ヴィルヘルミナ・イン・ワンダーランド 1
今回はヴィルヘルミナ視点で進みます。
自らの固有魔法によってワンダーランドへ赴いたヴィルヘルミナ。
夢の中と思い込みながら、ドードーがいないかと探し回る。
おしゃべりな花。おしゃべりな猫。おしゃべりな白うさぎ。
狂った空。狂った湖。狂ったお茶会。
彼女は無事にドードーに出会い、夢を叶えることができるのでしょうか?
以下、主観【ヴィルヘルミナ・クイヴァライネン】
ついにこの日がやってきた。
青い空。白い雲。地平線まで続く青い海。そして絶海の孤島。
夢にまでみた、ここはそう――――――モーリシャス島。別名ドードー島。
かつてドードー鳥と呼ばれる鳥が住んでいた孤島。彼らは警戒心が弱く、羽毛は高級羽毛布団として人気を博したがゆえに乱獲され、絶滅した、とされる幻の生物。
記録によれば、ある日突然として姿をくらましたらしい。
事実か、捏造か。
あるいは全てが夢幻だったのか。
真実を知る者は誰もいない。
だが、あたしは信じてる。今もどこかで元気に暮らしてると。
そしてあたしに見つけられ、世界最高の羽毛布団を提供してくれるとっ!
島に降り立つなり颯爽捜索。
波打つ海岸に挟まれてないか。
子育てに適した小さな洞窟の中に潜んでないか。
カメレオンのように擬態してるのではないだろうか。
実は世界中の人には見えないだけで、空に、海に、地中に、隠れ潜んでるのではないか。
様々な可能性を考慮してきた。その全てを確認し、どこかにいないものだろうかと探し回る。
なのになぜだ、どうして、どこにもいないのだっ!
「そりゃ絶滅したんだからいないよ。いたらよかったけどね」
「そうよ。分かりきってたことでしょ。ほら、そろそろ戻りましょう。船に乗り遅れたら帰れなくなっちゃう」
「ぐぬぬっ……あと少しだけ。もうちょっとだけ」
「ダメッ!」
いやいやと駄々を捏ねるも、兄の肩に担がれて強制連行。あぁ、もしかしたら、まだ探したりなくて、実はどこかに潜んでるだけかもしれないのに。
あぁ、夢の島が遠のいていく。あたしの夢を叶えてくれるはずのドードー鳥。いったいどこにいるのやら。
落ち込む少女を心配して、学芸員のお姉さんが声をかけてくれる。
何か気にかかることでもあったのか。お腹が空いたなら船内に小さな売店がある。もしかして生理だったかな?
本気で心配してくれるドリルサイドテールのお姉さん。
ドードー鳥が見つけられなくてがっかりしてる少女。
がっくりと肩を落として呆れる兄と姉。
幻の鳥は所詮、幻の鳥。いるはずがないのだから仕方がない。
クスタヴィ兄とシルヴァ姉はあんまりにもつまらないことを言うものだから気に食わない。
現実だと分かっていても、今だけは、どこかにいるかもって言ってくれていいじゃない。
これだからリアリストは困ります。
その点、キュレーターのお姉さんだけは分かってくれた。
もしかしたらどこかにいるかも。今もひっそりと、人知れず穏やかに暮らしてるのかも。
ならどこで、どうやって、どんな暮らしをしてるのだろうか。
お姉さん曰く、『もしかすると、不思議の国にいるかもしれない。ルイス・キャロルの描いた不思議の国のアリス。実はフィクションじゃなくて、事実に基づいた話しなのかも。だとしたら、サークルゲームをして遊んでるかも』。
なるほど、それは一理あるかもしれない。
だけど、どうやってドードーがモーリシャス島から不思議の国に行けたのだろう。空か、海か、はたまた地中に空いた大穴?
どれも違うとしたならば、それはきっと――――――。
「夢を渡ってたどり着いたのかも」
「なるほどっ! それならあたしにもできるかもしれないっ!」
「できるかも、って、どうやって?」
姉の疑問に答えよう。答えは、
「いっぱい寝ればいいの!」
「いつものことじゃないか」
よっぽど面白かったのか、海も笑ったように大きく揺れた。
ざぷんざぷんと波が立つ。潮の香りの合間に灯台からの灯りが見えた。
そろそろ終着。
旅行も終わり。
バスに乗って帰路へつく。
姿が見えなくなるまで学芸員さんが手を振ってくれた。
優しくてユーモアがあって、屈託のない笑顔が印象的なお姉さん。また暇が出来たら遊びにきたいな。
ぐーすかぴー。
バスに揺られて夢の中。
遊び疲れて夢の中。
ぐーすかぴーと夢の中。
無防備な寝顔を兄姉に向けて体を預ける。
この子ったらもう、本当に自由なんだから。
いったいどんな夢を見てるのだろう。
きっとドードーの夢を見てるのだろう。
そう、あたしは今――――――――こんな夢を見ているのです。




