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ヴィルヘルミナ・イン・ワンダーランド 2

 幼子がクレヨンで書きなぐった絵のような空。

 小高い丘が連続して続き、一面に咲き誇るは人面花。

 正面奥には暗黒立ち込める鬱蒼とした森。さらに奥には見るからに立派な、写実的な城が建つ。

 空と城の絵面のギャップが気持ち悪い。いったいどんな前衛芸術だというのか。もっと統一感を出せ。


 森より右側、地平線の一歩手前は赤い針葉樹の群生地帯。

 背の高い樹木の先にわずかに見えるは赤い城。赤を基調としたレッドキャッスル。

 どういうわけか空も茜色。太陽は天を指してるというのに夕焼け空とは奇妙奇天烈。

 赤色が大好きなすみれが見たら喜びそうな世界ですな。


 左側はわりと見慣れた世界観。背の低い、それでも10mくらいはありそうな緑色の木々が立ち並ぶ。もっと奥には岩肌を流れ落ちる巨大な滝。

 空を旋回する鳥っぽい生き物。

 ううむ、遠すぎてよく見えない。望遠魔法で見てみようか。


 さっそく見て後悔した。恐竜がいるではないか。首長竜とかティラノサウルスとか、プテラノドンとか、名前はよくわからないけど図鑑とかでよく見る恐竜たち。

 なんだあれは。ここはジュラ●ックワールドだとでもいうのか。

 だとするならば、まさかあっちにはドードーが…………いや、だとしたら捕食されて絶滅してるだろう。

 人に乱獲されて絶滅するくらいなのだ。恐竜なんていたらひとたまりもない。

 夢も希望もありゃしない。

 やれやれですわ。


 そうか。これは夢か。まぁ普通に考えて夢だわな。

 しかし覚めない。夢と自覚してるのに覚めない原因は体が超疲れてるから。

 目覚めホルモンの分泌が遅れてるのだろうか。

 だとしてもなんか面白そうだからこのままでいいや。せっかくファンタジーを体験できるんだから楽しまなくては。

 なんて楽天的な性格なのだろう。でも夢だから何が起きても怖くないもんね♪


 とりあえずカラフルキャッスルへ向かうとしますか。

 道通りに進むと……怪しげな森に入らなくてはならないのか。

 迂回するにしても、森がどこまで続いてるのか見当もつかない。

 たしか不思議の国のアリスの中では、森の中でチェシャ猫に出会うんだっけ。そこからどうなったかは覚えてない。多分、チェシャ猫に道を教えてもらうとかなんかするんだろう。

 こういう時って何かしらのアイテムを猫に上げるのが定番。さて、何か持ち合わせているものがあるかな?

 ポケットをまさぐるも何もなし。

 まぁなんとかなるでしょ。


 それはそうとして、周囲の人面花がうるさい。花に顔が生えてるってだけでも生理的に無理なのに、大声でしゃべったり歌ったり、気持ち悪いを通り越して恐怖すら感じる。

 全員刈り取ってやろうか。

 よく見ると見知った顔がいくつかあるじゃないか。夢だからか。

 知り合いの顔が花になって出てきたのか。これはなんか申し訳ないな。


「ねぇねぇ、君もアリスなの? それともイフリータの友達かい?」

「おバカさんねぇ。アリスがここに来ることは決してないわ。だってここにはアリスがいるんだもの」

「だったら彼女はなんだっていうんだい? アリスでなければなんだっていうんだい?」

「ここに来るっていったら絶滅危惧種よ。ゴミムシも青色の蜂も来たんだから」


 なに言ってんだ、こいつら。しかしなんていうか、RPG的に言うと情報を聞き出すやーつな展開な気がすーる。


「うぅむ、会話の内容の要点が掴めん。ここは不思議の国なの? ルイス・キャロルって知ってる?」

「ルイスなんて知らないねぇ。なんだいそれは。虫かい? 猫かい? ここはアリス殿下の治めるワンダーランド。全てがアリス殿下のお気に入り」

「赤い領地が赤の女王の治める国さ。アリス殿下は彼女のことを尊敬してる」

「自然豊かな緑の国はロストワールド。無くなったモノがある場所さ」

「これからどこへ行くんだい。よかったらここでおしゃべりしようよ。君のことをもっと知りたいな」

「バカを言うんじゃないよ。彼女はきっとアリス殿下のお茶会に誘われたんだ。お茶会の邪魔をしたらアリス殿下に燃やされる!」


 とりあえず質問すると答えが返ってくるのはありがたい。

 ついでに必要そうな情報も提供してくれるとは。

 ひとまず、キーワードらしきものをピックアップしてみるか。


「なるへそ。とりあえず、お茶会とやらに行ってみるの。どうやったらいけるか知ってる?」

「森を抜けて街を過ぎてお城の庭に行くといい。かぐわしいクッキーの香りが道案内をしてくれるさ」

「バカだねぇ。ここからどうやってクッキーが道案内してくれるっていうんだい。お嬢ちゃん、リンゴは持ってるかい。アップルタルトでも大丈夫だよ」

「まさかアイツを呼ぶのかい!? 嫌だなぁ。またどこかへ吹っ飛ばされちゃう!」

「あいつ? この展開はもしかして……」


 たしか不思議の国のアリスの冒頭は、アリスの目の前を擬人化されたデカい白うさぎが横切るんだったはず。

 彼女はそいつについて行ってワンダーランドに迷い込むんだ。

 これは…………冒険の予感。わくわくがとまりませんな。

 さて、それはさておきリンゴが必要なのか。ニンジンじゃなくてリンゴとは。

 まぁウサギって雑食だから、基本的になんでも食べるけどね。自分のうんこも食べるし。ウサギにリンゴか。まるでゆきぽんだな。


 おっと、なんだか分からんがポケットの中に雪りんごが入っているぞ。後夜祭で余った分をいくつか貰ったんだっけ。ってか、さっきは何もなかったのに、なんで?

 疑問に思うも束の間、眼前に巨大な隕石が落ちて来た。

 轟音と土煙を巻き上げて、人面花畑を吹き飛ばし、巨大なクレーターが出現。

 いったい何が起こったのか。突然すぎて分からなかった。衝突音ののち、人面花たちの断末魔が響き渡る。

 色々と悲惨な状況にあるようだ。


 穴ぼこの中心に人影。ゆっくりと立ち上がり、睨むような視線があたしの方へ向けられる。

 敵意か、興味か、土埃が晴れてようやく姿が現れた。

 これは、彼女は、なんというか、めっちゃ露出の高いクノイチの恰好をしたウサギの獣人だ。

 白い毛並みに愛らしい瞳。背丈はあたしと同じくらいか。

 この子がどこからかすっ飛んできてクレーターを形成したというのか。どんなパワーの持ち主だよ。いきなりバトル的な展開なのか。勝てる気がしねぇ。

 夢の中は基本的になんでもアリって言っても、全くどうしようもねぇ。どうすりゃいいんだ、この状況。


 どこか見たことのある白うさぎ。あたしの周りをぐるぐると回って観察を始めた。


「むむっ、おぬし、この辺りでは見ない顔でござるぴょんぴょん。名を名乗るでござるぴょんぴょんっ!」

「ござるぴょんぴょんッ!?」

「ござるぴょんぴょんという名なのかでござるぴょんぴょん。奇妙な名でござるぴょんぴょん」

「ふあああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~ッ!? ごめん、あたしの名前はヴィルヘルミナ・クイヴァライネン。ヴィルヘルミナって呼んでっ!」


 お前に言われたくねぇッ!

 とは言えなかった。


「ぬぬっ、ヴィルヘルミナでござるぴょんぴょん? 拙者は白うさぎでござるぴょんぴょん。よろしくでござるぴょんぴょん」


 お前、それほんとに名前かよッ!


「ところでおぬし、その手に持ってるのはりんごでござるぴょんぴょん? よかったら拙者にくれぬだろうか。りんごに目が無くていかんでござるぴょんぴょん。お礼に何かするでござるぴょんぴょん」


 ござるぴょんぴょんっ!?

 いかん。あまりのパワーワードに精神と理性が置いて行かれる。

 語尾にござるぴょんぴょんってなんでそうなったでござるぴょんぴょん。

 とんでもない色物でござるぴょんぴょん。

 ござるぴょんぴょんって名前が奇妙奇天烈なのに、ござるぴょんぴょんって語尾がテンプレってどういう感性しとんじゃい!


 ツッコミが追いつかない。擬人化したゆきぽんっぽい雰囲気を持ってるのは確か。

 将来は忍者うさぎになるとかなんとか言ってたっけか。

 人間になったらこんなふうになるのか。

 なんでこんなに露出高いんだ。胸でけぇし。夢だとして、あたしがゆきぽんにこういうイメージを持ってるというのか。マジか。何ひとつとして思い当たる節がねぇ。

 語尾もござるぴょんぴょん…………ござるぴょんぴょんってなんやねん!

 三千里譲って『ござる』はいい。そのあとに『ぴょんぴょん』って……ぴょんぴょんは無いわっ!


 そしてとりあえず今頼りになるのが彼女しかいないということに関しても本当に無いわっ!

 他に誰かいないのか?

 まともな恰好をした常識人はっ!

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