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ヴィルヘルミナ・イン・ワンダーランド 6

 ダッシュでゴーしようとするあたしを持ち上げて、アリスはなんなく引き留める。

 ロストワールドにいるレッドデータたちは安寧の地を求めてやってきた絶滅種。知らない土地の、それも他所の世界の人間が来たとなればパニックは必至。

 まず知らなければならないことがあると、気持ちを落ち着かせるために口の中いっぱいにロシアンクッキーを詰め込まれた。息が苦しい。落ち着くどころか慌てるわ!

 とりあえず紅茶をひと含みして落ち着こう。

 うむ、マッドハッターの淹れてくれた紅茶はおいい。褒めてつかわす。


 整理しよう。

 ここは現実。はちゃめちゃワールドなのに現実。

 どういうことか。

 夢を渡って異世界転移したという。

 なるほど、完全に理解できん。

 アリスが言うにはあたしの固有魔法(ユニークスキル)夢の旅人(ドリームウォーカー)。名前の通り、夢を渡って異世界に移動できるという。

 なんでも、【銀の鍵】とかいうマジックアイテムと同じ能力なんだとか。おかげでドードーの逃げ込んだワンダーランドへ赴くことができた。やったね♪


 ここでクエスチョン。ユニークスキルとはなんぞや。

 聞き覚えだけはある。アルマがなんだかんだ言ってたっけな。

 彼女のユニークスキルは魔法(ブレス)(・オブ・)祝福(マジック)。その目で見た魔法を識り、転写することができる。

 う~ん……見ただけで?

 そりゃあ宮廷魔導士クラスなら、魔方陣や魔術回路を見ただけでどんな魔法かは分かるだろう。

 しかしそれは知っている魔法に限る。系統まで分かっても、それがなんなのかを正しく理解できるはずがない。

 しかも見ただけで魔法を転写できるとな。よくよく考えたらありえないことではないか。なぜ今まで疑問にも思わなかったのか。

 アリスのアンサーはこうだ。


「ハティが龍脈に《細かいことが気にならなくなる魔法》を常に流しているから」


 ――――――――はぁぁぁああああああッ!?


 なにそれ意味が分からないんですけどッ!?

 龍脈に、魔法を、常に、流しているッ!?

 信じろっていうほうが無理ですわ!

 人智の及ばない魔力の密度を誇る龍脈に干渉する魔法だなんて、空前絶後の前代未聞。

 そんなことができるとしたら神か悪魔か。マジでハティさんって何者なの。

 とても信じられん。信じられる根拠を提示していただきたい。


 根拠――――ハティがグレンツェンに来てから魔獣の発生件数が激減している。

 それはハティの純白な魔力のおかげ。清廉なマナにより、魔獣となるに必要な瘴気を纏った魔力が浄化されるから。

 宮廷魔導士であるユノがその原因を探っているものの、原点にたどり着けないのはハティの魔法のせい。

 細かいことが気にならなくなる。無意識に意識を逸らされていた。


 ふわぁぁぁぁぁぁあああああああああッ!?


 なるほど、そのへんはなんかふわっと理解した!

 ハティさんがどれほど素敵なレディなのかもわかった!

 次の質問。なぜハティさんはそんなことをしなくてはならないのか。

 アルマたちが言う、【ユニークスキル】とはいったいなんなのか。

 学術都市と言われるグレンツェンですら、そんな言葉は聞いたことがない。ベルン寄宿生の連中の反応も薄かった。

 アルマたちは倭国から留学してきたという。

 倭国が発見した魔法体形のひとつなのか。

 なぜそんな魔法があたしにも備わっているのか。

 よもや国際魔術協会の陰謀か。


「色々と質問しすぎなのだ。ハティがこれほどの極大魔法を使っている理由はひとつ。彼女たちにとって知られると不都合な事実があるからなのだ」

「不都合な事実ッ!?」

「それは――――彼女たちが異世界人だからなのだっ!」

「はああああああああああぁあぁあぁあぁあぁあぁあああッ!?」


 人生で最も大きな声が出た。


「おい、白うさぎ。次にヴィルヘルミナが叫んだら、こいつの顔にパイを投げることを許すのだ」

「おっけー。いまいきなり冷静になれた気がする~」

「わくわく♪ でござるぴょんぴょん!」


 わくわくしながら素振りをするな。

 お前の腕力でパイを投げられたら頭がすっ飛んでいくわっ!


 それはともかく、ハティさん、アルマ、キキちゃん、ヤヤちゃんが異世界人。マジか。信じらんねぇ。

 ついでにマーリンさん。ソフィアさん。占い師のデーシィさん。騎士団員のフィーアさん。修道院の神父さんまでも異世界人。めっちゃおるやん!


 彼女たちが住んでる世界で認知されるユニークスキル。それは魂を持つ者に必ずひとつ以上備わる自分だけの魔法。

 当然、グレンツェン側の人間にもいえること。遍く世界の人間にはユニークスキルが備わっていた。

 あたしにも、アルマにも、アリスにも。姉や兄。両親にもある。

 なぜ気が付かないのか。ユニークスキルはあまりにも日常的に発動している。だから気付かない場合が多い。息をするように、自然とそこにあるものなのだ。


 例えば、シェリー・グランデ・フルール。彼女のユニークスキルは守護神殿(ゲニウス・テモノス)

 守るべき者が多ければ多いほど、守護する力は強まり、その範囲が広がる。これが彼女がベルンの守護神たるゆえんになっていた。

 ゲニウス・テモノスはユニークスキルゆえ、シェリー騎士団長にしか使えない魔法。

 なのに騎士団ではこの魔法を他者にも行使できるように訓練を行っている。

 それがユニークスキルと、シェリー騎士団長にしか使えない魔法と認知されてないからだ。

 騎士団としては有用な魔法を後世に遺そうとしてるだけ。徒労に終わるとも知らず。


 自分だけの魔法。あたしの場合は夢を渡って異世界へ旅行する。

 なんて素敵な……いや、それはいいけど、どうやって戻るんだろう。もう一度寝ればいいのかな。寝て夢を渡って…………っていうか、その時のあたしの体はどうなってるんだ?

 夢の中のあたしは実体がない。でも転移したあとのあたしの体は生身。

 一瞬で転移するのか。

 それとも実際は精神だけが飛び出していて、ケガをするとベッドで寝てるあたしの体に影響する的な?


 なんにしてもここで危険なことはできない。ちょっと手が震えてきた。

 今までの楽天的な自分を殴ってやりたい。殴ったらケガをするのか。それはよくないな。ひざかっくんくらいにしておこうかな。


 現実とは、なんと奇妙奇天烈なことか。

 情報過多に陥るあたしのことなど知ったふうもなく、アリスは現実をつらつらと押し付けてくる。


「無論、今日のヴィルヘルミナのように、不意なことでその能力を認知する場合もある。しかし、グレンツェンに住む世界の人間には認知されにくいかもしれんのだ。なぜなら、国際魔術協会がそういった固有の魔法という概念を示してないからなのだ。魔法の基礎や常識の基盤はアレの指針で決められてるのだ。だから自分だけの魔法が存在するだなんて想像の外なのだ」

「そうなのか……ユニークスキルについては分かった。でもやっぱり異世界人ってのがどうも。特段、おかしな点はないように感じた。同じくらいの価値観をしてたようだし。全然そんな気がしないけど」

「それもハティの魔法のせいなのだ。ここはハティの魔法の及ぶ範囲ではないからよく思い出してみるのだ。ちなみに、アルマたちは自分たちが倭国出身だなんてひと言も言ってないのだ。すみれが近くにいて、文化背景が倭国に似てるから勘違いしていただけなのだ。アルマたちは勘違いをいいことに、異世界人ということがバレないようにふるまってるだけなのだ」


 う~ん……そういえば、スマホの使い方を知らないって言ってたな。

 銀行口座の作り方も分からなかったって言ってたっけ。

 白物家電のことを知らない様子を見せていた。

 グレンツェンのことは知ってたのに、グレンツェンの行事とかベルンのこととか。世界的に有名なベルン騎士団のことも知らなかった。

 なにより、魔法大好きっ子のアルマがレナトゥスを知らないなんて考えられない。グレンツェンに来て初めて知ったって雰囲気だった。

 知ってたら魔導防殻だってぶっ壊したりしないはず。


 思い返すとキリがない。不自然な点がいくつもあるじゃないか。

 まぁそもそも、疑問に思ったところで異世界人だなんて想像もしてないんだから、そんなニッチな急所をクリティカルするわけないけどね。

 マジかー……でもまぁ、アルマもハティさんたちもいい人だし、特段気にすることはないかな。

 あっ、そうすると暁さんたちも異世界人ということになるのか。セチアさんが作ったというバニラビーンズは最高だった。

 つまり、異世界にはもっと素晴らしいものがたくさんあるに違いない。


 ということは、異世界人のアルマたちと知り合えたあたしたちはスーパーウルトラワンダフルミラクルデリシャスマーベラスエクセレントラッキーなのではないでしょうか。

 そうに違いない。七夕祭の日に実家へ帰省するって言ってた。暁さんも酒の勢いか、お祭りの日に遊びにおいで、とも言ってたのを思い出した。

 よっしゃ。なんだか元気出て来たぞ!


「あれ……? ワンダーランドにはハティの魔法は届いてないはずなのだ。細かいことも気になるはずなのだ?」

「ヘラさんならきっとこう言うと思うの。『大事なのは、暁ちゃんたちが友達かどうか』だと!」

「言いそうなのだ。それじゃあ我らもずっ友なのだ♪」

「えっ…………それはちょっと…………」

「えっ…………?」


 冗談だというのにまったく。ぽこすか怒って面白いやつ。

 っと、遊びはここまでにして、そろそろドードーを引き取りに行くとしますか。

 既に貰う気まんまんのあたし。そりゃそうだ。ここまで来て引き下がれない。

 出発するより前に白うさぎに釘をさされた。返答を間違ったらパイを投げるぞという勢いで――――。


「ドードーを飼うのはいいけど、そのあとはどうするでござるぴょんぴょん。生き物を飼うならきちんと責任を果たさねばならぬでござるぴょんぴょん。勢いだけで引き取るのだけは許されないでござるぴょんぴょん」


 ぐぬぬ……このバニーガール。至極まっとうなことも言えるじゃないか。


 たしかにそうだ。生き物を飼うことには責任がつきまとう。しかも80羽近くいるらしい。グレンツェンで飼うのは無理。

 すると誰かへ委託飼育になるのか。そんなサービスを提供する人なんて聞いたことがない。

 腹をくくって自分で牧場を拓くしかないかも。資金はクラウドファンディングで賄えるかも。幻の鳥という名目なら寄って集まるやつらがいるだろう。

 よし、意外とすんなり解決。パイを投げる寸前まで構えたようだけど残念だったね。

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