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戴冠、あなたはひとりじゃない 2

 本題から逸れるが、一方的にマーキングの合意がされたとなれば大問題である。

 知らないうちに位置情報を盗み見られている可能性があるからだ。そうなれば、マルタのプライベートの半分以上は筒抜けである。

 どの時間にどこに居るのか。それが分かるだけでも悪用の方法は多岐にわたる。

 彼女は自分の内側に意識を向け、マーキングしている人物の特定に入った。

 両親と祖母、それから――――なんとっ!


 1人、いや1匹、お互いに合意していた子を発見。

 もふもふの白い毛並みを持つかわゆいアイドル。

 見たもの全てをメロメロにしてしまうつぶらな瞳。小さなお耳が特徴的な子うさぎ。『ゆきぽん』である。

 そうか、肩に乗って頬ずりしてもらった時にしれっとマーキングされたんだ。

 もふもふに気を取られて気付かなかったらしい。ということは、あの場にいた全員、ゆきぽんにマーキングを施されたのでは?

 しかも気付かないうちに、それとなく…………ゆきぽん、恐ろしい子っ!


「ゆきぽんなら大丈夫ですよ。なんならもふもふしたいのでいつでもうちに来て欲しいですね~♪」

「ですね~。ちっちゃくてもっふもふで愛らしくて、腕を駆け上ってほっぺたすりすりしてくれるなんて、ゆきぽんくらいのものですよ~♪」


 楽観視しすぎでは?

 気持ちはわかるが。


「え、なになに、そんなかわゆい生命体が存在するの? え、ちょ、ちっちゃっ! うさぎなのこの子? ハムスターじゃなくて?」


 リリィがレオに写真を見せるなり既にメロメロ。なんという雪うさぎ。恐ろしい子っ!


 さて、注文したお菓子と紅茶も届いたことだし、本題に戻ろうか。

 別にお菓子が来たからって話題を戻すわけではない。お菓子をきっかけにそれとなく話題をフェードインするだけ。時間も限られてるからね。

 面倒くさい人の話しを遮る手段として、わざとペンを床に落としてみたりするアレと同じやつです。


 次の話題はワープについて…………なんだけど、これはもうどこから突っ込んでいいのか分からない。

 魔導複写装置が記録した映像では、マルタを中心に白い球体が発生。爆発するように全方位に広がって立体的な魔方陣を形成。消滅すると同時に、ハティたちが空間移動を完了――――して、トレースの魔法を使っていたマルタが昏倒。

 迷惑をかけたマルタに本日、好きなケーキを食べさせてあげると誘い、頬を緩ませてもしゃもしゃさせているわけです。ほんとごめんね。


 映像の前後をスローで再生しながら、さっそくレオが指摘。

 この魔法、発生した時点で計測できる魔力量と魔力の練度数値を振り切っていた。

 通常、魔法の出力も車の速度計のように0から出発して80や200へ到達する。だが彼女の魔法は最初からフルスロットル。エンジンをかけた瞬間から全力疾走。

 ありえないことだ。

 とても常識では考えられない。

 最初から振り切れていることもさることながら、最新の魔導複写装置で計測不能が示唆される。

 そのうえ、魔方陣の範囲が広すぎて全体を捉えきれてない。一部の解像度を高めてもほぼ真っ白。

 それほど複雑かつ緻密で濃密な魔法陣が敷かれてるのだ。こんな魔法は見たことがない!


 魔道工学にも造詣を伸ばすレオも目を見開いて驚きを隠さない。

 魔術の戦闘職でありながら、マジックアイテムの開発にも携わる彼もお手上げの様子。


「マジで何も見えん。手繋ぎで魔法を教える手法ならいくばくか、どんな魔方陣を描いてるのか分かるけど、映像だと全く分からんな。これってたしか、複写した魔法陣も魔術回路も紙に出力できる機能がありますよね。ワープの魔法って (レオ)」

「真っ白に潰れて役に立たなかった。そもそも、出力機能は平面にしか対応してないからな。立体的な魔法に関してはパソコン上で見るしかない。とはいえ、この魔法に関してはそれも意味がない。密度が高すぎて真っ白に潰れてしまう (ライラ)」

「魔導複写装置で記録した映像ってたしか、3DCG編集ソフトみたいに視点を変えて立体的に観察することができるんですよね (リリィ)」

「そう、でも立体的な魔法を多角的に見るというよりは、魔法のどの部分に魔力のムラが発生してるかどうかを見るためのものだから、副産物的な感じかな (ライラ)」

「テレポートの上位互換だろうということしか分からないです。さすがアルマちゃんが魔法の師と仰ぐだけあるです (ニャニャ)」

「アルマってたしか、シェリーちゃんが口説き落とそうとしてるって子? 空中散歩の企画運営をしたって言う (レオ)」

「えぇ、ぜひともレナトゥスに来て欲しかったんですが、断られてしまいました (シェリー)」


 それについては本当に残念だ。アルマは本当にいい子だからなぁ~。

 愛嬌はあるし、常識的でお世辞もうまい。年下にも同世代にも年上にも好かれる振る舞いを意識的にできる子って本当に貴重なんだよなぁ~。

 魔法に対する情熱も半端じゃない。エイリオスおじいちゃんの孫って言われたら信じちゃうくらいに魔法を愛してる。

 それでいて、マジックアイテムや伝統工芸品の職人さんにもきちんと敬意をもって接していた。


 世代を重ねるうち、いつの間にか魔法と魔法を介さない職人業という間柄に溝ができ、ゆえに時折として反発することがある。

 文化やら宗教やら固定観念やらがこんがらがって軋轢を感じる人もいた。そんな中、自分たちが支え合っているということを自覚し、他者に敬意を持って接することのできる人というのは非常に貴重である。

 きっと彼女の情熱は、夢は、そんな人々の架け橋となるだろう。


 だからこそ、アルマにはレナトゥスに来て欲しかったなぁ~。

 私もシェリーの企てに一枚噛んでたけど、失敗しちゃったなぁ~。

 サンジェルマンにもアプローチをかけてもらってたらしいけど、失敗に終わったんだよなぁ~。

 なかなか頑固な子だ。だからこそ、そこが凄くいいっ!


 まぁとりあえず、フィアナが研究している宝石魔法について共同研究をしようって話しになってる。

 なので彼女がレナトゥスに出入りするとなれば、もしかすると気が変わるかもしれない。

 気が変わることに期待しましょう。

 全力でテコ入れをしましょう。そうしましょう。


 3番目の魔法は回復(ヒール)。医療術者でも高い才能と並々ならぬ努力があってようやくたどり着ける魔法のひとつ。

 傷を瞬時に癒し、命を救う神の御業。ヒールの魔法が使えるってだけで高給取り。決して職に困らないというのだから、みんな必死になって習得しようとする……という理由で頑張る人はごく少数。

 大多数は本当に人のことを想って一生懸命に努力している人ばかりです。本当だよ?

 こういうゲスいことを考えるのは、私のようなヒールの魔法が使えない一般人です。

 自分が当事者じゃないから言いたい放題言えるやつです。

 当事者の前ではこんな軽口、口が裂けても言えませんけどね。


 個人的にはハティの発動したヒールの魔法にはたいして関心はない。あるとすれば、彼女の使ったヒールの魔術回路がなんかものすごく豪華な印象があるというだけ。

 なにごとにも基本というものはある。それはヒールの魔法も同じ。だいたいの基本構成は決まっていた。

 そこにくわえ、自分の使いやすいようにアレンジするのが通常。にしても、彼女の魔法はなんというか、天使が羽を広げたかのようないで立ち。

 とりあえずこれは医療術者志望であるリリィに見せて、こんなスタイルもあるんだよ、という参考に見せてあげたい側面がある。

 他人の扱う魔法が自分のものと違えども、見て知っておくことに損はない。

 もしかしたら何かのきっかけで役に立つ時が来るかもしれない。その程度の認識だった。


 が、リリィに見せた途端、パソコンの画面に食いついてマウスを奪取。目を見開き、ものすごい形相でマウスのお尻をぐりぐりする。

 これが興味関心のある物事から学ぼうとする姿勢か。刺激になりますなぁ。

 あ、そうそう。千里眼とワープの魔法は紙に出力できなかったけども、ヒールとこれから紹介するオートファジーの魔法は紙に出力できたのでリリィに見せてあげよう。

 ヒールはともかく、オートファジーの魔法は是非とも習得してもらいたい。

 できれば習得したのち、騎士団全員に共有できるか検証していただきたい。


 彼女はオートファジーの魔法を『気持ち悪いなぁ~って思った時に、気分をいい感じにする』と言った。

 どういう原理でそうなるのかは分からない。しかし、トレースに失敗して失神しかけたマルタを一瞬のうちに元気にしてしまったのだ。

 めっちゃ便利な魔法に違いない!


 私としてはこちらを推したい。

 でもリリィが液晶画面に食いついて離れない。

 ここは待つが吉。彼女の情熱に水を差すのは大人のやることではあるまいて。

 紅茶をすすり、お菓子をぱくり。ぱくり。もぐもぐ。うぅ~む。

 リリィの気持ちが収まるのを待っているのに、一向に興奮冷めやらぬといった様子。

 そんなに面白いものなのだろうか。一般的に魔術回路や魔方陣は美しければ美しいほど、効果が高いと言われていた。

 正直、美しいかどうかって本人の主観だから魔法の効果量とは関係ないと思うんだよね。

 特に私は元剣闘士。戦いの作法は重んじれど、魔法の美しさに興味を示したことは一度もない。

 便利であればいい。それだけを念頭に考えてきた。あれ、もしかしてこれって女子力が低く見られるやつでは?

 いや、魔法だから関係ないよね?

 そうだよね?


「ライラさん、お願いがあるのですがッ!」

「ちょ、ニャニャに続いて顔が近いな。とりあえず座ってくれ。それから深呼吸な」

「も、申し訳ございません。つい興奮してしまいました。お願いというのはですね、このヒールの魔法を転写したシートを譲っていただきたいんです」

「それは構わないけど、何かに使うの?」

「天井に張り付けて飾りたいですっ!」


 まじか…………。

 さながら重度のアイドルオタクのようではないか。

 理由を聞くと、これほどまでに美しいヒールの魔術回路を見たことがないから。

 ううむ……そこまで気に入ってくれたなら、それで日々のモチベーションが上がるなら譲ってもいいか。

 一応、レナトゥスの備品っていう扱いだけど、まぁ彼女は寄宿生なんだし、問題ないよね。

 攻撃志向のある魔法ならともかく、ヒールの魔法だし。緊急時に使えるかもだし。

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