 暮れることのない太陽の向こう。森林と大地と水の世界。ここからどれくらいの距離だろう。千里の道も一歩から。さっそく歩き始めようではないか。

 お茶会おさらばまた明日。と、手を振ってお辞儀をするあたしの背後で羽交い絞めにするやつがいた。

 にこやかな笑顔のアリスがハードロックする。ロストワールドにはジャバウォッキーに乗って行くそうだ。

 不思議の国の怪物。それすらもアリスのペットとは恐れ入る。


 赤の領土から飛んできたそれは、あまりにも、なんていうか、怪物で間違いないんだけど、丸々と太ってまるで気球のよう。

 小さな羽。アメリカンコミックのように飛び出した大きな目。短く太い尻尾。全体はパッションピンクで覆われ、天敵がいるならすぐさま見つかり襲われそうなカラーリング。

 それと……気のせいだろうか。ドラゴンなのに顔がステラのデルレン親方に似てる気がする。


 ジャバウォッキーは赤の女王の臣下。けれども、甘い物が好きだからクッキーをちらつかせれば言うことを聞いてくれる浮気者。

 アリスの掛け声ひとつでふわふわと、よだれを垂らしながら現れた。

 なんというか、ものすごい拍子抜けする間抜け顔。

 強面のモンスターを予想していたのに、カートゥーンないで立ちのコミカルドラゴン。

 襲ってこないならなんでもいいか。


 思った通りというかなんというか、ジャバウォッキーは甘い物が好きすぎて血糖値高め。最近は赤の女王から甘い物を自重するように厳命されているそう。

 糖尿病のドラゴンなんて聞いたことがない……。


 一般的な気球の8倍ほどの体積。いったいどれほどのお菓子を食べれば血糖値があがるのか。

 そもそもこいつの主食はなんなのか。

 人間と同じで野菜と肉だろうか。

 答えは目の前にあった。移動手段として便利に使う代わりに、アリスは餌を与えるという。餌ってなんのことだ。ここには花々と残ったお菓子くらいしか…………ま、まさか、あたしを食べさせるんじゃないだろうな。

 だとしたらグーパンでぶっ倒すしかない。赤の女王の臣下だろうと関係ない。

 生身の体だと分かったのだ。誰に対しても容赦はしない。


 身構えて相対すると、彼はアリスの合図で降下し食らいつく。

 白塗りの机。装飾の施された椅子。甘いお菓子を乗せた皿。ティーカップからポットまで。全てを丸のみにしてたいらげた。

 おいしそうに咀嚼してはぐるぐると喉を鳴らして喜びを表現する。

 なんということだ。食器も家具も丸ごと腹の中に入ってしまった…………。

 残ったお菓子は持って帰ろうと思ってたのにっ!


「ジャバウォッキーにお菓子をあげれば、いうことを聞いてくれるのだ。机も椅子も食器も全部アメだから大丈夫なのだ。なんだ? まだ食べたりないのだ? しょうがないやつなのだ。きっと赤の女王に言われてお菓子を我慢していたから、ここぞとばかりにおねだりしてやがるのだ。もうお菓子がないからクッキーマンに作ってもらうしかないのだ」

「血糖値が高くなった原因ってアンタにあるんじゃ……?」

「それじゃあクッキーマン。クッキーをあげてほしいのだ」


 おいお前、確信犯だろ無視すんな!

 背中は遠く、あたしの眼前にはちょーでかいクッキーマンが立っていた。


「それはいいんですけどぉ~。ジャバウォッキーにはお菓子をあげないように言われてますよねぇ~。赤の女王様に逆らって大丈夫ですかぁ~?」

「大丈夫なのだ。ロストワールドに行って帰ってくる頃には糖分エネルギーは使い果たしてしまうのだ。多分」

「それならいいんですけどぉ~……。でも私が怒られるのは嫌なのでぇ~、糖質オフのクッキーにしておきますねぇ~」


 やっぱり高血糖はお前の仕業じゃん。

 てか、ジャバウォッキーってデルレン親方じゃん。

 そしてそして…………クッキーマンじゃなくて、クッキーウーマンじゃん!


 クッキーマン。別名、ジンジャーブレッドマン。

 クリスマスやイースターの行事などに好んで作られる人型のクッキー。基本的にはデフォルメされた人型に顔とシャツのボタンを埋め込むか、チョコやレーズンをトッピングして描き出す。

 子供から大人まで大人気のキャラクター。

 アールグレイの香りのするクッキーウーマン。3mほどの身長に指のない手足。服のつもりでデコっているチョコペンのラインはその日の気分によって変わる。

 本日は快晴の空を表す白とブルーのフリルのスカート、のようにアイシングされていた。


 つっこみたいのはそこじゃない。問題は顔。

 ジンジャーブレッドマンの口のところに、ある人の顔が埋め込まれている。埋め込まれている、と言っていいのか、飛び出してると言っていいのか。どちらかは分からないが、それは見知った人の顔をしていた。

 間違いない。

 ほぼ毎日見る顔。

 あたしの姉、シルヴァ・クイヴァライネン。

 クッキーマンの体に姉の顔。

 シュールすぎて開いた口が塞がらない。


 彼女はシルヴァ姉のパラレルワールドでの姿。

 並行世界と呼ばれるそれは、現実とは別に存在するもう1つ、あるいは複数の世界。

 そこには同じ魂を持つ別の自分が存在している。彼女もそう。シルヴァ・クイヴァライネンと同じ魂を持ち、全く別の人間。人間と言っていいのか分かんないけど。


 そうなるとあたしと同じ魂を持つ、別の人間が存在してるということになる。

 マジか。ちょっと興味はある。だけどもし、もしも、しゃべる人面花だったらどうしよう。なんかそれは凄く嫌だ。もっとかわいい存在であって欲しい。

 ちなみに、白うさぎはゆきぽんらしい。なんかそれは知ってた気がする。

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