水玉のようにカラフルな 2
私の欲望。ちっちゃい子供たちと一緒にきゃっきゃうふふすること。文句ありますか?
私にはかわいいかわいい妹のプラムがいる。姉の私よりひと回りも背の高い妹。
だけれどもやはり妹というのはかわいいもので、ついつい甘やかしてしまうわけです。
その延長線上なのか。目の前にちびっこがいるとついついお姉さんしてしまうわけです。姉としての性なのかもしれませんね。
さぁさぁ飲み物が行き渡ったところで乾杯といきましょう。
春の日差し差し込むテラスで杯をかかげ、今を生きる喜びと素晴らしい出会いにグラスを鳴らした。
甲高い音のあとに食前酒をひと含み。香り高い白ぶどうと豊かな酸味が食欲をそそる。
暖かな陽気の中、冷たいワインのなんと美味なことでしょう。
「わたち」
マーリンさんからの不意打ち。
「ぷふぅっ!? ちょ、やめて下さいよ。せめて飲み物を飲んでる時は!」
「あははっ。ごめんごめん。最近ずっと肩に力が入ってたみたいだから。息抜きしてみた感想はどう?」
ほんとこの人、子供っぽいんだかなんだか。
「マグロの解体ショー見学を息抜きというかはともかくですが。でもなんだか、こうやって伸び伸びと食事をするのは久しぶりな気がします」
「だってお姉様、最近ずっと料理の研究をしながらの食事だったじゃありませんか。根を詰めすぎです。心配してしまいます」
妹に心配させてたのか。全然気づかなかった。
「ごめんなさいね、心配させて。それからありがとう、心配してくれて。でも大丈夫。随分リラックスできたわ。ラクシュミーちゃんがかわいすぎて癒されまくってる」
「そうよね~。乾杯の時だって、待ちきれなくってグラスを掲げるより先にお口に運んでたもん。か~わいい~わぁ~♪」
「もしかして、もう酔ってますか?」
「大丈夫。お昼からたくさん飲まないから。この一杯で最後。それより今日はレレッチちゃんのフルーツティーが気になってしょうがないわ!」
「「「「私もですっ!」」」」
マーリンさんも妹のプラムも、レーレィさんもグリムも殺到。
殺到の二文字を予見して我先にと、しかし大人としての威厳を保ちながら、覇気を纏ってレレッチに迫った。
大人になったとはいえ、我々だって一生女の子。キラキラフルーツに目を眩ませることだってありますよそりゃ。
用意のいいレレッチはまだまだたくさん準備してくれてるということで急ぐ必要はない模様。
でもすぐ飲みたいので一杯注いで飲んでみた。うまっ!
冷たく酸味と甘みの効いた爽やかなフルーツティー。砂漠のど真ん中でオアシスを見つけたような気分になる。味も見た目も抜群。
う~む……これを人の目に見える場所に置いておけばインテリアとしても機能しそう。
フルーツティーは老若男女を問わず愛される。持ち帰りが前提なら、リットル売りで販売してもいけるだろうか。
ヘルシーの代名詞みたいな果物の飲み物なら受け入れやすいかも。果物によっては高糖質なのもあるけど。
おっと、うっかり経営者目線になってしまいますな。仕方ないよね、いい意味で職業病なんですから。
飲み物で喉を潤して次はツナサラダ。カラフルなサラダに蒸したマグロ。香り高いオリーブと合わさって抜群の相性。
しっとりと柔らかいツナのオイルサーディンの旨味がフレッシュサラダによく合う。調味料は塩だけというシンプル設計。
素材の良さを追求し、余計なものは入れない倭国人の感性が光る。
きっと私だったらここにバジルソースとかマヨネーズとか入れちゃいそう。
炒めたガーリックチップを混ぜたりもしそう。
否、絶対やる。濃い味が大好きな私なら間違いなくやる。
カロリーの暴力で殴り倒す。
これが文化の違いというやつですか。
ちなみに、基本的には『ゆでる<網焼き<蒸す<煮る<炒める<揚げる』の順番でカロリーが高くなると言われる。
蒸したツナはカロリーの源である油分が魚肉から溶け出してしまうので低カロリーに分類された。
網焼きを主体とするグリルも網の隙間から油分が出るので低カロリーになる――――と、一般的には言われているが、グリレでは旨味の源である脂を閉じ込めたままグリルする調理方法をとっているのでカロリー激高なのです。
濃い味万歳!
などと賛歌していてはここに来た意味がない。
ヘルシー料理=私の好きな味の真逆。
ぐぬぬ……苦しみを耐えてこそ、一流の商人。ここは我慢の子よ。
難しい顔をする私の目の前に置かれたのは、ちびっこ軍団が精魂込めて作ったマグロのあら汁。
澄み渡ったスープの中につみれが沈むシンプルな料理。
本当にそれしかない。
野菜も何も入ってない。
驚くほどにストレート。
装飾過多なグリルバルとは正反対な印象。
少なくとも、うちでは木製のプレートにソーセージやチキンステーキ。付け合わせのソース、野菜、チーズをワンプレートに乗せて提供する。
こういったプレートの描き方はグリレだけでなく、伝統的なバルから受け継ぎ連綿と紡がれたスタイル。
牧歌的な絵画のような芸術を意識していると私は思っていた。
それがどうだろう。これが異国の芸術か。
質素。
この二文字が浮かび、他の言葉が見当たらない。
ただ、香りはものすごくいい。かなり濃厚な匂いが立ってる。
味はどうなのだろうか。ヘルシー料理って味が薄い印象がある。これはどうなんだろうか。さっきのツナサラダのツナは想像以上に味を感じた。
ツナ缶に慣れ親しんでいるから味の判別がついただけかもしれない。
しかし目の前のアラジルなるものは初めてお目にかかる。
牛骨スープならともかく、魚の骨からとった出汁がおいしいのだろうか。
途端、カリー屋さんで提供されているフィッシュヘッドカリーが脳裏をよぎった。魚の頭を煮込むことでアラの旨味をたっぷりと楽しめるひと皿。
見た目がカオスだけど味はピカイチ。
これもそうなのだろうかと疑いながらも、早く感想が聞きたいときらきら光線を放つ子供たちの手前、躊躇するのは失礼である。
マーリンさんなんておかわりを飲んで……いや早いなっ!
「うんまぁ~~~っ! マグロのアラと鶏肉のつみれから出た旨味があら汁のおいしさを引き上げてる。それにこのつみれ、こりこりしてるんだけど、マグロの骨を細かく砕いてつみれに混ぜてるでしょ?」
マーリンさんの感動にすみれが答える。
「さすがマーリンさん、ご名答ですっ! 今回はモデルケース的な側面があるので、お野菜を入れずにストレートなあら汁に仕上げました。でもさすがにあら汁だけだと味わいが浅くなってしまうので、鶏肉のつみれと、食感を出すために軟骨のように柔らかくなったマグロの骨を細かく細断してつみれに混ぜてもらいました」
「つみれは私たちで協力して丸めました! (どやっ!)」
「すーぷのあくをいっしょうけんめいとりました! (どやっ!)」
「最後の味見は私がやりました! (どややぁっ!)」
あれ、ヤヤちゃん、最後のところはドヤるところ?
でもかわいいからオッケー!
そして超おいしい。味がしっかりしてて、むしろスープ料理にしては濃いくらい。
鶏肉の肉団子も味がよく出ている。食感を出すために粉砕した骨もコリコリとしていて楽しい。
これに野菜の旨味と優しい味わいが足し算されれば、よりおいしくなるのは火を見るより明らか。
マグロの解体ショーの後、試食ということでいくつかマグロ料理を食べさせてもらった衝撃からそうなのだろうと分かっていた。
魚ってめっちゃ旨いな。ぶっちゃけ、今まで白身魚のムニエルとかポワレ、ウナギパイ、ツナ缶くらいしか食べたことがなかったから全然知らなかった。
しかも、あら汁のカロリーは一人前約50キロカロリー以下。糖質も殆ど含まれていない。
なんというヘルシー料理。脂肪分の多いトロは高カロリー。しかし、アラは骨と赤身の部分。低カロリーである。
なんというフィッシュショック。なぜ今まで手を出さなかったのか。
それは私が高カロリー大好き人間だったからであるっ!
などとくだらない脳内1人ツッコミをしながら、気付けば2杯目を平らげた。
本当においしい。スープも肉団子も抜群においしい。
すみれ曰く、野菜を入れるなら刻んだ長ネギと白菜の千切りがおススメ。
なるほど、料理工程も難しくない。アラさえ手に入ればすぐにでも店で扱えそうだ。
続いて現れたるはシュッカと呼ばれるマグロの赤身とトロの部分を使ったツナハンバーグ。
アルマとガレットがアイザンロックなる場所に赴き、覚えて帰ってきた伝統料理のひとつ。
すりおろした林檎をバターで炒めた特製ソースとともに食する逸品。これは解体ショーの際に試食で出てきたので食べさせていただいた。結論から言うとめっちゃうまい。
さっぱりとした赤身の挽肉の中にブロック状になったジューシーなトロが散りばめられていた。
噛むたびにじゅわっと口いっぱいに広がるマグロの旨味がたまらない。
これだけでもおいしいというのに、こうばしく炒めた甘いリンゴバターソースが加わると数段おいしくいただける。
バターとリンゴの甘味がマグロの旨味を引き立てた。
くわえて言うと、生魚の文化がないグレンツェン。ならば加熱しよう。しかも身近に知った料理に置き換えればハードルが下がるはず。
計算され尽くした策略により、集まった一般大衆の心をぐっと掴んでしまったのだ。
さすが大衆の味方たるパーリーの総菜コーナー。伊達に花嫁修業の場として活用されていませんね。
ぐっと心を掴んだと言えばもうひとつ、ローストビーフならぬローストツナもおいしかった。
倭国では『マグロのタタキ』と呼ばれている。
外側だけ焼き目を入れて氷水でしめてできあがり。香味野菜を乗せ、ポン酢で食べる。これがまたおいしいんですわ。
似たような料理に鯛やヒラメ、スモークサーモンのマリネがあるので、それらに似ていて手に取りやすい。
元々、マグロの需要が上がってることを知ってたこともあって興味はあった。ただ、調理の仕方や下ごしらえの情報がなくて困ってた。
問題が解消されればあとはお口に運ぶのみ。グレンツェンにいるような人は根っから好奇心が旺盛なのだ。堰を切ればなだれ込むのは必定である。
シュッカを食べながら、ガレットは極北の地に思いを馳せる。彼女の幸せそうな表情を見る限り、とても楽しい時間だったのは言うまでもない。
「私がいただいたものはマッシュしたジャガイモとか刻んだ玉ねぎも入っていて、お野菜が入っていたシュッカもとってもおいしかったです。秋にはカボチャなんかも入れるそうですよ」
「はぁ~懐かしいわ~。昔は刀工の加工技術が未熟だったから、骨の周りのお肉なんかが上手に削げなくって、いっつもボロボロになってたのよね。そういう部分を潰して丸めて全部いっしょくたに焼いたのが始まりなのよ」
マーリンさんの昔っていつですか?




